2話 急襲
二人が玄関を出たあたりで、ルイナが一人で迎えにやってきた。
「ミアルを地上から飛ばすわけにもいかないので、上空に待機させています。準備ができたなら送りますよ」
「そういうとこは転移使うのね」
「短距離であれば消費も少ないんです。いいから行きますよ」
準備ができたともできてないとも言ってないのに、リベルはリナとまとめて上空にいるというミアルの背中まで飛ばされる。
一瞬で景色が変わり、気づいた時には雲の中にいた。
「目的地はリナの家でいいんだよね?」
「そうね。とりあえずそこで色々支度して、それから討伐って流れかしらね」
「そうは言っても必要なものなんてないので、気持ちの問題ですけどね」
そんな話をしている間に、ミアルはその巨大な翼を一度大きくうねらせる。
それだけでぐんと体が加速して、一瞬無重力か落下中のような浮遊感を覚えた。
これが本物のドラゴン。人の言葉を介し、その姿を模倣することすら可能とした真の上位存在。
そしてリベルは、気づけばリナに腕を掴まれていた。
「一回耐えればいいんだけどね。初速に置いてかれると、一瞬で空に放り出されるから」
「……へ、へえ」
よくわからないが、ミアルに乗るのは注意が必要だということか。
落ち着いてから周りを見れば、景色は流れるなんてものではなく、もう解像度の低い映像を流されているくらい、ぼんやりとして理解もできない状態だった。
「この速度が見えないなら、まだあなたは神には追いつけませんね」
「……これでも一応六体は殺したんだけど」
「下級のでしょう?実質上級神ではなく、最初から上級として存在している神々は、あんなものの比ではありませんよ」
「……」
恐ろしい世界だった。
ならその上に存在する特級なんてのはどうなるのだ。
創造神なんてものには遊ばれてしかいないリベルだが、果たしてあれに勝てる日は来るのか?
「来ますよ。時間としてはそう遠くないうちに」
「……」
「(そこに何がどれだけ残っているかはわかりませんがね)」
「何か言ったか?」
「いえ。何も」
思えばルイナは本当によくわからない人間だ。
何もかも知っているようで、その実適当なことを適当に言っているようにも聞こえてしまう。
「ふふ、実際どうなんでしょうねえ。ご自由に想像してくれて構いませんが」
これで何も知らない、力だけある人間だったなら随分な演技派であるが、思えばリナ以上の時間を生きている時点でまともではないのだろう。
ただまあ、こんな心の声も読んでニヤニヤ笑っている時点で、本当にすごい人ではないんだと思う。
「……」
「何あんた真顔になってんのよ」
「……いえ」
尊敬が欲しいのか自分で言った通り純粋な悪意を向けられたいのか、いまいちわからない人だ。
「ほら着くよー。ちゃんと掴まっててよね」
「分かってるわよ」
さっきまでは緩く握ってる程度だったリナの手に、絶対に離すまいという力が加わる。
次の瞬間、今度はガクンと減速した感覚があって、それから体が前に持っていかれそうになった。
だがそこはリナ。しっかり腕を掴んでくれているおかげで、一人だけ砲弾みたいに空中へ投げ出されることはなかった。
「着いたよ。ここが多分リナの家の上空」
「あんたの多分は誤差が酷いんだけどね」
「えー?一キロも百キロも変わらないでしょ?」
「変わるのよ。物凄く」
そんなやりとりを聞きながら、リベルは地上の方を注視する。
あまりの速度やルイナの反応、あとついさっきまで大陸の上空にさえいなかったからわからなかったが、何か無視できない反応があった。
「ミアル、もっと前。ああいや、ちょっとだけ前に出てくれないか?」
「え?家から離れるけど。ていうか微調整って苦手なんだけど?」
「いいから早く」
「わ、わかったよぅ」
バン!と弾けるように飛び出したミアルから、リベルはすぐに飛び降りる。
降りた時は完璧に真下ではなかったが、横へ進んでいた慣性で勝手に誤差は修正されていく。
今更のように上空からリナの声が聞こえてくるが、基本的に空を飛ぶ力を持たないリベルに戻る術はない。
そして着地も工夫しなければ、普通に落下の衝撃で死んでしまう。
リナに人前ではダメと言われているが、緊急時につきワイヤーを使わせてもらって、そのままリベルは極天の剣を抜き放つ。
「分割、分割、分割。……染め上げろ、太陽神!」
シュッゴッ!とその元となった白夜の剣の力が溢れ出す。
第二の太陽となったリベルは、その熱波だけで地上をある程度焼きながら落下する。
そしてワイヤーが届く距離になれば、一気に地上へ体を引き寄せて、その戦場の間に割って入った。
「っ、誰だ!?」
どこかで聞き覚えのある声が聞こえたが、そんなものは無視して迫り来る木の根を切り飛ばし、焼き尽くし、その影響が他の人に及ばないようにする。
大量に地中から伸びて、まるでこの先へ進むのを拒もうとするような木の根が、リベルを見た瞬間に少し大人しくなる。
相手は生命神。一度はリベルも戦った敵であるために、向こうも叛逆者の存在に気づいたか。
「誰だって聞いて、っ、あん時の坊主!?」
「ん?……誰だっけ。確か、パーズだっけか」
肩を掴まれて無理やり後ろを向かせられれば、そこにいたのは自称A級ハンターのパーズ。
ハンターギルドで、ティエナと共にリナが戻ってくるのを待っていた時に声をかけてきた、他人ではないが知り合いにも満たないような人間。
多分ティエナだったら忘れてただろうな、なんてさらっと失礼なことを考えつつ、リベルはとりあえず目の前の脅威を完全に焼き払って安全圏を作り出した。




