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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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10話 動き出す神

 女子会をしていた三人と、なんだかよくわからないものに巻き込まれたリベルが合流したのは日が沈んでからだった。

 神殿で落ち合い、また泊まりでもいいと魔導神は言ったが、ティエナが魔導神と二人きりで平気なのかというのが気になるのと、リナも少し休みたかったので、お試しの意味も含めてリナとリベルだけが家に帰った。


「なんか、こうやって二人でご飯食べるのも久しぶりね」

「しばらくティエナがいたからな。俺としては騒がしいとしか思わなかったけど、リナは楽しそうだったよな」

「そうね。子供は好きよ。わかりやすくて、わがままで。お姉さんってのも、悪くはないわ」


 今日の夕食は胃に優しいうどんだった。

 カフェで甘いものを食べすぎたのか、昨日のたこ焼きを思い出したのかはわからないが、気持ち量が少ない気がする。


「だけどさ、やっぱりこういう静かな時間も欲しいわよね。みんなでワイワイやるのもいいけど、ずっとそんなんじゃ休まらない。結局私は、輪の中にいられる人間じゃないからさ」


 最近はこういった話が増えた気がする。

 リナが本音で話してくれることは嬉しいが、寂しげな顔が多くなるのは、リベルとしてはあまり喜ばしくない。


「リナはどっちがいいんだ?」

「ん?」

「輪の中と外、ああいや、言い方が悪いな。人に囲まれるのと、一人きりか二人だけのどっちか」

「……どうなんだろうね。多分、二人がいい。多くて三人ね。それが、私の居場所に思える限界かな。すっごいわがままだけどさ、二人きりなら、どうやっても私にしか意識は向かないじゃん?疎外感とか一番嫌いだからさ、私以外で話が進んでいく感じが、あんまり耐えられないのよね。だから、二人がいい」


 ならこの生活がリナには一番なのだろう。

 これ以上何かできるわけでもないので、リベルは理解を示すだけでうどんを食べる。


「……あんたってすごいわよねぇ」

「何が?」

「結構自己中ってか否定されてもおかしくないこと言ってんのに、それで頷くだけって。なのに後でもちゃんと覚えてるしさ。私には、真似できないわ」

「……別に、自分の理想を語るくらいなら許されるんじゃないのか?強要するわけでもないし、話せる場所であれるなら、俺はいくらでも肯定するけどな」

「ふふっ、やっぱすごいわよ」


 リベルには何がすごいかなんてわかっちゃいないが、それでもリナが楽しそうに笑うものだから、少し頬を緩めて口角を上げる。


「あ、笑ってるー♪」

「え、ダメだったか?」

「ううん。そういうわけじゃない。今までもそうやって笑ってたのかなって。私全く気づかなかったのよね」

「どうだろう。自分じゃわからないから」

「まあそうよね。でも、楽しかったらちゃんと笑ってね。私、あんたがそうやって笑ってるとこ、結構好きだから」

「……」


 サラッと言われた好きという言葉が、なぜか強く耳に残っていた。

 理由とか原因とかはわからないけれど、心の奥があったまるような、じんわりとした嬉しさを感じた。




 就寝前、リナは少し自室の窓を開けて外を眺めながら、最近距離が近づいた人に電話をかける。


『なんですの?こんな時間に』

「大した用じゃないんだけどさ、ちょっと話そ?」

『なんですその付き合いたてのカップルみたいなセリフは……リベルさんとやってくださいまし』

「待てーや。リベルじゃ伝わらないからあんたに言いたいんでしょ」

『ただの話したがりですの?まあいいですわよ』

「いいのかよ」


 結局中身は寂しがり屋の少女でしかない魔導神は、なんだかんだ言いながら聞いてくれる。

 リナの細かい性格は知らずとも、歩んできた道のほぼ全てを知っている人に、リナは少し話がしたかった。


「私さ、今更普通の幸せなんて望んでないわけよ」

『結婚の話ですの?呼んで頂ければ式には行きますわよ』

「はえーよ。つかいらないって言ってんじゃん。あとリベルはそういうのわかんないし。私もまだ好きとか認めたわけじゃないし」

『……色々言いたいことはありますが、続けてくださいまし』

「ん、それで、そろそろ覚悟を決めないとなって、ずっと思ってるのよね」

『……寂しくなりますわね』

「だから早いって。まああんたも覚悟してくれんのはいいんだけど」


 リベルの実力は、もうわかった。

 実績も、ある。

 リナが全てを話すと約束した時は、もうそこまで近づいている。


「しょーじきさ、どう思う?」

『……何が言いたいですの?』

「受け入れてくれっかな。事実もだけど、私の願いを」

『……無理、だと思いますわよ。真実は仕方ないとしても、あなたの本当の願いまでは』

「そう、だよね。私は、リベルがいいんだけどな」


 願っても、叶うことはない。

 リベルはこんな破滅願望、許してはくれないだろう。


「もう私が言いたいことわかる?」

『……ええ。その時は、という話ですわね』

「ふふ、うん。上とか世界とか、色々いるけど、やっぱあんたがいいよ。第二希望になれたんだから、胸張ってよね?」

『……なぜ上から言えますの……まあいいですわよ。ただ、その時にわたくしが正常である保証はありませんけれど』

「そっか。まあ平気でしょ。そんなことになる前に、突っ込む気でいるし」

『……わかりましたわ。その時は、そうと言ってくださいまし』

「ん、りょーかい」


 話もまとまったので、リナは電話を切る。

 それから自分のベッドに腰掛けると、深い深いため息を零す。


「いつからこんな弱くなったんだろ、私」


 疲弊しきった心を癒すためにも、リナは眠りにつく。



 さて日が変わって、何をやるかと言えばもちろん魔法の特訓である。

 魔導神の幻影は今日も元気に魔法をバンバン撃っているが、その本体はどこにも見当たらない。

 それもそのはず、リナとの約束を守って書類仕事に追われているためだ。


「リベルは、今なんの特訓?」

「魔法を見てバリエーションを増やしてる。見て覚えられるならって言われたけど、あんまりわかった気がしない」

「あはは……そんなことできたら苦労しないもんね……」


 魔導神はわかっていない。リベルは、見て覚えるのではなく、戦って覚えるのだ。


「ティエナちゃんは?」

「単純に魔法戦。身体強化に頼りがちだから」

「ちゃんと弱点が見えてるのね。偉いわ」


 ティエナは魔導神の幻影と魔法をひたすら撃ち合っている。

 空間のどこからでも色とりどりの魔法が飛び出す光景は、魔法が得意ではないリナからすると幻想的で見ている分にはとても楽しい。

 ただティエナの顔はさっきからずっと苦しそうなので、相手の攻撃を見るのと魔法を制御するので頭がいっぱいになっているのかもしれない。


(制御に関しちゃ得意なんだけどな)


 リナはただ改造された以上のスペックを誇っているので、解析やマルチタスクなどに関しては誰より得意だと思っている。

 ただ魔力の精密操作はどうにもコンピュータと相性が悪いせいで、人間の範疇にある魔法しか使えない。

 だから少し、魔法が得意なティエナは羨ましかった。


「ねえリベル、暇」

「……じゃあさ、リナができること教えてくれよ」

「私?」

「リナが使ってるやつは、見ただけで大体コピーできるから」

「……そ、そうなんだ。ふーん。まあ、いいよ?じゃあこの身体変換もできる?」


 リナは腕を砲塔に変えてリベルに見せてみる。

 ワイヤーは簡単に真似されたが、付属品をつけるのと生身を変形させるのでは相当考え方も違う。


「……わからん。それ、中に腕はないんだよな?」

「あったらレーザーなんか出せないでしょ」

「……覆うことはできてもそれだけだな。レーザーは出せそうだけど、結局手が起点になってるから変わらないな」

「……」

「リナ?」

「私の存在意義……」


 性質が全く同じとは言わないが、その分リベルの方が自由度は高い。

 魔力を束ねてそのまま撃ち出せるなら、威力としてはリナとほとんど変わらないだろう。


「もういいよ。好きにしなよ。そんなに私の価値を下げたいならさ、全部全部持ってきゃいいじゃん」

「え、や、別にそういうわけじゃ……」

「私の心まで奪っておいてまだそんなこと言うの?」

「え?」


 意味ありげな言葉と表情にリベルは訊き返すが、それを遮るように青空が突然暗くなる。


「なに?魔導神の攻撃?」

「いや、そんなことしないだろ。それに確か、空の映像は外と同じって言ってた気がする」

「空が黒く染まる、か……」


 呟いたリナの隣に、いつの間にか魔導神が立っていた。転移でもしたのかもしれないが一言声をかけてほしい。


「まず間違いなく」

「闇の神。それも、暴走状態の」

「……最後まで言わせてほしいですの……」


 マナーがなってない魔導神にはやり返しておいて、リナは状況を整理する。

 リベルは万全の状態で、ここには魔導神もいる。

 中級神にリナ自身が通用するかは微妙だが、リベルの手助けくらいはできるはずだ。

 このメンツであれば、勝てる。


「魔導神」

「いいですわよ別に。あなたの願いを叶えるとも言ってしまっているのですし」

「……仕返し?」

「う、な、なんだっていいでしょう」


 遮ったのは仕返しか。目を逸らすあたりそんな意図もあったようだ。


「ま、そんなこと言ってたわね」

「ねえさま、どこか行く?」

「あ、うん。闇の神のところかな。ティエナちゃんは、ここで待っててね」

「わたしも行く!」


 空が暗くなればティエナだって異常には気づく。

 ティエナは自分も戦えると主張するが、リナとしてはこれ以上不確定要素を増やしたくはない。

 せいぜい中級神と言えど、全員を守れる保証などどこにもないのだ。なら、傷つく可能性はなるべく減らした方がいい。


「……じゃあ、私もここにいる。それならどう?」

「え、う……わかった。ねえさま、一緒にいる」


 魔導神がいるからには負けるわけもない。

 なら、本来リナさえも必要はないのだ。

 それでも行こうとしたのはリベルの成長ぶりを見たかったから、ということを知っている魔導神は「これだから……」とため息を吐くが、本人が決めたことに口出しするつもりもない。


「では、行きますわよリベルさん」

「……ああ。てか闇の神ってどこにいるんだ?」

「永久凍土の大地ですわ。この星の最南端ですの」

「……寒そう」

「そのあたりはわたくしがどうにでもしますわ。さあ、転移しますわよ」


 魔導神が魔法を発動する直前、今度は北の空がカッと燃えるように輝いた。


「「……光の神」」


 リナと魔導神の声が重なる。

 閃光のように闇夜を切り裂いた光は、そのまま闇を拭うように空を侵食し空を二分したところで止まった。


「……神域、その姿を変えなさい」


 魔導神が何かを呟くと、元の青空が取り戻される。


「流石にあのままでは人々は混乱してしまいますの。既に異変として認識されているでしょうが、とりあえず見た目だけは元通りにしましたわ」

「やっぱあんたも神ねぇ。それで、どうする?正直二体同時とかきついわよ」

「しかも正反対の位置にいますの。ぶつけられればそれが最善ですが、このままでは全ての大陸に異変を起こしつつ消滅していきますわよ」

「……厄介すぎる。下級なら下級らしくリベルの糧になればいいのに」


 だが実際空が光と闇で二分されると言うことは、星の最北端と最南端から同時に影響が及ぼされていることになる。

 そしてどちらかが消えればどちらかに全ての大陸は覆われ、支配下に置かれるとまではいかないが、永遠に夜が来ないか永遠の夜がやってくることになる。

 どちらにしろ人間は不安にしか感じないので、さっさとどちらも殺す必要がある。


「それで、どうしますの。リベルさんに訊いてもいいですが、返答は予想できますの」

「リナがやれって言った方からやる」

「思った通りの言葉をありがとうございますわ。それで、保護者様はどうしますの」

「保護者言うな。まあそうね……やっぱ予定通り光の神から。でも倒した途端に闇に覆われても嫌。だから、魔導神、闇の神をいい感じに抑え込んどいて」

「なかなか面倒な注文をしますわね。滅ぼしてくれなら簡単に叶えられますのに」

「滅ぼしたら次どこで発生するかわからないでしょ。上級神の意地見せなさい」

「言われずとも負けるつもりなどありませんの」


 魔導神と中級神を比べるなら、魔導神の半分かそれ以下程度の強さが中級神なので、加減はできるはずだ。

 しかしこうなるとリナが残るなんてことは言っていられなくなる。


「私はリベルについてく。ティエナちゃんは、魔導神の強さを見てくるといいわ」

「……本当はねえさまがいい。だけど、魔導神一人だと寂しい。仕方ないから行く」

「な、なんだか同情されました?まあいいですの。それでは、お二人を光の神の下へ。わたくしたちは闇の神のところでお待ちしておりますの。終わったら連絡をくださいまし」

「ん、りょーかい。行くわよリベル。多分、風の神の時みたいにすぐ戦闘だから」

「ああ。問題ない」

「それでは、頑張ってくださいまし」


 二人の姿が消える。

 そのすぐ後、魔導神もティエナを連れて神域から姿を消す。

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