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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
二章 焦土の大陸編
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12話 叛逆の意思

 リベルには、戦う強さが足りていない。

 神を取り込み我が物としても、それも結局借り物の力。

 十全の力を引き出すには足りず、優位であるはずの神にも負ける。

 だが人間は、純粋な戦闘力だけで力を測ることはできない。


「ここで止まるわけにはいかない!」


 あの人には届かなくても。あの神に届かなくても。

 それでも。


「俺は、叛逆者だッ!」


 ゾワリ、炎の神の神域に、何か異質なものが混ざる。

 ドクンと心臓が跳ね、リベルの視界が明滅する。

 感覚はあった。現象はあった。

 己の中に眠るものは、最初からリベルの力だった。


 ドッ!とリベルの体から、黒い瘴気が溢れ出る。


 それは叛逆者としての絶大な力。

 神核を見た時、我を忘れるほど体を突き動かす物の正体。

 一度は風の神を遠隔で喰らおうとし、一度は敵ではない魔導神を狙った力。

 それを今、自分の意思で、操作する。


「叛逆の翼」


 ザン、と光沢を持つ黒い翼が顕現する。

 悪魔のようにも見えるが、白い炎を照り返す翼は、見る者によっては美しいとさえ思うだろう。

 そしてもちろん、ある者には言い知れぬ恐怖を与える。


「ゴアアアアァァァァァァァァァッ!」


 白い炎が集まり固まりその圧倒的な敵を狙う。

 全てを焼き滅ぼす炎がリベルを飲み込むが、翼を一度動かすだけで、永劫を語る炎が霧散する。


「もう多分、何も効かないと思うぞ」


 空中から、あるいは地中から、赤黄青白と色とりどりの異形が顔を出す。

 叛逆者の脆弱性を狙った攻撃。

 無数の手や牙や触腕や炎が殺到するが、リベルは右手を思い切り振り抜くだけで全てを塵に変えてしまう。


「なんでお前から生まれた異形に効かないのか、ちょっと疑問だったんだが」


 リベルの手には、今にも消えそうな黒い剣が握り込まれていた。


「俺が弱かっただけなんだな」


 リベルの力が弱いから、根幹の神の力を砕けなかった。

 形状を維持するための核を壊さなければ、あの異形たちは死ぬことがなかった。

 きっとその核さえも不定形なのだろう。

 だから消滅なんて大仰なことをしなければ、ラインを繋いだり即時再生なんてことをしたりするのだろう。

 だが、わかってしまえば。


「やっぱ神は神だよ。結局全ての攻撃にその影響が出る。今の俺には、お前の行動全てが無意味だ」


 黒い翼で空を打つ。

 音を置き去りにし、衝撃波を残してその体が一気に加速する。

 的確に神核の位置に黒い剣を突き出したが、ギリギリのところで炎の神はその肉体を崩して避けた。

 そして獄炎が立ち上る。

 辺り一面を焼き尽くす業火の中で、リベルは何食わぬ顔で立っていた。


「断絶」


 足元の地面に剣を突き刺す。

 たったそれだけで、地獄の炎も鳴りを潜める。

 叛逆者としての力を地面に流すことで、地表に炎を発生させることを封じたのだ。

 だが今度は炎の神の姿がない。

 白い炎の壁も消えていたために、どこかへ置いてきたと思ったゾーシャとあのアーマーも確認できた。

 ゾーシャの方はもうほとんど回復が終わっており、意識さえ戻ればすぐにでも動けそうな状態にある。

 だがアーマーの方は、何があったのか腕がもげて動きも鈍っていた。


『戦闘終了後、五分で破壊されます』

「……自滅機能か」


 もうこれ以上は動けないと判断したのか、自分の意思で朽ちていくようだ。

 少し悲しいが、リナに設定されたことだ。これは仕方ない。

 そして意識が一瞬外へ向いた瞬間に、ゾーシャの体が炎に包まれる。


「ゾーシャ!」


 焚き火のような炎が揺らめいて、歪んだ笑みのような模様を描き出す。


「なんて、焦る必要もないわけだけど」


 そもそもゾーシャは何で回復していたのか。

 それすらわからないようなら、さっさとトドメを刺してしまった方がいい。

 ゾーシャの意思に反して指が地面に突き立てられると、そこから黒い靄が地中へと移動していく。

 その下の状況は見えないが、仲間を人質にしようとした卑怯な炎は消えていった。


「隠れたって無駄だけどな」


 今度は地面から黒い炎が吹き出し、地中に隠れた神核を炙り出す。

 叛逆者の怒りの炎に追い立てられるように、もう一度リベルの目の前に炎の神が姿を現す。

 下級神の表情はわかりにくいが、どこか焦ったような顔をしている気がする。


「大人しく死ね」


 密度の濃い闇がリベルの腕を覆う。

 神核へと伸ばしたそれを拒むように、炎の神は命を燃やして熱波を生む。

 叛逆者に熱自体は効かないが、これによって動かされた風は無効にできない。

 一度押し返され、リベルは背中の翼でバランスを取る。


「風なら俺の方が得意だぞ」


 翼をはためかせ、こちらからも風を生み出す。

 黒い粒子の混ざる風は、熱風を押し返すだけでなく炎の神を薄く薄く削り取っていく。


「ボ、アアアァァァァァァァァァ!」


 炎の神は、酸素を取り込み無理矢理その体を巨大化させた。

 今際の際の一撃は、確かに黒い風如きでは止まらない物だろう。

 最大最悪の炎の魔神の拳は、触れれば即死、衝突した地面も干上がらせ、厄災を振り撒く最凶の拳。

 しかしやはり、相性というのはどこまでも残酷だ。


「もう終わりにしよう」


 リベルはゆっくりと右手を翳す。

 それが魔神の拳を捉えた時、結果が生じる前にその拳を消しとばす。

 後に残ったのは空気が破裂したような音と、腕を失った炎の神。

 もう力を使い果たした炎の神は、腕を再生することもできず、片腕だけをだらりと下げていた。


「いい加減にもらうぞ、その神核」


 いきなりトップスピードを叩き出し、神核へと腕を伸ばす。

 炎の神もどうにか残された腕を神核の前に構え、リベルを食い止めようとした。


「無駄だ!腕ごと貫くッ!」


 宣言通り、魔神の腕は一撃で消滅させられ、減速させることのできなかったリベルの手が、その透明なガラス球を掴み取る。

 その瞬間、魔神の断末魔と共に爆発が広がり、神域化されたダンジョンを駆け抜ける。

 それは最後の悪足掻きだったのかもしれない。

 弱ったゾーシャならやれると思ったのかしれない。

 しかし最後の仕事を果たしたアーマーにその爆風は防がれ、炎の神は神域と共にこの世から消失した。


「……勝った」


 ダンジョン化していたお社の地下は、元はそんなに広い場所ではなかったようで、ちょっとした小部屋のような場所に台座があるだけとなっていた。

 本来であれば、ここに炎の神の神核が封印されていたのだろう。

 リベルの叛逆者の力も役目を終え、空気に溶けるように消えていく。

 ゾーシャからも黒い靄が離れていけば、当のゾーシャが目を覚ました。


「ん……、ここ、は……お、リベル、もしかして終わったのか?」

「……ああ。勝ったよ」


 殺風景になった地下を見やり、ゾーシャはにっと笑ってみせる。


「流石覚悟を決めた男は違うな!」

「覚悟……まあそうかもな」


 怒りに衝き動かされたようなところもあるが、まあ覚悟と言っても良いだろう。

 何しろそれは、絶対に神を殺すという、叛逆の覚悟なのだから。


「これからどうする?すぐにでもリナのところに行くか?」

「そうだな。まださっきのができれば……」

「リベル!?」


 不意に、リベルの体が前のめりに倒れた。

 これに焦ったのは当人ではなくゾーシャの方だった。


「ど、どうした大丈夫か!?もしかして、相打ちになっちゃったのか?」

「……いや、そんなことは……」


 すぐに起きあがろうとするが、体に力が入らない。

 別に体が回転しているわけでもないのに、視界がぐるぐると回っているように見える。

 きっとこれは、強すぎる力を使った反動。

 そして炎の力を定着させるために、休息を求めている。


「悪い、しばらく、動けそうにない……」

「そ、そうか。大丈夫なんだな?」

「ああ、そこは、大丈夫だ……少し休む」


 リベルが目を閉じると、すぐにゆったりとした呼吸音が聞こえ始める。

 それだけ、休みを欲していたのだ。


「よ、良かったんだぞ……もしリナのお気に入りが死んじゃったら、あいつ絶対怒るからな……」


 ゾーシャが必死に大丈夫かと問いかけていたのには、そういう理由もあった。

 リナは滅多に人を傍に置かない。

 置いたとしても、一時的に利用するためだけの場合が多い。

 それなのに、リナから色々と教わって、絶体絶命の場所から遠ざけたような人が、リナに気に入られてないわけがないのだ。

 そんな大事な人を失ったら、あの短気で勝ち気な少女がどうなるかわかったもんじゃない。

 それに巻き込まれると碌なことにならないので、ゾーシャは少しヒヤヒヤしていたのだ。


「でも、リベルはすごいんだぞ。単独で炎の神に勝って、瀕死のあたしを助けるなんて」


 リナに気に入られるのも頷ける。

 あの神を完全に殺し、こうして生きているのだから。


「よし。後はあたしに任せるんだぞ。守ってもらった分は、きっちりお返しするからな」


 近くに落ちていた大剣を拾い上げると、ゾーシャはそれを肩に担いでリベルの隣に立つ。

 それからリベルが起きるまで、ゾーシャは一歩も動かずにそこで見張りを続けていた。

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