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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
四章 天変万化編
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2話 皺寄せ

 まだ日も昇らないような時間、リベルはリナに叩き起こされた。


「……なんだ?」

「昨日寝る前に思ったのよ。昨日と同じだともう一日移動で潰れるなって」

「……それで?」

「今から出発すれば魔導神のとこに行くくらいの時間はあるわ」

「……ティエナは?」

「起こすの可哀想だし、運んでいく」


 だったら起こされたくなかったリベルだが、リナも一人は嫌なのだろう。

 眠い目を擦りながら支度をすれば、手際の良いリナは朝食まで準備してティエナを抱えていた。


「……さすがっすね」

「なに?その言い方。まあいいわ。早く行きましょ」


 玄関へ向かっていくリナの背中を眺めて、リベルは朝食の入ったバスケットと、何が入っているのかパンパンのリュックサックを掴む。


「あら、持ってくれるの?」


 バスケットは持ちます。でもこれはいらない。


「……後で怒られても知らないわよ」

「不正する人とゲームはしたくない」


 大量のボードゲームが入ったリュックは置いていかれることになった。


「ま、私ならそれくらい作れるけどね」

「!?」

「しないわよ大袈裟ね」


 リナは、リベルの味方だった。



 メリー大陸に着いたのは夕方の五時を回った頃。

 少なくなった荷物を置いてから車に乗れば、ティエナがものすっごい不服そうな顔をしていた。


「ゲーム、なかった……言ってくれればわたしも早起きしたのに……!」

「あー、それね、リベルがね」

「リナ?」

「……圧かけなんてどこで学んだのよ全く……」


 多分隣の緋色の少女じゃないかな。

 後部座席のティエナは、窓の外を眺めて嫌な気持ちを少しでも晴らそうとしているらしかった。


「ねえさま、街並み、全然知らない!」

「そうね。大陸が違うと文化も違うからね」

「おっきいお家ばっかり!わたしも住んでみたい……!!」

「魔導神の家ならあれ以上なんじゃないかしら」

「ほんと!?魔導神、悪いやつじゃない……!」


 家のサイズで人柄を判断されても困る。

 そして魔導神は、確かに悪いやつではないが生粋の変態なので気をつけてほしい。


「へん、たい……リベルと一緒」

「おい引きずってんじゃねえ」


 リベルもなんだか口が悪くなってきた。一体どこの少女のせいなのか。


「……まあ、会えばわかるわよ。普段はそんな、変態ってわけでもないから」

「良かった。良かった?中身が変態、大問題」

「うーん、確かに」


 むしろ本性を隠している分悪質でもある。

 さてそんな悪い面が目立ち過ぎている変態さんは。


「入って良いですわよ。どうせまた資料でしょう」


 扉を叩くノックの音に、そんなことを言いながら受話器を手にとる。

 繋がるのを待ちながら入ってきた人物に目を向ければ、それは予想外の者たちだった。


「あら、あなたたち……あ、もしもし魔導神ですけども」


 魔導神ですけどってなんだ!?と、なんか相手を一瞬で萎縮させそうなパワーワードに三人は慄く。

 入ってきたのは、今さっき到着したリナたちである。

 魔導神がいたのは執務室だったが、職員に話をつけたところ案内された。

 そしてやってきてみれば、書類の山に埋もれながら電話をかける魔導神がいた、と言うわけだ。


「ええはい……は、いない……?まさかそんなはず、もう葬式をあげた!?何を言って、あ、ちょっとお待ちなさい!……」


 何やら慌ただしい魔導神は、受話器を置いて応対用のソファで寛ぐ人たちに目を向ける。


「……久しぶりでもあまり変わらないですわね」

「久しぶりって言っても一週間ないでしょ?週末になったから遊びに来た、そんな感覚でいいんじゃない?」

「はぁ……まあそうですわね。何しに来たか知りませんけど、わたくし今は忙しいですの。長い話なら後にしてくださいまし」


 ティエナがいることには気づいていなさそうで、魔導神はひたすら目の前の書類に目を通しては何かを書いていくということを繰り返している。


「まあ別に長くはならないわよ」

「そうですの。では口頭で聞きますわ」

「あんたの返答次第だけど」

「……なんですの?もう権利を行使しに来たとでも?」


 魔導神が嫌な予感にリナをジト目で睨む。

 仕事あるんならこっち見んなと手で追い払って、リナは話を続ける。


「あんたさ、子供好き?」

「……現在進行形で嫌いになりそうですわ。全く……なぜこうも急に行方不明者が現れますの……?」


 意外と大変そうな魔導神に、リナでさえも一瞬言葉に詰まる。


「……えっと、一人預かる気ない?」

「ありませんわ。ただでさえ忙しいのに子供の」

「今だけでしょ?」

「……」

「い・ま・だ・け・だよね?」

「……ふ、普段はほら、街の管理維持とか、してますし……?」

「あんたその程度片手間でできるでしょうが。神ならもっと暇してろ!寛容であれ!」

「暴論ですわ!大体、この世界に碌な神がいないと言ったのはあなたでしょうに!!」


 仕事も放り出してぎゃーぎゃー騒ぎ始めた二人に、リベルは頭が痛そうにこめかみ押さえながら立ち上がる。


「……リベル?」

「まあ、これが俺の仕事ってやつだ」


 説明するより見せた方が早い。

 リベルはリナの頭に手を乗せると、そのまま後ろへ。

 ソファに座り直させられたリナは、不服そうに、それでも怒る気はなさそうな顔をする。


「相変わらずで何よりですけど用が済んだなら帰ってくださいます?」

「……いや、いや、終わってない。てかあんた、なんの仕事してるわけ?魔導神がやるようなこと?」


 冷静になって、やっと相手の事情に目を向ける余裕ができたリナ。

 この変化と、それを齎した人に、ティエナは驚愕と若干の尊敬が込められた目を向ける。


「リベル、すごい。ねえさま掌の上」

「「言い方が悪い」」

「あう」


 コントのような会話には気づかず、魔導神は先ほどの質問に答える。


「最近、というより一昨日からですわね。急に行方不明だった子供達が見つかったと報告がありましたの。匿名のせいでどこの誰かもわからず、しかし次の日には敷地内に子供達がおり、仕方なく今は保護している状態ですの」

「ふーん、まあこっち側の奴らなんじゃない?」

「なら名乗るはずですの。ああでもルイナ辺りはわかりませんか……でも最近は見ませんし、よくわかりませんの」


 行方不明、子供達、という単語に反応したのは、思い当たる節のありすぎるティエナだった。


「それ、どんな子?」

「どんな?ええと……一見普通の子供ですが、誰も彼もその身にそぐわない能力を持っていましたわね。特に鋼鉄の爪なんてものは成長と共に進化しなければ自分の身を傷つけてしまうというのに……」


 質問者が変わっても気づかない。本当に追い込まれているらしい。


「それ多分、わたしの同類」

「「「!?」」」


 何も知らない人たち、絶句。

 あの時のことを知るのはティエナと、あと謎のドラゴンくらいである。

 リベルやリナも知らない情報に、三人は一斉にティエナの方を見た。


「って、あら?その子は誰ですの?」

「「今更かよ!」」

「へ?」


 色々と状況がカオスになってきたので、ここは一度リナが取り仕切る。


「はいはい、えっと、この子がさっき言ってた子。ティエナちゃんね」


 ティエナが転入生のようにぎこちなくお辞儀をする。


「あ、預かりの?ですが、わたくしには……あの、何か異質な流れが見えるのですが」


 そして『あら、恭しいですわね』なんて眺めた魔導神は、ティエナの中にある歪な力に気がついてしまう。


「うん。私のクラスダウン機。どう?逃げられないでしょ〜」

「あの、そんな自分の成果を自慢するかのように言わないでくださいまし。そんなもの抱え込みたくありませんわ」

「でもこの子に罪はない。あんただってよく知ってんでしょ?それにまだ手は汚れてない。完全な被害者。私とも違う。ね?わかるでしょ?一般人には任せられない。だけど事情を知る人でまともなのなんていない。あんたくらいなのよ。頼めるのは」


 リナの怒涛のコンボに、魔導神がだんだんやられていく。

 かつて同じ悪意に晒され、自分さえ見失ってしまった人を見ているから、あんな悲劇をもう生み出したくないから、魔導神は悩むのだろう。


「…………先ほどの、同類という言葉は?」


 どうにか、魔導神は話を逸らす。

 それに、事情によっては一人だけなんてことは言えなくなってしまう。


「ん、わたしと似たような実験受けた。でも、透明なドラゴンに乗ってどこかへ連れて行ってもらってた。人間の寿命と安全な家を約束するって言ってた」

「「……あんの忠犬ドラゴンがぁ……!」」


 その人に思い当たっちゃった人たちが嫌そうに頭を抱える。

 知らないのは、リベルだけ。


「そんなものあちらに預けておけばよろしくありません?なんでわたくしが後片付けしなくちゃいけませんの?」

「あいつ、意外と子供嫌いよ?」

「……知ってますわよ。あんな神より気まぐれで自分勝手な人、存在する方がおかしいですわ」


 なんだか愚痴り合いみたいになってきているので、リベルはリナの肩を叩いて話がずれていると主張しておく。


「……ねえティエナちゃん。そのドラゴン、どこへ行ったかわかる?」

「……わからない。速すぎて、すぐ見えなくなった」

「まあ、そっかぁ……魔導神、その子達、見た感じ違和感あった?」

「わたくしだから気づけたものなら。一応人間の特異性の傾向とルール、それと魔力の波長を知っている者なら、なんとなく違和感は感じるんじゃありません?違和感の域を出ないでしょうが」

「つまり本当に人間に戻されたと」


 改造を受けた人間の特徴として、有り余る生命力というものがある。

 まさかリナのように永久的な物を埋め込まれている人は少ないだろうが、それにしたって魔力の量と肉体強度が尋常ではなくなる。そもそも肉体が頑丈でなければ実験に耐えられないのだから、これは確実に第一段階で行われるはずなのだ。


「はぁ、じゃあそっちの子達は普通に戻していいんじゃない?」

「あら、許可しますの?」

「……いいわよ別に。わざわざ無理にこんな道進む意味はないわ。どうせあいつらに細工されたんだったら、記憶も消されてるでしょ」

「仰る通り、何も覚えていませんでしたわ」


 残っていて幸せなわけがないのだから、それで正解だ。

 リベルとティエナは全くわからない話で首を傾げるしかないが、裏側を知る者たちの中で結論は出た。


「とりあえずあいつはもう一発ぶん殴る」

「子供達は、まあ仕方ないのでわたくしが責任を持ってお返ししますわ。まあそれも難航していますが……」

「さっきの電話?」

「ええ。あれは親御さんが見つかったケースですの。しかしもう死んだ、もういないと言われまして……こちらで確認しても、死亡扱いにされてしまっていたのですわ」


 沈鬱な空気が流れる中、事情を知るティエナが口を開く。


「わたしたち、普通とは違う。特に見た目で分かりやすい特徴、忌避されやすい。わたしも、魔眼が出た時は親に冷たくされた……。みんな、何かしら持ってる。でも、それは普通使えないから……使える人、おかしい」

「「「……」」」


 才能があっても、自分が未熟であるとか、力の方が強すぎるなどの理由で知らずに過ごす場合が多い。

 そしてそれが普通に思えてしまったら、見た目でわかるほどの力を持つ子供は異常に映るだろう。


「ねえ魔導神」

「なんですか分かりました分かりましたわよ!預かればいいのでしょう!?こんな話聞いて見捨てたらあなたに殺されかねませんものね全くもう!!」


 ティエナの居場所が決まった。


「はぁ、あなた方が来ると妙に疲れますの。暇ならリナさんは手伝ってほしいのですが?」

「……何すりゃいいのよ」

「あら協力的ですわね。ではこちらの書類を……」


 一応ティエナを預けるとあってリナが魔導神の手伝いに行ってしまったので、二人はとりあえず待つしかない。


「魔導神、怒りっぽい?」

「ん?それはリナに対してだけだな。ああでも珍しい特徴があると擦り寄られて食い物にされる」

「食べてませんしそれは神としての興味の一環ですわ!」

「黙って仕事しなさいよあんたは」

「むぐ」


 訂正します。


「魔導神はキレ気味」

「ん、よくわかった」

「だから!……、な、なんでもありませんわ」


 これ以上叫ぶと、より自分の株を下げることになると思った魔導神は口を噤む。

 その後ろではリナがワイヤーを構えていたので正しい選択だったろう。


「魔導神、これからよろしくお願いする」

「……それはこちらこそですの。神だからと言ってあまり萎縮せず、友達感覚でお願いしますわ」

「ん……友達」


 これは全員に言えることだが、表面だと刺々しい時もあればティエナなんかは毒舌だったりもする。

 けれどその裏には信頼もあるのだ。これくらい言っても大丈夫。自分たちの関係はそう簡単に壊れない、という。

 だから、ちゃんと向き合えばお互いすぐに打ち解けられる。

 悪い人ではないのだ。変態だろうと毒舌だろうと。


「魔導神、夕食でもどう?」

「親睦会でもしますの?それでしたらわたくしやってみたいことがありますの。最近SNS?とやらで見かけたのですが……」


 リナと魔導神も、言い合うこともあるがちゃんとお互いを認めている。


「悪い場所じゃないだろ?」

「ん。安心。安全?」

「味方でいる限りはな」

「裏切らない」

「じゃあ大丈夫だろ」


 ティエナも、ここが気に入ったらしい。

 リナとリベルがまた旅に出た時が気がかりだが、何度でも会いに来れば良いだろう。

 それこそ、週末の度に遊ぶ友人のように。

書き始める前に思ったんです。このままだと同じ流れ繰り返さない?って。

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