第12話 デート前日(前編)
ピピピピ…ピピピピ…
ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…
俺は携帯のアラーム音で目を覚ました。今日はある意味、決戦の日だ。
何せ、今日の服選びや美容室で明日が決まると言っても過言ではない。
今日のために、洋服屋もリサーチしたんだ。
軽い朝食を取り、身支度を済ませた。今の時間は10時ちょっと前で、美容室は13時に予約済みだ。服を選んでから、買った服で美容室に行く。よし、我ながら完璧な計画だ。
30分後、天宮駅のショッピングモールに到着した。早速、近いところから順番に見て回ることにした。
慣れないお店に戸惑いながらも試着を重ね、気が付けば、お店を回り尽くしていた。かっこいいと思った服も、実際に試着してみるとイマイチだった。そう、俺みたいな陰キャには似合わないということだ。
時間は12時半を過ぎていた。一度、服選びを断念し、美容室に向かうことにした。
「いらっしゃいませー!」
「あ、あの、13時に予約をした黒瀬です。」
「お待ちしておりました!お荷物をお預かりしますね!」
美容室なんて生まれて初めてだ。良い匂いがして、緊張してきた。
「黒瀬様、お待たせしました!本日、担当させていただく坂上です。」
どうやら俺の担当は、いわゆるイケメンってやつだ。色黒で黒髪パーマに整った髭。雰囲気だけで言えば、サーファーみたいだ。
「今日はどんな感じで?」
「あ、いや、初めて来た美容室なので、何をしたらいいのか決めてなくて…」
坂上さんは俺の話を頷きながら聞いてくれた。
「なるほどねー。OK!じゃあ、今日は僕に任せてもらっていいかな?もちろん予算内で収まるようにやるから!」
「あ、はい。お願いします。」
緊張している俺を気遣ってか、その後も坂上さんは話題を振ってくれた。次第に緊張もほぐれ、洋服選びのことや、明日の買い物のことを坂上さんに話した。
「そりゃ、大変だねー。でも、その子は普段の君を見て誘ってきたんじゃないの?だったら、無理に背伸びしないで、いつも通りの君でいいんじゃないかな?」
俺は、言われるまで気が付かなかった。確かに、山岸さんは普段の俺を知ってて誘ってくれたんだ。
どうして、もっと早く気が付かなかったんだろう。
「あの、ありがとうございます!俺、そんなことにも気が付かず一人で舞い上がってました。」
「いやいや、そんな大したアドバイスじゃないよ。ほら!終わったよ!」
そう言うと、坂上さんは髪全体が見えるように鏡を持ってくれた。
「どうだい?」
「はい!良い感じ…だと思います。ありがとうございます!」
その後、坂上さんは髪のセット方法を細かく教えてくれた。
「今日は本当にありがとうございました。」
「いやいや、これが僕の仕事!wそんなことより、明日、しっかりね!」
俺は再度お礼を言って、美容室を後にした。時間は14時半を過ぎていた。結局、服は買わずに帰ることにした。
家に着くと、母親が庭の花に水やりをしていた。
「あら、おかえり。早かったのね。」
「ただいま。」
母親が水やりのホースの水を止めた。
「髪型、いいじゃない!そんなお洒落して、もしかして彼女でもできたのかしら?」
母親はすぐに俺をからかう。
「そうだったらいいんだけどね。残念ながら。」
そう言い残し、俺は自分の部屋へと戻った。慣れないことをして一気に疲れが込み上げてきた。
ベッドに横たわると、そのまま眠ってしまった。目を覚ましたのは20時前だった。
半分寝ぼけ状態でリビングに向かうと、晩御飯と1枚の写真が置かれていた。
「母さん、これ何?」
俺はテーブルに置かれた少し古そうな写真を手に取った。
「それ、昔のお父さんの写真よ。高校2年だったかしら。」
「え!これ親父なの?」
写真はどことなく俺に似ている…いや、俺が親父に似ているというべきか。
「似てるでしょ?」
「うん。似てると思った。でも何で写真なんか?」
母親は少し照れくさそうに言った。
「ほら、お父さんってかっこいいでしょ?あんたもその血を引いてるんだから、自信持ちなさいってことよ。」
あー、忘れていた。一般的に親父がどうかは別として、少なくとも母親は親父のことが大好きだからな。
まあ、母親なりに応援なんだろうな。俺は少し冷めてしまった晩御飯を温め直して食べた。
今日一日を振り返って、なんだかんだ俺は周りの助けがあって生活してるんだなと実感した。
山岸さんと出会わなければ、こんな身近なことですら気付かずに生活を続けていたのかもしれないな。
初投稿の作品になります。
社会人をやりながらの投稿なので不定期になりますが、最後まで書き上げられるように頑張ります。
いつかは書籍化やアニメ化なんて夢も見ていますが、素人なので温かいご意見だけでなく、厳しい意見もいただけると嬉しいです!
オリジナル作品ではありますが、その時に見ている漫画やアニメに影響されてしまうこともあると思います。すみません…
これから一生懸命書いていくので、読んでみて少しでも続きが気になったらブックマークや評価をお願いします!