3話 親睦会
「たこ焼きパーティですわ!」
たこ焼き機と材料を持って、魔導神が期待と喜びに満ち満ちた笑顔で言った。
仕事の方は一区切りつけて、今は魔導神の家までやってきている。
前は神殿(行政機関)にしかいなかったので、二人がやってくるのは初めてだった。
ティエナは大豪邸かと期待していたが、リナの家とあまり変わらないくらいでちょっとがっかりしていた。まあその話は後にして。
「うん、それは良いんだけどさ、そんなもの買って、あんた誰とやるつもりだったの?」
「もちろん、あなた方ですわ!どうせまた魔法の練習などで帰ってくると思っていましたの!だったら!その時に少しでも楽しめる方がよろしいかと思って!!」
「はいはい、一人で寂しかったわけね」
「んなっ」
たこ焼き機は先ほど箱を開けていたので新品。つまり、使ったことはない。
これで二人とも来なかったら、魔導神は一体どうしていたのだろう。
「まあこれからはティエナちゃんがいるわよ」
「ん、話し相手くらい、なってあげる」
「……お子様に慰められるというのはこんな気分ですのね。でも嬉しいですわ」
「嬉しいんかい」
案外寂しがり屋だった魔導神は、ちょっぴり傷心しながらも嬉しそうな顔でたこ焼き機の準備を進める。
でもやっぱり無言は寂しいので、ここにいなかった間のことを訊く。
「そういえばあなたたち、どこまで行ってきましたの?」
「炎、地の神」
「あら、里帰りしたのですわね」
「……本当の故郷じゃないわ。あそこは、本当に危険だもの」
リナが少し故郷に思いを馳せている。
魔導神は『変わりましたわねえ』、なんて眺めて、隣に座るリベルに視線を向けた。
「リベルさんは、どう思いました?」
「それはリナのことか?それとも消滅大陸か?」
「リナさんの過去についてですわ」
「……全部は知らない。けど、大変だったんだろうなって思う。それと、こんな言葉で片付けちゃいけないとも」
「リベル……」
ちょっとしんみりしたリナが頭を寄せてくるので、リベルは頭を撫でておく。
それを目の前で見せられた二人は。
「……なんだかリナさん、甘えるようになりました?」
「ん、昨日から。寝て起きたら、仲良くなった」
「ねえ待って、すごい誤解が生まれそう」
言葉足らずのティエナの悪いところパート2。
いくら甘えてて幸せオーラをばら撒いていても、それだけは聞き捨てならない。
「……どこまでしましたの?」
「聞き方が悪意しかないッ!!」
「ただ俺がリナの様子見に部屋に行って、ちょっと話を聞いたらリナが泣き出したくらい」
「ねえなに?君たち悪意で言葉を削いでるの?」
結局リナが全部説明することになり、それを聞いて心底つまらなさそうに魔導神がため息を吐いた。
それにまたリナが暴れ出そうとして、リベルが止めて……と色々やっている中で、魔導神はたこ焼き機と材料のセッティングを終わらせた。
「さあ!皆様お好きなように焼いてくださいまし!」
「ねえ、イカとかホタテがあるのはまだ理解できるわよ?でもミートボールとか唐揚げがあるのは何?それもう完成してるじゃん。唐揚げに関しては枠よりでかいし」
「さ、サイドメニューですわ!」
「……食べ切れるわけ?この量」
「…………うぅ」
怒涛のラッシュに魔導神が顔を覆う。
その背中をティエナが優しく撫でていた。順調に絆を深められているようで何より。
「わたし、成長期。頑張る」
「てぃ、ティエナさん……!」
「無理なら無理って言ってね?魔導神に責任持って食わせるから」
「……やっぱり悪魔ですわね」
だがこの量は無理だろう。
誰が来ることを想定しているのか、一人暮らしには絶対にいらない広めの長テーブルは、もう材料の山で埋まっていた。
「まあ食べなきゃ減らないだろ。早く始めようぜ」
ぎゃーぎゃーやっていても始まらない。
リベルの催促でリナと魔導神が焼き始める。
「リベルの分は私が焼いてあげる」
「……まあ、任せる」
「ティエナさんはどうします?自分でやってみたいですの?」
「ん、ちょっとだけ。でもお手本見たい」
「わかりましたの。では、わたくしのお勉強の成果を見せてあげますわ!」
「私らが神と戦ってる時にこいつはそんなことを……」
「……さ、さあ!見ていてくださいまし!」
だが一度も練習をせず、見ただけで胸を張るなど、それこそ素人がやりがちな間違いである。
「あ、あれっ、あれっ?お、おかしいですわ、全然上手くいきませんの」
頑張って丸めようとしているのだが、皮は破れるし中身は飛び散るしで散々なことになっている。
「あんた、称賛を受けたいなら練習してなさいよ。どうせ時間なんて有り余ってるんでしょ?」
「う、うぅ……一人で家でなんて、とっても寂しいと思いません?想像しただけで、もう悲しくて……」
「「……」」
「魔導神、これからはわたしがいる。練習、見ててあげる」
「ティエナさん!うぅっ、ずっと一緒ですわ〜!たとえ世界が滅んでもあなただけは守り通しますわ〜〜っ!!」
「う、く、苦しい……」
ぎゅうぅ〜、と思いっきり抱きしめて、その柔らかいほっぺたに自分の頬を擦り寄せている。
これは、新手の変態、なのだろうか?
「あれはね、孤独に耐えられなくなった悲しいモンスターよ」
「本当に惨めだ」
「ううっ、辛辣すぎますわ!」
ティエナを盾にする魔導神に、呆れたような目を向けつつもリナは出来立てのたこ焼きを渡す。
「ほれ、あんたの分。あのままじゃダメになるから焼いてやったわよ」
「……」
ぽかんと口を開けて皿に盛られたたこ焼きを眺める。
「あなた、実は手先器用ですわよね」
「なんでもできんのよ、私は。そういう風になってるから」
「……あ、ありがたくいただきますわ」
ふーふーと冷まして一口。
瞬間、魔導神の顔が驚愕に変わる。
「ふぁ、な、何を入れましたの!?」
「ん?んー、ミートボールとチーズと唐辛子?」
「ゲテモノですわ!わたくしもそんなもの想定していませんの!」
「こういうのってゲテモノ作りが楽しいんじゃないの?」
試しにリナもそのゲテモノを口に運んで、味の洪水に顔を顰める。
「……リベル、いる?」
「なあ想像以上に不味かったからって俺に回すのやめようぜ」
「くそう。魔導神、私らで責任持って食うわよ」
「なぜわたくしも!?」
こうなってくるとリベルとティエナの分、と渡されたたこ焼きも不安になってくる。
しかしちょっと割って見てみると、中身はちゃんとタコだった。
「そっちは何もしてないわ。最初はやっぱ普通がいいでしょ」
「ねえさま、優しい」
「ティエナさん、騙されてはいけませんわ。この人信じ込ませてからゲテモノを一つ混ぜるつもりでしたの」
「……なぜわかるし」
いわゆるロシアンルーレット。しかも同意なしである。
「ちゃんと言おうな」
「……はい」
それはそれでゲームとしてやることになった。
「そういえばティエナさん、大きなお家がよかったですの?」
「ん!おっきいお家、毎日優雅な気分」
「……では今度わたくしの別荘に案内しますの。もう少しすれば雪が綺麗なはずですわ」
「そんなのあるんだ。てかさ、最近寒くなってきたわよね」
「ええ、急にきましたわ」
あと一週間かそこらで十一月も終わりという頃だ。いい加減に冬がやってきている。
「冬かあ、ガッチガチに固めるか、いい加減感覚切るか、毎年悩むのよねえ」
「感覚切る発想はない」
「わたくしたちならではですわね」
「そんなこと、できる?して楽になる?」
「ティエナちゃんは初めてか。夏と冬はね、怪しまれない程度に温度変化の感覚を切ると楽よ。特に冬なんて見た目だけ防寒具つけときゃバレるわけないんだし、パフォーマンスを維持するためにも人間の感覚は切るといいわ」
「それ、人間らしいか?」
「……使えるもんは使う。それが私の流儀」
物は言いようである。あんなに人間に固執していたのはどこへ行ったのか。
「わたしは、いい。あの寒さも、暑さも、忘れたくはない」
「まあ!とっても素敵な考えですわ。リナさんもそう思いません?」
「……押し付けんなし。でもまあ、見習いたい考えね」
そんな話をしている間に第二弾が焼き上がった。
そして入れた本人しか知らないロシアンルーレットの時間でもある。
「適当に皆さんに配分すればよろしくて?」
「じゃあ、私目瞑っておくべき?」
「そうしてくださいまし」
リナが後ろを向いて自分の目を手で覆ったのを確認してから、魔導神が本当にランダムにたこ焼きを取ってそれぞれの皿に乗せていく。
全てが行き渡ってから、リベルがリナの肩を叩く。
「……本当にわからないわね」
「リナさん?中身を覗こうとしないでくださいまし」
「ティエナもだぞ」
「「うっ」」
透視持ちの人たちが悪さをしようとしていたので注意しておく。
魔導神もできるはずだが、今日は純粋に楽しみたいようで、引いたならそれも面白いと考えているようだ。
「じゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
とはいえ大量に焼いた中の一個である。
それを簡単に引くようでは、その人は相当運がない。いやある意味良すぎるとも言えるのだろうか。
だがいずれその時はやってくる。
「んぐっ!?」
「お、リベルのとこだったか。どう?イカタコペッパーミートボールのタレ味は」
「……どんなゲテモノだ」
むせそうになるのを気合いで堪えて、リベルはどうにか飲み込む。
水を飲んで一息ついて、口直しに普通のを、と思ったら、これが最後の一個だったらしい。
「ま、まあ、まだ焼くし」
「……口の中が」
「……じゃあほら、はい」
リナから一つお裾分けがやってくる。
「あーんってやりませんの?」
「やんないわよそんな恥ずかしいことっ!」
ちょっと顔を赤くして叫ぶと、机の反対側の二人から口々につまらないと言われる。納得がいかない。
「リベルさんも、食べさせて欲しいですわよね?」
「え?いやそこまで子供でもないし。別に」
「そ、そうよ。それにそんなこと、するならもっと、二人きりの時とか……」
自分で言って勝手に赤くなっていくリナは、顔を逸らして妄想の世界に入り込んでいく。
本来引き戻す役はリベルなのだろうが、たこ焼きは魔導神が再チャレンジしようとしているし、ティエナに至ってはもういいかなみたいな顔をしているので、ごにょごにょ何やら言っているリナは全員から放置されることになった。
「わたしお腹いっぱい」
「えっ!?も、もう少し食べれませんこと?このままではわたくしのお腹が破裂してしまいますわ」
「あんたはそこそこいい奴だったわ」
「勝手に殺さないでくださいまし!あとそこそこってなんですの!?」
煽りたいがために現実に帰ってきたリナに魔導神が噛み付く。
その弾みでたこ焼きがまた一つ崩れて、どんどん魔導神の分が増えていく。
「魔導神、もう死にかけ?」
「ま、まだ平気ですわ。あと言葉遣いをどうにかしましょう。誰に影響されたのかはよくわかりますし」
魔導神に視線を向けられてリナがむっと睨み返す。
だがこれはリナのせいではない。何せティエナの毒舌にはリナも苦しめられているのだから。
「これ色々作ったけどさ、圧倒的に中身多すぎでしょ。唐揚げなんてほとんど減ってないわよ」
「し、仕方ないじゃないですの。四人だとどれくらい食べるかなんて、わたくし知りませんでしたし」
「ぼっち」
「んなっ!?」
「わたくしだってお友達の一人くらいいますわよ!」「プリムって話でしょ?」「な、なぜわかりますの!?」とかやっている人たちは無視して、リベルとティエナは頑張って焼き途中のたこ焼きを完成させてから食べていく。
「いっぱい食べられるのは嬉しい。けど、こんなにはいらない」
「まあ魔導神もわかっていくだろ。てかリナが用意すればもう少しマシだろうし」
「ん、ねえさま、最初から三人前で作ってた」
リベルはまだ一個を丸々食べられるが、ティエナはちょっとずつ分解してちびちび食べているので、もうやめさせてあげた方がいいだろう。
「ティエナさん、このお家の探検などしてみたくないですの?」
「ん、したい!初めてのお家、気になる!」
「魔導神?」
「ぐ、う、あ、後で戻ってきますわよ。お二人は、満足いくまで食べてくださいまし。残った分を食べますわ!」
「よしリベル、ゲテモノ大量に焼いてあげましょ」
「余った物をぶっ込めばいいんだな。わかりやすくていい」
「ちょっと!?」
魔導神は怪しい行動を見せる、というか完全に宣言している二人が気になって仕方ないが、もうたこ焼きの匂いで胃がもたれてくるティエナに引っ張られて部屋から連れ出される。
「そんなものがあったら!絶対!お二人に食べてもらいますわよ!!」
初めて聞くような捨て台詞を吐いて、魔導神が消えていく。
「ああ言ってるけど?」
「バレなきゃいいのよ。どうせあいつも高精度の鑑定とか使わないだろうし、私の方で偽装してやるわ」
「どんだけ食わせたいんだよ」
だがまあ食べてしまったものを吐き出すことはないだろう。
つまり、口に運ばせさえすればこちらの勝ち。
リナが悪い笑みを浮かべているのを見て、リベルは止めるべきかどうか物凄く悩んだのだった。
本当は建設的な話し合いの場のはずだったんです。気づいたらゲームやって遊んでたんです。




