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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
二章 焦土の大陸編
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14話 言いたいこと、言えるだけ

 リベルはすぐに寝てしまったが、リナの方はゾーシャと少し話をしていた。

 リナは本来睡眠を必要としないし、ゾーシャはとある特徴から一日や二日の徹夜は問題ない。


「あいつ、ちゃんと戦えてた?」

「ああ。さっきも言ったけどめっちゃ強かったぞ。実際にトドメを刺したところは、あたしはちょっとやられちゃってて見てなかったけど、ダンジョンに入ってからは頼もしかったな」

「え、ダンジョン?」


 それさえもリナは知らない。

 こういった情報があるから、睡眠時間を削ってでも聞いておこうと思ったのだ。


「ああ。数日前から炎の神が活発になってな。今日行ってみたら祭壇の下がダンジョン化してたんだぞ」

「……あの祭壇ってルイナが建てたのよね」

「ああそうだぞ。神の封印なんて、それこそ限られた人にしかできないからな」

「……封印においては第一人者じゃなかったけど、それでもルイナの力は馬鹿げてる。それなのに、下級神如きに改変されるなんて……」


 やはり神が強化され暴走しているのは事実なようだ。

 これではおいそれと魔導神に報告に行くこともできない。


「なんか、大変そうだな」

「え?あぁまぁね……叛逆者なんてのが出てきたのも理由があるんだろうし、本当にこっから動乱の時代になるのかしら……」

「あたしにも何かできればよかったんだけどなー」

「ゾーシャは、この大陸の様子を見てくれればいいから。こんなところで生活できるの、あんたくらいよ?」


 この焦土の大陸は、最初から人間が住むことを諦めた場所だ。

 だからこそ、本当にヤバいものが眠っている。

 それらの観察を続けてくれれば、リナも仲間も文句はない。


「一応計測機器にも問題はないんだぞ。今日も見回りしてきたけど、目に見える変化はなかったな」

「そう。やっぱり弱い方から暴れるのかしら」

「リナたちは下級神を狩ってるんだろ?今どこまでやったんだ?」

「水、風ときて今回の炎よ。まだまだ先は長いわ」

「大海神に襲われたとなると、もう弱めの上級神は危ないかもなー」

「ええ。生命も最初から動いてたし、あとやばそうなのは天空と空間くらいかしら」

「他は……まあ強すぎるよなー」


 上級神の数は現状九体確認されている。

 そのうちの四体までが弱いので、その辺りを注意していれば良さそうだ。

 魔導神なんてのは一、二を争うほど強いので、逆に会いに行くなら今のうちなのかもしれない。


「それにしても、リベルはリナのことが本当に好きなんだな」

「へっ?」

「だってすげー心配してたぞ?休むかって訊いてもそんな時間はないって急ぐんだ。あれは本当に好きじゃなきゃ言えないだろ」

「……ほ、他には?」

「え?」

「な、なんかなかったのっ?ほらその……私にまつわるエピソード!」


 恥ずかしいが、好意を寄せられるのは嬉しい。

 じゃあ自分はどうなんだ、なんて質問は跳ね除ける。自分だってそんなのはよくわからない。

 ゾーシャはそんなリナに温かい眼差しを送っていたが、それには気づかず続きを催促。


「まあそうだな……リナが色々教えたんだろ?リナのことを語ってる時は、楽しそうだったな」

「……!」

「あと単純にリナの名前が出ると反応してたんだぞ。あれはもう親と離れた子供だぞ」

「……」


 そう言われてしまうと心当たりが多すぎる。

 やっぱりリベルの好きは恋人には遠いのかもしれない。


「でも、リナも珍しいよな」

「そう?」

「今まで誰かと旅したことなんてないだろ。しかもそいつを軸にして」

「……よく見てんのね」

「わかるぞ。リナがリベルのこと相当信頼してるの。お前のあんな顔、見たことないからな」

「ん?待って、あんな顔ってどんな顔?」

「ハグされた時。リベルは見えてないだろうけど、お前めっちゃ溶けてたんだぞ」

「……嘘でしょ」


 あの時はびっくりして、それでも嬉しいな、なんて思っていただけだった。

 だから第三者からそんなことを言われると、今更のように顔が熱くなってくる。


「あたし嘘は苦手だぞ。でもお互い信頼してるなら、それっていいことなんじゃないのか?」

「……まあ、ね。でも私が誰かに絆されるなんて……あっちゃいけないのに……」


 リナはあまり信頼する人を増やさない。

 自分は信頼していても、相手には信用されないようにする。

 それが特に、リベルのような何も知らない人間なら。


「その言い方だと、もう認めてるよな」

「……だって、あいつだけは、なんでかイライラしないし、頭撫でてくるし、従順だし、嫌なところがないの」

「……お前も大好きなんだな」

「ちがわい!」


 思わず立ち上がってしまうが、こんなことをすると本当にそう見える気がする。


(べ、別に好きとかじゃ……だってあいつに永遠を誓う気にはならないし、パッとしないし、頼れる男だとは思わない。うん。これは好きとかじゃない)


 良いところが出れば悪いところも出てくるのがリベルだった。


「まあ好意の有無は置いとくとしても、お前それで良いのか?」

「な、何が」

「何も、教えてないんだろ」

「……」


 リナの秘密、根幹に関わる部分。

 これ以上リベルを軸に据えるなら、教えておく必要はある。

 それでも。


「まだ、言えない。言いたくない。だって、こんなの、知らない方が幸せでしょ……」

「そりゃ自分の過去を受け入れられてないからだろ?あいつは絶対に聞きたがるぞ。好きな人のことは、なんだって興味が湧くものなんだと。ルイナが前に言ってたぞ」

「あいつなんの話してんだ……」


 受け入れられていないのはその通りだ。いや受け入れてしまったらリナは死ぬしかなくなってしまう。

 これでも逃げずに罪と向き合っているのに。


「まああたしはリナの判断に任せるけどな」

「……いつかね、いつか」


 いつまでも先延ばしにできないのはわかっている。

 何を察したのかゾーシャは自分の部屋に消えていくので、取り残されたリナは、なんとなくリベルの部屋に向かった。


「……なんでここきたんだろ」


 ベッドの淵に腰掛けて、なんとなく頭を撫でる。


「あんたは、私の過去とか、知りたい?」


 答えなんてないのはわかっているが、それでも訊いておきたかった。

 訊いてみて、やっぱりいつかは話さないと、という気持ちを作っておきたかった。

 それだけなのに。


「……教えてくれるならな」

「……!」


 寝ていると思ったリベルは答えを寄越してきた。

 リナは驚き固まってしまうが、リベルは頭を撫でられたまま、リナの反対側に顔を向ける。


「リナが、何か大きなものを抱えてるのはわかってる。言いたげなのは、なんとなくわかったからな」


 顕著だったのはアプリムを着せ替え人形にしていた時だろう。

 あの時、確かに何かを隠していた。

 それだけでなく、自然な流れを自分で作って、話がそういう方向に曲がらないようにしているのは、薄々気づいていた。


「リナの考えは、多少わかる。難しいことなんだと思うから、好きにしたらいいんじゃないか」


 それだけ言うと、リベルはまた目を閉じる。

 リナはリナで、頭に乗せた手も動かせず、自分の気持ちと戦っていた。


(言いたいのは、当たってる。けど、言えないのよ。私だってさ、何も教えないで使うだけ使うなんて誠実じゃないって思うもん。だけど、リベルがこれを知ったら……私のために、あんなに心配してくれるあんたは、多分……)


 リベルの肩に額を押し当て、このどうしようもない気持ちを抑えようとする。

 ちゃんとした話はできないけれど、せめてリベルのことを信頼していることだけは伝わりますように、と。


「ごめん、ね。まだ、言えないの……。ううん、言いたくない。リベルを、失いたくない……」

「……俺は、死なないと思うけどな」

「そうじゃない……。色々理由はあるけど……じゃあそうね、私と戦って勝てたら、教えてあげても、いいよ?」

「……じゃあ、いい」

「ああちょっ、わかってたけどもうちょっと食い下がってよ」


 ぐいぐいリベルを引っ張って揺らしてみる。

 なんか安眠妨害されてる人の声が聞こえた。

 そして額を離してしまうとどこか心細さを感じて、リナは背中同士をくっつけるように横になる。


「多分ね、知っちゃったら色々付き纏うと思うんだ。だからさ、私としてはリベルが一人になっても大丈夫って、思いたいの」

「……だから、死なないって」

「今回なんかあったの?でも私は知らないからさ……だから、下級神を全部殺して、上級神にまで手が届いたら、教えてあげる」

「魔導神?」

「や、やめときなさい。それはほんとに」


 もっと弱いのなんていくらでもいるし、大海神は弱体化している。

 叛逆者がどこまで強くなるのかわからないが、きっと上級神はこれまで以上に苦戦する。

 それを乗り越えられたなら、上級神の力を得られたなら、教えても良いと思う。


「まずは、残り三体の下級神。上級神の誰を狙うかは、後で考えよ?」

「……わかった」

「ふふ、ありがとね」


 そっとリベルの背中から離れて、リナは最後に少しだけ頭を撫でていく。


「おやすみ、リベル」

「ああ。おやすみ」


 リベルは起きていたが、なるべく音を立てないように扉を閉める。


「話したか?」

「うひゃぁっ!?」


 不意に隣からゾーシャに声をかけられて、割と本気で驚いた。

 これでリベルまで出てきたら厄介なことになるが、幸い聞こえなかったようだ。


「……言ってない」

「言ってないのかよ!明らかにそういう雰囲気だったじゃないか!」

「……だ、だって……言ったらリベル、幻滅するでしょ」

「はぁ……したとして、あいつが離れることはないと思うぞ」

「そう?」

「リベルに悪いと思ったから言葉は選んでたけど、あいつ相当盲目的だぞ。あれはもうリナ以外に生きる理由がないんじゃないかって思ったな」

「そ、そんなに……?」


 普段のリベルは無表情で何を考えているか分かりにくい。

 最近は少し笑ったりするが、それだけだ。

 そんなリベルが、リナに盲目的?

 従順なのは認めるが、にわかには信じられない。


「まああたしはなんでも良いけどな。明日には出るのか?」

「そうね。私、結局こっちの大陸は合わなかったし」

「飯の度に嫌な顔してたよな!」

「異形なんか食べたくないわよ……」


 そのために野菜の栽培部屋とかも作ってあげたのに、葉っぱは嫌いだ!とか言って滅多に食べない。


「あ、そうじゃんまた飛竜用意してもらわなきゃ」

「じゃああたしは離れてるな」

「もう寝てて良いわよ?てか聞いててもつまらないだけでしょうし」


 ゾーシャがどうするかは気にせず、リナは適当に通話を繋ぐ。

 時計の針は深夜の二時をさしていたが、まあ関係ないだろう。


『なんだよぅ……ぼくだって寝てるんだけど……』

「あらごめん。ねえ?あなたが来てくれないせいで飛竜が一匹死んじゃったわ。私もストック一つ使うことになったし、これって誰が悪いと思う?」

『……大海神じゃないかな』


 正論やめい。


「……私としてはー、もうあんな危険な思いしたくないのよねー?リベルも結構危なかったみたいだし、あれ以上間違ったら誰か死んでたと思うのよねー。叛逆者なんて稀有な存在失えないしー、これはもういい加減あんたが来るしかないんじゃないかなーって、思うんだけどー?」

『……次どこいくの』

「そっち」

『……』

「いいのかなー?ルイナだって叛逆者は特別視してたと思うんだけどなー」

『うがぁっ!もういいよわかったよっ!じゃあ今回だけだよっ!?今回だけ特別に、時空歩道開けてあげるから!それでいいでしょっ!?』

「頑なにこようとしねえじゃん……」


 まあ安全に変わりはない。

 それでいいと言えば、なぜかぷんすかしたまま通話が切れた。怒ってるのはこっちなんだが?


「はあ、マジ次会ったら一発殴ろ」

「はは……まあほどほどにしてやれよ」

「一発はほどほどよ。あー疲れた。私ももう寝よーっと」


 かなり遅くなったが、今日くらい昼まで寝ててもいいだろう。

 ゾーシャもあまり眠らなくていいとはいえ、それは必要としないわけではない。

 お互いにおやすみーと言い合って、リナもベッドに入る。


「なんか、やっぱり忙しくなってきたな……楽しいけど、疲れる……」


 目を閉じれば、すぐに眠りに誘われる。

 体は変わっても、精神的な疲れは変わっていなかった。

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