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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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15話 実力、強化

「魔王討伐に、行くことになりましたの」


 翌朝、二人で朝食を摂っていたところに変なのがやってきた。


「……経緯は?」

「夕方頃ティエナさんが起きまして。勇者について詳しくお話を聞き、わたくしが行けると判断いたしましたわ」

「……本気?」

「……既に魔天王なる存在の眷属が確認されていますの。一昨日は一体、昨日は二体。そして今日確認されたもので四体ですの」

「つまり、毎日倍になってると」


 それで行くと明日には八体になっている。

 その次は十六体で、もうそれ以上になったらどこから手をつけていいのかわからない数になる。

 しかも、


「一体一体は下級神……現状、基礎属性の四体が見えていますの。ルイナの言う通り神核はないようですが、能力だけなら全く同じですの」


 このまま増やせばその分負担が増えていく。

 一度リベルが殺している?ほぼ全て叛逆者の本気を出して勝ち取った神核だ。二度はない。

 しかも、今回これらを相手するのはリベルではない。下級神との戦いに中々立ち会えなかったリナなのだ。


「今日、行くってわけね?」

「ええ。いつもの通りであれば全員を現地に飛ばすのですが、神の強権も明文化されたルールの前では全てをねじ伏せることはできませんの。教会側からの申し出として、魔王へ至る道の途上で勇者が倒れてしまったのなら、討伐を諦め引き返してほしいとのことですわ」

「うん?それの何が問題なのよ」


 本当に意味がわからないとリナが首を傾げれば、魔導神はむしろニッと悪巧みをしているような笑みを浮かべる。

 教会側はまだまだ未熟な勇者を向かわせることに不安があるようだが、真の強者たちの前にそんな心配など杞憂と言わざるを得ない。


「神のブーストを差し上げますの。リベルさんには普通の魔法になってしまいますが、勇者にかけるものは最上級。即時回復のバフをつけさせてもらいましたわ」

「私はどんなもん?」

「擬似緋色の悪魔」

「!!」

「と言えばわかりやすいでしょう」


 言い終わる前に、リナは目を見開いて反応していた。

 擬似緋色の悪魔。

 本物には届かずとも、それに近い状態を神の力で引き出す。

 実質的に、あの力を、人間の仲間として扱える?それは、そんなのは。


「最強じゃないの……!」

「あなた、それは自画自賛ですわよ」

「だってそうでしょ。あの力を全部出せるなら、下級神なんてマジ一体一秒で殺せるわよ?」


 ほぼ全ての上位種族を一斉に相手取るとは、それだけの意味を含んでいる。

 現代にあれが解き放たれれば、きっともうルイナ以外には止めようのない化け物になっているだろう。


「あー……それなんですが……模倣の限度と言いますか、保有する力はまさしくそれなのですが、瞬間的な出力の話をいたしますと、わたくしと相対した時の二割がいいとこですの……」

「……つっかえね」

「言っちゃいけないこと言いましたわ!これでも頑張っている方なんですわよ!?勇者に不死の力を与え、ティエナさんに魔力効率五百%のバフをかけ、リベルさんに規定値以下の攻撃を無効化する魔法をかけた上で、緋色の悪魔の二割ですわ!むしろ褒めてほしいくらいですの!」


 え、そこまでしてるんだ、と二人でちょっと呆然。

 というか、魔導神が本気を出せばそれだけのことを並列でやってのけるらしい。


「……あんた、ちゃんと神様なのね」

「? な、なんですの急に」

「いや、やりゃ出来んだなって」

「……それではまるでわたくしが普段から何もしていないようでは?」

「事実では?」

「……」

「……」


 はいはい睨み合いはやめましょう。

 リベルに引き剥がされてリナは無言の圧力を消す。

 相手がいなくなった魔導神も気持ちを切り替える。


「それでは、満足していただけたのなら教会に向かってくださいまし。勇者と合流してから、魔王討伐になりますの」

「満足はしてないけどしょうがないから行ってくるわ。ルイナは来ないんでしょ?」

「あれが動く方が珍しいですの」

「ん。よし行くわよリベル」


 相手は神の性質を持つ魔王。

 叛逆者と勇者がいなければ勝てない相手だと言うのに、ここにいる面々は誰もそんな心配をしていなかった。



 教会にて勇者、ティエナと合流。

 ティエナは勇者を微妙な目で見ていたが、勇者の方はその理由がわからず、しかし見つめられて恥ずかしそうに目を逸らしていた。


「リナ様。どうやら、勇者様は先日の記憶がはっきりしないようです」

「……そう言うこと。でも、強さは本物なんでしょ?」

「剣に力があること、一応全員で協力して勝てた、という記憶があるようです。ティエナ様にもお話はしていますが、随分と憐れまれていて……」

「あはは……まあ、ティエナちゃんだし」


 エルルアに耳打ちされて、リナはああそう言うこと、と納得を示す。

 ティエナのあの微妙な表情は、ちょっとは見直したのにその記憶が消されていてどうするべきか迷っている、ということだろう。


「Sランクスポットも攻略できた僕たちなら、魔王だって倒せる!」

「……さっさと行く。今のお前は、見ていられない」

「?」


 きょとんとしている勇者は放っておいて、四人は改めて魔王討伐へ向かう。

 前は車で楽をしていたが、今回は街を出るまでは徒歩である。

 理由としては、


『勇者様御一行の出陣ですわ!皆様拍手で応援してくださいまし!』


 そんなアナウンスが流れて、道行く人だけでなく家の中にいた人までが窓を開けて拍手をしていた。

 まるで卒業生の入場、または退場。

 だが最近の伝統はこれである。昔はただ歩くだけで尊敬された──時代によっては忌避されてしまっていたが──勇者でも、現代ではただの子供にしか見えない。

 だからこうして、神も祝福しているのだと民を焚き付けて無理矢理にでも知名度を稼ぐ。

 失敗すればその期待はそのまま落胆へと切り替わるが、成功すれば一躍時の人である。


「……ね、ねえさま?なんで背中押す」

「一応ティエナちゃんが聖女ってことになってるみたいよ?ほら、癒し手の聖女様は勇者の隣に」

「……仕方がない」


 勇者が破魔の剣を掲げれば、形式だけでも拍手の音が強くなる。

 この中に、一体どれだけ勇者に尊敬と憧憬の目を向け、心の底から応援している人がいるかはわからないが、それでもみんな興味がないわけではないのだろう。

 どうしても小っ恥ずかしい道を抜け、門の外に出たところで車に乗り込む。


「皆様お疲れ様でした」

「全くよ。本当は目立っちゃいけないってのに」

「そ、そうなのか?」

「ん、勇者は目立ちなさい。思う存分。私らは本来表舞台にいる人間じゃないってだけよ」


 ワンボックスカーの中央に座る勇者が困っていたので、リナはすかさず言葉を選び直す。

 ここでは言えないが、今の黒髪黒目ある程度美少女(ついでに豊満な胸!)の姿は、この街ではもう使えなくなった。


「生きづらいわよね」

「……いつかきっと、馴染めるさ。元のリナとして」

「ふふ、ええそうね」


 そんな話をしながら、車は砂漠の手前までやってくる。


「ここから先は徒歩となります。また教会側のバックアップも不可能となりますので、この先は皆様のお力が問われます。もしも続行不能と感じられましたら、全力でここまで戻ってきてください」

「うん。おっけおっけ。ほらさっさと行こ、ちゃっちゃと片付けて凱旋よー!」

「あ、ね、ねえさま!」

「ティエナさん!?」


 砂漠の砂も気にせず全力で走り出すリナを追って、ティエナも身体強化ダッシュ。

 それに追随するように勇者も頑張っていたが、まあ遅い。

 どの辺で止まるかなんとなく察していたリベルは、勇者に完全な敗北感を与えない程度に後ろをついていった。



 リベルの予想通り、エルルアからも見えない位置まできたところでリナは停止した。

 ティエナはほとんど疲労を感じさせず、同じように止まり後ろを振り返る。

 何もない砂漠に響くのはせいぜい風の音程度のはずなのだが、だんだん近づいてくるモーター音のようなものは何か。

 答えは、勇者を引っ張りながら走ってくるリベルの魔法の音だった。


「……そーいうことできんだ」

「魔法だったらいいだろ。氷と火と風だ」

「……それ結構人外だけどね?」

「あれ?」


 リベルは自分の足元とフェントの足元を凍らせながら、ジェットブーストによって速度を稼いでいた。

 アイススケートの初心者を慣れている人が引っ張るような感覚で、リベルはここまでやってきたのだ。


「勇者、へばったか」

「ば、ばててなんかない!こいつが勝手に引っ張って行っただけだ!」

「おい」

「ぼ、僕はまだやれる。僕は勇者なんだ!」


 じゃあ、試練を。

 なんて感じで、砂の大地を割って本物のワームが現れた。

 焦土で出会った異形とは違う、魔物としてのワームである。


「勇者、やれ」

「ぼ、僕が……?よ、よし!」


 破魔の剣を抜き、その剣から光を放出する。

 ワームは向かってくる獲物を丸呑みしようと大口を開けていたが、空中で一回転した勇者はそのままワームの見えている部分を真っ二つにした。


「……なかなかやる」

「そうねえ、いつからあんなに運動性能が上がったのかしら」


 少なくともティエナも見ていないのだが、勇者は着実に強くなっていた。

 そんな風に勇者の実力を認める人がいる一方で、更なる奇襲を警戒している人もいた。


「っ、分割!」


 リベルが極天の剣に手を置き、その性質をフェントの足元の地面に付与する。

 直後、ズバア!とその肉体を二つに割きながら、フェントの足元から別のワームが飛び出してきた。

 しかし現れた肉全てを分割されたワームは、そのまま動くことはない。


「「……」」

「……リベル、すごいじゃない。あんな奇襲に気づくなんて」

「焦土で見たからな。仲間の敵討ちに出てくるワームの”大群”を」

「「「……?」」」


 リベルは、まだ気を抜いていなかった。

 そしてその予感の通りに、ワームの群れが一斉に地中から飛び出してきた。


「な、なんだと……で、でも、僕は勇者だ!」


 フェントが破魔の剣を構え直すが、ここにいるのは全て魔導神の強化魔法を受けた人。

 そして誰にも気づかれていないが、密かに進化をしている人は、その力を試したくもなる。


「浮遊、対象指定魔導障壁」


 全員が臨戦体勢に入る中、ティエナだけがふわふわと空中に浮かび上がる。

 それを見たリベルとリナは『まあ、任せてみよう』と武装を解除しティエナを見守る。

 フェントだけが全方位のワームを油断なく見据えていたが、その警戒は無駄に終わる。


「広域殲滅魔法。終焉を告げるデスティニアメ小型流星群テオフィール


 上空十メートルに浮かぶティエナが発動したのは、さらに上空から小石程度の隕石の雨を降らす魔法。

 宇宙から降り注ぐそれらは無差別に地上を蹂躙し、そこにいるもの全てを滅びへと向かわせる。

 空中に佇むティエナ、そしてティエナの障壁に守られた三人以外、つまり敵討ちにやってきたワームの群れは、砂漠に無慈悲なクレーターを作る隕石によって粉々にされていった。


「ねえさまっ!どう?すごい!?」

「そうねえすごいわ……なんだかみんなどんどん強くなっちゃって……私の出る幕がなくなって行っちゃうわね……」


 ここで本当に注目すべきは、ティエナが一言も生命変換と言っていないところなのだが、義理でも妹分で守るべき存在だったティエナに追い抜かされかけているリナは気づいていない。


「でも魔導神の強化もあるんじゃないのか?」

「む、実力。と言いたいところだけど、魔導障壁と併用できたのは明らかに魔導神のおかげ。魔法の発動がいつもよりすごく軽い」

「じゃあ流星群は素で発動できるんだ……」


 リナは少し凹んでいるが、その比ではない人が少し前にいる。


「な、なんだ今のは……僕が死んでいないのも、ティエナさんのおかげなのか……?」

「ん、勇者、殺すつもりはない。安心しろ、あれくらいならわたし一人でどうにでもなる」

「……」


 守れるようになったと思ったら、追い越された。

 子供ながらに好きな人を守りたいなんて殊勝なことを考える男の子のプライドは、もうズッタズタである。


「……ティエナは強くなった。なら、こっちも強くなればいい。だろ?ほら早く行こうぜ」


 リナとフェントの背中を押して、リベルは砂漠をさらに歩き出す。

 どこか沈んだ空気にしてしまったティエナは、リナに認められたことによる満面の笑みでその後を歩いていく。

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