第43話 卒業式
時は流れ、2年後――
校舎の窓から見える桜が満開で、風に舞う花びらがひらひらと校庭に降り注いでいる。
今日は卒業式。
クラスメイトたちはそれぞれ写真を撮ったり、寄せ書きを交換したり、笑顔と涙が入り混じる独特な空気が流れていた。
式典が終わり、教室で一息ついていると、池田が俺の肩を叩いてきた。
「黒瀬、なんか感慨深そうな顔してるな?」
「いや、別に。ただ終わったなって思っただけだよ」
口ではそう言いながら、心の中では確かに込み上げるものがあった。
その時、小林さんが隣の席から声をかけてきた。
「黒瀬くん、写真撮らない?みんなで撮ろうって話してたの!」
「うん、いいよ。」
池田や小林さんをはじめ、クラスメイトたちと一緒に写真を撮りながら、ふと山岸さんの姿を探した。
彼女は少し離れた場所で、他の女子たちと楽しそうに笑っている。
なんとなく話しかけるタイミングを失い、そのまま流れに身を任せていた。
時間は少し遡る。
今朝、学校に到着し、靴を履き替えよう下駄箱に手を伸ばすと手紙が入っていた。
「体育館裏で待っています。」
短くもはっきりとした文字に、一瞬頭が真っ白になる。
こんなこと、昔もあったな…
なんだか懐かしい気持ちになりながらも思わず「山岸…さん?」と呟いた。
同時に鼓動が一気に速くなるのを感じた。
「どうしたんだ?」
池田が後ろから覗き込んできて、俺は慌てて手紙をポケットに押し込んだ。
「なんでもない!ただのゴミが入ってたんだよ」
「ふーん、怪しいな…」
池田は疑いの目を向けてきたが、何とか誤魔化した。
指定された時間になるまで落ち着かず、何度も時計を確認した。
池田や小林さんと話しているときも写真を撮っている時も鼓動が早かった気がする。
山岸さんという確証はないのに、何故だか山岸さんのような気がしていた。
そして、指定された時間が来た。
緊張に押しつぶされそうな気持ちで体育館裏に向かうと、そこには山岸さんが立っていた。
彼女は制服のスカートを揺らしながら、少し落ち着かなさそうにこちらを見上げてきた。
「…来てくれたんだね…」
「あ、うん。手紙、見たから。」
山岸さんは一呼吸置いてから、意を決したように口を開いた。
「私…悠真のことが好き。ずっと前から!」
耳を疑うような言葉が、静かに胸に突き刺さった。
「えっと、その…迷惑だったらごめん。でも、今日どうしても伝えたくて…」
彼女の頬が赤く染まり、手のひらをぎゅっと握りしめている。
俺は少しだけ息を整えて、はっきりと答えた。
「迷惑なんかじゃない!俺も山岸さんが好きだ。これからもずっと一緒にいたい!」
山岸さんの目が一瞬大きく開き、次の瞬間、涙がこぼれ落ちた。
「…ありがとう。嬉しい…」
その瞬間、ふと身体が引き寄せられるように二人の距離が縮まった。
そして、唇が触れるか触れないかのところで――
俺は目を覚ました。
薄暗い部屋の中、天井を見つめながら夢の内容を思い出し、胸の鼓動がまだ高鳴っているのを感じる。
「夢かよ…」
そう呟きながらも、夢の中の彼女の笑顔は鮮明で、心の中に暖かさを残していた。
「でも…悪くない夢だったな。」
そのまま微笑みながら、俺は再び目を閉じた。