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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
二章 焦土の大陸編
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1話 次の目的地

 弱い日差しの降り注ぐ中、リナはベンチに腰掛けてリベルの練習風景を眺めていた。

 そしてリナの隣には魔導神がいて、リベルの相手は魔導神の幻影だ。


「よくあんなぶっ放して魔力持つわよねぇ……」

「今まで魔法を意識すらしていなかった人があれは異常ですの」


 リベルは先ほどから、水と風の魔法を何発も様々な場所から放っていた。

 水魔法の威力が高いのはまあ知っていたが、風魔法も最初から高水準で扱える。と言うより、魔導神が見せたものをそのまま撃っている。


「彼は、模倣癖でもありますの?あれだけの魔力があるなら、ほぼ全ての魔法を撃てるはずですのに」

「まああいつ、記憶喪失だし」

「……初耳なのですが」

「……やっべ」


 どうせ本人も訊かれたら答えそうなものだが、それでも手がかりもなしにバレることではない。

 本人でもないのに喋ってしまったことで、リナは気まずそうに目を逸らしておく。


「……後で謝っておくべきですわね。そっちは気にしないであげるとして、『叛逆者』はどこまで使えますの?」

「そーいうこと訊くぅ……?」


 リベルの強さではなく、『叛逆者』の強さ。

 しかも理想の話ではなく現実としてどこまで戦えるかの話。


「神のあんたにはあんま言いたくないけど、多分リベルとほぼ変わらないわよ。何せできることはリベルの限界に引っ張られてる。まぁ一回限界超えてるのは見たけど」


 神域を埋め尽くす闇。

 あれさえ自由に扱えれば、ほぼ全ての神を葬ることはできるだろう。

 しかしそんな明確な脅威を魔導神に伝える気はない。

 そして魔導神は、こんなことを訊いた理由に繋げていく。


「悪魔と話をしましたの」

「……ッ!!」

「そう警戒しないでくださいまし。神が悪意を内包するとでも?」


 リナがいきなり臨戦体勢を取るが、魔導神は至って冷静だ。

 だからリナは一つ試すことにした。


「……ここにさ、リベルについてまとめたものがあるんだけど」

「!? ちょ、み、見せてくださいまし!」

「よし。あんたは正常」

「…………え、本当はありませんの?」

「……あるけど、あげない。これは私が知ってればいいリベルだから」


 もう一度隣に座り直して、顔を背けておく。

 基本的に好奇心の塊の魔導神は、本当に興味のあることであれば他の全てを捨ててでもそれを拾いに行く。

 たとえその行動が無様で惨めだったとしても。


「いい加減に母親か恋人か決めておいた方がいいと思いますの」

「……お姉ちゃん」

「え?」

「リベルに言われたもん。私は姉か妹だろって」

「……では大きな括りで家族、と」

「ねえそれ全部ひっくるめてない?気のせい?」


 受け取り方次第では、多分全部取れる。恋人だって、結婚してしまえば家族だ。


「こほん。気のせいですわ。それより、あなたの変な確認作業のせいで物凄く話がズレてますの」

「あ、うん。で?悪魔がなんだって?」


 魔導神は、自分の力についてはある程度省いた上でやり取りを全て伝えた。

 悪魔が神に接触を図っていること、一番上位の悪魔が出てきたこと、神域を反転させてくること。

 そして、


「動乱の時代だそうですわ。神だけでなく、悪魔も出てくるそうですの」

「……嫌なもんね。どっちも碌なもんじゃない」


 己が欲望のためであれば、他全ての犠牲をも厭わない。

 神と悪魔という明確な区分があるとはいえ、そこだけは一貫して言える。

 ただ悪魔は人間にとって害であり、神々は比較的自分の世界で遊んでいるだけのこと。

 神核の有無に関わらず、悪魔と神は元々線引きされている。あるいは、神核を与える存在がそうしているのかもしれないが。


「あなたはどうしますの?」

「あん?」

「ですから、前に渡した情報と、今回の情報を含めて、ですわ」


 前に渡された情報にあったのは、風の神が魔導神でも抑え込めないくらいに膨れ上がっていること。と、それに付随した神々の暴走の危険性である。

 つまり、魔導神とていつまで『人間の理性』が表に立っていられるかわからないということだ。

 だがきっと、暴走は下級神から始まっている。

 より正確に言えば、力の弱い神から。


「あんた、自分の寿命わかんないの?」

「寿命ってあなたねぇ……、神と言えどそんなものわかりませんわ。それに、たとえ一度暴走したところで、叛逆者がいれば鎮静化できるのでしょう?生命神の時のように」


 あれは、鎮静化したのだろうか。

 そもそも生命神は年中狂ってる輩なので、あれを基準にするのも間違っている気がする。


「そうかもしれないけど、やれるんなら殺すわよ?だってそっちの方が後に繋がるし」

「……やっぱり他人には合理的ですわよね」

「あ?どういう意味?」

「叛逆者が異質という話ですわ」


 はぁあ……と大きくため息を吐いて、魔導神はまたズレそうになっている話を戻す。


「一先ずは下級神からやるのでしょう?次はどこに行くつもりですの」

「え?あー、う〜ん……どう、しよっかぁ……どこもやだなぁ、なんでまともな大陸ないの?」

「一つはあなたのせいでも」

「げふんげふん」


 知らない見てない聞いてないっ!!とリナは自分の耳を塞ぐ。

 断片的に伝えるとするなら、小石程度の体積に、天まで届く火柱を生み出すほどの威力を込められる人が本気を出したら、という話だ。

 まあそれは置いておいて。


「残りは四体でしょ?炎、地、光、闇。光と闇はちょっと違うから除外して、やっぱ基本から攻めるべきかしらねぇ」

「それが無難だと思いますわ。彼も、戦いに慣れているわけではないでしょう?」


 二人してリベルの方に目を向ければ、彼の足元から巨大な氷柱が地面から生えて幻影の魔導神を追っているところだった。


「……ねえ、氷属性って複合でしょ?風と水だけでって理論上の話じゃなかったの?」

「理論が組めるならできるのですが……異常なのは認めますわよ。実際、氷属性は熱量操作に分類されますし」

「難しい話やめて?」


 魔導神からしたら基礎教養だが、リナには専門用語にしか聞こえない。


「さっきの話ですけど、もう残っているのは過酷な環境しかありませんわよ」

「焦土の大陸と消滅大陸か……」


 ちゃんと人間が付けた名前もあるのだが、そんなものがない時代を知っている者たちの呼び名はそれだった。

 焦土の大陸は、植物が育たない環境故に並の生物が生きることを許されない魔境。

 消滅大陸はそのまま、知的生命体によって滅ぼされた大陸である。


「わたくしの生まれ故郷でもありましたわ」

「一応私も……」

「ではとんだ親不孝ですわね」

「うぐ……だからこうしてんじゃん……」


 リナが人間側についているのは、一つやらかしてその罪を償えと言われているからだ。

 でなければこんな面倒事は請け負わない。


「過去を清算しに行きますか?」

「……まだ無理。直視できないわけじゃなくて、リベル的に」

「また、頼るわけですか」

「それの何が悪い。少なくとも、できない量を一人で抱え込むよりはよっぽどマシだと、私は思ってるわよ」


 ピリピリしてきた空気を変えるのは、休憩を取りに来たリベルだった。


「何の話?」

「……次の目的地の話。色々考えたけど、焦土の大陸に行くわ。いい?あそこは魔境だから、絶対に私から離れないようにしてね」

「いつも通りだろ?大丈夫だ」


 ふうと一息ついてリナの隣に座るリベルから目を逸らすように、リナは魔導神の方を睨む。


「(まだ言うんじゃないわよ)」

「(あなたがきっちり責任を果たすと言うのであれば)」

「(……わかってるわよ)」


 魔導神から目を背けると、そこにはもちろんリベルがいる。


「その、焦土の大陸?ってとこには何がいるんだ?俺も行くってことは神がいるんだろ?」

「そうよ。あそこにいるのは炎の神。これまで通りに行けば、火の中で強化されて炎を扱ってくる下級神ね」


 水、風と来て次は炎だ。

 地中に水脈があるとか、常に風が吹いているとかで強化されっぱなしだったが、炎は自然発生しない。

 これまでよりは、戦いやすくなるだろう。


「ちなみに、焦土とは言っていますが炎の神とは関係ありませんの。あそこは最初から生き物が生きられない環境ですから」

「下級神に大陸一つ焼き滅ぼす力はないしね」


 それでも場所は魔境。

 悪魔の棲家だとか魔王の発生場所だとか、とんでもない噂に使われやすい場所でもある。

 それだけ謎と危険が多く、海を渡れなくなった時代でも教訓として残されているわけでもあるが。


「俺が行って良い場所か?」

「そのための私がいるんでしょうが。私は魔境で暮らしてた時もあるし、そんなに心配ないわよ」


 生き物が生きられないと言っていたのに暮らしていたとはどういうことか。

 リベルが若干引いているのは気にせず、リナは仲間に久しぶりの連絡を取る。


「あ、もしもし?足が欲しいんだけど」

『また中型?家で良いなら送っておくけど』

「あー……あんた来れない?これから焦土行くのよ」

『……嫌だよ。あそこの空気美味しくないもん』

「そっちだって変わらないでしょうに。まさか、ルイナがまだ起きないから行けないとかって話じゃないでしょうね」

『…………中型送っとくね〜』

「あっ、逃げんなオイ!」


 逃げられた。

 通信も一時的に繋がらない。


「あなたって、どうしようもなく厄介者ですわよね」

「うるさいなっ!!」


 怒りはするが、しかし否定できないのがリナの悲しいところだった。

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