5話 考え方と世界の違い
ソロー大陸の西側に位置する街ケフト。
メリー大陸とはまた違った文化があり、独自の民族衣装の着物というものがある。
そもそも和食発祥の地なので、それだけで全く異なる地域だというのはわかるだろう。
まあそれはさておき。
「ギルドでいいかしら。て言っても、なんだか外観が全く違うけど」
話し合いをするためにやってきたのは、こちらの大陸に存在するハンターギルド。
外の看板にそう書いてあるから間違いないのだが、メリー大陸にあったかつての様相を残すギルドとは、また毛色が違っている。
木造という点は変わらないのだが、その屋根は瓦であるし、二階部分がありそうだがそれでも横に長く見える。
リナもこの大陸に住んでいた時期があるが、このような伝統的な建築を残している街はここくらいなので、実際に見るのはこれが初めてだった。
「これが、別のギルド……」
パーズが何やら呟いているが、異論はなさそうなのでリナはさっさとギルドに入る。
リベルがその後ろについてくれば、パーズたちも物珍しげにしながら入ってきた。
さて、ギルドは仕事の斡旋やランクアップ手続きなどをする場所ではあるが、その本質はハンターのための施設、という意味合いが強い。
どこのギルドにも、その地域の詳しい魔物の分布や特徴などが書かれた情報があるし、広いスペースを確保した場所ならトレーニングジムなどが併設されている場所もあるという話を聞く。
まあジムはなかったが、大体ギルドに併設されているのは、飲食スペースである。
「ここは私が持つから好きに頼んでいいわ」
「あ、ありがとうございます」
「「ありがとうございます!」」
パーズが控えめに謝辞を述べれば、ペルドとアリートは元気よくお辞儀していた。
「ありがとう?」
「あんたはいいのよ」
「ん」
ハンターは命懸けの仕事なので、他の店に比べれば安めに設定されている。
ただ物によっては口に合わないとかもザラにあるので、その辺りは経験と勘が必要になったりはする。
朝食は食べたばかりなので、適当に飲み物だけ注文してから、本題へ。
「まず聞きたいんだけど、あなたたちメリー大陸にいたのよね?」
リベルの知り合い、と聞いた時からずっと疑問に思っていたこと。
二人がハンターになったのはこの大陸ではないし、大陸を移動する方法は現状大金を払ってようやく利用できる飛竜しかない。
いくら実力があって稼げると言っても、A級ハンターがそう簡単に手を出せるものではないはずなのだ。
「ええと、はい。信じてもらえるかわからないんですけど、俺たちは昨日まであの街の付近にいました。いつもよく使ってるスポットで少し狩った後、道中の山肌に見たことのない亀裂があることに気づいて、念の為に入り口付近だけ調査しようと思ったら、突然景色が変わって、全く知らない森の中にいたんです」
「……なるほどね」
つまりは空間神の影響だろう。
どうしてメリー大陸と生命神のいる森が繋げられているかは疑問だが、神の考えなんて理解しようとする方が無謀なので、この辺りは後でルイナに聞いておく。
「それじゃあ、あなたたちにも原因はわからないわけね?」
「はい……。あの、戻る方法があるなら教えてもらえませんか?」
「先のことを考えるのはいいけれど、生憎飛竜を借りる以外にはないわ」
「そうですよね……」
たとえ救出できたとして、帰れなければまた別の問題に発展する。
訊けるうちに訊いておこうとする姿勢は、流石はA級ハンターと言ったところか。
ずっと落ち込んでいる割には周りも見えているので、リーダーとしての素質もあるのだろう。
そして落ち込んでいる理由は、ちょっとだけ気になったりしちゃうのがリナである。
「と、ところで、あまり訊いていいのかわからないんだけれど」
「はい?」
「その……あなたは」
ちょっと気まずい内容で言い淀んでいれば、先に飲み物が来てしまった。
なんとも居た堪れない時間が過ぎるのを待って、湯気を立てる紅茶を眺めながら、リナはもう一度口を開く。
「あなたは、そのルパシアさんが大切なの?」
「!! もちろんです!俺らより若いのに同じくらい頑張ってて、そのくせドジなとこもあって危なっかしいって言うか、見守ってないと不安なんですよ!」
あぁ……とリナが何かを察したような顔をすれば、パーズの仲間の二人も呆れたような顔をしていた。
「こいつ、ルパシアの加入を認めたの下心からなんすよ」
「なっ!?お前、そんなわけないだろう!」
「でもぉ〜、ルパシアちゃんのこと好きなのは事実じゃん?」
「……ぁぁ」
わっかりやす、と言うのがリナの率直な感想ではあった。
これくらいわかりやすければ、リベルも攻略しやすいなのにな、とかちょっと違うことを考えて、関係ないことは意識の外へ無理やり押し出す。
「まあ、よくわかったわ。私たちも、なるべく早く空間のねじれを突破できるようにするから」
「……そういう感じなんですか?」
「そういう感じよ。ランクの後輩たちに言うとすれば、S級の世界は何もわからない状況を手探りで駆け抜けて帰ってくるようなところね。なるなとは言わないけど、今までの全てが通用しない世界で生きていく覚悟だけはしておくべきね」
「……」
あまり脅すつもりはないが、それでも全て事実である。
A級の人は割といても、S級の人間が格段に減る理由は、単に条件が厳しいからではない。
要求されるレベルが一気に跳ね上がるせいで、なったところで長く生きられないからなのだ。
「で、でもぉ、S級なんて遠い話だし、なることはなさそうよねぇ……?」
「ああ、そうだろうな。パーズはまだわからんが、俺たちには今のランクがお似合いだぜ」
「馬鹿にするつもりはないけれど、現状に満足しているなら下手に上は目指さない方がいいわ。それが、堅実に生きるってものよ」
ここまで話してやっとリナは頼んでいた紅茶を口に含む。
だが魔導神は随分と良い茶葉を使っていたのか、少し味に物足りなさを感じた。
そんなことは表には出さないが。
「一つ、聞かせてください」
「何かしら」
「……S級になると、どんな評価を受けますか」
「ん?」
何が知りたいのか、いまいちわからない。
好意を寄せる相手が魔物に捕まった状況でも冷静さを残せるような人間が、地位や名誉なんてものに固執するとは思えないのだ。
なら、一体何を知りたがっているんだろう?
『傲慢だな』
『ん?リベル?』
『多分、危険とか条件とか関係なく、自分はS級になれる人間だと思ってる。その上で、なるかならないかを測ってる。自分がS級になることで、仲間がどういう立場になるのか、どんな視線に晒されるのか、それが知りたいんだろ。それによって、なるかならないかを決めようしてる』
『……』
なぜ、リベルはそこまでわかるのか。
だがそう言われるとそんなような気がしてしまうんだから、リベルはなかなか的を射ていて、リナはリベルを信用している。
それでもいいとリベルの言葉を信じるなら。
「そうね、世間からの注目度は跳ね上がって、マスコミに色々聞かれるでしょうね。ギルドからの期待度も高くなるし、S級にしかできないような仕事を押し付けられる。ギルドだって馬鹿じゃないんだから、ランクに対してじゃなくて個人の力量を考えて場所は勧めてくるだろうけど、それでも求められる力はS級。何が言いたいかって、一人で戦うのと仲間がいる状況では、何もかも動き方が違うってことよ」
「……それは、そうでしょう。連携力によりますし、崩されれば、一気に瓦解する」
「わかってるならいいんだけどね。仲間って、背中を預けられる人のことを言うのよ。適正に合わず、もしもお荷物になるようなら、それは仲間じゃなくて保護対象よ」
「……そう、ですか」
リベルもかつては保護対象だった。
だから危険には近づけず、その中でリベルの力を最大限発揮できるようにと動いてきた。
結果母親だなんだと言われるんだから文句の一つも言いたくなるが、要するに人を守ってなお余りある力が自分にあるか、という点が一番肝心なのだ。
「まあ、色々考えてみるといいわ。私は、あまりお勧めしないけどね」
「もう行くんですか?」
リナがおもむろに立ち上がると、パーズが少し驚いたように訊いてくる。
「原因がなんであれ、早く助けるに越したことはないでしょ?まあ本当に任せておきなさいな」
それだけ言うと、リナは踵を返してギルドを後にする。
リベルは何も言わずについてくるが、知り合いなら一言くらいあっても良い気がした。
「今のあいつに必要な言葉はもうないだろ」
「……あんたは、どこまで人をのことをわかってんの?」
「さあな。でも、表情から大体わかるようにはなってきたよ」
なんだか原因が自分にあるような気がして、リナはそれ以上何も言えなくなってしまう。
ついでにさらっと頭を撫でられると、リナのS級ハンターとしての顔は剥がれ落ちて、いつものどこか甘えがりの少女に戻っていた。
「……あんたも、変わったわよね」
「そうか?」
「ええ。……昔はもっと、子供っぽかった」
おまけにわかりやすかった。
前の方が良いとは言わないが、こうやって過去を思い出すと少し寂しさも感じてしまう。
「俺が変わったんだとしたら、多分リナが本音で話してくれるようになったからだよ」
「そうなの?」
「俺にとっての居場所が、リナにとっての居場所にもなったんだから、俺だって守られっぱなしじゃいられないだろ」
「……そっか」
つまりはリナが子供っぽくなったから、相対的にリベルが大人になったように見えた、と。
なんだか馬鹿にされている気もしないでもないが、今は穏やかな気持ちの方が強くて、リナが特に何かを言うことはなかった。
どこがモチーフかは、まあわかりやすいですよね。詳しい名前などは出しませんが。




