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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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15話 剣の扱いと己の弱さ

 最近はめっきり来なくなっていた神殿の応接室で、リナは魔導神が淹れてくれた紅茶を飲んでいた。

 リベルも寝てしまったことで暇になったので、今のうちに片付けられる問題を片付けにきたのだ。


「暇って。もう少し守護者としての自覚を持ったらどうですの?」

「だって最近はめっきり危ない魔物が減ったんだもの。後三人しかいない私の分身でもなんとかなるわ」

「そんなに減りましたの。随分無駄遣いしましたわね」

「大体仕方なくだし。つか十三人でたった二つの大陸見てる必要もないでしょ」

「ルイナもおりますしね」


 基本的にリナの分身は、山奥だったり洞窟の中だったりと危険な場所に配置されている。

 それでも危険な魔物は、たまに街の近辺に発生することもあるので、そういう時はルイナが発見してリナに伝えるか自分で対処している。

 そもそもこのやり方で五百年維持できているのだから何も問題はない。


「そういえばティエナちゃんは?」

「魔法の練習中ですわ。明確な敵と目標を見たことで、やる気に火がついたみたいですの」

「……目標って魔導神?」

「かもしれせませんわ」


 ちょっと嬉しそうなのがムカつく。

 そしてティエナが魔導神並みになると、リナもリベルのようにマウントを取られる日が来るかもしれない。

 まあティエナであれば多少は許せるが。


「でさ、二極の剣ってどこやった?」

「白夜と極夜ですわね。驚くことにリベルさんの力で合体しましたわ」

「え」


 魔導神は虚空から一振りの剣を取り出す。

 それは線対象になるように、左右で白と黒に分かれていた。


「明暗の剣、もしくは極天のつるぎとでも呼ぶべき代物ですわ」

「極天にしよ。かっこいいから」

「……まあいいですの。しかしまあ見れば見るほど不思議な剣ですわ。性質としては分割。属性は光と闇で、神の耐久力と再生力を兼ね備えておりますの。ここに自我があったなら、これはもう剣ではなく上級神ですわ」

「……リベルの言った通りなわけね」

「なんと仰っていましたの?」

「神核が変質した物。だけど取り込めないってさ」

「また異質なものを……」


 それが神核ならリベルの力になるはずなのに、触れたところで吸収はされず、どちらかと言えばそのままの状態で力を貸していた気がする。

 リナも一応闇の神との戦いは見ていたが、リベルの特徴である黒い靄を纏わず、代わりに莫大な光の柱を放っていた。

 あれは確実に、剣の方が力を貸さなければ起こせない現象だと思う。


「というより、あなた何をやったらあんな速度で到着しますの。ここからでは飛竜で一日かかるでしょうに」

「……私って金属です、電気で加速します、超電導の筒を用意します。あとは空気抵抗を切ればね、結構速度出んのよ」

「あなたにしかできなさそうな芸当ですわね」


 リベルの人間大砲にも似ているが、リナはより完成形に近い。

 何しろ体は液体にできて、その全身が電磁加速の影響を受けられる。

 人の目など気にせず、ひたすらに速度を稼ぐだけなら、リナは最速と呼べる存在かもしれない。


「まあ転移の方が早いですけど」

「あんた、それに頼り切った結果があれよ?」

「そういうあなたは弱点のせいで使い物になっていませんでしたわね」

「ぐ、し、仕方ないでしょ。私の停止装置はルイナとあいつが持ってるんだし」

「なぜあれを一番上に置いているのか、疑問でなりませんわ」


 リナの組織のてっぺんにはあの堕天龍がいる。

 任命したのはその下にいるルイナなので、色々と訳のわからないことになっているが、そもそも活動自体よくわからないので、組織なんて形に囚われる必要もない。


「というより、停止装置云々の前ですわよ。あなた、いい加減に通用しないのではなくて?」

「……神に対して?」

「そうですわよ。下級神相手ならまだしも、それ以上、上級神にもなれば、もうあなたはただの足手纏いでしかないでしょう」

「……」


 光の神も闇の神も、中級神なんて枠にさえ収まらず、リナができたことと言えば、ひたすらリベルの心配をするくらいだった。

 そんな程度なら、いっそいない方がリベルも戦いやすいのかもしれない。

 リナが見ていない時にばかり叛逆者の力を発揮しているし。


「それでもさ、私はあいつの『友達』なの。もう前みたいに所有権の主張とか、そんな人として扱わないようなことはしないけど、だからって私が隣にいちゃいけない理由にはならないでしょ」

「……別にあなたの座を奪おうなどとは思っていませんわ。ただ少し、役割分担をすれば良いのでは?と思うだけですの」

「役割分担?」

「そうですわよ。あなたは今まで通りの仕事に戻り、リベルさんは各地に散らばる神々を取り込む。それでいいじゃないですの」

「……」


 確かに、そっちの方がみんな幸せなのかもしれない。

 だけど、それはあんまりにも寂しいじゃないか。


「それかもしくは」

「ねえ魔導神」

「な、なんですの?」


 前髪で目元を隠しながら、どこか威圧するような声でリナは呼びかける。


「できるかは知らないし、失敗する可能性の方が高いだろうけど、もしも、もしもだよ?緋色の悪魔が人間の理性の下で動かせるなら、それってすごい大戦力になると思わない?」

「あなたまさか、そんなの、勝ち目のない賭けでしかありませんわ……」

「それでもっ、私はリベルの隣にいたいっ!」


 突然の叫びに魔導神は硬直しているが、そこにある思いが伝われば、すぐに柔らかな笑みに変わる。


「どこまでも、好きなのですわね」

「うぐ、そ、そうよ!友達としてね!?」

「はいはい。それで、あなたの覚悟はわかりましたが、現実問題としてどうしますの?あれが人の話を聞くとは思えませんし、何より近づくだけで殺意を向けてくる相手ですわよ。リベルさんをぶつけるにしても、わたくしに勝てないようであれば返り討ちでしょう」

「そう、なのよねぇ……どれだけ協力者を集めたって私自身が変わらないなら意味ないし……」


 分身であるリナはまだ人の理性が残っている。

 だがその本体である緋色の悪魔は、人間らしさなんてものは持っていない。

 こちらから接触しようにも、触れた瞬間こちらが呑まれるのは既に実証されてしまった。

 殺すならまだしも、理性を取り戻させるというのはあまりにも難しい課題と言える。


「やっぱり、地道にリベルを強くするしかないのかな」

「もしくはわたくしがそう言った魔導を開発するかですわね。精神に干渉する魔導は取り扱っていませんので、かなり時間はかかりますが」

「あんた、苦手分野あって魔法の神名乗れるの?」

「な、名乗れますわよ。精神破壊系であれば得意ですわ」

「……サラッとやばいこと言うのやめよ?」

「?」


 ここできょとんとする辺り、どこまで行っても神なのだと思い知らされる。

 まあそれはいいとして。


「もしもあんたが、理性を与える魔法みたいなの作るとして、どれくらいかかるわけ?」

「そうですわね。あなたをベースにしたとして、応答式の自我を植え付けるもので五年、ある程度の情動を返すもので十五年、完璧に個人として存在できるほどの個性を与えるのであれば、三百年ほどかかりますわ」

「さっ……!?」


 そんなに待ったらリベルは寿命を迎えてしまう。

 ただでさえ生命変換でかなりの大技を放っているのだ。実際、いつ死んでもおかしくない状況にある。


「しかもこれは研究、というか人間相手の実用段階ですの。それを超えた存在、まして緋色の悪魔ほどの強い怒りを持った存在となると、本当に通用する魔導を完成させるのに一体何千年かかるやら」

「……もう殺した方が早いのかな」


 諦めた方がいいのかもしれない。

 そんな考えになってしまうくらい、現実味のない話だった。


「確かにわたくしの力は及ばないかもしれませんの。ですが、叛逆者は違いますわよ」

「そこで区別するのは何?」

「わたくしも少ししか観測できませんでしたが、出力装置としてのリベルさんではなく、その力の本体は、単独で堕天龍に勝てるほどでしたわ」

「……あの無限の命にか」


 勝ったところで殺すことはできないのだが、喰われないだけでも十分ではある。

 というか。


「勝ったの!?堕天龍に!?」

「え、ええ……見た限り、首を二度ほど落としていましたわ。それも一言で」

「マジ!?めっちゃ強いじゃん!ルイナとかいらないかも!」

「……なんだか子供になっていますわよ」


 こちらにもこちらの事情がある。

 とはいえはしゃぎすぎて露呈しても困る。ここは一度冷静になった方がいい。


「ま、まあ、それだったら可能性はあんのかもね。堕天龍に余裕なら、私の本体くらい一発でしょ」

「それ、自分で言っていいですの?」

「いいわよ別に。強さに溺れてるわけじゃないし」


 力を持ってしまったから暴れたのではない。

 怒りに身を任せていたら、そこに力があっただけなのだ。

 かけ合わさったからこそ、誰にも止められない暴走機関車になったとも言えるが。


「一応言っておきますと、叛逆者の強みはそれだけではありませんわ」

「まあ、堕天龍に勝つとか本道から外れてるしね」

「そうですわ。彼は神を取り込んで、さらに強くなる余地がありますの。現時点で六属性のコンプリート、何かしら上級神を得れば、世界への干渉力も持ちますの」

「……そうなりゃ全ての神に届く、かな?」

「神域を扱えれば、あるいは」


 神の力を増幅する神域。

 それを塗り替える力があれば、ほぼ全ての神を圧倒できるだろう。

 何せ神は神域にいなければ本来の力を発揮できないのに、それを奪われ、さらに相手の物にされたらどうなるか。

 同じことを想像した魔導神がぶるりと震えているが、その対象にはきちんと魔導神も入っているので安心してほしい。


「何一つ安心できませんわ!」

「神である以上は逃げられないわよ」

「く……それでもわたくしは足掻きますわっ!」

「勝手にしなさい。どうせ挑むのはほぼ全部の上級神を殺してからになるんだろうし」

「……そ、そうなると?えと、魂と、次元と……世界も?どれか一つならまだしも、その全てを持ち合わせているなら……」

「ね、勝ち目はない☆」

「うぐぅ……」


 リベルの伸び代は、誰よりも残されている。


 色々話してみて、結局やることは変わらないとわかったのでリナは帰ることにした。


「この剣もらってっていい?」

「いいですわよ。元々誰の持ち物でもないわけですし、あなたが取り込むでも、リベルさんに与えるでも、わたくしはなんでもいいですの」

「ん、まあリベルにあげよっかな。いつか吸収できたらいいし」

「……属性としてではなく概念の光と闇まで手に入れられると、本格的に勝ち目がないですわね」

「お互い覚悟決めましょうよ」

「……リナさん?」


 ヤンキーみたいに剣を肩に担いだリナは、格好に似合わず悲しげな顔をしていた。

 覚悟、という言葉からも、リナが何を考えているかは、魔導神もなんとなくわかる。


「死は怖くない。そもそも私が望んだことだ。だけど、リベルに拒絶されるのは、何よりも怖い」

「リナさん……」

「なんであんなこと言っちゃったかなぁ……私も、リベルのこと甘く見てたかしら」


 リナの背中は、どこまでも寂しさを纏っていて。


「彼は、絶対に受け入れますわよ。あなたを置いてはいきませんの」


 魔導神は、珍しく人を励ますようなことを言っていた。


「だろうね。リベルは、どこまでも私に甘いから」


 リナもそんなことはわかっている。


「甘いからこそ、最良にはならない。なれないの方が正しいのかな。結局、甘いだけで芯はブレないし」


 誰かを失いたくない、なんて言葉は、相手を思う言葉のようで、その実ただのわがままでしかない。

 リベルの根底にそれがある以上、リナが望んだ通りには絶対にならない。


「じゃあ、帰るわ。また明日ね」

「……ええ。また明日」


 どこまでも哀愁を漂わせるリナも、まだ明日を望んでいる。

 それだけわかれば、魔導神も引き止めることはない。

一応四章もこれで終わりですかね。

チュートリアルが終わった宣言したので終わり方も変えてみました。

幕間としてあと2話ありますが、四章自体はここで終わりとします。

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