殺してください
近所のパチンコ屋でしこたま負けた帰り道で、余計に気分の悪くなるものを見つけた。
『殺してください』
そう書かれたダンボール箱が道の端に置かれていた。中には何もいなかった。
飼い猫を捨てる奴はクズだ。ペットを飼う資格も生きる資格もない。
だが、どんなクズでも『殺してください』なんて書く奴は見たことがない。
捨てる奴らにもそれぞれ理由があって、飼えなくなってしまったけれど、飼い猫には幸せになって欲しいと願い『可愛がってあげてください』と書くのが普通だろう。
それを殺してくれだなんて⋯⋯
とんだクズ野郎がいたもんだ。
家に帰ってからもあのダンボールのことばかり考えた。
もう殺されちまったんだろうか。
それとも、良い奴に拾われて幸せにやってるんだろうか。でも、良い奴なら箱をそのままにしておくとは思えねぇよな⋯⋯
逃げ出したっていう可能性もあるな。もしそうなら、今頃どっかで野垂れ死にしてるんだろうか。
どんな猫だったんだろうな。
大きさとか、毛の長さとか、声とか、好きな食べ物とか、触ると喜ぶ場所とか。
なんも分かんねぇのに、かわいそうでたまらねぇ。なんで猫を捨てる奴なんかがのうのうと生きてるんだろうな。
クソがよ。
パチ屋で17万負けたことよりも、見たこともない猫の方が心を抉ってきやがる。俺は案外優しい人間なのかもしれねぇな。
4日後、赤ん坊を滅多刺しにして殺したとして近所に住む浪人生が逮捕された。
