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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
一章 魔導国編
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8話 反省会?

 三人は一度応接室に戻り、反省会のようなことをする。


「ていうか、あんた殴られた時点で降参してなさいよ」

「な、なぜあれくらいで降参しなければいけませんの。下級神程度とはいえ、あんなの傷の内にも入りませんわ!」


 ……反省会なんて有意義なものではなく、不満のぶつけ合いかもしれない。


「まあ、本当に殺し合ってたなら俺は既にここにいないだろ。だから、この結果に不満はない」

「……あんたの力ならわからないのに」


 なぜか、見ていただけのリナの方が唇を尖らせて不満を表している。


「本当に保護者ですわね。いえ、そこまで行くとブラコンの妹とでも言うべきですの」

「……お前、人間の生活に疎い割にはそういう言葉知ってんのな」


 言葉での言い合いには飽き足らず、二人の少女は取っ組み合う。

 ここはプライベートな空間なのでいくら暴れても問題はないのだろうが、ここで第二ラウンドを始められるとリベルが巻き込まれる。

 リナの頭を優しく掴んでソファに座らせておく。


「……建設的な話をしましょう」

「誰のせいだ誰の」

「……うるさいですわね」


 今回の非は魔導神にある。悪態を吐くだけに留めた。


「リベルさんの成長速度は目を見張るべきものがありますわ。あれだけの魔法を撃ち続けて燃料切れしないのもそうですが、何より相手に合わせて攻撃パターンを何度も変えている点ですの」


 リベルとリナが並んで座る目の前に、小さなテレビくらいのホロウィンドが現れる。

 そこには先ほどの戦いが映し出されており、リベルのフェイントや囮攻撃がピックアップされていた。


「まさかわたくしの還元をすり抜けられるとは、思ってもみませんでしたの」

「あ、それ。その還元ってなんなんだ?」

「……まあ、あなた方は完全な魔法職ではないので、特別にお教えしますの」


 還元魔導。

 魔法のさらに先にある叡智で以て、それ以下の魔法の全てを己へ還元する術式。

 神の世界の話で小難しくなっているが、要するに既存の魔法の全てを消滅させる魔法である。

 ただし、還元という名の通り消滅した魔法、というかそれを構築していた魔力は魔導神へと吸収されるわけだ。


「そして既存の魔法とは言いますが、この世界にある魔法は全て既存の魔法ですの。もしも魔法でわたくしを越えたいのなら、それこそ新理論か常識の埒外にある魔法を持ち出すしかありませんわね」

「そんなのあるわけ?」

「ないからわたくしは自信を持っていたのですわ」


 それが、超えられてしまった。

 まあその理由も魔導神の油断というか、本当はそんなに万能ではなかったという話ではあるのだが。


「……ただ先ほどのは理論値の話ですの。いくらか制約も存在し、その一つがわたくしを害せるほどの脅威を持つ魔法にのみ働くというものですわ」

「だから、血管にすら到達しない針は防げなかったと」

「そういうことですわね」


 つまり、圧倒的な破壊力だろうと一点に集中した殺人用の魔法だろうと、それが脅威であれば全て還元できるが、逆に雨を降らせるだけの魔法や、微風を吹かせる魔法を消すことはできないということだ。


「それと単純な物理攻撃には効きませんの。ですから身体強化などもある意味弱点ですわね」

「ふーん。ま、語ってる時点で克服してんだろうからそっちからは攻めないけど」

「……あなた理解力はとんでもないですわよね」

「”は”って何よ。それじゃあ理解力しかないみたいじゃない」

「事実では?」

「……ッ!」

「まあまあ」


 何度目かの取っ組み合いになりそうだったので、もうリベルが未然に防ぐ。

 あまりリナの怒っている姿は見たくない。


「話を戻しますと、魔法を極めて神に至ったわたくしにとって、神の時間は有り余っていたのですわ」

「で、堕落したと」

「……リベルさん、その人の口塞いでおいてもらえます?」


 頭に手を置けば無条件に大人しくなる。リナの美点であり弱点でもある。


「見える世界が変わったことでの魔法の研究にも興味がありましたが、まずは神として死なないための弱点の克服を急いだのですわ。結果として、神と徒手空拳で渡り合えるくらいには肉体も強化しておりますの」

「……もしかして鍛えれば私も……うぬぅ」


 どこかを見ていたリナは、頭上の手が撫でてくることで黙らされる。


「まあ、わたくしの力の誇示はこれくらいでいいでしょう。あなたにも弱点をとは言いませんが、これだけ喋ったのですから信頼してくださいまし」

「戦わないことに越したことはないな。俺としても、ここまでリナが噛み付く相手を殺したくはない」

「……ねえ、それだとこいつが私の遊び相手だったみたいじゃない。やめてよ?明確な敵なんだから」


 とは言いつつ殺気など微塵もない。

 向けるとしても細い体の中で強調されている部分だけだ。


「けど、プリムの方は違うだろ」

「……まあ、プリムは可愛いわ。え、あんたが死ぬとプリムも死ぬの?」

「……ええ。人格は別でも肉体は同じですから」


 一瞬の間が気になるが、器がなくなれば人格がどうのこうのの前に魂が消滅する。

 しかも伝承通りであれば魔導神だけが復活するので、そんなことはリナも望まない。


「ちゃんと必要な時には力を貸し与えますわよ」

「私が言った願いだっけ。そうね、どっかで呼ぶわ。多分必要になるから」

「あら、はかりごとですの?楽しそうですわね」

「……あんたも大概理解力あるわよ」

「神ですから♪」


 やっぱりこの二人は仲が良い。

 リナの謀とやらも気になるが、今の今まで何も言わないのだ。その時が来るまでは言わないだろう。


「さて、反省会としてはこんなところでしょう。昨日と今日の詳しいレポートが欲しければ出しますわよ?」

「あ、じゃあ貰っとく」

「ええと……お人形さんはこっちでしたわね」


 魔導神が少し小さめの耳栓のようなものを生み出す。

 それをリナが受け取ると、鼓膜を貫通させる勢いで耳に差し込んだ。


「リナ!?」

「うん?ああごめん。初めて見るとびっくりするわよね」

「……そういうことじゃない」

「あらそう?まあ電子データの取り込みとしてはこれが一番速いのよ。ネット経由でもいいけど、どうしても時間かかっちゃうしね」


 だから慣れておいてね、なんて当たり前のことのように笑う。

 これに慣れてしまうのは、果たしていいのか悪いのか。

 多分、耳からなんの躊躇いもなく異物を取り込むことを、普通の人間は是としないだろう。

 驚愕というか呆れというか、とにかく黙ってしまったリベルを置いて、リナはその中身を確認する。


「あー、ふーん……そーなんだー」


 なんだかはっきりしない声を虚空に向けていたリナは、どこか責めるように魔導神を睨む。

 いつもならきょとんとするか、むしろ煽るかのような笑みを浮かべる魔導神だが、今回ばかりは神妙な面持ちで頷いていた。

 リベルにはそこにどんなやり取りがあったのかはわからない。しかし、リナと魔導神が深刻だと思うような何かがあったのだろう。


「ねえリベル。今日、魔導神と戦ってみてさ、実際自分ってどれくらいの位置にいるんだろうって思わなかった?」

「まあ、確かに。魔導神は相当強いんだろ?手加減されてたとはいえ、何回か攻撃を当ててるからな。弱いわけじゃないと信じたいけど」

「んー、じゃあ、こっちの世界をちょっと見てみる?」


 嫌な予感がした。

 思わず目を逸らしたくなるが、リナは無情にも告げる。


「私と魔導神の戦い。多分見るだけでも世界は広がると思うのよね」


 殺し合いではないことはわかる。

 それでも、リナが傷つくかもしれないものを、二つ返事で見られるわけではなかった。

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