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もたらされた真実

「お父様?今なんとおっしゃたのですか?」


王都に屋敷のあるフワイトタニア家と学院との距離はそれほど離れてはいない。

それでも他の生徒達同様に寮生活を送るステラに実家から突然呼び出しを受けたのは数刻前。


「意味を理解できなかったのか?」


そして、彼女によく似た容姿を持ちながらもさらに冷たさと威圧を放つレナードル・フワイトタニアの前に立ってから一分もたっていないだろう。


「いえ、そういうわけでは…。ただ、あまりにも突拍子もない内容だったので、つい…」


思わず本音を口にしても、お父様はその鋭い眼光を緩めない。昔から何を考えているのか分からない。常に冷血なフワイトタニアの当主としての一面しか知らない。もう、ごく普通の親子の関係を望んでいた頃が遠い。


「難しい言葉は使っていないはずだが?」

「ですが、恐れ多くもレオポルト殿下が王家の血を引いていないと言われましても…」

「可能性はあるだろう。あの方は王家の証たる特徴を何一つ受け継いではいない」

「それはそうですけれど、初代様の血も代を重ねてまじりあっています。現にその血筋だと証明できる物をもって生まれる方々のほうが少ないではありませんか?」

「お前の言葉にも一理ある。しかし、昨今の幻魔の発生数は異常だ」

「幻魔ですか…」


まだ、この国が誕生する前。世界は異形の者達が蠢く地だった。人々が震えあがる中、立ち上がったのは1人の青年。各地で仲間を募った彼は類まれなる魔力を持ってそれらを薙ぎ払った。彼は後の初代アウストラル王。かつての国王は未だ残る異形の者の脅威から人々を守るために国中に魔法の印を結び、結界とした。この国の者なら誰だって知っている伝説。

だからこそ、英雄の子孫であるアウストラル家がこの国の主だと受け入れている。

しかし、フワイトタニアに受け継がれる物語はもう一つある。


初代様が施した結界は未来永劫続くわけではない。必ず、ある段階でほころびが生まれる。

その修復と維持は同じ色を持つ魔力にのみ、行う事ができる。だから、アウストラル家に与えられた役目は国の繁栄だけではなく、その結界の守り手となる義務も付けられている。

なぜなら魔力の色の継承は血縁によるものが大きいから。

そしてフワイトタニアの役目は王家たるアウストラルを補佐し、あらゆる災厄から守り抜く事。

そうやって、発展したアウストラル王国だけれど、異凶の者達は結界のわずかな隙間から湧いて出てくる。それはこの時代では幻魔と呼ばれている。奴らは人々に害をもたらすが、けして強い物でもなければ、数もそれほど多くはない。それが数年前の常識だった。


「確かに幻魔の確認数が増えているのは承知しています。だからって、レオポルト殿下の出自を疑うなんて…」

「飛躍しすぎか?だが、結界へのアクセスは自動的に行われる。その方法がアウストラルの継承者が王宮内に入ればいいだけだと承知しているはず。しかし、レオポルトはその魔力がない。多くの者は平和が長く続くこの時代に王家の者への魔法の才の有無など気にしない。だが、結界の真実を知る我々は違う。魔力の供給が行われなければ、確実に結界は破壊され、建国以前の混沌の世へと逆戻りするだろう」

「でも、それでも…」


誰のための反論か分からなかった。言葉が続かない。


「何も証拠がないというわけではない。一週間前、陛下の元に一通の怪文章が届いた。それは恐れ多くも陛下の真のお子と自身の身内の赤子を入れ替えたという内容であった」

「そんな誰ともつかぬ手紙を信じるのですか?」

「通常ならいたずらとして処理されるだろうが、陛下とてレオポルト様の事は疑われていた。自身にも王妃様にも似ておらぬのだから当然。もちろん、内容の件もしかり…。調査しないわけにはいかないだろう。そこで、フワイトタニアに真実の追及を命じられた」


平然とそのような残酷な言葉を口になさるのね。


「送り主の名はなかったが、我々の手にかかれば、雑作もない。あっさりと見つける事が出来たよ」


突然、背後で大きな何かが転がされる音がした。振り返るのが恐ろしかったが知りたいと言う気持ちの方が勝る。恐る恐る、その物を確認するとあらゆる場所が縛られ、自由に身動きの取れない高齢の女性が横たわっていた。


その傍らに立つのは薄桃色の髪を後ろに束ねた長身の男。


「お兄様?」


ヴェルナード・フワイトタニアは高齢の女性の背中に足を乗せた。うめき声がひびき渡る。


「吐いたか?」

「ええ~。すべてね」


まるで世間話をするように父と兄の間には穏やかな空気が流れている。だが、確実に異様な光景だ。


「彼女はどなたです?」


ステラはもはや、もがく力すらない女性を見降ろした。


「王妃様の侍女だった女だ。大胆にも王子の出産時に自身の妹の子とレオポルト王子を入れ替えた事を白状した」

「何ですって?」

「違う。私はただ…」

「まだ、言い返す気力があるとは驚きだな」


ヴェルナードは呆れたように微笑んだ。


「私は悪くない。ただ、あの子に幸せになってほしくて…」


涙目でステラに懇願する女性。同じ女なら同情するとでも思っているのだろうか?


「幸せ?よくもまあ…。国の根幹を揺るがす大事件を起こしておいて…」


レオポルトがずっと重圧に耐えていた事を知っている。そして、最近の言動を見て、押しつぶされてしまったのだと理解した。植物が好きだった優しい青年にはそもそも違う道があったのだ。

それなのにこの女のせいで…。


「悪いと思ってるのよ。本当に。あの時はどうかしていたの。妹が出産と同時に亡くなって…。でも私に育てられるわけないじゃない!王室に身を捧げた女だもの」

「被害者ぶるのだな。王子がお生まれになって5年もたたないうちに王宮を出た事は調べがついている。よもや今になって罪悪感に駆られて懺悔の手紙を送ったか?浅はかな」


レナードルがピシャリと正論を述べれば、女はワナワナと震えだした。


「もういい。お前に用はない。王室を長年だまし続けた罰はその身をもって受けてもらおう」

「別にいいよ。後わずかで死ぬ身だもの」


せき込む女性の口から血が漏れる。病気ゆえに過去の悪事の清算をする気になったのかもしれない。とはいえ、到底許されるわけはない。


「口が減らない女だ。そう簡単に死ねると思うな。連れていけ…」

「いいの!本物の王子がどこにいるのか聞かなくて…」


もうすぐ死ぬとわめきながら、まだ生きたいともがいている。おかしな人だわ。


ヴェルナードが取り出した剣の柄でその背中を叩かれれば、小さな悲鳴をあげて、女性はグッタリと倒れ込んだ。それでもまだ息はしている。この先、彼女に起こる悲劇など想像すらしたくない。

だが、もはや死こそが幸福だと思うほどには過酷な時を過ごすのだと分かる。


再び静まり返る執務室に当主と二人きりなったステラはレオポルトの今後がどうなるのか聞きたかった。


「それで、ステラ」

「はい!」


お父様に久しぶりに名を呼ばれ、思わずドキリとした。


「本物の王子の行方だが、調査の結果、孤児院を経由して魔法塔へと渡った事を突き止めた」


王妃の侍女とやらは綺麗ごとを抜かしておいて、王子を孤児院に預けたの?


全く、ここまで来ると頭がおかしとしか言えない。


「お前にはこれから魔法塔へと向かってほしい」

「私に本物の王子を連れてこいというのですか?」

「その通りだ」

「そんな大役をなぜ私に?」

「レオポルトと縁のあるお前だ。この件、自分で決着をつけたいとは思わないか?」


何の決着だというの?向こうにその気がなくても、私はずっとレオポルト王子を長年の友人だと思ってきた。その相手に貴方のいる場所ではないと突き付けろと?


「レオポルト王子はどうなるのですか?」

「それを気にする必要はない」

「私に本物の王子を見つけてこいと言うなら、彼の処遇がどうなるのかぐらい教えてもらってもよいではありませんか?」

「いいだろう。ただし、本物の王子…いや、王太子を見つければな」

「分かりました。その役、見事果たして見せましょう」

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