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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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5話 魔導神の中身

「はぁ〜、いつになっても風呂はいいわねぇ〜」


 現在、リナは大きめのお風呂に入っていた。

 その隣に、魔導神も添えて。


「特にこの時期はより幸せに感じますわよね」

「……ていっ☆」

「……そんなに魔導神と話したくないか?何が嫌なんだ?」


 とんがり帽子はふわふわと辺りを漂い、魔導神として会話したくなるとアプリムの頭に乗る。

 さっきからそんなことを繰り返していた。


「魔導神は、感謝するべきなんだろうけど、神だから嫌い」

「……あれも私の終着点だからな、あまり嫌われると私も悲しい」

「……」

「とはいえ度が過ぎているのはわかっている。だからこそ、理性という名の私がいるんだしな」


 人間から神になった事例などほとんどないために、確かな情報は少ない。

 しかし人が力を、知識を蓄え、それを極限まで昇華させた結果なのだとしたら、魔導神の性格さえアプリム本人であると言わざるを得ないはずだ。

 そこに思い至った結果、リナはもう何も言えなくなった。


「まああまり気にするな。私も魔導神には手を焼いている」

「え、自分が自分に手を焼くの?」

「そりゃあな。私の言葉も聞かず、リベルに頬擦りし始めた時はどうしたものかと思った。はぁ……あれも私の好奇心から来るものかと思うと……あぁ」

「……な、なんか、大変そうね」


 アプリムのこれは、もしかすると人間の間でよく言われる二重人格とは少し違うのかもしれない。

 本来別の人格が表に出ているなら、もう一人の人格はこんなに気を病むことはないはずなのだ。その間の記憶はないのだし。

 するとこれを否定するかのようにとんがり帽子がアプリムの頭に乗る。


「失礼ですわね。これもわたくしが強くなるための調査ですわ。もちろん好奇心がないとは言いませんけれど、神の天敵たる叛逆者について深く理解すれば、その分わたくしの死は遠ざかるはずですの」

「いつか殺すけどね」

「……今のところあなたの命令一つで殺されますものね。ですからわたくしはこうして友人のように近づき、有用性を示すのですわ」

「お茶」

「……有用性とは顎で使われるという意味ではありませんの」


 それでもお茶が出てくるんだからリナのことも警戒しているのだろう。


「つかさ、魔導神とプリムってどれくらいかけ離れてんの?」

「と言いますと?」

「強さとか、思考パターンとか。聞いてる感じ魔導神の方が強い癖にプリムがストッパーじゃない?」

「そうですわね……わたくしは、本当にこの世界の魔法と、オリジナルの魔導を全て扱えますの。神に対しても理解はありますし、上級神の全てを降せる程度の魔導は用意していますわ」

「もう一体のトップ争いしてる神も?」

「……プラスアルファが出てくると無理ですわね。肩を並べるとは、まさしくわたくしと同等の力を持っていますの」

「ふうん」


 まあそこは予想通りなので下手に掘り下げない。


「で、プリムは?」

「先ほどの帽子を見ていただければ分かる通り、物を浮かせる程度の空間魔法は扱えますの。しかし位相を繋ぎ物体を移動させることはできませんわ。そして時間に関しても多少の未来予知程度ならできますが、時間遡行や完全な未来選定などは不可能ですの。よって二つの力の終点にして始点の次元は扱えませんわ」

「……次元って私よくわからないのよね。あれ何?空間収納とは違うわけ?」

「違いますわ。次元は重ねるごとに高度になり、高次元から下位の次元を観察することはできても、下位の次元から上位の次元を見ることは叶いませんの。そして次元を操るとは、本来不可能な下位からの下剋上であり、高次元の力を知る、流す、得る、扱う、生み出すと言ったことをできるようにしますの。あともう一つ、同じ次元にフィルターを一枚挟み、全くの別世界を生み出すことも可能ですわ。そんなものは、わたくしの知る限り三、四人くらいしかできませんけれど」

「……やっぱよくわからん」


 いつかリベルもできるようになるのだろうか。そうしたら、ちょっとは勉強しようかな、なんて現実逃避をしておく。


「まあ、次元など扱えなくて十分だ。知らなくていいことを、知ってしまうこともあるからな」

「……」


 急に戻ってきたアプリムの忠告に、リナは知ってしまった人の後悔を感じ取った。

 そもそもだ。そもそもの話として、魔導神はアプリムの到達点。

 つまり、魔導神ができることは、アプリムにもできるはずなのだ。

 なのに、これほどの力の差が生まれている。それが意味するところは……?


「本当に、知らない方がいい。開けてはならない扉というものが、この世界には存在する」

「それを、開けると……?」

「これは教訓として語っておくが、もう元の生活に戻ることは絶対にできない。嫌な話だからあまり語らないが、ハーフェリオンが私だけになった理由も、そのせいだな」


 つまり、かつて栄華を極め消滅大陸に名を轟かせていた大国が滅んだ理由は、アプリムがその扉を開けてしまったから。


「察したような顔をしているな。まあ大体合っているだろう。私ほどではないが、お前も知らないものに対して人以上に興味を抱く。これ以上は何も言うまい」

「……めっちゃ気になる……」


 何せそれは、人を神に至らせるような何かだ。

 そんな物を使えるなら、この体を捨て去り、本当の自分を消し去ることも可能なのでは……?


「やめておけ。お前の想像は大体予想できる。大方過去を消し去りたいとでも思っているんだろうが、それは無理だ」

「どうして?」

「あれは人を神に至らしめる力だぞ?それを使って人に戻ろうなど、力の方が許さない。せいぜい飲まれて下級神に成り下がるのがオチだろうな」

「……するとリベルに殺されるわけか……うんまあ、それはそれで……」

「いいのか!?」


 正直世界を脅かす危険がなくなるならリナとしては万々歳なのだ。

 しかもリベルからしたら餌のような力の塊になって、リベルの一部として振るわれるようになる。悪くないかもしれない。


「いや、いや、許さないぞ、それは。私ではなくリベルがな」

「それは思う。どうにかして私に戻そうとするわよね」

「それがわかるならなぜそんなことを」

「だって、私に今あるのは破滅願望だし」

「……サラッと言ってくれるな……全く」

「あの時の戦い、わたくしはまだ忘れていませんわよ!邪魔は入りましたが、決着はついていませんの!」

「ありゃ私の勝ちだろ。だってあんた、まだ力を扱いきれてなかったし」

「ぐ……死に物狂い、と言うか死んでもいいと考えたあなたに勝てる道理はありませんの……」


 過去の話をすると、どうしても暗い雰囲気になってしまう。

 お互いため息を吐いて、この話題には触れないようにする。


「ところで、だ。残りの下級神は光と闇がいるわけだろう?どっちから攻めるんだ?」

「光でしょ。この世界は往々にして闇の方が強いし、闇を払拭するのはいつの時代も光だけ。まず光を得ないと、闇の中を進むことはできないわ」

「わたくしがいれば闇の神も一発ですわよ」

「……頼りたかねえよ。言ってないけどさ、リベルが炎の神と戦った時も、地の神と戦った時も、近くにいてあげられなかった。その成長を見られてない。一回くらい、あいつがどれだけ強くなったのか、確かめておきたいのよね」

「……母親ですわ」


 ぶん!と振り抜かれた拳にとんがり帽子は空中を漂う。


「なあ、嫌なのはわかったから腕を振るのはやめてくれないか。水が飛ぶんだ」

「むう。でもそんときは魔導神なんだし、それくらいガードしてよね」

「……譲れないほどなのか」


 そんな風に呟いて、アプリムは立ち上がる。


「そろそろ上がらないか?のぼせそうだ」

「まあいいけど。……あんた、帽子ないとルイナに似てんのね」

「ふふ、そうか。私は嬉しいが、あいつは嫌がるだろうな」


 どこか悲しげな笑みで、アプリムは笑った。

 そして照れ隠しのように魔法で体についた水滴を吹き飛ばしてしまうと、これまた魔法で全ての服を一瞬で着てしまう。


「……せっこ」

「うるさいですわね。わたくしのベースは臆病なんですわよ」


 着替えまで終わっている魔導神について行って、リナも風呂から上がる。

 タオルは用意されていたが、暇そうな魔導神に眺められているのも気恥ずかしいので、リナも魔法で全てを終えてしまう。


「あなたも同じじゃないですの」

「うっさい。あんたが先にやったからよ」


 そんなことを言い合いながら脱衣所のドアを開ければ、俯きがちなティエナがいた。


「ねえさま……」

「ど、どうしたの?」

「……さっきはごめんなさい。ねえさま傷つけた……リベルに怒られた……!」

「なんか怒られたことに怒ってる?」


 ぷるぷる震えているのは傷つけてしまった悲しみからかと思ったが、これはどちらかと言えば怒りな気もする。


「自分でもわかっていたことを人に言われて不機嫌になっていますわね。自責の念が人に向いた結果ですの」

「いやその論理とか良いから。ティエナちゃん、私は別に怒ってないし、この通りあんまり気にしてないから、思った通りのこと言って良いからね?」

「……また泣いてた、ってリベル言ってた。ねえさま、そんなに心弱い……?」


 無言で歩き出そうとするリナの肩を魔導神が掴む。


「離しなさいよ」

「なぜそれでリベルさんを傷つけますの。彼は悪くないでしょう」

「だって、言わなくて良いこと言うから……」

「だとしてもですわよ。そういうところが子供っぽいと、……」


 無意識のうちに出た否定の拳に魔導神が倒れる。

 そんな魔導神をつんつんして様子を確認しているティエナを横目に、リナはリベルのところへ。


「ちょっとリベル!あんたティエナちゃんに余計なこと、を……」


 言葉に詰まったのは、リベルがソファで眠っていたから。

 何度もリベルの気を失っている姿や寝顔を見ているリナはわかる。あれは完全に寝ていると。


「……もぅ」


 怒る気力も失せて、リナはリベルの眠るソファへ。



「全く……就寝前に変なことをしないで欲しいものですわ……って、あなたねえ」


 ちょっと遅れてやってきた魔導神は、リベルの頭を膝の上に乗せて優しく撫でているリナの姿を目撃した。

 その後からやってきたティエナも、なんだかよくわからない顔をしている。


「……いいじゃん。可愛いから」

「かわっ、……はぁ、あなた、完全に惚れてしまっていますのね」

「にゃっ!?」

「だってそうでしょう。男の子相手に可愛いだなんて、そんなの恋愛感情かそれに近しいものですわ」

「ん、いい夫婦」

「飛躍しすぎ!」


 ティエナの言葉にツッコミを返すが、残念ながらそれは完全な否定にはならない。


「飛躍できるくらいの考えがあなたの中にあるなら、それは多少なりとも願望ですの……」

「……わ、私はただ、ずっと一緒にいれたら、楽しいなって、思うだけよ……」

「「……」」


 さっさと認めればいいんじゃないかな。

 そんな風に心の中で二人は思ってしまった。

 それからリベルが起きるまで、リナは散々揶揄われたのだが、それはまた別のお話。

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