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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
三章 消滅大陸編
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8話 人の手に堕ちた神

 基本的に、六本のワイヤーを駆使して戦うリナにとっては、開放的な空間よりは閉鎖空間の方が戦いやすい。

 そして、ほぼ全てのスペックが最高水準であるリナにとって、暗闇はデメリットにならないし、背後という死角は存在しない。


「中級神って言ってもこんなもんかぁッ!?こんな程度じゃ私は止められないわよッ!!」


 二つの砲塔から、二条の光線が炸裂する。

 それは、小石爆弾でも砕けない硬度を誇る岩石の槍をも破砕する。

 しかし壊したそばからすぐに別の武器が生えてきてキリがない。

 それでも尚、リナはやめない。止まらない。

 床も壁も天井も関係なく伸びてリナを狙う攻撃は、全て直前の振動や反応速度で回避して、ひたすらにルビア・レーザーをぶっ放す。

 武器系統が壊せるなら天井はと思ったが、そもそもの命令が逃がすななのかこちらを貫くことは叶わない。


「こんなんマジのジリ貧じゃん……本体見つけない限り、ひたすら削られるだけ……?」


 ストック、一時的な死、という単語が頭をチラつく。

 だったらもっとやりようは出てきてしまうのだが、その判断をするのはまだ早い気がする。

 刀のような岩石をそれ以上の硬度を持つ砲塔で防ぎつつ、リナはどうにか打開策を考える。


「今の私じゃ通用しない。だけど能力開放は……したくない。だったら……」


 リナはワイヤーを攻撃ではなく、自分の周りを囲うように張り巡らせる。

 その線を起点に、球状の結界を構築する。

 全方位から無駄だとばかりに、大小様々形状も様々の岩石でできた武器が殺到するが、そんな物で破れる結界ではない。


「物理障壁、転換。内部反射結界。……この記憶を、力に!」


 リナは両の腕から茜色の光線を放ち、それを自分の結界で内部を埋め尽くすように反射させる。

 もちろん自分も受けることになるが、自分の攻撃に耐性を持たないほどリナは弱くない。

 結界で区切られた球体の中が、茜色で染め上げられる。

 リナはその色を吸収し、自分の力をさらに昇華させる。


茜色の軌跡ルビア・エンチャントッ!」


 パァン!と結界ごと全反射レーザーが弾け飛ぶと、そこには夕暮れの色を纏うワイヤーを持つリナがいた。

 全身から吸い込んだにしては纏う場所があまりに限られているが、これで正解なのだ。

 あれだけの量をある一点に集約したなら、それはより強い力へと昇華される。


「レーザーの威力を纏ったワイヤーだ。もう一方的に殴れるとは思うなよッ!」


 ザンッ!とワイヤーが一斉に伸びる。

 床と天井から岩盤の槍が乱杭歯のように飛び出してくるが、その悉くが根元から折れていく。

 元々破壊しているレーザーを取り込んだワイヤーなら、もう岩盤の武器程度に弾かれることはない。


「散らせ!砕け!切り開け!私たちの力を!もっとッ!」


 ガリガリガリッ!と荒れ狂うワイヤーが壁や天井を無造作に抉り取る。

 叫んだリナの瞳からは、赤色の涙が零れていた。

 それもすぐに蒸発すると、エネルギーとしてリナに吸収される。

 その『思い出』を噛み締めるように瞼を閉じ、開いたときには、瞳の色は緋色に変わっていた。


「生命変換、『暴虐の象徴』ッ!」


 ゾゾゾゾゾ、と茜色のワイヤーがさらに変貌を遂げる。

 その表面にびっしりと細かい棘が浮かび、ワイヤー本体が微細に振動を始める。

 先端もその鋭さを増し、突き刺し起点にするという特徴を捨て、貫通に特化した形状に変化する。


「……ごめんね。ルビア」


 ドッ!と茜色の閃光が閉鎖空間を埋め尽くす。

 地の神の力で強化された地下通路が、暴虐の嵐によって蹂躙される。



 その赤いうねりは、ほぼ更地と変わらない廃墟の街からならよく見えた。


「っ、ねえさま!」

「やっぱあれがリナか。どうなってると思う?」

「わからない、だけど普通じゃない……!」

「そうだな」


 リベルの体がぐんと加速する。

 その瞬間、目の前に巨大な壁が迫り出してきた。


「!?」


 咄嗟の魔法さえ間に合わず、リベルは壁と正面衝突した。はずだった。


「……リベル、鋼の体」

「……いや、俺じゃないだろ」


 発泡スチロールでできてましたと言わんばかりに、壁の方が見事に粉々になっていた。

 材質としては岩かそれ以上に硬そうなのだが、リベルが触れると泥団子のように崩れ落ちる。


「……脆くない。リベルおかしい」

「だから。いやまあこれは俺か?リナにも普通とは違うって言われたしな」


 ティエナは、壊れない……、と砕けた破片を握ったり地面に叩きつけたりしている。

 だがリベルには、もうその意味がわかっていた。


「それは地の神が作った岩だろ。だから、叛逆者の俺は触れるだけで壊せる」

「……神」


 そしてそんなものが邪魔をしてきたということは。


「この先に、近寄られたくないものがある。そして、リナはもっと近付いている」

「……なら」

「ああ。だがティエナ、ここからは俺がお前も運んでいく」

「どうして」

「この感じ、地の神は地面のどこからでも攻撃してくる。俺一人ならなんともないが、ティエナが巻き込まれたらどうなるかわからない。だから、我慢してくれよ」


 ワイヤーの一本が伸びて、ティエナの体を掴み取る。

 胴体だけに巻きつけると苦しそうだったので、途中からワイヤーを何重にも折ることで椅子のような形を実現した。

 改めて五本のワイヤーで地面を走り、その上にワイヤーの椅子を掲げる姿は、戦場へ向かう王とその側近のようにも見える。


「くるしゅうない」

「……そりゃどうも」


 人間なら訳もわからず貫かれて死にかねない岩の槍も、リベルであれば豆腐と同じ。

 ただ生身で壁にぶつかるというのは、壊せるとわかっていても恐怖がある。

 リベルは自分の前に出ているワイヤー二本に黒い靄を纏わせると、前から出てくる槍を先に壊しながら進む。


「なんか、どんどん苛烈になっていくな」

「……あのままだったら、わたし……」

「まず間違いなく串刺しだな」

「……(ぶるぶる)」


 実際ティエナの身体強化が貫かれるかは、試してみないとわからない。

 しかし剣山のような密度で突き出してくる槍に、自ら当たりに行こうとはティエナだって思わないだろう。


「ねえさま!」


 リベルよりも高い位置から見下ろしているティエナの方が、いち早くそれに気がついた。

 茜色の大蛇の王。

 暴虐と怒りの象徴。

 地面から約二階分ほど掘り下げた場所に、その少女はいた。


「リナ!大丈夫か!?」

「んっ、リベル?なんでここに」


 リナの緋色の瞳が元の青色に戻る。

 それと同時に、動くだけで破壊を撒き散らす大蛇も、少しうねりを鈍らせた。


「神の気配があったから来た。リナもいる気がしたし」

「……なんか、私が知らないうちに結構強くなってんのね」


 リナは憂いげに顔を逸らす。

 ここからでは何をするにも遠すぎるので、リベルはワイヤーで着地できるからとなんの考えもなく飛び降りる。


「あっ、ちょっ」

「?」


 リナが何やら慌てていたが、リベルはとりあえずその地面に足をつける。

 その瞬間、バゴン!と大理石が砕け、リナ諸共地下へと落下していく。


「ここは全部が地の神の力でできてるのよ〜〜〜〜っ!!」

「壊れる床を作った方が悪いだろっ!!」


 いやまあ、地の神だってまさかそんな着地しただけで壊れるだなんて、思ってもみなかっただろう。

 リナとリベルは、力はあるのだし、とほぼ同時にワイヤーを伸ばして地上に、崩落した場所へ繋げようとする。

 だが今はリベルも自分の力を少しだけ使っている。

 そう。槍を壊すために、二本だけワイヤーは黒くなっていた。

 リナがワイヤーで掴んだ地面を、叛逆者の力が乗ったワイヤーが粉砕する。


「「……」」


 リナのより凶暴になった棘付きワイヤーがリベルへ向けられる。

 しかも細かく振動することで切断も可能になった極悪仕様だ。


「見つめあってないで、着地を考えて」


 椅子に座っていたままだったティエナに苦言を呈されて、二人ともその足元を確認する。

 その、暗闇の先には。



 普段は静かな研究所は、珍しく大慌てだった。


「『先生』はどこへ行ったのだ!『第一希望』は無事なのか!?」

「どちらも見つかりません!」


 ずずん、と今も地上の方から嫌な音が響いてきていた。

 パラパラと天井の破片が落ちてきて、計測機器や表示モニターに降り積もっていく。


「『外回り』は何をやっている!『失敗作』は排除したのではなかったのか!!」

「向かっただけです!そして、緋色の悪魔が確認されたとの報告も上がっております!」

「『緋色の悪魔』だと!?千年前の厄災の!?」


 そして遂にその時はやってくる。

 バゴン!と絶対に鳴っては行けない音がして、日の光を遮る天井が破壊された。

 ひいっ!なんて白衣を着た男たちが情けない声を漏らすが、そこから落ちてきたのは三人の少年少女たち。


「……なあリナ。そのトゲトゲのワイヤーで俺をキャッチしていたらどうなっていたと思う?」

「……リベルって、頑丈じゃん?」


 明らかに人間じゃないものが出ているが、どうみたってまだ子供。

 いくら研究職とはいえ、大の大人が数十人でかかったら、抵抗なんてできないだろう。


「な、な、なんだお前たち!何しにやってきた!!」


 ここの取りまとめ役が、そんな短絡的で楽観的な思考で問い質す。

 そしてここにいる三人は、誰も彼も外見年齢と実際に生きた時間が噛み合わない異質な者たち。


「殺しに☆」


 こっちも思わず答えちゃったリナは、まず間違いなく悪意を持ってこんなところにいるまとめ役の首を刎ねる。

 それを見てリベルがゾッとしていたが、研究者たちに走った衝撃はもっと強い。

 わっと蜘蛛の子を散らすように、非力な研究者たちが逃げ出していく。



「ふー、なかなか生きて捕らえるって難しいもんね」


 かいてもないのに額の汗を拭うような仕草をしたリナの前には、ワイヤーとほぼ同じ材質のロープで縛られた数十人の男たち。

 その誰もがひょろひょろの色白で、目の下には濃い隈を作っているのがあまりに不気味だ。


「で?あんたらはここで何をやってたのかしら?」


 リナが高圧的に質問すると、たったそれだけで数人の男は涙目になってガクガクと震え出し、もっとひどいものは泡を吹いて気絶してしまう。


「終わりだ、俺たちは終わりだ……」

「ゆ、許してくれ……!嫌だ、嫌だ……」

「……、お前ら、何に怯えている?」


 緋色の悪魔という異名を持つリナに怯えているのかとも思ったが、男たちはもっと別のところを見ていた。

 虚空に向けられた瞳は何も映さないが、確かにリナよりも怖いものがあるようだ。

 そして、胡乱げな顔をしているリナの前で、リナ以上に残酷な悪意が襲いかかる。

 ガバッ、と地面に穴が開き、びっしりと生えた岩盤の棘が男たちを飲み込む。

 地面の中へと消えていった断末魔と、直後に棘を汚した赤色のナニカが、リベルの脳裏に嫌にこびりついた。


「……胸糞悪い」


 そう呟くと、リナは思考を切り替えて別の手がかりを探し始める。

 人死にに慣れていないリベルは、リナが軽く人を殺した時よりも呆然としていた。


「……リベル。あんまり、気にしない方がいい」

「……ああ、そうだな」


 どうせあれも地の神の力だ。リベルが触れれば、きっと簡単に壊れるだろう。

 だが、その下にはもう生きている人間などいない。

 本当に、気にしすぎるだけ自分の心を疲弊させるだけだ。


 三人はそれぞれ研究所を探索してみたが、結局、見つかった情報としては少ないものだった。


「『スチューデント』。とりあえず、ここの奴らはそうやって呼ばれてたらしいわね」

「生徒?」

「ええ。どういう意味かしら。今までこの規模の研究所を見たことがないから、もしかしたら全く別の意味の可能性さえあるわね」


 単純に考えてしまえば、何か重要なことを見落とすかもしれない。

 リナは単語だけを記憶すると、先端が端子の形になっていたワイヤーを引っこ抜く。


「それ便利だな」

「アタッチメントはいくらかあるからね。あんたは、やんない方がいいわよ」

「機械に接続できるとは思ってない」


 これはリナだけの特権だ。そのことに少しだけ気を良くしているのが、リベルにはなんとなくわかってしまう。


「んで、こっちの計画はティエナちゃんのとはまた別口みたいね」

「そうなの?」

「ええ。改竄された跡があるわ。それと、破損したファイルも。地の神を遠隔で操ってるのも別の場所にいるみたいだし、こりゃあ思った以上に面倒なことになりそうね」


 地の神の神核、あるいはそれに類する物があると思っていた。

 だが、研究所を一通り探しても見つからないし、リベルもそれらしき物を感じることはなかった。

 リナが戦っていた時はあんなにも強く地の神の力を感じたのに、だ。


「とりあえず、一旦帰りますか」

「ん。お腹空いた」

「え、ご飯食べてないの?」

「「料理できない」」

「……それは、その。ごめんね」


 これはしっかり確認しなかったリナが悪い。何せ、二人ともほとんど子供なのはわかっていることなのだから。


「じゃあ、遅めの昼ご飯?早めの夜ご飯?にしましょうか」

「ん!早く帰る……!」


 リナはティエナを抱き抱えると、そのままワイヤーを思い切り伸ばして地上まで戻る。

 リベルも黒い靄を纏わせないようにして、その後についていく。

 その足元で、モニターが変化しているのには気づかずに。


『介入するならここかしら。とっても面白いことになりそう♪』


 数秒表示されたそれは、現れた時と同じく一人でに消えていく。

 そして直後に、研究所を破壊する地盤沈下が襲った。

不穏なものが動きます

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