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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
一章 魔導国編
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7話 神の強さ

 今日も今日とて特訓だ。

 リベルも一度は満足していたが、改めて考えるとまだまだ弱い。

 リナの言葉が正しければ、神以外には脆弱性も兼ね備えているというのに、だ。

 だからリナの車に乗って、神殿まで向かう。


「なんかマジで保護者の気分……」

「同伴者?」

「あ、その言い方いいわね」


 なんてやり取りをしながら車は進んでいく。



「おはようございますわ、お二方」

「挨拶……神が挨拶……?」


 リナが変なところで驚愕しているが、それはまあいいとして。

 今日の魔導神はいつもと違った。何が違うかと言えば、お洒落をしていた。

 目立たないかと思いきや、帽子がアクセント、くらいには存在を主張している。


「気づいていただけました?」

「ああ。良いと思う」


 リベルの感想もまあ置いといて、本題に入る。


「今日は模擬戦でもやってみましょう」

「模擬戦?」


 とりあえずでやってきた応接室で、魔導神はそう言った。


「そうですの。昨日の段階である程度魔法は扱えるようになっているはずですし、対人戦をするのもありかと思いましたの」


 それから魔導神はビシッとリナを指差す。


「お人形さんなら、加減も容易いでしょうし、最初の相手として申し分ないはずですわ」


 リナは一瞬面倒臭そうな顔をしていたが、これもリベルを強くするためであり、加減がしやすいのも確かなので、まあいいかと答えようとしたところで。

 まず、リベルは魔導神が指を差していた腕を下ろさせて、


「リナとは戦いたくない」


 なんて言い放った。


「「……」」


 その沈黙は、驚きよりも納得の色の方が強い。

 守りたいなんて言葉は何度か聞いていたし、強くなる理由もリナのためだった。

 その守りたい存在と練習とはいえ戦えというのは、確かに酷な話なのかもしれない。


「……では、わたくしがやりますの。先に言っておきますが手加減してくださいまし」

「ん?あんたが手加減すんじゃないの?」


 何も知らないリナは、当然の疑問を口にする。

 魔導神は少し怯えるように片手をもう片方の腕にやりつつ、


「相手は、叛逆者ですわよ?何かの手違いでころっとやられても嫌ですの」

「初っ端抱きついたくせに」

「引き摺りますわね!全くもう!」


 意図しているかは別として、リナの一言で魔導神の恐怖もある程度和らいだ。

 昨日の一件を正しく理解しているのは魔導神しかいないので、これは考えすぎない方がいい類のものでもある。

 それから少しルール的なものを決める話し合いをして、リナも見学することになり、全員で修練場へ移動する。

 ルールとしては、リベルは水魔法以外使わない、叛逆者の力が出そうになったらすぐに離れること。魔導神は下級神程度の力だけに絞り、殺意は持たないこと。全体ルールとして殺すのはなし、どちらかが降参するまで戦闘は続行、ということになった。


「とりあえず以前と同じ環境ですの。お人形さんは邪魔にならない程度に寛いでいてくださいまし」

「ん、じゃあ適当に席作るわ」


 軽い調子でワイヤーを伸ばして壁に張り付くと、地上から三メートルほどのところに出っ張りを作る。

 それを椅子のような形に整えると、リナはそこに座ってこちらを眺めていた。


「……安定しているとはいえ神域だというのに……まあいいですの。それより、始めましょうか」


 言葉と共に魔導神の目つきが変わる。

 それだけで目に見えない覇気が空間を軋ませる。

 リベルは自分のことよりもリナの方を気にしていたが、これは模擬とはいえ戦いだ。


「余所見は禁物ですわよ」


 パチン、と目の前でシャボン玉のようなものが弾ける。

 だが見た目に反して起きた現象は絶大。

 真っ赤に燃える火焔がリベルの視界を埋め尽くす。


「っ!?」


 火には水を、というリベルの意思を反映して、周囲に洪水を起こしたような水が溢れる。

 炎の赤に染められていた視界が、完全に水に没する。


「無詠唱はいいですが、幻覚ですわよ」


 リベルの全身を飲み込むほどの水は、なぜか魔導神には到達せず、しかも魔導神が足を一度踏み鳴らすと全てが蒸発するように消え去った。


偶発の幻惑泡ランダムバブル

「ハイウォータージェット!」


 魔導神の言葉に被せるように、リベルの手から高圧の水が発射される。

 それは秒速四百メートルを誇る圧倒的速度の水の弾丸。

 しかし魔導神は一歩も動くことなく応じる。


「還元」


 たった一言、それだけでリベルの魔法は打ち切られ、魔導神の眼前に迫ったレーザーは虚空へと消え去る。


「開封」


 魔導神にばかり気を取られていたリベルは、空間全体に大量のシャボン玉が浮かんでいることに気づいていなかった。

 魔導神の声をトリガーに全てのシャボン玉が弾け飛ぶと、属性の入り乱れた魔法の壁がリベルを包囲する。

 炎の嵐、水の弾丸、風の刃、土の槍。

 それは基本属性と呼ばれる、誰もが一つは扱えるという属性の攻撃。

 魔導神のように魔法を極めた者にとっては、打ち消せて当たり前の攻撃たち。

 しかしそれも束になれば途端に解析も困難になり、このように面で制圧されてしまうと避けることも不可能になる。


「けど、これも幻覚……!」


 リベルは一歩前に踏み込んでまた腕を翳す。

 魔法を発動する構えだったが、その前に腹部に鈍痛が走る。


「ぐっ……?」

「これくらいの駆け引きもできなくてどうしますの」


 見れば、先端の潰された槍がリベルの腹に刺さっていた。

 おかげで衝撃が抜ければ痛みはそこまででもないが、ここまで手加減されると思うところはある。


「……俺だって」


 今まで片手しか使っていなかったリベルが、両手を構える。

 しかも地面に向けて水平になる形で。

 油断はないが何をされても打ち消せる自信のある魔導神は、あくまで静観を貫く。

 直後に、リベルの体が真上へ五メートルほど飛んだ。

 それは修練場として作られた空間の、光のある部分を僅かに超える高さだった。


「ジェット噴射での飛翔ですの?教えてはいませんが、できるなら結構」


 暗に、それで終わりではないだろう、と魔導神はリベルを挑発する。


「消し飛ばせ、スチームグレネード!」


 ドッ!と空中に発射されたのは、気化する直前の熱湯。

 原理は水蒸気爆発。ただしその前段階を魔法によって無理やり再現することで、爆発の規模、時間、やりようによっては指向性まで持たせることに繋げる。

 リベルは少しタイミングを調整することしかできないが、自分が巻き込まれなければ問題ない。

 直後に、空間を焼き尽くす爆炎が吹き荒れた。


「遡行・還元」


 爆発の轟音の中で、しかしはっきりとその声は聞こえた。

 そして、魔法の全てを司る神の命令によって、リベルの魔法はそもそも無かったことにされる。

 だが地上に降り立ったリベルは、焦りも驚愕もなく告げる。


「織り込み済みだ」

「……ふむ」


 魔導神の頬を、針のような水の刃が切り裂いた。

 血も流れないほどの浅い傷、されど魔導神の体に魔法で傷をつけたという事実は大きい。


「傷にも満たない傷……わたくしが無意識に脅威から除外してしまうほどの魔法、ですの?確かにわたくしの還元をすり抜けてくるようですが、この程度ではいつまで経っても勝てませんわよ」


 魔導神が頬の傷を撫でると、すぐに元の柔肌が取り戻される。

 確かにこれでは一向に切り崩せないだろう。

 だが、無効化できない事実があればいい。厳密に言えば、魔導神がそう思えばいい。


「……還元をすり抜ける針の雨、ですの?」


 汎用魔法に防がれない魔法の雨。

 今の今まで指先に魔法の起点を置いていたが、もうそんな制限は無かった。

 頭上から降り注ぐ細かい針の雨は、本来であれば薄皮を一枚削る程度。

 裁縫に使う針よりも威力の低い攻撃だが、魔導神はそれを嫌った。


「せっかく選んでいただいた服に傷がついてはいけませんの。……反重力アンチグラビティ


 シャボン玉以外の新しい魔法だった。

 それは本来自分に付与することで短時間の飛行を可能にする魔法。

 しかし魔導神は、それを空間に付与する。

 まるでスイッチで切り替えたように、正しい重力に従っていた針の雨が、遥か上空へと流れていく。

 こんなことは魔法を司る神にしかできない。

 いつものリベルならこれだけでフリーズしていたかもしれないが、今のリベルは少し違う。

 魔導神が新たな魔法を行使した、その一瞬の隙に、リベルは自分の手の中に水を固めた剣を生み出していた。


「……接近戦ですの?魔法職相手には正しい判断ですが、得物が魔法なのはいただけませんわ」


 踏み込み、肉薄する。

 意外と足の速いリベルに魔導神は少しだけ驚いていたが、それは人間にしてはの話。

 最初から、神の世界の速度には到底辿り着けない。

 剣を片手で振り上げているリベルをくまなく観察し、また別の魔法の囮に使っていないかを確かめる。

 何もないことを確認し、どう転んでも隙を生ませるようなタイミングで、魔導神は魔法の剣を消滅させる。


「還元」


 初めから無かったことにされ、リベルの手の中から不自然に剣が消えた。

 だが、その現象はもう何度も見ている。

 そして一度見たことを覚えられないほど、リベルは馬鹿ではない。


「だから」


 剣がなくなったことで空いたスペースを、埋める。

 拳をしっかりと握りしめ、最後の一歩を踏み込み全体重をかける。


「織り込み済みだッ!」


 ゴンッ!と骨と骨が衝突する音が炸裂した。

 最初から、考えていたのだ。

 消されるなら、消された後に攻撃できればいい。

 魔法は消せても、肉体には干渉できない。

 前衛職ではないということもあるのだろう。ギリギリ人間の範囲から飛び出るリベルの拳を受けて、魔導神は少し離れたところに倒れていた。

 よろよろと立ち上がるその頬には、殴られた跡があざになっていた残っていた。


「や、やってくれましたわね……」


 途中まではふらふらしていた癖に、完全に立ち上がった時には、既に傷は完治していた。


「これでも女の子ですわよ?」

「戦いなんだろ?」

「ええ、ええ、そうですわね」


 魔導神の瞳の奥がギラリと光った気がした。

 まずい、と思った時には、リベルの体は数メートル上空に吹き飛ばされている。


「あなたの力は知っていますの。神の力が乗った攻撃であれば、その全てを無力化し神の隷属を解除させる。……しかし、物質を消滅させるには至りませんの。で、あれば」


 宙を舞うリベルのさらに頭上に、白銀の物体が現れる。

 それはあまりに巨大な水晶。

 本来は魔法の媒体くらいにしか使われないそれも、肥大化させれば人を押し潰す質量兵器となる。


「むしろ無駄な能力を省ける分、こちらとしてはありがたいですわ」


 正しい重力に引かれた水晶が、リベルを押し潰さんと落ちてくる。

 思わず両手で受け止めようとするが、ここは踏ん張りの効かない空中。

 触れたことで魔導神の誘導は切れたが、そもそもの重量の違いによる落下速度は打ち消せない。


「ダメ押しに☆」


 なんだ、と思ってほとんど無意識に地上を見れば、鋭い刃が地面からびっしり生えていた。

 たとえ水晶を破壊したとしても、そのまま落下の衝撃と合わせてリベルを貫こうという算段か。


「……模擬戦ってここまでやんのかよ」


 悪足掻きにいくらか魔法を行使して、それでもやっぱり重力には勝てない。

 針のむしろと巨大水晶に挟まれ、リベルの姿は完全に見えなくなった。


「ちょっとやりすぎなんじゃないのー?」

「この状況を見てちょっとと言えてしまうあなたはおかしいですわよ?」


 頭上からの声には適当に答えておいて、魔導神は時間経過で砕け散った水晶の下を注意深く見ていた。

 まだリベルは降参とは言っていない。ならば、ここから急襲してくる可能性もゼロではない。


「……おっと」


 最後の最後の悪足掻きの水の剣でさえ、首を軽く振っただけで避けられてしまった。


「……降参する。これ以上は戦えない」


 地面に倒れたままリベルがそう言ったことで、魔導神はやっと張り詰めていた緊張を吐き出す。

 叛逆者と模擬とはいえ戦うのが怖かったのもあるが、それ以上に還元の術式を破られていたことで焦りが生じていた。

 魔法戦であれば絶対の強さを誇っていたからこそ、それを突破された時に次の一手がない。

 焦りはしたが、それを気づかせてくれたことへの感謝は大きい。

 魔導神が握手も兼ねてリベルを起こそうとした時、その目の前に割り込んでくる人がいた。


「リベル大丈夫?怪我してない?」

「あ、ああ。針の方は当たった瞬間に砕けたみたいで、圧迫された以上のことはない」

「そう、なら良かったわ」

「……」


 ビキリ、と魔導神のこめかみ辺りの血管が変な音を立てていたが、それに気づく者はいなかった。

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