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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
三章 消滅大陸編
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5話 作戦

 朝食時、リナはタイミングを見計らってこんなことを切り出してきた。


「二人ともさ、今日はちょっとこの家にいてくれる?」


 これにはリベルとティエナも顔を見合わせる。

 だってその言い方は、リナが一人でどこかへ行くと言っているようなものだから。


「「どうして?」」

「おおう……二人しておんなじこと言うのね。まあ、薄々気付いてるだろうけど、ちょっとここの調査してくるからよ」

「「……ついていく」」

「仲良しかっ!……全く。危険だからそれはダメなの。一人の方が動きやすいし、なんかあった時にも逃げやすい。都合がいいのよ。一人って」

「「……」」


 黙らされてしまった時点で二人の負けだった。

 適当に皿を食洗機にぶち込むと、リナはさっさと家を出ていってしまう。


「どうしよう」

「ああなったリナは止まらない。前に、先に行けって超音速で投げられたことあるし」

「……ねえさま、意外と自分勝手」


 意外なことはないが、まあ勝手気ままだろう。


「ティエナ、魔法得意なんだっけ?」

「……あまり、好きではないけれど」

「ん……頼みにくいんだが、良ければ魔法の基礎を教えてくれないか?俺、魔導神に強い魔法しか教えてもらってないから」

「それは、別に構わない」


 結果を生み出す魔法にだって、基礎的な理論と呼べるものは存在する。

 そもそも魔力を効率的に扱えなければ、どれだけ自分が強くイメージしたところで現象は起こせないし、理想を体現しようにも才能がなければ魔法は応えてくれない。

 自分の好きなように好きなだけ結果を提示できるとは、それこそ神にも等しいことなのだ。


「魔導神は、化け物。ハーフェリオンを模倣するに当たって、多少出自は知ってる。でも、あれは真似できると思えなかった」

「魔導神の出自?」

「元々大貴族の娘。それだけで運が良い。なのに、最初から全ての魔法の才能があった。おまけに魔法に関する本もたくさん。幼い頃から魔法に触れて、正しい知識を身につけたからこそ、魔導神は魔導神になれた」

「……それ以上はいいや。嫌な予感がする」

「なら才能のある子供なら同じことができるんじゃないかって研究がわたし達を苦しめたっ!」

「いいって言ったのに!」


 ティエナもどこかで吐き出したかったのだろう。

 リベルが直感で止めた話を、無理やり続けやがった。


「……魔法は、良いものじゃない。なんでもできるのなんて、それこそ魔導神くらい。知っている?魔法の全て」

「いや知らない」

「魔法は基本的に六属性で語られるけど、そんなものは基礎も基礎。あれらは色で分類できるから扱いやすいだけ。無色透明の魔力を使えば、本当になんでもできる。サイコキネシス、テレキネシス、催眠術、テレポート。人が思う超能力なんて全部魔法。さらに上なら空間や時間、次元に干渉するものまである。わたしたちみたいな底上げしてる人しかできない生命力を現象に変換する技だって、魔法の才能と技術でどうにでもなってしまう。魔法は、本当に恐ろしい」


 長々と語ってくれたが、リベルにはその半分も理解できていない。

 ただ魔導神ってすごいんだなー魔法ってすごいんだなー程度である。

 そして下級神はその色で分別された六属性しか存在しないわけだが、才能によってはいきなり空間を操る人も、いるのだろうか。


「……リベル、疑問が顔に出る」

「えっ」

「ちゃんと教える。生命変換、ええと生命力で現象を起こす方法。は、本当は危険な行為。わたし達はほぼ無限に等しい命があるからできるけど、普通の人間はそのまま寿命を一瞬の現象に変えてしまうことになる。もしも生命変換をちょっと魔法を使う感覚でずっと続けていたら、百年生きる人でも五年で死ぬ」

「は」


 しかもそれは、生活に使う本当にちょっとした魔法。

 戦闘に使ってしまえば、一年足らずで寿命を迎える。


「そして空間魔法に才能があったとしても、普通は気づくことはない。それはもう、才能なしとして普通の道を進む」

「どうして?」

「魔力が足りない。空間なんて概念に干渉する魔法は、それだけ魔力を消費する。生命変換で、大凡人間の寿命二千年分」

「……じゃあ逆に、二十人の人間を集めればできるのか?」

「む……」


 危ない思想にティエナが表情を険しくする。

 たとえだから。しないってそんなこと!とリベルが頑張って説得すれば、可能性の話を教えてくれた。


「できなくはない。だけどそれは、百年生きる運命の生まれたての赤子が二十人。現実的に考えれば、もっと人が必要。そしてそれだけやってできる魔法は、少し空間に穴を開けるくらい。それでも一瞬、そこに台風の目を生み出して純粋な破壊エネルギーを生むから空間魔法は怖い」

「……」


 なんだか嫌な寒気を感じるな。あれ?そういえば時空歩道はどんな産物だったか。


「な、何を考えている?」

「……いや、焦土の大陸って別の大陸から、この大陸までを繋ぐ空間の道を通ってきたんだ。あれってどういうことだろうなって」

「……そんなもの、空間に適正があって莫大な魔力がないとできない。しかも人が安全に通れるなら、それはもう神の領域」

「でもリナの言うには神ではないって」

「……ありえない。そんな人間がいて良いはずがない」


 だが存在していて、リナはそれを当たり前だと思っているようだった。

 リベルが知らないだけで何百年も生きているようだし、そこまで行くと常識が狂ってくるのかもしれない。


「……ねえさま、恐ろしい」

「本人には言うなよ?また凹むから」

「ん、わかった」


 リベルの知らない話をリナに繋げると、結果として恐ろしいが来てしまう。

 本人は心外だろうが、それが神なんて化け物に挑んだ人間のさがだろう。



 さて廃墟の街にてうず高く積まれた死体の山を足蹴にするのは、背中から血に染まったワイヤーを出しているリナだった。


「……ったく。千年生きてる人間舐めんなし」


 増援や伏兵がいないことを確認すると、なんの躊躇いもなく人の山から飛び降りる。

 そしてリナの背後から、その山を焼き尽くす炎が立ち上った。

 しかしそちらには目もくれず、リナはまた廃墟に残る痕跡を辿っていく。

 現状一番見つけたいのは、ティエナが言っていた地下通路だ。

 それさえあれば、一発で拠点に殴り込める。

 人間に恐怖を、罪人殺しに忌避感情を抱かないリナとしては、神や悪魔の絡まない事案であれば真正面から堂々と乗り込んでいく。


「……なんか誘導されてる気がするわね」


 隠そうとした形跡のある足跡を辿って、地下へと続く瓦礫に埋もれた階段を発見した。

 しかし相手もリナのようなサイボーグを生み出している輩だ。

 いくらリナが高性能でも、それを作る側の人間が考慮しないとは思えない。

 ここまでわかりやすいものを作るとは考えられなかった。


「……他のも探すか」


 罠であれば踏み抜いてしまっても良かった。どうせリナは傷つかないのだし。

 だがそれで時間を稼がれて、また別のところで研究を進められるのは腹が立つ。


「あんまこういうのは人間らしくないんだけどな」


 リナは地上からとん、と足で地面を叩く。

 その振動の伝わり方をワイヤーで拾うことで、地下の地形情報を収集する。


「……もぬけの殻、か。逃げられたのかしら」


 実験用の子供どころか研究員すらいない。

 そもそも人間の反応が存在しなかった。


「ま、だったら楽でいいわね」


 リナはその場を後にする。

 直後に、研究所があった場所をくり抜くように、大規模な地盤沈下が起きた。



 リナはこの街で一番高いマンションの屋上に立っていた。

 そこから街全体を見下ろし、人の動き、というより熱源の動きがないかを探っていた。

 そのリナの瞳は、赤色とも少し違う、オレンジ色に変わっている。


「こっちはまあ良いとして……あれか?大規模な研究所は」


 いくつか目星をつけた上で、どこからか飛んできた飛来物を素手で掴み取る。

 ちゃんと見れば、それは大口径のライフル弾のようだった。


「ふん」


 適当に投げ返しておけば、どこかで赤色が飛び散った。


「人間兵器にただの兵器が通用すると思うなよ」


 そう言ったのに、今度はアサルトの掃射が飛んでくる。

 上を取っているリナの方が圧倒的に優位だというのに、学ばない人間たちだ。


「適当に刈り取っておくか」


 そしてリナもまた、その優位を自分から捨てる。

 十階ほどの高さから身を踊らせると、その下に展開していた部隊を一気に蹴散らす。


「あ?撤退?」


 生き残りどもが、なんの抵抗も見せずに逃げていく。

 怪しくないと言えば嘘になるが、こいつらを逃がすという選択肢もない。

 リナはその背中を追いかけて、前を走る連中を適当にワイヤーで斬り払いながら進んでいく。



「……ん、完全に誘導されたわけね」


 まばらに現れるアーマー部隊を殺しながら進んできたところ、気づけば遠巻きに包囲されていた。

 この程度で死ぬリナではないが、向こうも何かしら作戦があるからこその包囲だろう。

 危機感はそこまでないが、最悪だけは想定してその場合の最上を考えておく。


「あん?なによ」


 正面にいた男が、不意にトランシーバーのような通信機器を足元に投げてきた。


『は〜い♪機械人形ちゃん。私のこと覚えてる〜?』

「……知らねえよ。人の体いじくりまわして笑ってるクズどもなんか」

『あら残念。久しぶりの挨拶でもと思ったんだけど』

「……」

『まあいいわ〜。今回の収穫はあったし〜、何よりあなたの大切な物がわかったからね♪』

「は?何言って」

『はい、ど〜ん♪』


 ドゴン、と遠く離れた場所から爆発音が響いてきた。

 音の発生源に目を向ければ、体に悪そうな黒い煙がモクモクと上がっている。

 そしてその方向は


「リベル!?」

『ダメよ〜?大事なものはちゃんと肌身離さず持っておかないと♪』


 グシャリ、とリナはうざい声を流し続けるトランシーバーを踏み潰す。


『残念ながらこれはフェイクなんだな〜、そしてここにいる奴らを蹴散らしても意味はない。でも無視するなら全力であなたを殺すわよ〜?』


 キュオン、と軽い音を立てて、即時結界がリナを閉じ込める。

 それは内側からの攻撃を全て受け流すという、人間からすれば切り札級の代物。

 異形くらいなら二、三日戒められる逸品だった。


「……この程度」


 リナは、久しぶりに覚える強烈な怒りに体を震わせる。


「こんな程度で、私の足を止められると思うなァッ!!」


 足を一歩踏み出す。

 それだけで、使い勝手から効力まで何もかもが一級品の結界が、一撃で砕け散る。

 いっそ清々しいほどの破砕音を聞きながら、リナは顔を地面に向けて背中を天へと突き出す。


「舐めてんなら、死ねッ!」


 ギュリン!と人の知覚速度を超えた一撃が、顔も性別もわからない下っ端を容赦無く斬り飛ばす。

 鮮血の雨が降り注ぐ中、自分の服を汚す赤色も自分が齎した結果も無視して、リナは大きく跳躍する。

 そのままワイヤーを収納し、背中には銀の翼、死体の山には火を放って、リナは全力の飛翔を始めた。

 あの誘導には、リナを極力リベルたちから引き離すという目的があったのだろう。

 それを知って、リナはこれまで以上に怒りで顔を歪ませる。


「リベル……ティエナ……頑張って耐えててね……絶対助けるから……!」


 幾千人を殺した殺人鬼は、たった二人の守るべきもののために全力を尽くす。

 元々、リナは優しい人間だったはずなのだ。

 それを変えてしまったのは、醜い大人たちの汚い思惑。




「さてと、それじゃあ私はそろそろ逃げよっかな〜。こっちの計画も大詰めなんだし♪」


 モニターの光だけが頼りの空間で、誰かは呟く。

 子供一人分サイズのポッドを抱えて。

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