表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
二章 焦土の大陸編
35/362

13話 再会

「まずは炎の神討伐おめでとうございます、と言ったところでしょうか」


 黒寄りの灰色の世界に、リベルはまた来ていた。

 今は結界の中ではないはずなのだが、この人はどうやってリベルを連れてきているのか。


「連れてきているのではありませんよ。私が介入しているのです」

「……?つまり、どういうこと?」

「そんな魔法もあるって思ってくれれば良いです。私の方もあなたの方も、あまり時間がありませんので手短にいきましょうか」


 前は混乱していてよく見ていなかったが、ベールに向かって目を凝らしてみると、金髪で女性らしいということはわかる。


「そ、そんなに見つめないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか……!」


 その女性が自分の体を抱いてモジモジと揺れる。

 なぜだろう。ちゃんと少女らしい反応なのに、どこぞの変態と同じ匂いがする。


「……嫌なことを言いますね。まあ良いです。それであなた、叛逆者のことはどこまで理解できましたか?」

「……なんで」

「だからその問答はしません。面倒なので」


 キッパリ切り捨てられると、これ以上踏み込めなくなってしまう。

 それになぜか、この少女からは神以上の圧のようなものを感じた。


「……ほとんどわかっちゃいない。でも、ちゃんと使えれば神相手なら負ける気はしない。あと回復能力があるのはありがたいな。自分だけじゃなくて、他人を治せるのも」

「ふむふむ。まあ順調、と評価して良いんですかね。正直今は崩壊の方が速そうですけど、そちらは私たちの力でなんとでもなりますし、今は任せきりでも良さそうです」

「……なあ、さっきからなん」

「だから」


 ほんの少しベールが透け、艶やかな口元だけがはっきりと見える。

 その口は楽しげに笑っているのに、声には全く優しさや暖かさがない。


「あなたは何も知らなくて良いんです。知ってしまったらきっと……」

「きっと?」

「……本当の救いにはなれません。まあいずれお話できると良いですね。会うことはあるでしょうが、こうして”裏側”のお話をすることは、ないと思いますので」

「……裏側」

「ふふ、少し喋りすぎましたかね。これ以上は私の負担になるので、一方的に切らせていただきます。それでは」


 何から何まで、自分優先な少女だった。




 リベルは一時間ほどで目を覚まし、とりあえずゾーシャの家に戻ることになった。

 黒と灰色の世界のことは、朧げにしか覚えていない。

 なのでそちらはあまり気にせず、これからはリナのところへ行くために動く。

 あの叛逆の翼で空でも飛べれば良かったが、どれだけイメージしたところで生えてくることはなかった。


「なんだか砂みたいなんだぞ」

「細かいのは認めるけど砂って」


 頑張って出せるのは本当に黒い靄程度で、色々試していたのを眺めていたゾーシャにちょっと失礼なことを言われた。

 叛逆者としての力は、まだまだ制御できそうにはない。

 一方で炎の力、まあ火属性魔法だが、こちらは従来通り使えるようになった。

 また魔導神に技などを教えてもらえれば、そこらの人間よりは遥かに扱えるようになるだろう。


 移動に関してはワイヤーを出したかったが、あの休息も最低限のものでしかなく、体力が全く回復していなかったためにやめておいた。

 それになんだか、リナの方の戦いはもう終わってしまった気がする。

 叛逆者としての面が、大海神はもう暴れていないと判断していたのだ。

 だから歩いてゆっくり戻っていると、不意に地面に影が落ちる。

 最初から太陽の光が遮られているような焦土でこんな現象は珍しいので、思わず上を見上げるが、そこにはもう何もいない。


「オニヤンマとかもいるんだぞ」

「不吉なこと言わないで」


 絶対に想像がつくサイズではないので、こんな状態で出会いたくない。

 また少し歩いて、ようやくゾーシャの家が見えてくる。

 相変わらずの工場に結界だが、あの戦いの後だと物凄くここが安心できる。

 ただ気掛かりはあの謎の世界と少女か。


「ゾーシャ、なんか暗くて灰色っぽい世界って行ったことあるか?」

「消滅大陸か?あたしはないんだぞ」

「……大陸……?いや、あれはなんか違う。この結界と同じような色で、何もない世界」

「何もない……うーん、あたしにはわからないんだぞ」


 ゾーシャは知らないようだ。

 リナなら何か知っているかもしれないが、あまり変に心配はかけたくない。

 結界を潜ってみるも、特に何かが起こるわけではなかった。

 だが気のせいかもしれないが、なんだか誰かの笑い声が聞こえた気がする……?


「やーっと帰ってこれたんだぞ……」

「また装備もらってもいいか?多分、リナのとこに行くにも色々いるだろうし」

「それくらいは構わないんだぞ!」


 そんな話をしていると、また地面に影が落ちる。

 ここ結界の中じゃあ……?なんて思ってると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「みっけたー!!」

「うわっ?」


 どーん、なんて土煙を立てて着地したのは、緋色の髪に銀の翼を生やした少女。


「はあ、天罰ジャミングしながら飛ぶの疲れた」

「お、リナじゃないか!」

「ん?あら、ゾーシャも一緒だったの。そういやここってゾーシャの家だっけ」


 なんか呑気に再会の挨拶を交わしている。

 まあこの二人も旧知の仲で、リベル以上に会ってないんだろうからそれは良いんだけども。


「……リナ」

「ん?」

「……無事、なんだな」

「あったりまえでしょ〜?なに、この私が、大海神如きに殺されるとでも?」


 自慢げに、自分を誇示するように笑うその姿は、紛れもなくリナだった。

 だけど少しだけ、無理をしているようにも見える。


「……でも、無傷でいられる……?」

「……ちょっとくらい、問題ないわよ。私すぐに治せるし」

「リナって確か傷つきにくいけど一回」

「あーはいはいあんたはちょっと黙っててねー」


 ゾーシャは何を言いかけた?やっぱり傷ついていたんじゃあ……?

 しかし心配させまいとするリナは、ゾーシャの口を塞いで何かを耳打ちすると、リベルに疲れの滲む、それでも優しげな笑みをふっと浮かべる。


「何よ。そんなに疑う?私はすっごく強くて、あんたじゃ想像もできないようなこともできるんだけど?」

「……だろうな。でも、やっぱり気になる。なんかリナ、無理してそうだし」


 むぐ、と変な声が危うく出るところだった。

 誤魔化しも兼ねて大きくため息を吐くと、リナはちょっとだけ腕を持ち上げて、リベルを受け入れるようなポーズを取る。


「私は、この通り無事。なんの問題もない。なんだったら触って確かめてくれても良いけど?」


 敢えてリベルの意識を逸らすように挑発してみる。

 また頭を撫でられるくらいなら、帰ってきた感じがあっていい。

 なんて考えているが、もう忘れたのか。リベルの言動は、いつだって予想の斜め上だ。


「っ!?」

「……確かに、なんともなさそう。……よかった」


 リベルはリナを正面から抱きしめ、その背中を手で撫でることで無事を確かめる。

 これで全身ぺたぺた触ってたら絶対ぶん殴られているので、リベルの選択はリナの挑発を真に受けた中では正解だろう。

 そしてそんな抱きしめられて背中を撫でられているリナは、驚きと気恥ずかしさで完全に硬直していた。


「おかえり、リナ」

「っ……」


 耳元で囁くような言葉に、リナも我に返る。

 そっと手持ち無沙汰になっていた腕を、リベルの背中に回す。


「……ただいま。心配かけちゃったわね」

「それは、いい。俺はどうせ、足手纏いだったんだろ?」

「……そうね。今のあんたじゃ、あそこにいてもできることはなかったかな。でも」


 回した腕に力を込める。小さな手で服をきゅっと握る。


「リベルがいてくれたら、きっと楽だったんだろうなって、思った時は何度かあったよ……」


 それは、精神的なもの。

 一人だったからこそ一度死ぬなんて選択を取れたが、二人だったら、もっと別の道も選べたんじゃないかと思う。

 それはリベルがいなければ考えようとも思わないし、自然とリナに生きようと思わせてくれたはずだ。

 だから今回は、トータルで見れば失敗だ。


「次がないに越したことはないんだけどさ、またこんなことがあったら、今度はリベルも一緒に戦ってもらうかも」

「ああ。もちろん、俺も戦う。絶対に、リナは傷つけさせない」

「ふ、ふふっ、まだリベルには無理よ。大丈夫。ちゃんとやれば、死んだりなんかしないんだから」


 よしよしとリベルの背中を撫でて、リナは体を離す。

 ハグも悪くはないが、やはり物凄く恥ずかしい。


「炎の神勝てた?」

「ああ。この通り」


 リベルの手からは、小さな火種が出ていた。


「ん、えらいえらい。ゾーシャもありがとね」

「お、おお、このタイミングで来るのか。まあ、祭壇であたしがしたことなんてたかが知れてるが、リベルはすっげー強かったぞ!」


 ゾーシャはあまあまオーラからいきなり話しかけられても、しっかり空気を読める。

 どこかの世間知らずなお嬢様とは違うのだ!


「リナが色々置いてったって兵器、めちゃくちゃ強かったけど壊しちゃったんだよな」

「ん?あぁ、なんかあったっけ。あれプロトタイプっていうか、こっちなら暴発しても良いんじゃね?ってやつばっかだから、まともに機能してよかったわ」

「「……」」


 ゾーシャすら知らなかった真実。

 そんな恐ろしいもの渡すなよと、声高に叫びたかった。


「ああでも最低限使用者は守るわよ?流石に人に渡してるんだし、ゾーシャを傷つけたいわけじゃないからね」

「「あぁ、そうなのか……」」


 この歩く兵器さんにも人の心があったらしい。本当に良かった。


「ちなみになんだけど、俺が使ったよくわからない手袋みたいなの、つけた瞬間に右肩まで食われて、最後には独立して戦ってたんだけど。ついでに喋ったんだけど」

「手袋……?ああ!成長型人工人間プロテクターね。あれ独立まで行ったの。あんたすごいわねぇ」

「???」


 人工人間とかそこだけ切り取ったらだいぶ危なそうな単語が聞こえるが、リナは一体何を生み出したのだろう。


「あれって装着者の一部に侵食して人間のデータを集めるのよね。それで思考パターンとか行動パターンを記憶、ついでに倫理観まで獲得できたら良いなってやつの試作品なの。独立させるには普通の人間だと数十年かかるんだけど、あんたどんな構造してんの?」

「……俺が聞きたいんだけど」


 改めて説明されると随分とゲテモノである。

 よくあれで戦ってなんともなかったものだ。


「まあほら、無事でよかったねってことで」

「……なんか腑に落ちない」

「ゾーシャ、悪いんだけど二部屋貸してもらえる?」

「部屋ならいくらでも余ってるぞ!」


 釈然としないリベルはリナに背中を押されて、ゾーシャの家に押し込まれる。

 ゾーシャが夜食でもどうだ!?と聞いていたが、それは二人して断った。

 リナもここの食事がどういうものか知っているらしい。


「まあ今日は疲れたし、一晩休んで明日出発しましょうかね」

「ああ、俺も疲れた」


 とても長い一日だったが、終わってしまえばあっという間だった。

 布団に入ったリベルは、リナが帰ってきた安心感もあってすぐに眠りにつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ