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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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21話 もう一人の叛逆者、その行く末

 あるところに、一人の少年がいた。

 その者はありふれた一般人で、贅沢はできないが毎日に困るほどではない、本当に小さな幸せを噛み締める者だった。

 だがその生活も続かなかった。

 ささやかな幸せさえ奪われた。

 それは新しい王様のせいだと言う。

 親しい人たちは皆王に怒り、憎んでいた。

 そんな状態なら、誰だって王様が悪いんだと思うようになるだろう。

 その者も、他の誰とも変わらなかった。

 同じように王を恨み、怒り、やがて疲弊し、そして決意した。


 みんなを助けよう。


 たった一人のちっぽけな願いに破綻させられたとあっては、その王も死に切れないことだろう。

 だが、実際にそれは成し遂げられた。

 数々の幸運が重なった。仲間たちの協力もあった。大勢の期待があった。

 だけど、きっと、一番大きな理由は、勇者の中にあった想い。

 全ての民を苦しみから解放したい。

 みんなに自由を与えたい。

 それだけあれば、理由があれば、人というものは、立ち上がれる。

 なんてことはない普通の少年が、その辺の武器屋に売っていた剣で、最後には王への叛逆さえ成功させてしまった物語。

 始まりなんてこんなものだ。

 それがねじれ、絡まり、編纂され、世界さえも勘違いしてしまった結果、王は魔物の王へと変わり、勇者にしか殺せないなんてルールができてしまった。

 だが本当は。本質は。もっと別のところにあるんじゃないのか。

 だってそれは、想いさえあれば誰だってよくて。

 たった一人立ち上がった結果でしかないんだから。


「剣技、オーバーブレイド……?」


 フェントが頭の中に浮かんだ言葉を放った。

 それだけで、願いは伝播する。

 想いは、次の時代へ紡がれていく。


「……はっ、なんか急に思考が、ていうか体が?」

「ああ、明らかに強くなってる。これは、勇者の力か?」

「……ん、わたしは少し使った。その時と同じ。……いやもっと。魔導神の加護もなしにさっきより強い」

「「……」」


 それは極限の人の意志。

 本当の初代から連なる、勇者の願い。

 人々に救いを。苦しみからの解放を。

 方向性を間違えれば最悪へ転がり落ちる考え方だが、もちろん間違えない人だっている。

 それが勇者。

 その最大の能力は、『自己の能力を万人に分け与える力』。

 ここに人数制限なんて差別するような物はなく、自分を特別にする効果の減衰もない。

 つまり。今ここに、王の前に立ったのなら、それは全員が勇者であると認める力。

 勇者の伝説、その根幹にある教訓の部分、『特別な存在は、特別だと認める存在がいて成り立つ』。つまり、勇者でさえも仲間がいなければその本領は発揮できない、ということ。

 その本質を、今ここで解放する。


「もう何も迷わない。もう何も怖くない!僕は僕の全力で、お前を倒し、みんなを助けるんだ!!」


 前に投げた疑問だが、種族なんて差異はなく、ほんの少しの才能と実力で全てが決まる世界において、ただでさえ曲がらない勇者が、周りにいた仲間全員を底上げしたのなら、どちらが勝つかなんて、最初から決まっていたというわけだ。


「ぐ……神域さえ無視してブーストするか。だがそれでこそ勇者、魔王の前に立ち塞がる者!」


 魔天王も、舞台演劇のように大仰に両手を挙げる。

 勇者がその本質に辿り着いたなら、こちらも本気で相手をしようとでも言うのか。


「神域再構築」

「まだあるの……」

「圧制者の描く世界」


 そこはどこか古風な玉座の間。

 蜃気楼のように揺らぐのは、王に傅く臣下たち。

 安定しないホログラムのように時折ノイズの走る者たちは、一斉に立ち上がると四人に対して非難の目を向ける。

 それは王を否定した者を否定する者たち。

 実際に当時の勇者が受けた物と同じ。

 だけど。


「言ったはずだ。もう何も迷わないと、絶対に揺らがないと!」


 蜃気楼の亡霊たちが消え去る。

 本来なら踏み込んだ者全てに全能力低下の拘束がかけられるはずだったが、覚悟を決めた勇者と仲間には、あらゆるマイナス効果が意味を為さない。

 だがここは確かに魔天王が用意した戦場。そして神域。


「元来”調子に乗る”とは負のイメージが強いものではあるが、逆に捉えることもできる。愉悦は人に自信を与え、高揚感は万能感へと変わる。このままでは愚者であるが、それを神に認められればどうなるだろうな?」

「……何も変わらないさ。愚者は愚者で、放っておけばどこまでも腐っていく」

「ならば実力で示せ。余が愚物であったと。無知なる人間が、神よりも優れていたと!」


 衝突は一瞬だった。

 最早尾を引く流星の如く飛んだ勇者は、魔王のステッキをへし折るほどの力で剣を叩きつける。

 それが弾かれる前に、背後に回ったティエナによって浄化の炎が叩き込まれる。

 漆黒のマントを燃やしながらも半回転した魔王は二人を振り解き、ティエナからその力を奪い取ろうとした。

 だが、勇者の力は王には靡かず、また仲間だと思った人を見捨てるような真似はしない。


「リベル、負けてらんないね」

「ああ、そうだな」


 勇者の力に慣れていた二人が先行していたが、もうあと二人いることも忘れてはいけない。

 一時的に金色の光を受け入れたワイヤーが走り、魔天王の自由を奪う。

 そこへ、神六体分よりも速く、そして正確に動けるリベルが向かい、容赦なく叛逆者の剣でその心臓を狙う。

 だが甘く見てはいけない。

 これでも神の力を得た魔王。歴史上最も力を持った魔王だ。


「ぬォらァッ!」


 ワイヤーから強引に抜け出し、致命傷になりかねない叛逆者の一撃を受け止める。

 流石にリナの拘束を抜けられると思っていなかったリベルは思考に空白が生まれてしまうが、そこは守護者たる勇者が埋め合わせる。

 伸びかけた左腕を破魔の剣で切り落とせば、同じように最善から最悪まで考えるリナが、緋色の尾を引く弾丸を何発も魔王の顔面めがけて連射する。


「悪い、油断した」

「ねえさま信じる、仕方ない」

「うーん、あんまやめてね?致命的なことになりかねないし」


 まあリベルがそれで死ぬようなことは滅多にないだろうが。

 そして左腕を肩から失った魔天王は、再生さえ阻害されてしまったことで初めて怒りを露わにする。


「やってくれるな……、これはなんだ?勇者の力ではあるまい」

「わたし。生命力同士の撃ち合い。同じく無限なら、実質永遠に食い止められる」

「ならば貴様から殺してやろう、分不相応の小娘がッ!」


 ステッキの先端から黒々しい瘴気が溢れ出し、寄り集まった線はレーザーのようにティエナを目指す。

 思えば、魔天王の方から攻勢に出たのも初めてかもしれない。

 今までの劣勢は、完全に覆ったと言ってもいいだろう。

 そして、ようやく反撃に出た今、そこにどれだけ即死の効果があったとしても、もう誰にも届くことはない。


「魔導障壁、永久展開」


 今のティエナであれば、魔導に分類されてもおかしくない魔法を、幾つでも重ねられる。

 ほぼ全ての魔法を防ぎ切る障壁を、全員分、その体を覆う鎧のように、戦いが終わるまで永遠に起動し続ける。


「な〜んか強化された力見せなきゃいけない感じ?バフは苦手だから自前ので行かせてもらいましょうかね」


 ザン!と広げたのは赤銅色の翼。

 緋色の悪魔としての力はないが、それを再現する程度リナ本人ならいくらでもできる。


「赤光、その光は等しく降り注ぐ」


 宙に浮き上がったリナからは、下級神四体をも翻弄した破壊の散弾銃が放たれる。

 ドカドカ撃ち下ろされる光線は、魔天王だけでなく神域そのものを傷つけていく。


「ほらあんたも」

「……マジ?」

「ここで決めましょ。多分、美味しいとこは勇者が持ってくけど」


 リナに視線を向けられ、リベルはどうしようかと思案する。

 何せ、その本当の力は自分でさえ使い方がわからず、発動の条件すらわかっていない。

 その根幹に強い怒りがあるのはなんとなく察するところではあるが、この優勢の状況に怒りなどない。

 だがなんだか秘められた力を発動する雰囲気が漂っている。

 ならどうしようか。


「あぁ、そうか。俺の仕事は決まってるしな」


 リベルは叛逆者の剣を地面に突き刺す。

 おまけにもう一本(!?)叛逆者の剣を生み出せば、それを天井に投げつけ半ばまで埋める。


「神域、剥奪」

「「ッ!?」」


 魔天王ともう一人誰かが驚いていたが、気にせずリベルはその力を行使する。

 元々、地面に突き刺しそこを流れる神の影響を無効化するなどはやっていた。

 なら天と地を繋げ、その二点から影響を取り去ってしまえば、力を供給されなくなった神域は勝手に瓦解する。


「馬鹿な。いくら叛逆者とて神域を破壊するなど、それこそ空間全体を染め上げなければいけぬはず!」

「かもな。だけど、ここまで増幅された力なら、点から流れた力だけで面すら覆い隠せるんじゃないか?」

「なぜ本人が理解しておらぬ!」


 それはそうだ、ともう一人その異常性に驚いていたリナが頷く。

 ちなみにそのリナは神域の守りが消えて『あっやべ』とか言っていたが、幸い止めるのが遅れた光線が魔王城を無作為に破壊することはなかった。意外と堅牢だったようで何より。


「チェックメイト、ってやつね」

「ぐ、ぬぬぅ……だが余は魔天王、神に名を連ねし最強の魔王である!」


 魔王が白と黒の翼を広げ、リナより少し高い高度まで羽ばたく。


「存分に浴びるが良い。破綻の狂気をッ!」


 魔天王がステッキを振るう。

 その足元に霧のように瘴気が立ちこめるが、ここにいるのは全員勇者の力に守られた者たち。

 今更、自ら破綻へ向かわせる狂気など、誰もまともに浴びはしなかった。


「な、なぜ、なぜだ……」

「分不相応はお前。落ちろ」


 もう空間さえ足場にするティエナが一息に魔天王の頭上を取り、床に向けて蹴り飛ばす。


「はーいじゃあそろそろ終わらせますかね」


 いつの間にやら地上へ戻ったリナがそれを金色のワイヤーで掴み取り、主に翼を重点的に押さえて地上に縫い付ける。

 無理やりに天井を見上げさせられた魔天王が見たのは、そこに突き刺さっていた黒い剣が一人でに動き出している瞬間。


「あるのか知らないが、その神核、壊させてもらう」


 ッドン!と魔天王の左胸で、地上の叛逆者の剣と天上の叛逆者の剣が交差する。


「魔王、お前は強敵だった。けど僕に弱さや覚悟を教えてくれた。それだけは、感謝する」

「やめろ、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「勝利を片手に祝杯を。大願成就ウィナーズ・ブレイド


 金色の軌跡を残し、魔天王の体が二つに裂ける。

 フェントが残心を解けば、魔物の王は光と散り、砂漠の静寂が帰ってきた。


「終わったのね」


 リナがワイヤーを引っ込めれば、他三人もどこか気を緩めて武器をしまう。

 だが、この魔王城を構築したのは誰か。

 その本人がいなくなればどうなるか。

 全て魔法によって支えられていた魔王城が、ガラガラと音を立てて崩壊を始める。


「うおい!このまま疲れたーで終われる流れでしょうがー!」


 リナがなんか叫んでいるが、今はこの崩落から逃れる方が先である。

 とはいえまだ勇者による力の供給は絶たれていないし、それでなくともここにいる面々に落下を気にする者はあまりいない。

 戦闘の余波で砕け散っていた窓から飛び出し、冬でも暑い砂漠へと飛び出していく。


「はぁ、はぁ……最後の最後に崩壊とか冗談じゃないわ……」


 しっかりと瓦礫の山となりながら崩れた魔王城は、その全てが砕けると風に吹かれて消えていく。

 そこにはもう、魔天王なんて脅威が存在した証拠はなく、ここまでの戦いが夢か幻だったのではと思えるほど、なんの変哲もない砂の大地が広がっていた。


「……終わった、のか」

「ん、勇者、よくやった」

「……ありがとう。僕がここまで頑張れたのは、ほとんどティエナさんのおかげだよ。君がいてくれたから、僕は諦めずに戦うことができた」

「……微妙に受け取りにくい。それじゃあわたしが生きることを強制してたみたい」

「な、何を言ってるんだ。僕がどこかで死んでいたら、結果はまた違うことになっていた!だからこれでよかったんだよ!」

「……わか、った」


 ティエナの表情が本当に気まずそうなのは、果たしてフェントに一つの道を選ばせていたことだけが原因か。

 乙女心も理解するリナが微笑ましく見守っているのを、リベルはきょとんとした顔で眺めていた。



 今回の勇者の物語はここで幕を閉じる。

 フェントがどこへ行くのか、次の勇者はいつ現れるのか、そして破魔の剣は次に誰を選ぶのか。

 何も定かではないが、だからこそ正しい世界とも言える。



「確かに、最後の勇者はカッコよかった」

「!!」

「……でも、それまでがダメ。ずっとわたしに怒られて、無理やり起こされて。それが本当に勇者?できるなら、最初から頑張れ」

「……うおおおおおっ!もっともっと強くなって、勇者じゃなくても全員を守れるくらいになってやるううううっ!!」


 広大な砂漠に、元勇者の悲しみに満ちた叫びが響く。

 勇者の物語は終わっても、フェントの人生はまだまだこれからである。

結果として、勇者伝説っぽい感じになったんじゃないですかね。最後の方は終わりの近さを表現するためにこの作品らしさを出してみましたが。魔天王、なんでもできて動かしやすいやつだったぜ。

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