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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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幕間 見守りティエナ

 Fランクスポットということは、一般的に見てそこまで脅威ではない、というかそこの間引きが遅れようが危険に思う人はあまりいないということになる。

 ここはゴブリンの巣と呼ばれる場所ではあるが、基本的に出会うとして一体ずつで、ゴブリンの世間一般的な評価は、初級魔法が扱えるなら勝てる、程度でしかない。

 最悪、小学生くらいの子供がいる親でさえも、ああなんだゴブリンかと思ってしまうような魔物なのだ。

 そんなのに、苦戦する人はあんまりいない。

 魔法が扱えて、武術に心得があるのなら。


「えいっ!ええいっ!!」


 フェントは剣を振り回す。

 しかし意外とすばしっこいゴブリンには当たらない。

 そして剣が地面に突き刺さって、それを引っこ抜く間の隙に、ゴブリンから強烈な打撃が入る。

 チョップとでも言うべき攻撃で、鍛えた体なら衝撃を感じる程度だが……。


「痛いっ!く、くそお……てええい!!」


 それでも死なないんだからやっぱり親切な敵である。

 今のうちに説明しておくと、ゴブリンは赤黒い肌の子供のような外見で、その能力も子供とさして変わらない。

 いや人間の子供の方がまだしも頭を使えるので、やはりゴブリンは劣っている。

 ただフェントも同じくらいの身長の子供であり、もしゴブリンの肌が人間と同じ色をしていたなら、鋭い剣を持った子供と何も持たない子供の一騎打ちに見えてしまうかもしれない。

 そしてそうは見えないが、あまりに醜すぎて遠い目をしているのはティエナだ。


「……なんできたんだろう。こんなことなら、ちゃんと適正の場所に行けばよかった」


 今のティエナはまた強さも違うことになっているので、きっとすぐに上がることができる。

 そもそも魔導神なんて付き添いを連れていけば、Sランクスポットすら入れるので、パワーレベリングのようなことはいくらでもやり放題だった。

 だがそれは違うので魔導神の手は借りない。あくまで自力で、リナと同じ高みを目指す。

 なのに、こんなことに時間を浪費している。


「はぁ……」


 盛大にため息を吐いても、たった一匹のゴブリンにかかりきりのフェントには聞こえていなかった。




「か、勝った……勝ったぞ……!」


 ゴブリンの千切れ飛んだ頭を見下ろしながら、フェントは荒い息を吐いていた。

 まあ、それはいい。それはいいのだが。


「……これが、魔天王に勝った勇者……?」


 どうしても、あの時の勇姿があると、こんな姿一つで落胆してしまう。

 この歳の子供が魔物に臆せず勝てただけでもすごいのに、だ。


「ど、どう、かな。改善点があったら教えてほしいんだけど」

「多すぎて面倒」

「う、く、そ、そうか」


 悪いところがあるなんてのは自覚しているのだろう。

 それでも、多すぎである。


「まず剣の持ち方がなってない。最初から扱えてるように見えてたのは、勇者の剣が補正してたとすぐにわかる」

「そ、その通りです。ハイ」

「そのせいで体重移動もうまくできてないし、おまけに相手の位置がわかってない。お前はまず、魔物と戦うより自分と戦った方がいい。でないと何もかも上手くいかない」

「は、はい。わかりました……」


 それとティエナにいいところを見せたいのか、技が大振りになり隙が生まれ、その度に子供の拳に殴られている。

 何かしら魔法が使えるならそれで防ぐか後隙を軽減すればいいし、何より剣が当たらないなら魔法を使えばいい。

 もう本当に、言いたいことは多すぎて、逆に目を離せない状況になっていた。


「お前の速度で見せてやる。まず見て覚えろ」

「は、はいっ!」


 適当にゴブリンに突っ込み、ティエナはミスリルの剣で実戦を見せてやる。

 勇者の力のないフェントは本当に子供の足でしかないので、合わせるのは面倒だったが、ゴブリンはあまりに弱いので特に問題もなかった。

 ただティエナは嫌ならもう少し損得を考えるべきだ。

 フェントに戦いをレクチャーするのは、それ相応に時間がかかると。




「無駄な疲労……体より心が疲れた……」

「ご、ごめん。だけど、おかげで強くなった気がする!」

「気がするじゃ意味ない。強くなれ。ちゃんと」

「う、はい」


 実戦を何度も見せて、剣の持ち方を教えて、その上で戦い方まで教えた。

 ゴブリン相手はなんとかできるようになったが、及第点なんて言えるようなものでもない。

 本当に、元勇者が勇者のようになるには時間がかかるだろう。


「今日はもう帰る。用があったら神殿に来い」

「わ、わかりました」


 次までに強くなれ、なんてことは言わない。

 それで変な方向に突っ走られても嫌だから。


(全く……これじゃ全然ねえさまに追いつけない……ん?でも弱者を育てるのは、ねえさまと同じ。リベル、本当は弱かった)


 急にディスられたリベルだが、いなければ問題はない。

 そして事実のため本人が怒ることはないだろう。

 さてどうしたものか、とリナ寄りの思考をしながら、ティエナはお別れに手を振ってくるフェントも無視して帰ってきた。


「お帰りなさいですの。あら、なんだか険しい顔をしていますわね。何かありましたの?」


 どこかにこやかな笑みを浮かべた魔導神に声をかけられて、ようやくティエナは現実世界に帰還した。


「……勇者、力失ったら想像以上に弱い。勇者の剣で持ち方くらいわかってると思ったのに」


 たとえ補正があったとして、それを無意識で覚えていたなら、改めて別の剣を持ったとしても感覚くらいわかるはず、そう思うが、それさえ子供にとっては難しかったらしい。


「まあ彼はまだ小学校低学年。仕方ありませんわよ」

「……見た目、わたしと変わらない」

「……あなた自分で自分を特殊だと言っていたでしょう」


 ティエナは実年齢から考え方まで何もかも同年代とは違う。

 そもそも目の前で同じくらいの子供がバラバラにされているところを見てしまった子が、普通の感性など持っている方が”イかれてる”と評価せざるを得ないのだが。

 そうとわかっていても、やっぱり見た目が同じなら自分と同じようなものを期待するし、できると思ってしまう。

 フェントは、かなり酷な環境に放り出されたのかもしれない。


「とりあえず、用があれば来いとは言っておいた。危険なことはしないはず」

「あら、あらあらそんな約束までしましたの。彼のことを思ってですの?」

「……勝手に死なれても気まずい。それだけ」

「ふふ、そうですわね」


 ニヤニヤ顔の魔導神が腹立つが、ティエナ自身もなぜあんなことを言ったのか疑問に思っている。

 あれではまるで、フェントのことを少なからず好意的に思っているということになりかねない。

 もちろんそんなことはないが、だがやはりあれを一人でうろちょろさせるのは危険だと思ってしまう。

 難しいところだった。


「ところでティエナさん、たこ焼き食べたくないですか?」

「……またやってる?」

「ま、またというほど……ですわね。ええ認めましょう。ですが付き合ってくれると言ったのもティエナさんですわ!」

「……ちょっと食べる」

「ありがとうございますわ!」


 リナたちとたこ焼きパーティをして以来、実はひっそりと練習をしていた。

 そしてそれに付き合わされていたのもティエナである。

 割と二日おきくらいにたこ焼きが出てきて飽きてきているのだが、どうしても次に会ったときはしっかり焼けるのだというところを見せたい魔導神は、一向にやめる気配がない。

 そこそこ見た目は良くなってきたたこ焼きを爪楊枝で頬張りながら、ティエナはいい加減元勇者の話題と考えから離れる。


「そういえば、ねえさまたち、もう行っちゃった?」

「……そうですわね。今日来なかったということは、そういうことだと思いますの」

「……ちゃんと挨拶、できなかった」


 明日の朝には出ようかなんてリナたちが話していたのが昨日こと。

 つまり予定通りであれば、もうこの大陸にはいないのだろう。

 そしてルイナの異常性から逃げたくて早々に帰ってしまったので、ちゃんと挨拶をすることができなかった。


「まあいいではありませんの」


 だから、そんな風に言う魔導神の心がよくわからなかった。


「ねえさま嫌い?」

「き、嫌いというほどでは。むしろあちらが嫌っていますの。そ、そうではなくてですね。日常的に会える人に、わざわざ元気でね、また会いましょうなんて挨拶はしないでしょう?たとえば家に帰ればいるわたくしに、また明日も元気で、なんて言わないでしょう?そういうことですの」

「……ん、なるほど」


 またすぐに会えるのだから、そんなに考えなくてもいい、そう言いたいのだろう。

 だが旅立ちに立ち会えなかったというのはティエナ的に少し引っかかる部分ではあるが、リナたちもすぐに戻ってくるつもりだったから何も言わなかったのだ、と思えばいくらか心も楽になる。


「まあ最悪こちらから行ってしまえばいいですの。絶対にダメなんてことはありませんわ」

「魔導神、ここ離れて平気?」

「数時間程度であれば。神域から出るとどうしても弱くなりますので、ルイナに目をつけられたら即帰還する必要もありますけれどね」


 神域があってこその魔導神の強さ。

 それがわかるだけに、ティエナもそんなにわがままを言ったりはしない。

 そんな風に、また一日が過ぎていく。

 果たして、彼女たちが帰ってくるのはどれくらい先になることか。

 できれば明日がいいなぁ、なんて思うのが、子供の心だったりする。

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