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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
三章 消滅大陸編
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14話 先のこと、過去のこと

 リナは、遅くなった昼ご飯を美味しそうに食べる二人を眺めながら、拗ねたように唇を尖らせていた。


「むぅ……もう二回もリベルが戦ってるとこ見逃しちゃったわ……」


 前回は荒れ狂う神のせい。

 そして今回は。


「ごめんなさい……わたしがもっと上手く止められれば……」

「あー違う違う。謝るのは私の方よ。あんな危険なことさせちゃって。今回は完全に私が悪いわ」


 自分に良いように操られて、リベルやティエナを失うという最悪だけは避けられたが、それでも二人に迷惑をかけた。

 悔やんでも仕方ないのだから次に活かすしかないのだが、それにしたって自分が情けない。


「そうだぞ。リナが寝てる間のティエナめっちゃ沈んでたんだからな」

「う……ごめんなさい。でもよく直で頭破壊しようって思ったわね。まあ下手なことすると最悪巻き込まれた可能性もあるから、良い判断だったんだけど」

「……ねえさま、誰かに影響されてた。元を断つには、あれしかないと思った」

「……よく見てるのねえ」


 まさかそれが自分で、敵対しあっているとまでは思わないだろうが。


「まあそっちは、修復の過程で入り込めないようにしてみたから。これで大丈夫だと思いたいんだけどね」

「もう暴れない?」


 リベルはあまり意識していないだろうが、心配するような不安そうな顔は、リナにとんでもない罪悪感を与える。


「うん。もう大丈夫。あんなのね、私であって私じゃないようなもんだから。もしまた暴れるようなことがあったら、その時は容赦無くぶっ殺して良いからね」

「「……それは嫌だ」」

「やっぱり時々息合うわよねえ」


 呆れたように言いながら、リナの顔はどこか嬉しそうだった。

 そもそも先ほどから、二人を眺める表情は随分と穏やかになっている。


「そういえば、リナは食べないのか?」

「うーん、まだ食欲がないっていうか、そういう人間らしさの部分は後回しになってるのよね」

「じゃあ、まだ修復終わってない?」

「完璧にはね。でも、日常生活に支障はないわ」


 人間らしい本能は、本来リナに必要のないものだ。

 だからその修復は後回しにして、万が一に備えたセンサー類と、二人を安心させるために人格の復旧を急いだ。


「まあ明日には元通りよ」


 寝ていればその分修復も早くなるし、今もバックグラウンドでは作業が続いている。

 本当に明日には全て直っているはずだ。


「それで、まあ地の神を倒せたから今ここにいる意味は無くなったわけなんだけど。またメリー大陸行くってことでいい?」

「どこだっけ?」

「魔導神のとこよ。ティエナちゃんは初めて行くかな?」

「ん。魔導神、話でしか聞いたことない」


 つまり故郷はもう一つの大陸か。

 そしてリナがわざわざ好きでもない魔導神のところを選ぶのには、訳がある。


「私たちは、これからもっともっとやばい神々と戦うことになる。だから、ティエナちゃんは魔導神のとこにいてもらおうと思うの」

「わ、わたしだって、戦える……!」

「んー、結構酷いこと言うんだけどさ。ティエナちゃんも、地の神は見たでしょ?」

「……」

「あれと戦ってタイマンで勝てるかしら」

「……無理、かも」


 かもなんて強がっているが、無理なことはティエナ自身わかっていることだ。

 恥ずかしいから言えないが、あれと直接戦ってリナを運べるくらいに余力を残すリベルは、素直にすごいと思っていた。


「でも、わたしもねえさまと……」

「おでかけくらいなら、いくらでもできるんだけどね。一緒に戦うには、まだちょっと足りないかな?」

「……わかった」


 渋々、本当に仕方なくだが、ティエナはどうにか納得した。

 リナに比べれば生きている時間は僅かなものだが、それでも凄絶な経験をした少女は、感情だけではどうにもならないことをわかっている。


「でも、なんで魔導神だ?」

「……あいつ、子供好きそうじゃない?」


 またどこからか『偏見ですわ!』と言う声が聞こえたような気がする。

 まあでもなんだかんだ言って請負いそうなイメージはある。魔導神も、変態ではあるが根っこの部分は優しいのだ。


「それに魔法適性が高いティエナちゃんなら、あいつの技術を吸収できると思うのよね」

「魔導神の力……気になる」

「流石に魔導まで覚えられると私も手出しできなくなるから怖いんだけど、まあリベルのいい練習相手にもなるんじゃない?」


 どうしてもリナとは戦いたくないリベルは、魔法の練習には魔導神と戦うしかなかった。

 だがティエナも魔法で強くなれば、リベルの模擬戦の相手にもなれるだろう。


「ん、リベルボコボコ。どっからでもかかってこい」

「それチェスの話な?言っとくがマジの戦いなら俺だって強いんだからな」


 人間相手にも、リベルの魔法は通用していた。

 いくらティエナが魔法で強化しようと、ボコボコとまではいかないはず。


「今度、やる」

「いいぞ。じゃあ着いたらな」


 二人の子供が火花を散らしているのを、お母さんポジションのリナは微笑ましく見守っていた。



 その夜。

 リベルにちゃんと休めよと割とマジな顔で言われて苦笑を浮かべていたリナは、無理を押して仲間に連絡を入れていた。


「もしもーし」

「やあ」

「ふわっ!?ちょ、あんたどっから入ってきたわけ!?」

「いや普通に。穴開いてるし」


 通信を繋いだと思ったら、本人が真後ろに出てきやがった。

 言われて思い出したが、この拠点も壁に大穴が開けられたというか開けてしまったので、もう使い物にならないのだ。


「頭壊されたって?」

「……ティエナちゃんは悪くない。悪いのは」

「元々ぶっ壊れてんのに、さらに壊されたらどうなっちゃうの???」

「……ああそうだ。私さあ、あんたのこと一発ぶん殴っておきたいと思ってたのよねえ」

「あ、ちょ」

「さあ舌噛まないように気をつけてね?せーの」


 ゴンッ、とかなり鈍い音がした。

 リナより少し大きいくらいの少女が、思い切り床に倒れ込む。


「これは個人的な理由で仕事をほっぽりだした分。今の悪口の分もつけていいかな??いいよね???」

「や、や、もー冗談だってあは、あはははは……」

「そっかそっかー、そりゃあ冗談よねえ。じゃあこれも冗談ね」


 リナは右手を重厚な砲塔に変化させる。

 リナをよく知る人物なら、それがどれほどの威力を誇るかはよくわかる。


「いやっ!それは絶対に違う!待って!それこの体じゃ耐えきれ」


 ガゴン、と透明な髪の少女に頭から砲身が落ちた。


「……」

「ね、じょーだん♪」

「やっぱ君悪魔だよ。なんも変わってぶっ!?」


 もう一回殴られた。しかもこれ冗談じゃない。


「うぅ……一応お見舞いのつもりで来たのに……酷い目にしか合わないんだよ」

「大体あんたが悪いでしょ。忠犬なのはいいけど、ある程度自分の頭で考えなさいな」

「それは叛逆者のように?」

「……主が起きてる時はいいのよ」


 割と独占欲が強い。

 リナは自分が恥ずかしくなるだけの話からはすぐに逸らす。


「それで、本当にお見舞いだけであんたが来るとは思えないんだけど」

「随分な言いようだね?事実だからどうしようもないんだけどさ」

「事実かよっ!そこは嘘でも見舞いのついでって言えよ!」

「だって。竜は嘘つかない」


 それは竜じゃなくてこいつの性分だ。

 何せ嘘つきの竜も見たことはあるし。


「あっちが竜じゃないよー。リナの認識はずっとズレてるんだよ」

「ええ?まあなんだっていいわよ。それで?なんのよう?」

「竜にとっては大問題だけど……はぁ、もういいよ。えっとさ、この廃墟直す?今ならまだぼくの力でも戻せるけど」


 元々瓦礫しかなかったわけだが、今回の戦闘で深い爪痕が残ってしまった。

 確かに、こいつの力なら一発で復元できるのだろうが、それをしたって戻らないものはある。


「……亡霊はさ、リベルに消されたんだって」

「あー、そっか。叛逆者だもんね」

「……ねえ?私に話してないことあるでしょ」

「うん。いっぱいあるよ」

「……おい」

「ええ?そりゃそうでしょ。じゃあ何?昨日の晩ご飯から今日の起床時間まで全部話さないといけない?」

「いやそうじゃないけど……そうじゃなくて……叛逆者についてよ!」


 嘘をつけない竜は言い逃れが上手くなるらしい。

 危うく相手のペースに飲まれるところだった。

 そして逃げきれなかったことで少女はものすっごい嫌そうな顔をする。


「わかる?叛逆者は、叛逆者なんだよ。だからさ、そう言うこと」

「うん、なんの解決にもなってないね?」

「……ああもう。いいよ降参。僕からは言えないからルイナに聞いてね」

「おい逃げんな」

「だってしょうがないでしょ!?言語化したらどこで誰が聞いてるかわかんないんだから!リナはね、もっと周りに気を配りなよ!だから今回も乗っ取られかけたんでしょ!?」

「……言い返せない。言い返せないのが……くっそムカつく……!」


 逃げているようだが、懸念すべきなのも事実。

 聞かれてないと思ってたら起きてたリベルの例もあるし、本当に何から何まで言い返せない。


「全く……ぼくだって好きで意地悪してるんじゃないんだから。それで、どうするの?亡霊がいなくたって、リナにとってはあの”状態”も重要だったんじゃないの?」


 壊れた街。当時の風景。

 リナにとっては罪の証であり、ここへ来るたびに悔い改めていた。

 もっと壊そうと思えば壊すことはできたし、人が住めるようにしようと思えば、もっと早くに復興していた。

 それでもしなかったのは、リナが己の罪を忘れないようにするため。


「……そうね。だけど、これはこれで残しておきたいかな」

「ふうん?」

「だって、今回だって反省すべきものがある。リベルが一人で中級神に勝った場所でもある。なら……残しておいた方が、違う思い出になるでしょ?」


 リベルなら頭に手を伸ばしてきそうな雰囲気や表情をしていたが、あくまで仲間の少女は仕事で付き合っているだけ。


「まあ、そう言うんならぼくに異論はないよ。何しろあの形を残してたのもリナのわがままなんだし」

「……そうね。大陸一つ占有して、悪いと思っているわ」

「いやいや、気にすることはないよ」


 気遣ってくれているのかと思った。

 だけどこいつはそんな奴じゃない。


「いつまたあれが暴れ出すかもわからないからね。その時に被害が出ないなら、それだけでぼくらも残す理由になるってものさ」

「……嫌がらせ?」

「うん。さっき散々いじめられたし」

「だからあれはあんたのせいだっつってんでしょ!?」


 殴ったのは事実。しかし相手が悪いのも事実。


「まーお互い様ってことでここは手を打とうよ」

「……なぜお前が上から?」

「そういう生き物だからかな」

「自分で竜を貶めるのはいいわけだ」

「違うよ。ルイナの配下って意味」

「……納得してしまったぁ……」


 はい、完敗。


「それじゃあここはこのままってことで。用も済んだしぼくは帰るよ」

「あ、ちょいちょい、メリー大陸まで運んで?」

「え、嫌だよ。まだこの大陸離れられないし。何より魔導神と鉢合わせたくない」

「主が嫌ってんだっけ?」

「そーそー。まあぼくも過去に”好奇心”で鱗ひっぺがされた思い出があるからね。嫌いだよ」

「じゃあお願い」

「話聞いてた?」


 ここでは我を貫き通した方が勝ち、という暗黙のルールがある。

 わがままを押し通し、相手を折った方の勝ち。

 勝者の権利は自分の都合に相手を巻き込むこと。


「全くとんだクソルールだよ」

「ルイナが始め」

「あーあーじゃーぼくはここらでおいとましよっかなー」


 少女は竜らしくその運動性能で階段を無視して二階まで上がる。

 そのまま元リナの部屋に入ると、竜の姿に戻って飛び去っていった。


「……あいつ逃げるのだけ上手いわよね」


 人の話を聞かない、捻じ曲げる、腰を折る。

 おまけに物理的に距離を取ってくるので、あのドラゴンに言うことを聞かせたかったら主人の方に話をつけるしかない。

 あ、飛竜の約束すら取り付けてない!と後から気づいたが、まあそこまで察しの悪い竜でもないので、大丈夫だと思う。なかった場合八つ当たりの口実もできるので、まあどっちでもいいやとリナは寝ることにした。

こういう内輪ノリやってるリナが一番楽しい

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