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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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幕間 世界の果てで

「私、復活っ!!」

「おー、おはよー」


 バンっと足を踏み鳴らして演出まで入れたのに、自分の半身にして右腕のドラゴンに軽く流されて金色の少女ことルイナはちょっと悲しい顔をする。


「そういうのはリナとかにやってね。ぼくはあんまり驚かないし」

「あの人絶対私が昏睡してたこと忘れてますよ。その上でまた街の大規模破壊とかやるんです。そしたらまた私はしばらくの眠りに……」


 ぶつぶつ言っているが、しばらく体はほったらかしだったのだ。


「ルイナ、臭うよ」

「!? 乙女になんてこと言うんですか!お風呂入ってきますっ!」

「はーい」


 そんな風にやり取りをしている時だった。

 ドッガーン!とルイナより格段に派手な演出を伴って、全てを闇で隠した悪魔が現れた。


「おーおー確かに臭うなぁ。しっかしまあ、まさかお前が昏睡していたとは。気配が見つからねえわけだな。外で暴れるタイミングを逃しちまったかね?」


 闇の始まりにして創造の神のもう一つの対になる最悪の悪魔が、悪口混じりに粉塵の中から現れた。


「……ミアル、適当に相手しておいてください。私はお風呂に行ってきます」

「げ、言うんじゃなかった。あーあーやだよお?ぼく争い事は苦手なのにさあ」


 そう言いながらも、透明な髪の少女は天井に穴の空いた家をさらに半壊させながら竜の姿へと変化する。


「クリスタルドラゴン。世界でたった一匹しか存在しない竜が改造された姿。こりゃ楽しめそうだな」

「元の気質わかってる?ぼくってば優しい子だったんだからね?」


 過去形の意味は。

 光に透かせば消えてしまいそうな竜の、あまりに巨大な手が落ちる。




 散々臭う臭う言われたルイナは、もう全身の皮膚が五回は生まれ変わるくらいそれはもうしっかりと洗っていた。


「全くみんな酷いです。そう思ってもやんわり伝えるのが優しさという物でしょう」


 ちなみにこの少女、因果応報なんて言葉は知らない。

 湯船に浸かりながらぶくぶくと愚痴をこぼしていれば、浴室の扉が派手に蹴破られた。


「よお自称最強ちゃん。あんたのペットは片付けてきたぜ」

「おや、最近は暇しているかと思えば負けてしまいましたか。ではどうぞ、我が家のお風呂を自由に使ってくださいな」

「……風呂の権利で争ってたわけじゃねえがな?一応色々伝言で来たんだが、お前さん、どうせほとんど知っているだろう?」


 暗獄なんていう最悪の悪魔を前にして、最強を名乗るルイナはどこまでもいつも通りを貫く。

 湯船の中で体勢を変えて、適当に答える。


「神々の暴走の件ですか?それとも叛逆者が出てきていることですか?」

「まあどっちも当たりだ。だがなあ、これは多分知らねえだろう。あの本体ちゃんからの伝言だぜ?」

「……リナから?」

「『やらかしちゃったけどごめんね☆』だそうだ。あ、イントネーションに関してはアタシのアドリブだけどな」


 ふむ、とルイナはあの鎖に繋がれた少女を思い浮かべる。

 そいつがニヤッと笑った気がして、ちょっと嫌な気分になる。


「消滅大陸の件はそういうことでしたか。結果として、彼女の狙い通りだったんですかね?」

「そこまでは知らねえよ。ただ暴れたかっただけかもしれねえし、分身の心にダメージを入れたかったのかもしれねえ。ただ研究所を適当にぶっ壊す程度のためにやることじゃないと思うがねぇ」

「ふふ、彼女は意外とわかりやすいですよ。今回は実験と研究所の壊滅。あわよくば”二番目”の抹消、といったところでしょう。あれでも一応、悲劇は見たくない人ですからね」

「散々やっておいてか?かー、わかんねえやつだな」


 随分とこちらのペースに乗っかっている暗獄に、ルイナはくすりと笑ってから手で作った水鉄砲を当てる。


「ぎゃっ!?何すんだてめえ、ぶっ殺すぞ!?」

「あの暗獄が殺すのを脅しに使うなんてねえ」

「な、てめぇ……」

「はーいはい、落ち着いて落ち着いて」


 一瞬で背後を取り、ルイナは暗獄の悪魔を椅子に座らせる。

 そのままシャンプーを手で泡立てれば、髪の毛があるのかないのかわからない頭をわしゃわしゃ。

 もっこもこに泡立った頭を見て、ルイナは手を叩き合わせる。


「まあ、すっごいアフロヘア!爆発でもしたんですかぁ?」

「おいてめえ好きにさせてりゃ次から次に勝手によお。マジで、そろそろ一回本気で締めるぞ?」

「くふ、実は私も戦いは好きでしてねぇ。ちょっとやってみます?なんなら三本先取でも構いませんが」

「やってやろうじゃねえかよお!」


 暗獄が腕を後ろに振り抜くが、既にそこにルイナはいない。

 ルイナが首に抱きつくようにしてあわあわの腕を巻き付ければ、暗獄はもう片方の手でルイナの肩を掴む。


「握りつぶしてやるよ」


 するりとすり抜けたルイナはまた背後へ。

 今度はタオルを当ててごしごし。


「お背中流しますね♪」

「こいつ……っ!」


 もう肉体に頼ることはなく、犬歯のような闇の剣が上下から挟むようにルイナを狙う。

 だが、そんなもので最強は捉えられない。


「女の子同士なのであまり気にしないでくださいね☆」


 正面から思いっきり抱きついて暗獄の悪魔を泡まみれにすれば、やけに尖った肘が落ちる前に転移で回避。


「こっちは転移阻害に位置ズレまでやってんだぞ!どうなってんだよっ!」

「さあ?それにしてもあなた意外とスタイルはいいんですねえ。足も細くて長いですし」


 黒い体を真っ白に染め上げる石鹸をぬーりぬーり。

 爪先が腹、膝が顔面を目掛けて持ち上がるが、仕事を終えたルイナは湯船に帰還。

 一人でに動き出したシャワーからお湯が出れば、闇に覆われていた暗獄の本来の体が顕になる。


「……ひゃっ!?」

「おや随分と可愛らしい声を。ただ私は百合の花を咲かせるつもりはないので悪しからず」

「謝る意味もねえっ!なんでだよどうなってんだよぉ……アタシの魔法が阻害されやがる……」


 暗獄の悪魔は珍しく焦ったように自分の体を手で隠す。

 足元から守りの闇が伸びてくるが、体に触れた瞬間弾け飛ぶのを見ると、もう諦めてその場に蹲ってしまう。


「うーん、頭は相当洗ったつもりでしたが、顔のガードは硬かったですねえ」

「おい見るなぁっ、見るんじゃないっ!くそぅ……なんでアタシがこんな目に……」


 ルイナとしては恥ずかしがる顔も見てみたい、どうせなら録画して一生暗獄の悪魔で遊んでやろうと思っていたのだが、当てが外れた。

 こういうことをしているから、みんなから酷い扱いを受けるとは一ミリも思っていない。


「死ぬよりマシなんじゃないですかねえ」

「悪魔のアタシは死んだ方がマシだっ!つか誰だってそう思うだろうがっ!なんで知らん女に裸見られなきゃいけないんだよぉ……!」

「温泉に行ってみればいいと思います。尤も、真っ黒な状態だと怖がられますけど」

「それはいい。今度食いに行こう」


 元の気質がこんにちは。

 お呼びじゃないので退場願います。


「むむ、もっと洗えば顔も見えるかもしれません。動かないでくださいよー?」

「嫌だぁっ!アタシはもう帰る!伝言は済ませたんだからなっ!」

「そんな嬉しそうな声をあげて。実は楽しんでるんじゃないです?」

「お前だけだよそんなの!あ、帰る前に服をいくらかもらってくぞ」

「確認を取るあたりあなたも悪になりきれないですよね」


 適当にいなしておいて、突っかかってみたら返り討ちにあったツンデレちゃんみたいな暗獄の悪魔を見送る。

 寝室に入られたような気がするが、まあ荒らされたとして”元に戻せる”のでルイナはあまり気にしない。

 十分に温まってから、ようやく風呂を出る。


「さて……ミアルはどうなりましたかね?」


 元リビング、現廃墟を見にいけば、クリスタルドラゴンは地に伏して目を回していた。


「ほらミアルー?あれは帰ったのでそろそろ起きてくださーい」

「……全く、ルイナが負けるわけないんだから最初っから相手してよ」

「嫌ですよめんどくさい。あと、ちょっとでもいい気分にさせてから落とした方がより面白いと思いません?」

「いつもの外道は置いとくけど、ぼくとしちゃ面倒事は避けたいんだけどな」


 さっきまで気絶していたはずのミアルは竜から人の姿に戻り、家の中の無事な方へ避難する。

 直後、破壊された天井と、外へ繋がる外壁が、内装さえも元通りに復元された。


「面倒事は避けられませんよ。むしろ私は率先して突っ込んでいきます!」

「嫌だなあ。もうちょっと寝てよ?どうせ寝てる間に結構消耗したんでしょ?」

「しました!何度も叛逆者に繋いだせいで実は全力の半分程度しか出せません!」

「それでよく暗獄を追い返したもんだよ全く……じゃあ、おやすみ」

「嫌ですよっ!?せっかくこれから楽しい楽しい旅が始まるというのに、なぜ休まなければいけないんですかっ!」

「多分楽しいって感じられるのはルイナだけだと思うよ?」


 それはなぜか。

 性格の悪さ故に。


「……嫌です。私は他人をボロボロにしてでも自分さえ楽しめればいい人種ですので、絶対に譲りません」

「言ってることだいぶ外道だけど大丈夫そう?わかってるなら直そうよ」

「いえまあリナと叛逆者には優しくしますよ。あの二人に嫌われると後々面倒ですので」

「打算的な優しさっているのかなあ」


 こんな外道が、ミアルの知らない時代にも存在していたかと思うとそれだけで身震いしそうになる。

 一応、性格が悪いとか臭いとか散々言っても、ちょっと怒るくらいで許すだけの寛容さはあるが、それと差し引いたってなお余りあるクズっぷり。

 こんな女とよくリナはしばらく旅をしていたものだ、とミアルはしみじみ思う。


「……あの、私って人の心聞こえるんですよ」

「うん」

「……気遣いというものはないんでしょうか?」

「心の中なんだからそりゃ本音で溢れてるよね。どうして本心までルイナを気遣う必要があるのかな?」

「……やはり私の系譜ですね。この天然の黒さ。誰にも真似できません!」

「そこで誇らしげにしないでもらえるとぼくは非常に助かるよ」


 なんだかんだお互い理解はある。ただ口が悪く腹の中は真っ黒というだけで。


「さあ行きますよミアル!新しい旅が私たちを待っていますっ!」

「リナー、疲れる日々が始まるよー」


 外に出ると、ミアルはまた竜の姿に変化する。

 その背中にルイナを乗せると、大空を飛び立っていく。


「ふっふっふ。こっちには色々と面白い情報がありますよぉ。さーてどこからリナをつっつきましょうか……♪」

「悪役っぽいのに味方だし、味方のくせに背中刺すし。リナー、とりあえず気をつけてねー」


 警告はするが、向かう翼は止めない。

 これが、二人にとっての当たり前であり、リナにとってあまり来てほしくない人たちだった。

ルイナは悪い意味で自由人です。

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