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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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幕間 好奇心と娯楽を求める者

 郊外の寂れたゲームセンター。

 なぜ二十四時間営業しているのか謎の店だが、誰もいない深夜のゲームセンターに、こんな場所とは似合わない少女がいた。


「ああくそっ、結果として右が正解だったのか。地面から生えてくるなど聞いていないぞ」


 銀色の長い髪をゆらゆら揺らしながら、あらゆる娯楽を遊び尽くすと豪語する神は、いつ潰れてもおかしくないゲームセンターで夜を明かそうとしていた。


「……こんなのが創造神だなんて、信じたくありませんわね」


 後ろからかなり失礼な言葉が聞こえても、ゲームに夢中の創造神は聞き流す。

 魔女らしいとんがり帽子を被った金色の髪を持つ少女は、ため息を吐いてから隣のプレイヤー用の椅子に座った。


「それ、裏技使わないと抜けられませんわよ」

「!? ど、どういうことだオイっ!詳しく教えたまえ!」


 急に襟首掴まれてガックンガックン。

 本当に、こんなのが創造神だなんて信じたくもなかった。


「で、ですから、ここのボタンを、こうですの」

「お、おお!?なんだこの画面は!デバッグモード?おいこれ本物の裏技じゃないか!」

「当たり前ですの。そもそもその面は制作途中で『あ、これ無理じゃね?』ってメーカーが投げたエクストラステージですわ。まずここに辿り着くのさえ人間では不可能な反射神経と記憶力が試されますのに。まあ、その辺りは神ですので、辿り着く程度は普通かと思いますが」


 一時期ニュースになったこともあった気がする。

 どこぞのゲーマーが攻略しようとして、中まで開けた結果露呈したという、なんというかメーカーもゲーマーも報われない話があったのだ。

 それを数十年経った今、創造神が繰り返そうとしていた。


「なんと……他のどのゲーセンにもないと思えば、そんな理由があったとは……。これ、本当に自力突破できないのか?」

「ええ」

「神でもか?」

「ええまあ、道が途中からなくなりますし」

「創造神でもかっ!?」

「……そこまでしてクリアします?そもそもクリア画面すらないというのに」

「……」


 創造神は、ついに床に崩れ落ちてしまった。

 そんなにもクリアしたかったのだろうか。だとしたら、ちょっと悪いことをしたかもしれない。


「少々お待ちくださいな」

「?」


 涙目で魔導神を見上げる姿は、やっぱり創造神とは思えない。


「あ、もしもしリナさん?」

『……なんすか、こんな時間に。私普通に寝てるんだけど』

「えっとここに創造神がいまして」

『ん?んん!?ついに因果が巡ってきたわけ!?』


 リナの怒りに触れないために名前を出したが、少し説明を省きすぎた。


「えっとこの創造神というゲーマーさん、なんでも古いゲームの構造的にクリア不可能な部分を攻略したいそうですの」

『……話変わったな。それで?』

「あなたなら、クリア画面がないエクストラステージも最後まで作れるのではないかなーと」

『……私知ってる。当時ルイナに頼まれて拒否ったやつ』

「……そ、そうでしたの」


 じゃあ無理じゃん、と魔導神は早々に諦めようとした、が。


『いいよ別に。創造神でしょ。さっさと転移させなさい』

「い、いいですの?」

『ふん。媚び売りに行くわ』


 ああ、と一瞬で納得してしまった。

 いい意味で人間を辞めた人たちは、下手なプライドがない分利益があるなら頭も下げる。


「よお創造神」

「む?機械の。何しにきた?」

「魔導神に呼ばれてよ。ああやっぱこれね。まー型落ちもいいとこだしちゃちゃっと終わるでしょ」


 そんなことを言うと、リナは適当にゲーム機を開ける。

 一応店の機械であり、店員しか鍵は開けられないはずなのだが、まあこのメンツでそんな常識が通用するはずもなかった。

 そして中からケーブルを一本引っ張り出してくると、リナはそれをなんの躊躇いもなく耳に突き刺す。


「……それ、リベルさんに見せたら大変なことになりますわね」

「まあびっくりするわよねー」

「自分では特におかしいとは思わないわけで?」

「思わないかしら。結局人間じゃないわけだし。下手に意地張って本領出せないくらいなら、私は割り切って考えるわよ?」

「……リナさんがリナさんである所以を見ましたわ」

「なんそれ」


 そんなことを言いながらも作業は進んでいく。

 モニターは完全にブラックアウトしているので何をしているかはわからないが、リナの頭の中では着実に一つずつステップはこなされているのだろう。


「ねえ創造神」

「む、なんだ?」

「これ作ったら私たちの邪魔しないでくれる?」

「元よりしていないだろう。というより、できるのか!?あの続きが!?」

「まああんたが意図してるもんになるかは知らないけど。少なくとも自分で作って先がわかってるよりはマシなんじゃない?」

「おおお!だったら誓うぞ!叛逆者で遊びにいくことはあるやもしれんが、絶対に二人の関係は邪魔しないと誓おうぞ!」

「……なんか色々言いたいけど、創造神だし、まあ」

「甘いですわ」

「怖いだけよ」


 パチっとケーブルを外して中に戻したリナは、扉を閉めて再起動する。


「さてさてどうでしょうね。一回も走らせてないからコード抜けがあるかもしれないけど、バグったら言ってね」

「できるのか!?もうできるのか!?」

「う、うん。できるできる。ほらどうぞ?創造神用に難易度も上げてるから」

「おおおおお!見直したぞ機械の尖兵!今夜は退屈しないで済むなあっ!」


 創造神が初めてゲームを貰った子供のようにディスプレイに食い入っている。

 これでバグった時が怖すぎるが、手入力とは違うので漏れはないと信じたい。


「一応魔導神に取り説渡しておくわ。詰まってたら教えてあげて」

「……わたくし眠れませんの?」

「話があってきたんだろうに。ゲーマーはそこに答えがあっても絶対に手出さないんだから、帰りたきゃ置いて帰ればいいでしょ」

「ま、まあそうですわね」


 ではその説明書を、と魔導神はずっと待っているのだが、印刷に時間がかかるのかなかなか紙が出てこない。


「……ねえ、紙に写すのダルい。あんたの頭に直でぶち込めない?」

「わ、わたくしをなんだと思っていますの!思念のやり取りはできても電子化されたデータなど不可能ですわ!」

「じゃあ思念で叩きつけてやるわよ。こっちの想像力舐めんなし」

「ぎゃっ!?ちょ、お待ちなさい!」


 やっぱりいがみ合う二人だが、ここに止める人はいない。

 色々聞こえてはいるが、片っ端から無視していた創造神は、遂に実力次第で突破できることに感動を覚えていた。


「ふおお!ふおおおおおっ!やれる!私はまだやれるぞおっ!あ、くそ、だが、まだまだぁっ!」


 絶対に声を張り上げるのはここじゃない気がするのだが、創造神は今誰よりも人生を楽しんでいた。



「そ、それで、少しお話しいいですの?」


 どこか疲れた魔導神は、満足げにゲーセンの床に寝転がる創造神に目を向ける。

 リナは、先に帰った。リベルの直感が怖いというのと、やはり人間である以上寝たいとのこと。


「なんでも聞くが良い。今ならなんだって答えられる気がするぞ」

「では創造の秘術を……」

「それは無理だな。語るだけなら構わんが、理解できるものでもない」

「……ほんの少し、輪郭だけでいいのでっ!」

「ふーむ。輪郭……そうだなあ、特級神とはいえ神で括られている意味を考えよ。そんなもんだろう」

「……神で括られている意味」


 魔導神は手がかりだけでも掴もうと思考に没頭するが、考えるべきはそこではない。


「今は休憩中だが、質問がないなら私はゲームに戻るぞ」

「ああっ、お待ちくださいな。えと、えと、そうですの!なぜいきなり出てきましたの!?」


 そう。元々聞きたかったのはこれなのだ。

 リナたちと遊んでる時くらいから違和感はあったが、明確にいるとわかったのは、叛逆者が出てからだった。

 創造神が出てくるなんて本当に厄介なことでもあるのか、と身構えていたのだが。


「遊びに来ただけだな。私を満たす物を探しにきたが、この時代はいい!ありとあらゆる娯楽がどこにでも溢れているではないかっ!」


「うおー!考え出したらキリがない!休む時間があるなら走り回った方が良いか!?」なんて叫び出した創造神はどうにか宥めておく。

 まだ聞きたいことはあるのだ。


「す、少し変わりますが、何も異変はないわけですの?叛逆者が出てきて、下級神は暴れ回り、上級神の一部にも火種が伝播しておりますが」

「私に関係がなければ知らん!そもそもだなあ、これは神である以上逃れられん宿命だ。魔導よ。お前とて概念の一部。戻されるも殺されるも叛逆者次第になるだろうな。主はせいぜい、死ぬ覚悟だけしておけば良い」

「……わたくし、死にたくない一心で今までやってきましたの」

「そうか。では魂の秘術でも手に入れるか?尤も、生命だろうと終末だろうと叛逆者の前には無力なのだがな」


 わっはっは!と他人事ではないのに創造神は楽しそうに笑う。

 特級なんて神になると、もう自分の生き死にさえどうでも良くなるのだろうか。


「……わたくし、あなたほど楽しく生きる方法を知りたいですわ」

「それは好きなことだけやってればよかろうに。朝起きるだろ?まずゲームに触れてみて、楽しければのめり込む。眠ければ眠り、腹が減れば食を楽しむ。幸い遊び尽くした頃には真新しい物がぽんぽん出てくるからな。しばらくは困ることもない」


 それは創造神だからできることであって、一応国のトップに立っている魔導神にはできないことだった。

 これでも光と闇の怪現象についての説明も行い、人々の安息を守っているのだ。リナは、それくらい当然でしょなんて言ってくるが。


「私が言っても響かぬやもしれんが、その人生が楽しいと思えたならそれでよかろうて。人の真似をする必要はない。まあお主の幸福とは誰にも邪魔されず魔法の研究をすることだろうが、叶わぬなら他に幸せを見出してみればいい。主が人を語るのなら、人なりの幸せを追いかけてみても面白いだろうしな」

「……ちゃんと、神なのですわね」

「ふはは、悩み相談が神の仕事か?人の考える神はもっと便利な物だろう。ま、それに付き合う義理もないのだがな」


 よっと起き上がった創造神は、またゲームの前に座り、適当にボタンをかちゃかちゃ。

 ただ遊んでいるだけの人かと思ったが、中身はしっかり神だった。

 元々人間であった魔導神には、生粋の神の頭の中はわからない。


「……神様、この先に待っているものはなんだと思いますか?」

「およ、中身の方か。神様とはこそばゆい。まあそうだなあ、我ら神に残された道は、衝動に呑まれるか叛逆者に殺されるかのどちらかだけ。受け入れるしかあるまい。残された道はいずれも破滅の道だ」

「……私は、死んでしまうのだろうか」

「主もなかなか異様なものだ。人の器にて神へと至り、実に千五百年の時を生きた。本来であれば、その魂はとっくに限界を迎えているはずなんだがなあ」

「ふふ、神様に褒められたのは長い人生でも初めてだ。なぜかは私もわからないが、きっとこの世界が好きなんだろう。この”綺麗事の世界”が」

「綺麗事、か。人の上に立っているのも頷ける」


 神と人間の話し合いは、どこまでも穏やかだった。

 興味のないことは当然のように無視する創造神がしっかり話を聞いているだけでも、人間からすれば天地がひっくり返るほどの事態ではある。

 そんな奇跡さえ起こせるのは、やはりアプリムも普通ではないからか。


「そういえば、機械のは贖罪に奔走していたな。お前はいいのか?」

「……構いませんの。責任は取りましたし。何よりあなた方のような、本当に解き放ってはいけないものを封じることにも繋がっていますの。誰も文句はないはずですわ」

「くく、機械のが真実を知ったら面白そうだな。その時は耳だけでも傾けてみるとしよう」


 創造神に目をつけられるのは喜ぶべきか嘆くべきか。

 魔導神は、少なくとも諸手を挙げて喜べるほどのことではないと思った。


「わたくしは、そろそろ帰りますの。情報は置いて帰りますので、ゆっくり楽しんでくださいまし」

「もう質問はないのか?」

「ええ。創造神に出会ったら、見たことのないゲームを与えればいいとわかりましたの」

「ふっはは!特級神相手になんと傲慢な考えだ!ではゲームを貰いに何度かつついてみるとしよう」

「……失言でしたの。お願いですから関わらないでくださいまし」

「うーむこの潔さ、人間性の為せる技か?まあいい。時が来るまで私は人混みに紛れていることだろう。ゲームの大会なぞ開かん限り顔は出さぬから安心せい」

「……わたくしが主催になることはありませんので。それでは失礼いたしますわ」


 魔導神もいなくなり、とうとう一人だけになった創造神は、画面から目を離さずにしかしポツリと呟いた。


「滅び、か。長かったな」


 そこにどれだけの思いが込められているかは、誰が聞いてもわかることはないのだろう。

創造神の精神年齢がわからない。

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