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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
三章 消滅大陸編
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13話 全てを掴む腕

 地の神の神核は地下深くにあった。

 無意識で強く働く能力を意識的に使用したのだから、その確度は相当な物のはずだ。

 しかしそんな地中にまで穴を掘っていれば、その間に地の神にはどこか遠くへ逃げられる。

 地の神と言うのだから、普通に考えて地中は神域のはずなのだ。

 そんな中で、わざわざ無理に戦う必要はない。


「叛逆の剣」


 完全に黒くなった剣を、地面に思い切り突き刺す。

 この辺りは魔神との関係はないようで、ほとんど抵抗もなく半ばまで刺さった。

 むしろ関係がないからこそ、半ばで止まったとも言えるかもしれないが。


「影響遮断」


 突き刺した剣から、地割れのようなヒビが周囲へ駆け抜ける。

 瓦礫があったりクレーターがあったりとでこぼこした地形も構わず、黒いヒビは魔神の足元まで及ぶ。


「ゴアッ!?」


 それは、地面からのエネルギー供給を断ち切るためのもの。

 無限再生が失われたことで、地面の魔神はより焦ったように暴れ出す。

 超巨大ハンマーのように振るわれた足がリベルに直撃したが、巻き上げられるだけで外傷は何もない。


「叛逆の翼」


 光沢を持つ漆黒の翼が背中に出現する。

 空中で姿勢を制御すると、天罰を受けながら右腕を掲げる。


「……万掌の腕」


 ゾン!とリベルの腕が、魔神の腕とほぼ同じ大きさに肥大化する。

 黒い瘴気だけで作られた腕は、その名の通り全てを掴み取る。


「ゴアアアアアアアアアアッ!!」


 魔神の左腕が真っ直ぐ飛ぶ。

 その腕と、叛逆者の腕が衝突する。

 爆発的な突風が巻き起こるが、両者共にそれで吹き飛ばされるようなことはない。

 魔神は言わずもがな。リベルは翼で風をある程度操作する。

 大きすぎてバランスを取るのさえ一苦労の腕は、その分だけの威力も誇った。

 そもそも魔神は表面以外叛逆者に耐性がないのだ。

 二つの拳がぶつかり合った結果、地の魔神は左腕をも失うこととなる。


「邪魔をするなら、先に潰す」


 さらに大きく飛翔し、リベルは魔神の頭上で佇む。

 神の雷を受けながら、遥か高みから見下ろすその姿は、まさしく天上より降臨した天使か神。

 翼の色もあって堕天使のようにも見えるリベルは、その大きな腕をさらに巨大化させる。


「掴むは魔神、奪うは力」


 万掌の腕が魔神の頭から胸元までを掴む。

 ぐっと力を込めれば、粘土のように歪み、捻れ、引き千切られる。

 腹から腿にかけては、千切られた反動だけで砕けて地上へと落下していく。

 そして粘土細工を、黒い腕は貪り食らう。

 リベルが腕を開いた時には、魔神の頭など欠片も残っていなかった。


「残りも」


 頭を失って歩くことしかできなくなった下半身を、同じように巨大な掌で包み込む。

 紙屑でもまとめるように握り込めば、中級神とさえ評された地の魔神は、もうどこにも存在を確認できなくなった。

 地上に動く物が無くなったのを確認して、リベルは一度目を閉じる。


「神が力を発揮するには、その根源が近くにある」


 あれだけの魔神を顕現させるには、本体に搭載するか、ほぼ真下の地面にでもないといけない。

 叛逆者の勘が、地中深くへと逃げていく神核の反応を捉えた。

 そこへ一回で辿り着けるほどに腕を成長させると、リベルは頭に浮かぶ言葉をそのまま声に出す。


「黒き力は叛逆の腕」


 指先を綺麗に揃えた腕を、地面に向けて振り下ろす。


「その手に握るは神の証」


 地面を海のように割り、万掌の腕が神核を追い立てる。


「其は全てを掌握する物なり。其は全てに逆らう物なり。逃げるだけの策はなく、耐えうるだけの術はなく、あらゆる物をその手に掴む」


 その時地の神は、まるで地面が吸い出されているように感じただろう。

 しかしその力が引き寄せるのはあくまで神核。

 吸われているのは、地の神だけだった。


「万象掌握叛逆之腕」


 巨大過ぎる掌が、その規模に対して小さ過ぎる神核を掴み取る。

 ドクン、と脈動するような振動が起こると、その腕は地の神の神核を完全に取り込んだ。



「……自分のことながらやばいな」


 地上に降り立ったリベルは、元に戻った自分の腕を握ったり開いたりしてみる。

 黒い腕も自分の物という感覚はあったが、やはり大きさ故に違和感も酷かった。

 改めて考えると、叛逆者というものの異質さが見えてくる気がする。


「……リナにおかしいって言われるわけだ」


 そういえばリナはどうなっただろう、とリベルは自分の言葉で思い返す。

 確かティエナが追っていたはずだが、本当に止められただろうか。

 正直、ああなったリナをリベルは止められる気がしなかった。

 リベルは知らないが、ティエナは最終的に力尽くで止めることになったのだ。リベルには、そんなことはできないだろう。


「眠気は……ない。翼はまだある」


 羽根がパラパラと落ちていっているが、まだ飛ぶことはできるはずだ。

 焦土では神核の吸収と同時に倒れてしまったわけだが、四つ目の神核ということもあるのか、あの時ほどの眠気はない。

 だが少し足はフラフラするし、たまに目眩のように視界がズレる。

 あまり、長いこと動くことは出来なさそうだった。


「急ごう」


 まず高度を稼ぎ、上空から破壊の痕を探す。

 あれだけの大規模な移動と傷は、すぐに見つけることができた。そしてその終着点も。

 翼でも推進力を得るが、さらにその後ろから爆風を当てることで直線のスピードを上げる。

 ほぼ弾丸と変わらない速度で、リベルは真っ直ぐリナがいるであろう場所を目指す。




「ねえさま……大丈夫……?」


 ティエナが声をかけるが、リナは浅い呼吸を繰り返すだけだ。

 機械の体は脳の破壊どころか呼吸が停止したって活動できるが、人間らしさを多分に残すリナだと少し怪しい。

 本当は肩を揺さぶってでも起こしたかったが、もしそれで致命傷を与えてしまったらと考えると手を出せない。


「うぅ……ねぇさま……」


 リナの横で涙目になっているティエナのすぐ近くに、隕石でも落ちたのかと思うような衝撃が走った。


「な、なに……!?」


 立ち昇る土煙の中から、誰かがゆっくりと立ち上がる。


「お、大体あってたな」

「……リベル?」

「ああ。どうした?そんな顔して」

「……落ちてきた。わたしぶつかったら、どうなってた……?」

「そ、それは、すまない」


 リベルは途中まで飛翔していたが、翼で十分の浮力を得られなくなってからは、爆発頼りの直線飛行をしていた。

 ワイヤーとどっちが速いのかは疑問だが、少なくとも瓦礫という障害物に足を取られないだけでも移動しやすいだろう。

 そして、最後は斜め上に爆発を発生させて最短で落ちてきたというわけだ。


「……リベル、だんだん頭おかしい」

「……否定はしない」


 爆発で空を飛ぶなんて、体が頑丈なんてレベルじゃ説明がつかない。

 これはきっとリベルだからできること。


「あ、そう。そんなことより、ねえさまが」

「リナが、どうかしたのか?」

「……どう思う?」

「どうって……寝てるだけなんじゃないのか?」


 パッと見暴れ疲れて寝たのだと思っていたのだが、そうではないのだろうか。


「……頭壊した」

「え、どういうこと?」

「……何か、よくないものに影響されてた。だから、思考回路貫いた」

「……え?」


 よく、理解できなかった。

 ティエナに詳しい話を聞いて、リベルは思わずその頭を叩きそうになった。

 というより最初はグーが出そうになった。

 それでも、ティエナだってリナは大事に思っているんだし、リナを守るための行動だと思って、ぐっと我慢した。


「ごめんなさいごめんなさい……わたしにはこれ以上の方法がなかったの……」

「……正直、ちょっとイラッとした。だけどこれは、半分以上が俺に対してだ」

「な、なぜ……?」

「そんな状況で、傍にいてやれなかったから。ティエナにそんな罪悪感を押し付けてしまったから」


 リベルは言いながら、どんな状況にあるかもわからないリナを抱き上げる。

 そしてその頭を優しく撫でる。

 もう全部終わったから、何も心配はないよと。


「リナは、きっと大丈夫だ。ティエナが気に病むことじゃない」

「……でも、わたしがねえさまを……」

「少なくともティエナに責任はない。あるとしたら、自分を制御できなかったリナだろうさ」


 リベルは、どうやって運ぼうか、ティエナより大きい分抱き抱えるのは無理か……と色々試行錯誤して、最終的に背負っていくことにした。


「……なんだか、ねえさまみたいなことを言う」

「そうか?ま、俺も少しはリナの考えがわかるようになってきたってことだろ」


 リナの腕を自分の首に巻き付けると、リベルは家に向けて歩き出す。


「行くぞティエナ。速度は出せないけど、ちょっと足早に行くからな」

「……ん、周りはわたしが警戒する」


 おんぶをしているせいでワイヤーは使えないが、それでもリベルは揺らさないように気をつけて、それでいて少し駆け足で、家までの道を辿っていく。



 急拵えで繋ぎ合わされた思考は、体を動かすには至らないが、それでも外界の刺激を受け取るくらいはできる。

 それでも耳に入ってくる音を情報として認識できず、やっと捉えた物は、とても心地の良いものだった。


(ん……この感じ……リベルかな……)


 なんとなく、頭を撫でてくれているんだと思った。

 普段は恥ずかしすぎて言葉になんてできないが、実は密かな楽しみだったりするのだ。

 事あるごとに噛み付くリナの頭を撫でる人なんていなかったものだから、ずっとその感覚を知らずに生きていた。

 だけど初めて撫でられたあの時、案外悪くないと思ってしまったのだ。


(もっと……もっと撫でて……)


 そう願うも、言葉にできないリナは離れていく手を拒めない。

 でもやっぱり失いたくなくて、リナは必死にその温もりを追いかける。


(お願いだから待って……行かないでよ……「やだ……一人にしないで……」)

「リナ?」


 はっと目を覚ませば、自分が少し地面から浮いている感覚を得た。

 思わずぎゅっと腕に力を込めれば、何か温かいものを抱え込む。


「リ、ベル……」

「お、起きたか。大丈夫か?ティエナに脳破壊されたらしいけど」

「……言葉の破壊力が凄いわね……」


 しかも物理的なのだから凄まじい。

 暴れていた時の朧げな記憶を辿って、何か取り返しのつかない過ちを犯していないか確認してみるが、実験台にされていた子供たちはちゃんと生きていたし、ティエナもリベルの少し先に見えている。

 とりあえず、また罪を重ねることにはなっていなさそうだ。


「それで、一人にしてほしくないと」

「うぐ……聞いてたの」

「随分とリナらしくないな」

「……私だって、か弱い女の子なんだからね……?」

「か弱い、か。それを認めるには俺は弱すぎるな」

「……その言い方ずるい」


 見えないだろうと唇を尖らせてみる。

 見えてないはずなのに、リベルは子供をあやすように少しリナの体を揺らす。


「家までもう少しかかるから。あんまり無理するなよ」

「……うん」


 リベルの首に頭を預けて、リナは目を閉じる。

 指摘された通り、まだ本当に意識を浮上させることしかできなかった。

 それがリベルにわかっているとも思えないのだが、これはきっと気遣いだろう。


「もう二度と、一人にはしないから」

(……うん)


 きっともう、リベルからは離れられないのだろう。

 それくらい、リナはリベルに絆されている自覚があった。

リナとかリベルとか自分の身長より大きいものを腕にくっつけがちですけど、よくよく考えると相当アンバランスなんですよね。

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