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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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14話 全てを知る人たち

 とりあえずティエナと勇者の無事が確認できて、リナはホッと胸を撫で下ろした。

 ルイナはいなくなっているが、きっと助けてくれたのだろう。


「私はティエナちゃんを背負っていくわ。リベルは、勇者をお願い」

「……ああわかった」


 二人とも倒れている理由はわからないが、ひとまず無事だったのだ。それを喜ぶべきである。

 それぞれ子供たちを背負って、二人は出口を目指す。


「その間にっと」


 リナはきっとどうにかしてくれたのであろうルイナに通話を繋ぐ。


『なんですかちゃんと仕事したじゃないですか帰っていいじゃないですか』

「まだなんも言ってないでしょうよ。何があったのか教えなさいって」

『んー……?詳細は面倒ですよねぇ……とりあえずいたのは殺しました。ただ一応勇者の試練ですので、私も限界を見させてもらいました。お二人とも倒れていたのは、死力を尽くして戦い抜いた証ですよ。きっと、得るものはあったんじゃないですか?』


 やはりこの状況はルイナが出てきたことによるもののようだ。

 ただ。


「……胡散臭ぁ」

『だったら最初から聞かなければいいじゃないですかっ!もういいですっ!結果として無事に済ませたんですから私の仕事は完璧ですっ!!』

「はいはい。じゃ、またどっかで」


 これ以上話しても騒がしいだけな気がするので、リナは早々に通話を切る。


「それで、ちゃんとした出口ってわかるのか?」

「うん?あんまり私のこと舐めちゃダメよ?この洞窟の地形は、もう全部把握してあるわ」

「……さすがだな」


 合流を目指した時点で、リナはこの洞窟の地形データを取得している。ただリベルの反応だけを追っていくとどうしても遠回りになってしまうので、仕方なく、本当に仕方なく直線距離で穴を開けたのだ。


「で、俺を殺しかけたと」

「う、だ、だって、早く合流したいじゃない!それに、あんた簡単に死なないんだからいいでしょ!?」

「逆ギレだけはしないでほしい」

「……」


 死なないからと言ってあんな攻撃を乱発されていたら、いくらリベルでも死んでしまう。

 それに、再生力が異常なだけで耐久性は人間と変わらないのだから。


「ほらっ、さっさと行くわよ!」

「だから」

「うぅぅ……ごめんってばっ!」


 悪いことをしたら、ちゃんと謝りましょう。


 地上に戻ると、エルルアが一人で待っていた。

 ただその周辺に大量の魔物の死体があるので、こっちも安全とは言えなかったようだ。


「お疲れ様です。ご無事で何よりです」

「ほんとにね」


 教会として、勇者を預かるというのでリベルは勇者を渡す。

 落ちていたのでそのまま持ってきたが、破魔の剣はエルルアが持った途端、急に重量を増したように地面に落ちてしまった。


「「……」」

「あれ?どうしたんだ?」

「……あんたさ、勇者選定の話はしたわよね」

「ああ」

「勇者の剣ってさ、選ばれた人にしか扱えないのよ」

「でも、リナなら運ぶくらいできるんだろ?」

「それは本当に移送だけ!片手で軽々運ぶなんてできないんだからっ!」


 あれ?じゃあなんで普通の剣と同じように持っていられたんだ?


「……もう一人の勇者……?」

「やめて。リベルにこれ以上枷を嵌めないで」

「枷って」

「だってそうでしょ。もう叛逆者なんて唯一の存在で、絶対に普通の暮らしなんてできない人間なのにさ。さらに魔王討伐の使命まであったら、本当に自由なんてないじゃない」


 このことは三人だけの秘密として、見なかったことにした。

 そして破魔の剣は、フェントが持つ鞘にしまえばさっきまでの重さが嘘のようになくなる。最初からこうしていれば面倒な憶測なんて飛ばなかったのに。


「ところで、勇者様は活躍なされたでしょうか」

「私は見てないわ。リベル」

「……大体ティエナに怒られてたな。ただ、最後には剣の力を解放して、俺の目でも追えない速度の斬撃を放ってた。あれは多分、強いんじゃないかな」

「なるほど。こちらでも審議いたしますが、後日ティエナ様にもお話を伺いに参ります。よろしいでしょうか」

「ええ。て言っても、ティエナちゃんが嫌がったらどうしようもないけど」


 まあ話くらいはしてくれるだろう。

 最後には勇者を認めていたようだし。

 このメンバーでジャングルの道のりに悩まされることもなく、さっさと街道まで戻り、車で街に帰る。

 エルルアと勇者とは教会の前で別れると、二人はひとまず神殿に行ってみることにした。


「まだあんた一人?」

「わたくししかいないのに、彼女たちがいるはずありませんの」

「ふーん、ま、いいわ」


 変わらず応接室にいた魔導神は、またもや書類の山に追われていた。

 子供たちの件は教会が引き継いだと言うのに、一体なんの仕事をしているのやら。


「……その彼女たちが遊んだ代金を全てわたくしにつけてくるのですわ。わたくしのお小遣いは国民の血税であることをわかっていないのでしょうか」

「まあ年中遊んでる暇人だし……?」

「あなただってわたくしの仕事ぶりはわかっているはずでしょう!?」

「……基本ここにいるし……?」

「うっ」

「働いてる意識なかったし……?」

「……そ、それは、わたくしにしかできないからと、ボランティア的な気分だったのですわ」

「でも私やルイナでもできるわよねぇ……」

「……」


 結論。魔導神は、ぶっちゃけいらない。


「酷いですわ!」

「まあ私はやりたくないから、このままでいいと思うわ」

「押し付ける気ですの!?」

「最初からあんたの仕事だろ働け」

「くっ……リベルさんが来てからリナさんにまで下に見られるようになってしまいましたわ……これも世界の異変……」

「俺のせいにしないでくれ」


 異変は異変かもしれないが、何でもかんでもリベルのせいではない。

 それと、リベルはどちらかと言えば世界がおかしくなったから出てきた人であって、その元凶ではない。


「ま、揶揄うのはこんなもんでいいか。私も、今日はちょっと疲れたわ……」


 ティエナをソファに寝かせると、リナは対面のソファで横になる。

 座る場所のないリベルは、リナのいるソファの背もたれに腕をかけておいた。


「手伝ってもらおうと思っていましたのに」

「嫌よあんたの仕事だろ働け」

「……リベルさんは」

「戦い以外の仕事はできない。やってもいいけど、多分教える時間の方が長いぞ」

「……」


 手詰まり。味方はなし。八方塞がり。

 魔導神は諦めて書類に目を通す。


「あなた方、いつまでいるつもりですの?」

「ティエナちゃんが起きるまでかなー。エルルアが後でティエナちゃんに話聞きに来るってさ」

「……勇者はどこまで戦えましたの?」

「私が見てた限り普通の子供と変わらないわ。ただリベルの話を聞く限り、覚悟さえ決めれば剣の力で強化されるっぽいけど」


 リベルが見たのは、神速を超える速度での一太刀のみ。

 だがそれさえ扱えたなら、きっと今のリナをも超える。


「なんだかリベルさんみたいですわね」

「あん?あぁ、理論値は私越えって話?」

「そうですの」


 リベルも、今までに扱った叛逆者の力を常用できたら、確実にリナよりも強くなれる。

 ただ広がる闇なんてのは危険すぎるからできないし、翼や腕なんて物は神との戦いでピンチにならないと出てこない。

 黒い剣は、ある程度使えるようになっているが。


「やっぱ私の本体を……」

「それ、彼の前で話しますの?」

「……リベル、なんも聞かないでね」

「……わかったよ」


 先回りされては仕方がない。

 リベルは何も聞かず、リナの頭を撫でておく。


「……まあ、あなたはそれくらいがいいですの。守られている程度の方が、みんな幸せですわ」

「……言い方が嫌すぎる……当て付けだし……あとリベルはそろそろやめて」

「う」


 止められた。

 ここは素直にやめておく。


「はぁ、目の前に暇そうな人がいると、仕事の意欲が湧きませんわ……」

「じゃあ私ら帰るか。よしリベル。家帰ってのんびりしよ」

「それを言うのはどうなんですのっ!!」


 魔導神が騒いでいるが、こっちもちゃんと仕事をして帰ってきているのだ。文句を言われる筋合いはない。

 最後にはちょっと帰ってほしくなさそうな顔をしていたが、二人は無視して本当に帰宅した。


「ちょっと扱いが酷すぎじゃありませんの……?」



 さて魔導神に大量の仕事を押し付け、リナ以上に自由に遊んで回っている人は。


「むむっ、なかなかやりますね。ですがこれならどうでしょう」

「なっ!?回避不能だと……!?」


 閉店寸前、というかまだやっている方が不思議なくらいのゲームセンターで、レトロな格闘ゲームで創造神と戦っていた。

 いつもはほとんど客もいないのに、今日に限っては大勢の人で活気付いていた。

 それもそのはず。

 ルイナと創造神の戦いは、常に機械上の理論値を叩き出しているのだから。


「ふぅ、はぁ……マッチポイントです。このまま勝ちを頂きますよ」

「ふ、ふふふふふ……人間、神を甘くみるなよ」


 なぜゲームでここまで疲れているのか。

 そして、あまり裏側の話をしないでもらいたい。

 二人の会話を適当なものに置き換えているのは、少し離れたところにいるミアルなのだから。


「ていうか二人はお互い嫌いなんじゃなかったのー?よく一緒にゲームなんてできるよねー」

「「うるさい部外者は黙ってろ!」」

「……あいあいさー」


 極限の集中状態では、仲間の言葉も聞きたくない。

 弾かれたミアルは騒がしいギャラリーの一部に徹する。

 それから少しして。


「っしゃおらぁっ!私の勝ちですよぉっ!」

「もうちょっと女の子らしいセリフにしようよ」

「ぐぬぬぬぬ……負けた……あらゆる娯楽を極めた私が……」

「君創造の神様だよね?」

「「お前さっきからうるさいな!」」


 ツッコミ役も楽ではない。むしろタイミングと言葉を選ばないといけない分、自由な人たちより悩みが多い。

 まあ、だからと言って気遣うようなことはないのだが。


「おい金色、次はリズムゲームだ!」

「金色言わないでください。まあいいですよ?どうせ次も私が勝ちますし」

「ふん、その余裕もいつまで続くものかな。何せ私は創造神!」

「それ関係ないよ」


 二人が移動すると、ギャラリーもぞろぞろ動いていく。

 ゲームの上手さもそうだが、何より注目を浴びている理由は、二人とも他の追随を許さない美貌を持っているからだろう。

 片や指先一つで世界を作り変えられる神で、片やその影響を全て無効化するほどの化け物であるとは、誰も思いもしない。


「はーあ、ほんと人間って面倒」


 現代に唯一生き延びる人間化もできる知性を持った竜は、人の娯楽や習性というものに共感はできなかった。



「ふ、ふふ……なかなか楽しかったですよ」

「最終的には負けてしまったが、私もなかなか楽しめた。またやろうではないか。お前がいれば、私も退屈しないで済みそうだ」


 二人が疲れて床に倒れてしまうと、もう終わりかとギャラリーは帰って行った。

 中には美少女が寝転がっている様子を眺めようとする変態もいたが、その辺はミアルが”片付けて”おいた。


「なに河原のヤンキーみたいなことやってるの?」

「殴り合って絆を育むですか?言い得て妙ではありますが、生憎私たちは時が来れば敵対する関係です」

「そうだな。私が暴走するか、叛逆者が創造にまで手を伸ばすか。いずれにしろ、人間である金色は私の味方をできん」


 結構汚いであろう床に気にせず寝ている人を眺めるミアルは、一人だけプレイヤー用の椅子に座って足を適当に揺らしている。

 結局、二人の関係がどうとか、叛逆者が、神が、なんて話に興味はない。


「そろそろ帰ろうよ。ぼくはもう精神的に疲れたよ」

「何を言っているんですか」

「これから二次会があるのだぞ?」

「……それ多分ゲームじゃないよ」


 実年齢はどうあれ、こんな見た目の人が居酒屋に行ったら即刻退場である。

 冷静なツッコミをかますミアルに気勢が削がれたのか、ルイナは反動をつけて上体を起こす。


「まあ、遊んで回るのは構いませんが、こちらにも少しやらないといけないことがあるんですよね」

「勇者か?少し話は耳にする」

「ええまあ、表向き私たちは出ないですけどね。それでも万が一に備えるのが、本当に世界を裏から支える存在です」

「綺麗事の世界、と魔導の中身は言っておったな。それを支える二大巨頭の片方は主であろう」

「……あなただって二つの世界は認知しているでしょう。というより今までは”向こう側”にいたはずですし」

「そのような面倒ごとは忘れるのが世界を楽しむ秘訣だよ。しばらく帰るつもりはないからな。存分にこちらの世界を堪能させてもらう」

「壊されなければ、なんだっていいです」


 いい加減に起き上がったルイナは、まだ天井を眺めている創造神にどこか冷めた視線を送って。


「刻限が迫れば、私はあなたを追放しますよ」

「好きにせい。そうなればこちらも全力を振るわせてもらうがな」

「それこそ好きにしてください。向こう側がどうなろうと、私はどうだっていいです」

「あちらが本物のはずなんだがな……」


 どこか寂しそうに呟く創造神からは目を外して、ルイナは出口に向かって歩き出す。


「帰りますよミアル。早く帰って、この汚れを洗い落としたいです」

「あ、臭いって言われたのまだ気にしてる?あれほんとのことだから許してね?」

「……色々と間違っていますよ。そこは嘘だと言うものです」


 だって仕方ない。あれは事実で、ミアルはルイナ並みの腹黒さなのだから。

 そんな風にどこまでも信頼しあっている二人を、創造神は慈しむような目で見守っていた。

多分ルイナなんかよりは創造神の方が大人。であってほしい。本当に。

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