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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
三章 消滅大陸編
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12話 VS中級神

 天にも手を伸ばした下級神は、最早リベルの知る下級神ではない。

 それが神の肉であるからと言って、触れるだけで消滅させられるほど甘い存在ではない。

 そうとわかったのは、リベルが地面の魔神の腕を掴んだ時だった。


「くっ、リナが苦戦するだけの敵ってわけか!」


 ハエでも追い払うような動作だけで、リベルは空中に投げ出される。

 ワイヤーでの着地を考えるリベルに対して、魔神が取る行動はどこまで簡単だ。

 つまり、平屋程度であれば一撃で粉砕できる足で踏みつけようとする。


「待て待て待て待てっ!」


 咄嗟にワイヤーの起点をズラし、体を思い切り後方へ引きずる。

 叛逆者としての強みが活かせない以上、あんなものにプレスされたら即死は免れない。

 そして同時に、リベルの勝機も失われている。

 今までの下級神との戦いなんて、リナに助けてもらったか、叛逆者としての性質をフルで活用したかのどちらかしかない。

 風の神には決定打を見出せず、炎の神には制御も呼び出し方もわからない力で勝った。

 異形のような不確定因子はないが、だからこそ神との純粋な一騎打ち。

 これで負けましたでは、リナに顔向けできないどころか叛逆者すら名乗れない。

 たとえ有効打がないとしても、地道に削るしかないのだ。


「……氷炎の斬壊剣、ダブル」


 その両手に新しく考えた剣を生成する。

 相性の悪さなど、イメージの力で払拭する。

 ティエナも言っていただろう。

 魔法を自由に操れる人はごく限られていると。

 ならば、その限られた人であれば、氷と炎を融合させることだってできるはずなのだ。


「腐っても神の力だ。永劫を語る炎と、水と風の神の融合。釣り合いは、取れるはずだ!」


 確信は、力へと変わる。

 永劫の業火が氷の剣に定着し、その力を補強する。

 喰われるはずの氷が、白き火焔をも取り込む。

 その剣は、陽炎のように揺らいでいた。

 その剣は、氷柱のように尖っていた。

 その剣は、見る者によって形を変え、使用者によって性質を変える。


「幻氷の永劫剣」


 紫炎を纏った氷は、揺らめく形を剣の大きさに固定する。

 それは元の剣よりも一回りほど大きかった。

 二刀流なんてやったことないのに、リベルは手数を増やすという目的だけで慣れないこともやってみせる。


「ワイヤーと、爆発力!」


 爆発のやり方は、ついさっき学んだ。

 背中のワイヤーを一本だけ地面に刺すと、リベルは左足の裏に小規模の爆発を起こす。

 初速を稼ぎ、一気に魔神の腹まで飛び上がる。

 そこからさらに背中に爆風を当てれば、振り翳した手をすり抜けるように魔神の胴体へと肉薄する。


「三属性の融合だ!届かないわけがない!」


 ガンッ、とリベルは右手の剣を腹に叩きつける。

 威力が足りないのか、傷をつけるには至らない。


「だったら!」


 左手の剣を、その上に叩きつける。

 それでも尚、届かない。


「永劫の業火ッ!」


 シュッゴッ!と紫炎をさらに白炎が包み込む。

 さらにさらに腕に爆風をぶつけて、人間の限界を超えた速度で剣を振るう。

 ようやく、剣の一本が魔神の腹に刺さった。


「ブオオオオオオオオオオオッ!」

「ッ、撒き散らせ!」


 頭上に闇が落ちた、と思って、その正体を確認する前にリベルは剣を迷わず手放す。

 そのままワイヤーを巻き取って地上に落ちれば、一瞬前にリベルがいた場所を魔神の手が掠めていった。

 そして、直後に魔神の腹で灼炎の輝きが散る。

 扱い方も知らない火属性魔法を、これでもかと注ぎ込んだ一撃だった。

 制御も何もされない魔力は、ただそこで停滞し、限界を超えたなら一気に爆発する。


「ほっとんど抉れてねえ……」


 あの瞬間に出せる最大の出力だった。

 それでも胴体を泣き別れさせるどころか抉り取ることもできていない。


「永劫の幻氷剣」


 名前が少し違っているのは、リベルもまだ完全に魔法を把握していないから。

 しかし、順番が違えば性質はもっと異なる。

 それは永劫の業火を閉じ込めた氷の剣。

 白き火焔の揺らめく、幻想的な氷の剣。

 見た目が違えば、リベルだって間違いにはすぐに気づく。

 だが、ただでは起き上がらない。


「……永劫の幻氷剣、ベース。幻氷の永劫剣!」


 持っていた二つの剣を融合させる。

 永劫の業火を氷が覆い、さらにそれを紫炎が包む。

 炎と氷の三層構造。

 さらにここに、永劫の業火が迸る。


「永久氷炎の天帝剣!きっとこれが、俺の出せる最大火力だ!」


 もう一度、爆発を伴ってリベルは空高く舞う。

 ワイヤーなんて逃げの一手は捨てる。

 光のコントラストで金色にも輝く剣を握り、リベルは魔神の頭上にまで到達した。


「空は飛べなくても吹っ飛ぶことはできるんだよ!」


 ジェットブーストにも似た軌跡を描き、リベルはその目を狙って剣を突き出す。

 木彫りの彫刻のような瞳に、周りの光を奪うほど眩い剣が突き刺さる。

 すぐに魔神の腕が迫るが、今度は剣を捨てたりしない。

 金色の炎を残しながら巨大な顔面を蹴り、リベルは空中へ退避する。

 遅れて顔を覆った指に、リベルはさらに、空気を燃焼させて得た推進力を上乗せした一撃を叩きこむ。


「ボアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ぐっ……指が太い……でも!」


 剣にぶら下がる格好から、爆発力でもう一度体勢を整える。

 そして全体重をかけて、金色の剣を思い切り振り抜く。


「よっし!」


 遂に、指の一本を半ばから切断することに成功した。

 しかし相手は再生力も高い魔神。

 巨大な魔神の全身が不気味に蠕動ぜんどうすると、新たな力が供給されて指が再生されようとする。


「っ、させるか!」


 ワイヤーで体を固定させ、指の断面に自分の足をつける。

 そうして剣を振り翳せば、その威力に関係なく魔神の手が手首から崩れ落ちた。


「「ッ!!」」


 お互いに、その意味を知る。

 剣の威力ではなく、リベルが触れたことがトリガーとなった。

 ということは、地の神の叛逆者対策は表面だけであり、内部までは行き届いていない。

 なら、この断面から削り取っていけば、いずれは心臓に位置する神核にも辿り着く。


「そうとわかれば後は早い!」


 ワイヤーもお構いなく、リベルは爆発力だけで空を飛ぶ。

 通常、ここまで爆風で空を飛んでいれば体が耐え切れないはずなのだが、リベルの体はボロボロになるどころか服にさえ傷が残らない。

 どこまでも叛逆者は異常で、神に対してはこれ以上ないほどの脅威となる。

 まだボコボコと蠢く手首に頭から体当たりを決めれば、今度は肘までが砕け散る。

 今までの神なら腕を叩けば肩から崩壊していたのに比べれば、傷はかなり浅い。

 それでも崩せているということが、叛逆者の力が通用しているということが、リベルには自信を、地の神には焦りを与える。


「ゴアアアアアアアアアアアアッ!!」


 叫びでリベルを一瞬怯ませ、その間に地の神は、自分の右腕をむしり取る。

 彫刻のような腕が地上へと落下していけば、腕を失った代わりにその断面は固定化されていた。

 右腕と引き換えに、リベルの体当たりを防ぐ。

 手数が減ることには繋がるが、それ以上にリベルの戦術を一気に減らせるというのは、神にとって最大のアドバンテージとなる。


「クソ……また最初からか……」


 リベルは一度ワイヤーを地の魔神の胴体に繋げると、振り子のように右腕側から左腕に移動する。

 次は左手の指から仕掛けるつもりだ。

 しかし、そんなものがあれば攻撃の的になるのは必然。

 魔神はワイヤーの中間に拳を落とした。


「うおっ!?」


 外から強い圧力を加えられたワイヤーは、その先端にいたリベルを思い切り上へ跳ね上げる。

 ちょうど、心臓の位置する、左胸の高さへと。


「……これが本当の最大火力、かな」


 背中に爆風を浴びると、リベルはその表面をこじ開けるように金色の剣を突き刺す。

 そう、叛逆者の力に抵抗する表面は、既に突破できるのだ。


「貫け!叛逆剣!」


 金色の剣を、さらに黒い靄が包んでいく。

 それが魔神の体内に入り込んだ瞬間、バン!と左胸に風穴が開いた。

 今までにない変化。

 神核があった位置に空洞を生み出された魔神は、


 リベルに真上から隕石並みの拳を振り下ろす。


「はっ!?」


 ドゴッシャァッ!と土煙をあげて、リベルは遥か下の地上へと叩きつけられた。

 巨人の足跡のようなクレーターの中心で、リベルはのろのろと起き上がる。


「な、なんで、だ……神核は吹き飛ばしたはず……、まさか?」


 今まで、神核は自分で掴んだことしかなかった。

 風の神の時は我を忘れたが、炎の神の時に見たじゃないか。

 自分の黒い瘴気が神核を取り込んでいく様を。そして自分の内側に新しい力が芽生える感覚を。

 今はどうだ。神核を見た覚えはないし、あの眠気も力の定着も感じられない。

 ならば。


「そもそも、神核がない……!?」


 神核がないとおかしい位置に風穴を開けられた魔神は、真下のリベルを踏み潰そうと足を振り上げているところだった。

 視界の全てが遮られては何も見えないので、リベルは一先ず爆発でその足から逃れる。

 そして確認すれば、既に穴は塞がれようとしていた。

 つまり、力の源は別に存在する。


「……マジかよ……どうやったらこいつを倒せる……どうやったら神核を見つけられる!?」


 今のでさえ、リベルからすればほぼ全力全開だった。

 金色の剣に靄を纏わせるのでさえ思いつきだった。

 これで倒せなかった以上、再生される前に叛逆剣で全てを吹き飛ばすか、力の源を直接断ち切るしかなくなる。


「地道にやっていたって逃げられたら終わりだ……ここで倒し切るには、今からでも神核を探さないと……」


 地の神は目の前の魔神だと、そう安易に考えてしまう自分の直感には頼らない。

 魔神の蹴り上げ攻撃を躱してから、一瞬生まれた隙にリベルは深く深く集中する。


「……違う……この全てを飲み込む闇じゃない……もっと別の……もっと小さな反応を……!」


 金色の誰かに触れるなと言われた存在。

 リベルが集中するとどうしてもこちらが目立ってしまうが、無理やりそちらから目を逸らす。

 そして、この大陸に眠る、もっと違う神の反応を探る。

 そうすると、やがて見えてくる。

 地中に眠る小さな反応を。

 目の前の魔神と繋がる弱々しい反応を。


「これだ!」

「グオオオオオオオオオッ!」


 意識を引き戻したリベルに、魔神の爪先がクリーンヒットする。

 鳩尾に、なんてレベルではなく全身を叩かれたリベルは、しかし空中を舞いながら意識を保っていた。


「見つけたはいいが、これを取るには……」


 追撃の腕を剣でいなして、リベルはもう一度集中して考える。

 地中深くにある神核に攻撃を届けるにはどうすればいいか。

 そしてその神核を取り込むには。



 ところ変わって、何度も何度も地鳴りが聞こえてくるがその原因が見えないほど遠い場所で、ティエナはリナにようやく追いついていた。


「ね、ねえさま!」

「……あら、ティエナ……追いかけて、きたの……」


 そのリナは、基本的に普段のリナと変わらなかった。

 背中から緋色の大蛇を出しているが、これは昨日も見ている。

 意識もはっきりしていて、ティエナをちゃんと認識していた。


「……ごめんね。ちょっと……我を忘れてたわ」

「……ねえさま」

「ほんと、なんでこんなことしたんだろ。冷静に考えれば、あり得ないってのに……」


 リナは自分の行動を顧みて反省していた。

 いくら自分の言葉に惑わされたとはいえ、リベルを失うなんて、奪われるなんてありえないはずなのだ。

 そう。きちんとリナが意識を保って、内なる衝動を抑え込めれば。


『だけど、考慮しないわけにはいかない。だって私の方が上だもんね?』

「がっ!?おまっ、なんで」

『だから、私は無意識に根付いている。つまりこんなこともできるんだよね♪』


 リナの右手が、意思に反して動く。

 近くにいたティエナの頭を掴むと、そこに力を込めようとする。


「させるかああああああああああああああああっ!!!」


 バヂン!と自分で自分の腕を弾く。

 それは良かったが、意思で本能に打ち勝つためにまたも暴走状態に陥りかけていた。


「お前は、お前はオマエはおまえはぁッ!!」

『くふっふふふっはははっ!これで安心材料は無くなったなぁ!言った通り私が奪ってやるよ。お前のその体でなあ!』

「ざっっけんなあアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 虚空に怒りの咆哮を放つリナに、殺されかけたはずのティエナが飛びつく。


「ねえさま!ごめんなさい!」


 背中のワイヤーを鎮めるようにティエナはリナの体を仰向けに倒す。

 その上で、針のように尖らせた小指を耳から脳へ、その思考回路へと直接突き立てる。


「がはっ、ぼっ、あがっ」


 リナの体がおかしなくらいビタンビタンと跳ねる。

 けれど同じ改造を受けたティエナにはわかる。

 こんな程度でリナは死なない。

 脳を破壊された程度で、リナが二度と動かなくなるわけがない!


「……ごめんなさいっ!」


 ズブリ、嫌な感触を伴って、ティエナは完全にリナの思考回路を破壊する。

 いくら熱や酸、電気に強くなろうと、こんな内側まで物理に強くはしていない。

 その瞳から意思の輝きが消えることで、リナの意識は完全に闇へと消えた。



『あーあ。つまんないな。これってつまり再構築でしょ?じゃあ私が介入する余地消えちゃうわよねえ。くそう、もうちょっと上手くやれば良かったわ。まあでも、私が暴れ回るところは面白かったし、いっか♪』


 暗闇で、悪魔は呟く。

 どこまで残酷に、どこまでも楽しげに。

こういう剣の進化とか魔法の進化とか、本当はもっと段階踏むべきだったのかなって思わなくもないです。

でも彼を思うがままに走らせてたらここまで進化してたので、まあこの作品(初っ端から神が敵)ならこれでいいのかなと。

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