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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
五章 勇者と魔王編
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5話 勇者の話、強情な子供

「それでは、ごゆるりとご歓談ください」

「「「……」」」


 歓談、なんて言えるものになる気は全くしないが、とりあえず案内役でしかない魔道人形エルンは退出し、一行と勇者だけが部屋に残された。

 話し合いの前に、とりあえず席だけ決めておく。

 長方形の机を囲むように長椅子が対面になるように二つ、左右に一人用の椅子が二つとあったので、リナとリベルが隣同士、魔導神と勇者が一人席、ティエナが一人で三人くらい詰められそうな椅子に座った。


「ええと、まず何から話せばいいのかしら」

「とりあえず勇者とか魔王とかその辺が俺は知りたい」

「僕はティエナさんに」

「黙れ」

「……」


 哀れなる勇者。ティエナの一言で黙らされてしまう。

 リナはそれでいいの?と勇者に同情の視線を投げてみるが、諦めたような目だけが返ってくるのでリベルの質問に答えることにする。


「勇者ってのは魔王が現れると出てくる人ね。一応素質のある人は平時でもなれるんだけど、剣が人を選ぶ時は決まって人類に危機が訪れる時なのよ」

「とはいえ破魔の剣で払拭できる危険は魔王襲来程度ですので、ほぼ魔王と見て間違い無いですの」

「ま、待ってくれ、いやください。魔王襲来、程度?それ以上が、あるってことですか?」

「ありますわよ。知らなくていいことですので教えませんが」

「そんな……」


 勇者が絶望しているが、そんな危険が本当に迫ることはない。

 何せ魔導神が言っているのは暴走した神とか、滅多に現れない上位の悪魔とか、出会えってしまえば死ぬしかないが、確率で言えば運が良いみたいな奴らだ。そう出会うことはない。


「じゃあ、お前は剣に選ばれたのか?」

「お前じゃなくてフェントだ」

「いやお前名乗ってねーし」

「……」


 リベルまでそっち側に回ったら、もう誰が勇者の味方をするのかわからない。

 色々言いたいことはあるのだろうが、なるべく優しくしてあげて?と背中を叩いておく。


「……それでフェント、魔王討伐ってのは仲間が必要なものなのか?」

「当たり前だ。いつの時代も勇者は何人かの仲間を募り、険しい冒険の末に魔王を討ち倒す。それが勇者伝説で、何年も行われてきた伝統だ」


 リベルが正しいのかと訊ねるように魔導神を見て、魔導神はまあ一応と言いたげに頷く。


「(魔王は百年周期で現れるって言われてるけど、本当はもっと頻繁ね。ただこうやって勇者が出てきちゃった場合は人間に任せるってだけで、発生をすぐに確認できたとか、人間にはまだ伝わってないって場合はこっちで処理してんの)」

「……なんか、マジで人類の守護者やってるんだな」


 どう?えらい?なんて顔で語れば、バレない程度に背中を撫でてくれる。


『見えてますわよ』

「……」


 こういう時、スペックが高い人は厄介だ。


「で、フェントはティエナを仲間に誘いたいと?」

「ああそうだ。どうか、おねが」

「嫌」

「……」


 もう何も言うまい。


「……ええと、なぜ勇者殿はティエナさんが良いと思ったのです?それも言わずにただ仲間になってくれなど、初対面の人には難しいですわよ?」

「た、確かにそうだ……。まず、最初から僕はティエナさんに目を奪われた。きっと強者だと思ったんだ」

「普通にキモい」

「……」


 ティエナの毒舌が突き刺さる!

 これ以上は本当にもう見てられないのでティエナを諭しておく。


「えっと、一応ここ話し合いの場だから、どんなに嫌でもあんまり傷つけるようなことは言わないであげて?」

「……ん」


 物凄く嫌そうではあるが一応納得してくれたようだ。

 リナはほとんど同情の目で勇者に続きを促す。


「……観戦モニターで、実技試験も見ていた。あのエルンという試験官が強いのは周りの人の話を聞いていたらわかる。そんな人に勝ったのだから、魔王だって倒せると思ったんだ」

「……だったらリベルでもいい。認めたくないけど、わたしはあれで精一杯だった。なら、リベルの方が強い」


 まあ確かに、と三人が頷く中、勇者だけは違った。


「あれは、何か違うと思う。というかあまりよく見ていなかった」

「「「……」」」


 リベルは何かが違うのか、何が違うんだろうな、と首を傾げているが、わかる人にはわかってしまう。


『ねえ、これってただの一目惚れなんじゃないの?』

『わたくしもそう思いますの……。きっとリベルさんが戦っている時はティエナさんを見ていたのでしょう。だから、あまり記憶にないのですわ』


 電波と思念で会話をするが、まあやはり考えていることは同じだった。

 この勇者は、ティエナに恋心を寄せている。


「とにかく、わたしだけを勧誘する理由はわからない」

「な、なら、他の人たちも一緒だ。それならもっと心強い!」

「うんまあ理解はできるけどね?」

「リナさんがいてはつまらないですわよ」

「つ、つまらない?」


 そういえばハンターではないと言っていたし、S級ハンターの意味すらあまりわかっていないのかもしれない。


「S級ハンターなんて珍しすぎてひたすら強いという印象しか出回っていませんが、それが意味するところは魔物より上の存在に手が届くとされた人たちですの。つまり、基本的に相手をするのはそれ以下では対処のできない魔物、竜、天使、悪魔、場合により神ですわ。その中にはもちろん魔王も含まれますの」

「そ、そんな、じゃあ勇者なんていらないじゃないか……」

「いえ、剣が勇者を選んだと言うことは、勇者が求められているのですわ。たとえどれだけリナさんが強かろうと、トドメを刺すには至らないのでしょう」


 実際、魔王は勇者でなければ倒せないと言われている。

 ただそんなルールも形骸化してすり抜けられてしまうだけで、本来なら勇者はどの時代にもいないといけない存在なのだ。


「そ、そうか。なら仕方ないな!どんなにつまらなくても、僕は必要なんだから!」


 自己暗示でもかけているようだった。

 そうでもしないと心の安寧を保てないとでも言うように。


「そうね。じゃあ魔導神抜きでいきましょうか?」

「な、なぜそこで魔導神が抜かれる?」

「当たり前でしょ。魔王は人間の手で殺すから意味がある。神が出たら、それは神の功績よ」

「……仕方ないか」


 尤も、ここにいるのはサイボーグ少女に肉体が鉱石にされた子供、そして神殺しの特権を持つほぼ不死の男という、人間を名乗るにしては異質な人しかいないが。

 魔導神もこんなところで疎外感なんて子供みたいなことは言わず、落ち着き払った所作で紅茶を飲んでいた。どこから出てきたし。


「そういえば、勇者殿は今どこで暮らしていますの?」

「教会だ!勇者は教会の一番良い部屋を与えられるんだぞ!」


 ドヤっと勇者はティエナに自慢げな顔を見せるが、ティエナは嫌そうに勇者から距離を取った。

 勇者が非常に悲しそうな顔をしているが、魔導神が言いたいのは部屋がいいとかそんな話ではない。


「……そうですの。では教会の者にメンバーと経緯、それとこれをお伝えくださいまし」

「これは?」

「ここにいるわたくし以外の強さの概要をまとめたものですわ。封は切らず、責任者にお渡しするように」


 早速開けようとしていた勇者が固まる。

 それから気まずそうにポケットにしまって、神妙な面持ちで頷いていた。

 この辺りは、まだまだ子供っぽい。


『あんたが言いたいのは、学校とか親とかどうしたって話でしょ』

『よくわかりましたわね。ティエナさんなんて例外がいる手前直接訊くのは憚られますの。それでも、おかしいと思いません?確かに勇者が現れたら教会で保護する規定はありますの。しかし最近はもう親御さんの反対などもあり、教会が討伐メンバーを選定するまで普通の暮らしを送るのが常ですわ。だというのに……』


 学校も、親も関係なく、かつての伝統を重んじるかのように教会で暮らす勇者。

 どうやら魔王討伐さえ一筋縄では行かないようだ。


『つか、私らの本当の強さ書いてないでしょうね』

『当たり前ですの。というか書いたところで信じられませんわよ。リベルさんはA級クラスの剣士と。ティエナさんもほぼ同格、あなただけはわたくしに挑めるほどと書いておりますわ』

『ふん、まあ過小評価だけど許してあげる』

『本当のことを書くなと言っておきながら……まあいいですの』


 まあ神殺しとか背中からワイヤーが生えるとか、全身がミスリルとか言っても普通は信じられない。

 ただ教会は本当に魔導神直属の部署みたいなところがあるので、そこの責任者となると何かしらは知っていてもおかしくない。


「そ、それで、ティエナさんは来てくれるのだろうか……!」

「……ねえさまが行くって言った。なら、わたしは行くしかない」


 よしっ!なんて勇者がガッツポーズをしている。

 これは多分、聡いティエナにはバレているんじゃないかな。

 あとティエナちゃん。私は別に強制してないわよ。


「言わないあたりリナもリナだよな」

「な、なによぅ。モチベ管理も大事でしょ……?」

「まあ、色々絡まってるのはわかるから、俺は何も言わないよ」


 最近、リベルの理解力も相当高くなってきている気がする。

 絡んでいる色々、というのは、多分リナの役割、ティエナの考え、魔王と勇者の関係などだろう。

 魔王を殺すには勇者が必要。

 だけどリナ一人でもできてしまう。

 それでは可哀想だから勇者を連れていく。

 そうなればリベルは勝手についてくる。

 ティエナとしては理由が理由の魔導神は仕方ないにしても除け者は嫌。

 だから、リナが強制していないと言ってどちらも嫌な選択をさせるのは心苦しい。

 だったら勇者も望んでいるティエナの同行を半強制した方がマシ。

 リナの中にはここまでの考えがあったが、リベルは一体どこまで汲み取っているのやら。


「それでは、この場は一度解散としますの。勇者殿は、教会へ戻り先ほどのことを伝えてきてくださいまし。本格的な討伐時期や訓練の日程などは追ってこちらから通達いたしますわ」

「わ、わかりました。それでは、僕はもう行きます」


 魔導神相手だけは敬語になる勇者。

 最後にティエナを一瞥したが、一瞬で目を逸らされてしょんぼりしたまま帰っていった。


「正直どうよ」


 勇者の気配もなくなってから、リナはそう切り出す。

 魔導神に意見を求めるようなものだが、ティエナやリベルも言いたいことがあれば言ってほしい。そんな気持ちで。


「弱いですわね。きっとあの勇者は荷物になりますわよ」

「ん、わたしの攻撃に反応できない。その時点で弱い」

「……それはちょっと酷なんじゃないかしら」


 エルンが反応したせいでもあるのだろうが、ティエナの中で人間の強さのランクが出来始めている。

 ただ普通の人間なら、まずティエナレベルの身体強化は追えないのでその辺も考慮してあげてほしい。


「まあ魔王を倒せば終わるんだろ?何もずっといなきゃいけないわけでもない。だからティエナもあまり冷たい態度はやめてやれよ」

「勇者の味方するつもり?あの手の類は甘い顔したらどこまでもつけあがる。リベルはもっと人間を知った方がいい」

「……お前はどこで何を学んできたんだよ」


 それは本当にリナも思うところだった。

 今更学校なんてティエナは馴染めない気がするので触れないでいたが、勇者はそうも言っていられなさそうではある。


「ティエナちゃん、辛かったら無視でいいけど、学校とかって行ってみたい?」

「……できれば行きたくない。何も知らない能天気な奴らを、もう普通の目では見れない」

「そう、よね。ティエナちゃんは今の生活がいいのよね」


 魔導神に教えてもらえれば、知識自体は学校以上の物が得られる。

 人間関係が築けないのは痛いところだが、ハンターをやっていればそれも解消できるはずだ。


「……甘いですわね」

「だって」

「まあわたくしはなんだっていいですの。学校なぞ行かなくとも学びを得る方法があるのはわかっておりますし」

「で、問題は」

「勇者の方ですわね」

「「? あれ、何かおかしい?」」

「……そこで二人して首傾げちゃあ、人間をあまり知らないって言うしかないわよ」

「俺は知らん」

「吹っ切れるな!わ、わたしは」

「はいはい、その辺にしておきなさい。詳しい話は戻ってからにしますわよ。と言っても、目立つのも厄介ですので転移しますが」

「一般人がちょっと気にしてるしね」


 そういう気配はある。ティエナに冷たくされてショックの勇者は何も気にしていなかったみたいだが。


「では行きますの」


 そんな声と共に、全員の体がギルドから神殿へと移る。

 考えるべき課題は、いくらでもありそうだった。

この辺の話はティエナって普通に喋ってるけど七歳なんだよな……という感覚で作っています。ちょっと重すぎる経験のせいで大人びているけど、ちゃんと子供なんですよ。

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