第3章 魔王軍の思惑
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勇者一行は新生魔王軍の情報を集めるため、風の世界にある王国、ウィンディア王国に向けて歩を進めていた。
これはその道中にあった出来事である。
「なぁ、そーいえばさ。クロムはどうして冒険してるんだ?」
メラがそう質問してくる。あれ? 言ってなかったっけ?
僕は手短に説明した。メラは理解してくれたようで、役に立てるように頑張るぜ、と張り切っていた。いやはや、頼もしい限りだ。
「しーっ、静かに… なにか聞こえるわ」
「あっ、ホントだ。だけど何言ってんだか全然わかんないぜ…」
サクラとメラがが何かを聞き取ったようで警告してくる。
いや、僕の耳には何も聞こえないんだが… 魔物の五感ってすごすぎない?
クロムたちは慎重に音のする方へ進んでいくと、やっとクロムの耳にも聞こえてくるようになった。
「op@.0x,m,9xc2mx,9-z。 :***]:03^2-2-0941[x.z1@¥¥¥¥¥¥So.x0,3m2-,?」
何がなんだかわからない暗号のような会話が聞こえてきた。
これは確か、魔王軍特有の秘密暗号って女神様が言ってたな。未だ解明されてないんだとか…
クロムたちが様子を見ていると、後ろから音が聞こえてきた。
「ギャギャッ!! ピュイ〜〜〜〜〜!!!!!」
監視兵がクロムたちを見つけ、警笛を鳴らすと、次々と魔物が集まってきた。
「やっべ、見つかっちゃった! やるよ、サクラ、メラ!」
サクラとメラのコンビネーションは抜群で、どんどん敵をなぎ倒していった。と、その後ろから妙に妖気のでかい魔物が出てきた。どうやら大巨魔族のようだ。
おっ、ボスが出てきたみたいだな… じゃあちょっと本気出していきますか!
「“稲妻黒斬”!!!」
稲妻黒斬とは、スキル“雷之神”の中のスキルの一つで、武器に電気を纏わせ、雷より早く敵に近づき滅殺する、奥義級の技である。
クロムの斬撃が敵に当たり、黒い閃光を放つ。光が収まると、辺り一帯は焼け野原になっていて、敵影は無くなっていた。
あちゃー、やりすぎちゃったかな… あっ、サクラとメラは大丈夫だったかな…
「ちょっと、クロム! やりすぎよ! 私達まで死にかけたじゃない !」
「全くそうだぜ! 少しは手加減とかしろよな!」
サクラとメラが口々に文句を言っている。
手加減って言われてもなー… 後で練習しよ。 っ! 何だこの妖気! 今まで会ったどのやつよりも邪悪だ… 一体どこから… はっ!
「サクラ! 危ない!」
と言ったがもう遅く、サクラの体が宙を舞ったかと思ったら、地面に叩き落されていた。
パンッ!! ドォオオオン!!
メラが慌てて駆け寄り、回復薬をかけると、回復したようで起き上がってきたが、ダメージが大きく思うように動けずにいた。
僕はサクラを抱えて、近くの木にそっと置き、サクラを傷つけた奴を見る。
「や、君が勇者かい? 覚えてる? 俺のこと。って言っても俺を倒したのは君じゃなくて君の仲間だけどね。じゃあ、自己紹介しとこっか。俺の名前はテン、魔天八部衆が一人だ。以後お見知りおきを。あ、さっきのは挨拶代わりね」
テンとかいう魔人が淡々とそういった。僕はスキル“探求者”で、テンの能力を解析した。
悪魔人貴族。得意属性、炎、闇、雷、水。魔力量、測定不能。体力、測定不能。攻撃力、測定不能。…… 総合評価、今の状態の自分より上。
なるほどね、今の状態じゃあいつには敵わないってわけだ。だけど、パワーアップすれば…
「どーもご丁寧に自己紹介ありがとうございます。僕の名前はクロム。言っとくが、お前は許さない。仲間を傷つけた落とし前はきっちりつけてもらうからな!」
すると、突然テンが笑い出した。
「ハッハッ、そういえばそういう種族だったな、お前たち人間は。誰かが死ぬとすぐに魔物のせいにする。そうやっていつも悪者にされるのが魔物だ。それを何千年とやられ続けたらそりゃグレちゃうよな〜! ま、それは大昔の話だ。今の俺達は、正真正銘の“悪”だ。手加減はしないぜ?」
テンの目が妖しく光り、メラが震えだした。
正直言って勝ち目はあるかもわからない、が、そんな状況なのに、僕の体は妙に冷静だった。
「メラ! サクラを連れて王国まで行ってくれっ! 戦いに巻き込まれるぞ!」
メラは震えを気合で止め、サクラを連れて飛び出した。
――あーあ、王国に行かれちゃったか… ま、あいつらに止められるわけ無いけどね 今は勇者に専念だ
テンはニヤリと笑みを浮かべ、こちらを見据えてくる。
あいつなにか企んでる? そんな事はどうでもいい、今は奴を倒すことだけに集中! よーし、女神様に教えてもらったこの紋章の力、使ってみますか…!
「はぁ!!!」
紋章開放10%!!!
ドンッという衝撃波とともに凄まじい妖気が出現する。テンは慌ててクロムの方を見て驚愕する。こいつ…、さっきまでの妖気より格段に質が上がっているだと?! と。
クロムを纏うように周りに漂う激しい妖気が落ち着いた。
お、これはいいんじゃない? なんかめっちゃ色んな色が妖気になっててかっこいいんですが! だけど、ちょっと体に負荷がかかるな… 早めに決着をつけよう。
「フッ、フハハハッ、これが魔王様の言っていた“勇者の紋章”の力か! 面白い! こっちも全力で行くぞ! 中途半端な力の開放だと後悔するぜ!」
中途半端な力、か。悔しいが、今の僕には10%の開放が限界なんだよ… だけど、10%でもこれだけの魔力量、能力値の大幅アップ、さらにいままでロックされていた一部の“能力”の使用可能…、これ以上開放したらそれ相応の負荷がかかる。今はこれでいくしかない。
クロムとテンは構え攻撃態勢に入る。先手はテンだった。
「“地獄の魔炎”!!」
“攻撃反射”!!
テンはクロムの真下に魔法陣を展開し、すべてのものを焼き尽くす地獄の炎を召喚した。が、クロムの紋章の力によって開放された能力、“攻撃反射”によって炎は吸収され、テンに向かって発射された。
よし! どうだ…?
炎が収まり、見るが、どこにもテンの姿が見えなかった。
っ! どこだ! 妖気は微かに感じる…、姿を消す能力を使ったのか?
後ろを向くと、テンが魔法陣を展開していた。
「こっちだよー! はっ!」
“地獄の稲妻”!!
ズガァァン!!!という激しい音が周囲に響き渡る。クロムは地獄の稲妻をまともに喰らい、かなりのダメージを負った。
ぐっ! いてて、くそー、いけたと思ったんだけどな〜。体のダメージは“自己再生”でなんとかなるとして、どうやって奴を倒そうか… 見たところ、そんなにダメージを負ってそうには見えないが、あいつも再生スキル持ってるな、ありゃ。
「勝負はこれからだろ? もっと俺に本気を出させてくれ」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだぞ!」
二人とも一瞬のうちに間合いを詰め、激しい攻防が始まった。
ちっ、2刀流だからやりずらい…! 今は回避に専念しろ! 隙ができるまで我慢だ! …て、そんなんで勝てるわけねーだろ! 僕は馬鹿か! 攻めろ、攻めて攻めて攻めまくれ!
クロムは間合いを一気に詰め、剣技を放つ。
「炎炎の斬撃!!」
灼熱の炎によって包まれた剣がテンを襲う。
そして状況は一変する。テンの剣がその熱さに耐えられず、溶け始めたのだ。
よし、いいぞ! 今ならやれる!
「はぁああっ!」
テンの剣が溶け、激しい金属音も次第に無くなり、ついに終わりの時が来た。
今だ! ありったけをぶつけてやる!
クロムは構えを取り、剣に全魔力を込める。
雷電雷轟衝!!
雷電雷轟衝とは、雷系超極能力の一つ。この雷に裂かれてできた傷は回復できるまで時間がかかる。更に常時感電状態にできる。
超極能力とは、全能力の頂点に立つもので、何百年修行をしても手にするのが難しいと言われている。僕は複数持ってるけどね。
閃光と紫電が走り、テンの体を裂いた。鮮血が飛び散り、辺りを赤く染める。
手応えあり…! 今度こそ…
「ハハハッ! 見事だ…! こここまで分身の俺を、追い詰めたのは君で二人目だよ! そして君と戦っている間に目的を達成できた! 君との戦い、楽しかったよ、じゃ!」
テンは回復を制御する雷を受けたにも関わらず、何事もなかったかのように立っていた。
「なっ! 待て!」
逃げようとするテンをすかさず“絶対の神鎖”で止める。
絶対の鎖とは、捕縛系能力一つだ。絶対に切れない、逃げることもほぼ不可能な圧力で拘束、攻撃する。使用者が戦闘不能になると消える。
「お前らは一体何をした! 答えろ!」
問い詰めようとしたが、テンの体が煙のようになり、鎖の拘束から逃れられてしまった。
おいー! そんなのありかよ?! ズルすぎだろ!
「言ったろ? 俺は分身体だ、実体じゃない。捕まえることなんてできないんだよ! さっき飛び散った血は遊び心さ♪ 知りたいことがあるんなら王国にいけばわかるよ!」
テンは霧のように姿を消えた後、クロムはテンの言う、ウィンディア王国に向けて全速力で走った。
まずい、なにか嫌な予感が… サクラ、メラ、無事でいてくれ…!
王国に近づくにつれて、血の匂いが濃くなってきて、死体の量も多くなってきた。
一体何があったんだ?! 急げ、急ぐんだ!
クロムはただ王国につくことだけに神経を注いで、走り続けた。
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