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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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幕間 元勇者、ハンターになる。

 かつては勇者の称号を背負い、魔天王なる神をも越えかねない災厄を撃滅したその少年は。

 破魔の剣とも違う銀の剣を腰に携え、万人に広くその門戸を開いている教会から出てきた。

 向かう先は、フェントが一目惚れしたあのクリーム色の少女と出会ったハンターギルドである。

 理由は当然、ハンターになるためだ。


「小学生だってハンターになれる……!力はなくたって、経験さえあればどうにかなる……!」


 そう。元々非力な民を守るための組織であったハンターは、その入団に一切の制限を設けていない。

 だからこそ刑期を全うした元犯罪者だとか、対人関係が苦手で社会に馴染めない人だとか、家計をどうにか楽にしようと頑張る子供であっても、力があり『死なない程度に戦える』と判断された人であれば、その全てを受け入れる。

 ある意味において、行き場を失った人たちの終着点とも言える場所だった。

 さて先ほどの仕方ない理由のどれにも当てはまらない、どちらかと言えば恵まれてしまった子供のフェントは、ギルドなんて施設の使い方すらわかっていない。

 あの運命的な出会いをした時でさえ、番号札を受け取って順番を待つなんてことを知らず、ただ強そうな人を勧誘しようとしていただけなのだ。

 何も知らない子供が入り口付近で立ち尽くしていれば、受付の仮面を被り俗世に溶け込んでいる魔導人形が対応に出る。


「どうしたのかな?迷子かな?」


 ティエナやリベルには人形らしい口調になっていたが、そもそも受付をするには営業スマイルというものが必須になる。

 優しい優しいお姉さんの顔で、エルンは迷子のフェントに話かけた。


「あ、ええっと……ハンターになりにきた!」

「そ、そうなの?でもまだ子供でしょう?」

「関係ない!僕は、元勇者だ!」


 普通なら視線を一気に集めそうな宣言だが、こんな時代にハンターギルドを出入りする人は限られている。

 なんだまたあいつかみたいな視線だけ向けると、あとはもう気にせず自分の世界に入り込んでいた。

 さて元勇者宣言を受けたエルンは、とっても対応に困った。

 何せ勇者”だった人”がハンターになろうとして、なのにギルドの使い方すら分からず入り口で立ち止まっていた時のマニュアルなんてない。

 ちょっと待ってね〜?なんて言うと、上の人、エルンの場合作成者に判断を仰ぐ。


『ちゃんとハンター志望の人として扱ってくださいまし。もう優遇したのですから、これ以上はいらないですの』


 一通りの説明を受けて、フェントは大人しく順番が来るのを待つ。

 改めてエルンがいる窓口にやってきたフェントは、必要書類にあたふたしながら(身分証さえ持ってない)どうにか試験を受けられるようになった。

 ちなみに詳しい情報は”上”のデータベースから引っ張ってきた。この辺り、元勇者の経歴は便利に働く。


「では筆記試験です」


 計算問題は、中学生にまでなっていれば絶対にしないようなミスをしながら突破し、判断力を問われる問題は、なんか勇者の顔が全面的に出てくる回答をしていた。


『……染まり切らないことを願うばかりですわね』


 さて実技の試験であるが、元勇者であること、フェントはまだ子供であること、魔導神に一応目をかけられていることなどを加味して、エルンが対応することになった。

 だが、リベルやティエナのように中継することはなく、広めに取られた会場内で秘密裏に行われる。


「ティエナさんは、どれくらいの強さなんだっ?」

「……本人に許可が取れない状況ではなんとも……ただ、少なくとも私に勝てるほどではありますよ」

「そ、そうか。よしっ!」


 気合いを入れ、フェントのタイミングで飛び出していく。

 あくまで試験である模擬戦は、基本的に試験官は『待ち』の姿勢を崩さない。

 ただ一度剣が迫れば、それからは容赦しないし、隙が見えれば積極的に狙っていく。

 試験官とは、戦いの中で相手の弱点を教えるのも仕事のうちなのだ。

 そして、エルンにとってはあまりに遅いフェントの剣を受け止めて、弾き返し、その先の行動を見て決めようと思ったら……。


「うわっ」


 呆気なく倒れて、隙どころか全てを晒していた。


「……」


 元勇者なんだよな、とどこか疑問に思うような表情を浮かべそうになるが、そこは受付嬢。営業スマイルは崩さない。

 だが、これはどうするべきか。容赦のない試験官なら、もう首に剣を添えてチェックメイトを宣言するような場面ではあるが……生憎フェントは子供である。

 十五歳以下用のマニュアルでは、少し大目に見るようにとされているので、エルンは、


「さ、さあ、どこからでもどうぞ?」


 なかったことにした。

 起き上がったフェントがそんな事情を察することはないが、言われて行かないのも男じゃない。木剣をあまりに酷い構えで持って、そのまま突撃していく。

 しかしぶつかって転んでは、闘志だけ瞳に滾らせてまた突撃する。

 そんなことを繰り返していくうちに、エルンは察してしまった。

 ああこの勇者、剣の力に頼りっきりだったんだな、と。

 ティエナにまだそれが露呈していないのは幸いだが、大人なエルンは空気を読む。ここで言わない場合どうなるか、そしてフェントが”あの”ティエナに好意を寄せているなんて知らないために、重要なことは言わなかった。




「は、はぁ……疲れた」


 木剣は回収され、代わりに一般的な剣を携えたフェントは、待合室に戻ってハンター証ができるのを待つ。

 エルンの言うには『合格、です』とのことだが、あの微妙な表情がよく分からない。

 出来上がったハンター証には、堂々のFの文字。


「……Cランク、ってどれくらい?」

「Fランクの三つ上です」

「……そこまで上がるには?」

大凡おおよそ十万体の魔物の討伐か、ハンターギルドから報酬として一千万円以上支払われることですね」

「……えっと、桁って合ってます?」

「合ってます」

「……」


 無理じゃないかな、って思ってしまった。

 そもそも、子供にとっては一万円だって立派な大金である。いいや五千円札を持っているだけでも英雄である。

 そんな子供に対して、一千万稼げ?

 到底無理な話ではあるが、ハンターは本来屈強な男たちが集まるような世界。子供のことなんざ、考えられちゃいなかった。

 そして魔物十万体なんてのは、想像さえできない。

 よければ魔天王をカウントしてほしいのだが、数で言えば一体で、懸賞金もかけられてない魔王は殺したところで金が出ない。

 勇者の経歴なんてのは、これっぽっちも役にたちゃしなかった。


「その、一つ上に行くには?」

「魔物百体の討伐ですね。ここからそう遠くない森に、Fランクスポットが存在します。そこでの狩りをお勧めしますよ」


 ハンターランクについて詳しい説明をしていなかったが、Fランクは本当に初心者である。

 少しでも武術に明るく、実技試験官にその実力を認められたなら、それだけでEランクスタートできてしまうくらいには、Fランクの価値は低い。

 ちなみにリベルやティエナのスタート地点となったCランクは、全体として中堅であり、ここから始まったなんて人は稀に見る逸材として扱われる。ティエナほどの歳の子供であれば、昔なら勧誘がひっきりなしにやってくるような場所だ。

 そしてCランクまでは凡人でもいけると言われ、それ以上のBに上がれたら本物の実力者、Aランクなんてのはその人のパーティに入れただけで誇っていいと言われるレベルであり、さらにその上のSランクなんてのは、生きてる間に会えれば幸運、なんてツチノコ的扱いを受ける人たちである。

 まあリナやルイナを除いて、本当にSランクに至った人間なんて長いハンターの歴史でも十人いるかいないかであり、この時代にも一人いたかいないかみたいな状態なので、仕方のないことだ。


「なら……そこへ行ってみるとしよう」


 なんとなく自分が落ちこぼれ扱いされているのを感じたフェントは、さっさと行ってさっさと実力を示そう、と考えた。

 そして出入り口の扉を開いた時、運命的な再会を果たす。


「ティエナさん!!」

「げ、勇者。じゃなかった元勇者」


 一向に名前で呼んでくれないが、そんなことはどうでもいい。

 今はただ今日この日出会えた幸運に感謝をすればいいのだ。


「ティエナさん!僕も、ハンターになったよ!」

「……ほう?お前、務まる?」

「もちろん!エルンさんにも合格って言われたからな!」

「エルン……見誤った……?」


 ええ見誤っていますそれはもう盛大に。

 そもそも元勇者じゃなければ、こんな小さな子供、試験さえ受けさせてもらえずに門前払いがいいとこである。

 その無理が押し通ってしまったのは、フェントが魔導神と知り合いであり、エルンが魔導神に造られた人形だったからだ。

 そこまでは知らないが、ハンターとしての仕事もしてみればいいと魔導神に言われたティエナは、今日の予定が捻じ曲がりそうな予感がしていた。


「これからスポットに行くんだけど一緒にどうかな!?」

「……お前、ランク何?」

「……Fランク」

「ふっ」

「……」


 鼻で笑い飛ばされた理由はわかる。だけど仕方ない。そしてティエナであれば、無条件に受け入れてしまうのがフェントでもある。


「そこ、何出る?」

「……ゴブリンがいるらしい。倒した数は勝手に記録されて、百体倒せばEランクに上がるって」

「ほーん」

「そ、それで、どうだろう。来ては、くれないだろうか」


 明らかに馬鹿にされている。まあそれはいい。

 だが、ティエナはこんな低ランクの場所には来てくれないだろう。そう思っていた。


「……少し待て。ちょっと確認したいことがある」


 それだけ言うと、ティエナはギルドの中へ入っていく。

 ……今、待てと言ったか?ということは、待っていればついてきてくれるのか!?

 フェントの心は期待と不安が入り乱れ、さながら好きな人に告白した人みたいな心情だった。

 そしてすっげー複雑そうな顔で出てきたティエナは、伏し目がちに視線をうろうろ。それから一度フェントを見ると、やっぱり目を逸らして頷く。


「……手伝ってやる。だけどわたしになんの利益もないから、今回だけ」

「ほ、本当か!ありがとう!嬉しいよ!」

「……」


 ティエナが揺らいでいた理由は、昇格条件を聞いてみたら適正スポットでの魔物討伐が必須だったからである。

 メリットはないが、これを一人にするのも怖い。

 だから魔導神にも相談して、行ってみればいいと言われたからついていくことにした。

 まあ魔導神はリナと似たような感性の持ち主なので、こんな相談をされたら迷わず行けと言う人ではあるのだが。


「なら早速行こう!のんびりしている時間が惜しい!」

「……はぁ、わたし、甘すぎ。時間の無駄ってなんで分からない……」


 それでも行くんだから嫌いというほどでもない。

 子供たちの冒険(?)は今始まった。

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