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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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6話 魔法、その根幹

「それでは授業を始めますわ」


 教室を模した空間で、教壇の前に立った魔導神が伊達メガネをクイっとあげる。

 服装もいつもの可愛らしいものではなく、きっちりとしたスーツ姿だった。


「帽子と合ってない」

「わかる」

「なっ」


 生徒二人に不評とあって、新任の魔導神先生はちょっとショックを受ける。

 実際、ほぼ全身をかっちりとした服で固めているのに対して、頭の上のとんがり帽子が悪目立ちしすぎていた。

 ちなみにリナは今魔導神の代わりに子供たちの書類と睨めっこしているが、ここにいたら何を言われていたことか。

 昨日の件もあるので、揶揄った分の倍くらいは返ってきてもおかしくない。


「き、気を取り直して始めますわよ。まずは魔法の基礎理論からですわ」

「せんせい、わたしリベルよりいっぱい知ってる。リベルにも色々教えた……!」

「ああ実際その通りだがそれで自慢げなのはやめようか。それを人はマウントとか言うらしいぞ」

「あぅ、ごめんなさい」


 子供同士の喧嘩は当事者たちで解決された。

 リベルがまだ話のわかる方で助かっている。


「まあ、誰がどれくらい知っているなど関係ありませんの。これは魔法の基本。考え方の部分ですわ」

「「考え方?」」


 そんなの、才能のある人が強くて、ない人は弱い、そんな話じゃないのか?と二人の頭にハテナが浮かぶ。


「違いますの。もっと根幹。もっと深い部分ですわ。これさえ知れば、魔法の幅がぐっと広がりますの」

「それで?」


 ティエナの容赦ない催促が飛ぶ!

 魔導神のやる気が下がった!


「……魔法とは、思い描いた事象を現実に持ち出す力ですの。例えば水を飲みたい、と強く思えば、目の前に水の塊を生み出すこともできますわ」

「でも、才能がないと無理」

「それはそうですの。ですから、強く思う度合いが人によって違ったり、水ではなく風であったりするのですわ。まあこんな人類用の基礎なんて話してませんの。先程の言葉にとても重要なフレーズがあったの、お分かりになりまして?」


 二人で首を傾げれば、魔導神はちょっと笑顔になる。

 知らないことを教える、ということに喜びを見出しているらしい。


「『思い描いた事象を現実に持ち出す』。これがとっても大切ですの。よく覚えておいてくださいまし」

「思い描いた……」

「事象を現実に持ち出す……」


 二人は息を合わせて言い切る。


「「長い」」

「う、く……で、では、理想を叶えるとでも言い換えておいてくださいまし」


 魔導神が憧れた授業はコレジャナイのだが、この二人にそんなことを言って通じるとも思えない。


「良いですの?これは現実を思い通りにする力とも言えますの。世界とは案外形があやふやで、人の意思によって様々な形を見せますわ。それを上手く利用しようと言うのが、魔法というわけですの」

「リベル、魔導神にパンチ」

「なんでだよ」

「思い通りにならない」

「……」


 リベルはそんな試し方をするな、と言いたかったが、魔導神の方は良い質問がきてニッコニコだった。


「ええそうですの。催眠系の魔法に分類されますが、相手を対象とする魔法はとても難しく、効果も薄くなってしまいますわ。なぜかわかりますか?」


 ティエナに返してみるが、うーんと首を捻るばかりで答えには辿り着けないようだ。

 代わりに、色々人のわがままに振り回されているリベルの方が答える。


「相手が拒絶するから、じゃないか?」

「正解ですわ。誰しも人の欲望で動かされたいとは思いませんの。恋人同士であるとか、もっと別の方法で洗脳でもしていれば別ですが、全くの他人、あるいは少し親しい程度の友人に効く魔法ではありませんわ」


 個人の欲望に従っちゃってる人に当てつけてみたが、全く伝わらないようできょとんとしている。

 もうこれでは洗脳の域にある気がするのだが、昨日のやりとりを見るにそれも違うとわかるから難しい。


「なら、ねえさまの魔法ならリベルに効く?」

「効くだろうがその前にリナは言うぞ」

「む……確かに」


 一瞬のやり取りの中に、計り知れないほどの信頼感が垣間見えた。

 どうやったらここまで信頼されるのか。そして信頼できるのか。

 変な好奇心が疼いてくるが、ここで暴れるとティエナにも白い目で見られるのでグッと堪える。


「はい、続けますわよ。そんな現実を操る魔法ですが、これではまだ魔法の入り口にしか立てていませんの」

「まだ奥がある?」

「魔法の奥は深いですわ。何しろ、魔法とは能力の意味を再定義する力でもありますの!」


 大仰に腕を広げて言ってみたが、いまいち伝わっていなさそうだ。

 こほんと咳払いを一つして、改めて詳しく説明をする。


「えー、例えばですわ。わたくしは魔導の神様でもありますが中身は人間ですの」

「ふむ」

「そしてリベルさん、あなたは叛逆者であり神に触れただけでも消滅させてしまいますわね」

「魔導神は消えないけどな」

「まさにそれですわ!まあ神核を隠すという不正をしていないことはないですが、これは人間の面を表に出しているからですの!」


 つまりどう言うこと? とまだ理解できない子供達にはさらに噛み砕いて説明する。


「能力によっては、複数の効果を持つものがありますわ。天罰などが最たる例で、あれは雷の威力に権能を上乗せした神の一撃ですの。この二つの意味を持った攻撃、そのまま受ければ大ダメージですわ。人間など即死してしまう程には」


 雷の威力に権能が付与されているのだ。付属効果だけでなく、威力も底上げされている。


「例えば雷が無効だったとしましょう。天罰にあるのは雷という属性と、権能という意味ですわね。ですが本来雷が無効だったとしても、権能を防げなければ確実に落とされてしまいますの。そういう術式ですし」

「ならどうするんだ?」

「これが魔法の面白い部分で天空神の粗さですわ。いくら雷に権能を付与したところで、その大元は雷ですの。ケーキの上にどれだけフルーツを乗せたところでケーキでしかないように。よって、無効ではなく打ち消すことができたなら、その上にあった意味は消失してしまいますの」


 ケーキの上に大量にフルーツを盛ったところでそれはケーキで、その単語一つで何種類もいくつも乗っているフルーツ全てが括れてしまうのだ。

 そこにイチゴやみかんやキウイがあったとしよう。だがケーキを食べたと言えば、その全ても食べたことになるだろう。

 これは天罰も同じことで、『イチゴを食べた』に相当するものが『権能を無効化した』であり、『ケーキを食べた』に当たるのが『雷を打ち消した』になるのだ。

 ちなみに雷無効だけの場合、フォークで切った時にフルーツがこぼれたような状態である。

 ここにいる人たちは知らないが、リナのやったことはまさにこれで、天罰を雷と再定義し、自分の性能で打ち消したのだ。

 性質を知っている人たちが天空神を馬鹿にする理由はこの辺りにある。


「そして魔法の自由度を上げる屁理屈とも言える能力が、『抽出』というものですわ!」

「「抽出?」」


 リナも見せた、人間が多種族を超える力の使い方。


「これは大きすぎる力を出力する時に使うことが多い技ですが、例えばわたくしが魔導の全てをティエナさんに授けるとしましょう」

「む、わたし、最強……?」

「ええまあその全てを十全に扱えたのなら最強に限りなく近づけるでしょう。ですが、神の力を人の身に降ろすのです。普通なら、全てを受け入れた時点で肉体が崩壊してしまいますわ」

「……殺される?」

「本当にはしませんわよ」


 リナが天罰の全てを吸収した時、身を焼き尽くすほどの激痛が走っていた。

 神の力の一部でさえ、人間の体は耐えられないのだ。魔導神の全てを取り込んだら一瞬で崩壊してしまう。


「ですがそれでは意味がありません。そういう時に使うのが抽出ですの」


 力の本体は魔導神に置いておく。これであれば、ティエナの体が崩壊することはない。

 そして、使いたい時に、使う分だけ抽出すれば、ティエナはノーリスクで魔導という魔法の極致が扱えるようになるのだ。


「実際の使用例とするならば、こことどこかを空間のゲートで繋ぎたいと思います。場所はそうですわね……消滅大陸にしましょう。そんな遠く離れた場所では、常人の魔力や才能では絶対に不可能ですわ。でも、ここでティエナさんがわたくしの力を、空間への干渉力だけを抽出すれば、ちょっとに身に余る力を一瞬受け取る程度で済みますの。もちろん長時間降ろしていればその分負荷も大きくはなりますが、ゲートを開き、向こうについてから閉じる程度であれば人間の回復力でどうにでもなりますわ」


 魔導神は、そのまま魔法を司る神である。

 であれば、空間も時間も次元も全属性も全てを操ることができる。

 ただそれでは力が大きすぎるので、その中の空間だけを引っ張り出す、というわけだ。


「じゃあわたし、擬似魔導神できる……?」

「わたくしが許可をすればですわね。もちろんわたくしから引き出すわけですから、こちらからも力の制御や引き出す量の制限、あとは強制的に回収することは可能ですの。まあこれはわたくしを相手にしているからであって、自然に満ちるエネルギーなどを流用するなら基本的に全て思い通りですわ」


 だからこそ、きちんと限界を見極め覚悟を決める必要がある。


「わたし、ちょっとやってみたい!リベル、ボッコボコ!」

「恨みかなんかある?そんなに俺のこと倒したい?」

「あはは、いいですけど魔導は神の力。リベルさんには無意味ですわ」

「……残念」


 なぜここまでリベルをボコボコにしたいのか。

 本当に過去に何か因縁でもあるんじゃないかと思うほどだが、ただ遊びたいだけのティエナは特に何も考えていない。


「まあ模擬戦をするのはいいとして、リベルさんは火属性と地属性が使えるようになったのですわよね?」

「ああ。今使える火属性は永劫の業火だけで、地属性は何も知らない。巨人は作れるかもしれないけど」

「……一体何と戦ってきましたの」


 中級神になった元下級神である。


「ま、まあ、まずはそちらのお勉強からですわ。ティエナさんも、一緒に受けるといいと思いますの」

「……わたし、大体の魔法使える」

「得るものはあると思いますわ」

「……わかった」


 渋々と言った感じで頷いていたティエナだが、実際にやってみるとその表情を驚きに染めることになる。


「リベル、毎回こんなことしてる!?頭おかしい……!」

「頭おかしいってなんだ。見て覚えて返す。それだけだろ」

「……普通なわけがない……!」


 魔導神の幻影と戦うリベルは、もう火水風地の四属性をフルで使っていた。

 幻影が土の槍を投げれば、リベルも同規模の土の槍で迎え撃つ。

 幻影が火の矢を放てば、水と土で二重の壁を生み出しこれを防ぐ。

 リベルが永劫の業火を纏わせた岩の剣を投げれば、幻影はちょっと悩んでから爆風で地面に押し付け、大量の水で鎮火する。

 ここまでが一連の流れ。これが、一秒程度でやり取りされる。

 ティエナはついていけずに眺めることしかできなくなっているが、リベルだってここまで対応できるようになったのは今回からだ。

 影響があるとすれば、四体も神を取り込んだことだろう。


「まあ、リベルさんのその対応力と完璧なまでの模倣は異常だと思いますわよ」

「……そう、か」


 どんどん過激になる攻撃に、リベルはそれでも喰らいつく。

 見たことがない攻撃には全く同じものを返し、ある程度わかるならどうにか反撃の隙に繋げる。

 リベルは、本当に実戦でこそ本領を発揮できるらしい。


「……リベル、模擬戦!」

「もうやるのか?じゃあまずこの幻影を消してくれ!」

「わかりましたわよ。正直今のは実力測定に過ぎませんので、後で続きをやりますわよ」

「……つら」


 模擬戦からの、本格的な知識の勉強。

 しかもティエナの性格的に、リベルが勝つともれなくもう一回ついてきそうである。

 それでも強くなりたいならやるしかない。


「先制攻撃」


 ティエナから火の玉が飛んできたが、これは咄嗟に回避。

 お返しに岩の槍を地面から出せば、普通にティエナの腹に直撃した。


「……まだ小手調べだったのに……卑怯なり」

「先にやったのはそっちだろうに。で、身体強化だっけ?あるなら使え。さっきの俺の戦いを見て、必要だと思った分だけ」

「ん、出し惜しみはない。リベル、強敵……!」


 ティエナの体が白い光に包まれる。

 その上からさらに発光すると、全ての光がティエナに吸収される。

 今まででは見たことのない強化のかかり方だった。


「死んだらごめん」

「それは困るな」


 ちりっ、とリベルの体を電気が走る。

 風を切り裂くようなティエナの蹴りを、リベルは右腕だけでガードした。

 その瞬間、ティエナの全身を稲妻が貫く。


「ぐっ……!?」

「魔導神から見て覚えた攻撃だ。やばそうだったから使ってみたけど、やっぱり強いんだな」

「……頭おかしい。なんでそれで使える……」


 全身を小刻みに震わせるティエナは、どうにか立ち上がろうとしているようだが、上手く力が入らない。


「リベルさんの勝ちですわね」

「くっ……魔導神、力を……!」

「わたくしの幻影と戦ってみるといいですの。リベルさんのパターンは、はっきり言ってわたくしの見せたものにリナさんのワイヤーを足したくらいのものですわ」

「……やる」


 魔導神が出した幻影に、ティエナは早速飛びかかる。

 余裕で岩の壁に防がれていたが、まあすぐに対応できるだろう。


「ではリベルさんは魔法の応用編になりますの」

「うげ、もう休みたいな」

「リナさんも働いていますのよ」

「……魔導神、無職」

「ティエナさんみたいな言い方しないでくださいまし!あと無職ではありませんわ!」


 あと、ではなくそっちが真っ先に否定すべきことである。

 なんだかズレている魔導神に連れられて、リベルは別の部屋へと向かった。

魔法は相当便利なものです。それこそ、日常生活に食い込むほどに。


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