16話 生命神
人質という名のルパシア救出はリナに任せて、リベルは一気に生命神の前に出る。
「……久しぶりじゃない叛逆者」
「前は色々好き勝手やられたが、俺も強くなったぞ」
「ふうん……確かに。羨ましい力……」
目で見るだけで何がどこまでわかるかは知らない。
それでも生命神は前からずっと叛逆者の力を欲し、あわよくば我が物にしようとしていた。
渡すつもりはないが、注意を引けるならそれに越したことはない。
「欲しいならくれてやってもいいけどな」
「本当!?」
「ああ」
そう言ってリベルは叛逆者の剣を無造作に投げつける。
咄嗟のことに反応できず、生命神の顔面に直撃した。
「がああああああっ!?痛い、痛い痛い痛いっ!これ以上私の顔が醜くなったらどうするのッ!?」
「いや自覚あるんかい」
後別に、生命神はそこまで顔が悪いわけでもない。
まあリナほど美しくもないが。
「やってくれたな……だがこれで私にも力の一端が……」
「あっ?」
「ふふ、ふふふふふふおぐあっ!?おご、ごぶあばばば」
顔に突き刺さっていた剣が飲み込まれていったかと思えば、その力が内側から生命神を食い破る。
毒でも飲んだかのように、いや実際神にとっては劇薬なのだが、体をビックンビックン震わせて倒れていった。
「……え、終わり?」
リナもちょうど木の枝の鳥籠を壊したところのようだし、なんだ呆気なく帰れるか、と思ったのだが。
「右へ一歩」
「はっ?」
ルイナからの指示に一応従えば、リベルがいた場所を真っ赤な木の枝が突き上げていった。
「ぐぶ、ごぼぼぼぼ、代償は高くついたが、その力、飲んでやったぞ……」
「いや明らか重症だが?」
あれが笑い声なら相当である。
あと口の端どころか全身から血の汗を吹き出している時点で、まともではない。
「ですがこれが生命神」
「え?」
「炎が苦手なら突撃し、毒が苦手なら全て喰らい、刃物に弱いならより面積を広げる。あらゆる弱点に対しその生命力で以て一度は死せども蘇り、その耐性を獲得する。ある意味において、全ての神よりおぞましく、私でさえ理解できない神ですよ」
「……」
なら、既にリベルの力には耐性を獲得してしまったのだろうか。
そうなってくると、極天の剣か、もしくはもっと強い叛逆者の力を引き出す以外に方法はないが。
「ああ大丈夫だと思います。叛逆者ってそういうものじゃないですし」
「……一応訊くけどなんで?」
「上級神って秩序ですよ?それを殺せる存在が、理の内側にあるとお思いで?」
「……なんか知らない話出てきたな……」
なら下級神は?属性である。
自分にも関係あるし、色々聞いておきたいことはあったが、さっきよりも黒さを増した木の根が襲いかかってきたために一度大きく飛び退く。
「ごぼっ、ぶくぶくぶく、よそ見してるなら本体を貰っちゃうわよ〜?」
「なあ、それ笑い声なの?頑張って喉の詰まり治した方がいいと思うぞ」
全体的に痰が絡んだような声だし、はっきり言って聞き取りづらい。
あれでは喋っている方も辛いだろうに、直せないのだろうか。
「直せないでしょうねえ。それが耐性を獲得している証ですし」
「えぇ……」
「でもだからと言って喉を掻っ切れば耐性が消えるわけじゃないんですよ?あれは無理をしている証拠でしかないですし」
「……」
上級神って、なんか面倒なんだな、と思ってしまった。
それを知ってか知らずか、またさらに黒くなった木の根や枝が伸びてくるので、時には切り落とし、時には横へ大きく飛んで回避しつつ、リナには無事だと伝えておく。
「向こうの避難は終わったようですね」
「ああ」
その会話に、生命神も愉悦の源泉であり人質でもあったルパシアを入れていた鳥籠を見て、ようやっとその惨状に気付いたらしい。
「なんてことっ!?私のお人形ちゃんをどこへっ!?」
「逃がしたよ。そもそもお前のじゃねえし」
「許さない許さない許さない!奪う奴らは、みんなみんな嫌いだアアアアアアアアアッ!」
「おわっ!?」
一気に木の根や蔦や蔓、そして木の幹までもが地中から生えてくる。
そのどれもが炭化したような黒さを誇り、既にリベルが触れた程度では止まらなくなっていた。
両手に極天の剣と叛逆者の剣を握ることでどうにか捌いていくが、圧倒的物量は人間の両手で抑え切れるようなものではない。
「手を貸しましょうか?」
「いらねえ!燃やし尽くせ、太陽神ッ!」
赤と白の火焔を身に纏い、触れたもの全てを灰に変える。
ルパシアのゴーレムでは焼き切れなかったものが一瞬で砕け散る理由は、単純な火力差が原因か。
とにかく全てを燃やした先に、今度は右半身が炭化した生命神が待っていた。
右目だけは不気味な赤色の光を湛え、その体に植物を絡み付けていく。
「ぐぶ、ぶぐぶぐ、完全に適合すれば私も晴れて叛逆者だ……そうなれば、私はもう滅びに怯える必要もない!」
「……前も言った気がするけど、死にたくないなら大人しくしてろよ。人に手を出すから、こうやって俺みたいなのが来るんだぞ」
「それこそ無理なお願いね……私は何より幸せな人間が気に食わないのだからッ!」
「チッ……!」
ゾゾゾゾゾゾ、と。
あまりに悍ましい、黒をベースに赤と白の入り混じるマーブル模様の木の根が飛び出す。
それはずっと変わらない攻撃に見える。
しかし叛逆者の力を取り込んで黒くなったのなら、その赤と白は何を意味するか。
すなわち。
「太陽神への耐性……!?」
触れても意味はなく、太陽神の炎でも燃えず、どうにか防ぐリベルの横を大蛇のように通り過ぎていく。
分割の力であれば無理やり引き裂けたが、あれはどうも縦に亀裂が入る。この場合二又になっただけで、生命力の高い木の根においては攻撃手段が増えただけだった。
「死んだ神の力くらい飲み込める……植物の生命力を舐めるんじゃないわあッ!」
変化に耐え、刺激に耐え、環境に耐え、生育に必要な栄養さえあるならばどこにでも咲き誇る。
それこそが植物。生命力の象徴。
自分で引き裂いた木の根に飲まれそうになるリベルだが、その背後から極大の茜色のレーザーが飛んできて、木の根の大蛇を押し戻していった。
「大丈夫!?」
「リナ、今のところ大丈夫そうだけど、あいつ使った攻撃に全部耐性取ってくるんだよな」
「げ、じゃあ今のもやめといた方がよかった?」
リベルの横に並び立ったリナが、痛みを表現するようにうねる木の根を見ながら反省していた。
だがその表面に茜色が浮かぶことはなく、生命神はむしろリナに対してあまりに冷たすぎる目を向ける。
「機械の人形には興味ないのだけど。帰ってもらえない?」
「……あーあーそうだったわねあんたって植物だもんね生き物だもんねぇえ?文明の利器には適合できないお馬鹿さんだったもんねえええ?」
「……リナ?」
「私の攻撃なら大丈夫。あいつは飲めない。向こうがそれを克服するなら、こっちはさらに劇薬を作り上げればいいんだから」
「……」
殺す者と殺される者。しかしそれを克服するのも生物である。
機械と植物では、根本的に相容れない。
「消し飛べ人形」
「死ぬのはそっちよ」
先ほどの二又の木の根に対して、リナは自分の右腕を突き込んだ。
木の根はそのまま絡みつき締め上げていくが、リナの本質はそもそも固体ですらない。
「好きなだけ飲めばいいわ。私の意思をね」
「ぎゅぼっ!?」
咄嗟に木の根を引き戻したのは生命神だが、そこに喰らい付いたリナの右手はそのまま生命神本体まで逆流していく。
叛逆者の剣を飲み込んだ時と似たような動作だが、その中で起きる変化は全くの別物。
「ぐっちゃぐちゃにしてあげる。細胞が全部壊されて、あなたは生きていられるかしらん?」
ぼこぼこ言っていた時とも違う。
そのまま腐り果てるように地面に崩れ落ちていった生命神は、もう一度動かなくなった。
「一応、神核だけ壊してきてくれる?」
「……ああ」
強いんだなリナ、とトドメを刺しにいくが、命を司る神がたかだか意思を持つ液体金属如きで死ぬはずがないのだ。
「だったらそれさえも超えてやろうじゃないッ!」
人の形をしている方がおかしいくらい、その体がメキメキバキバキと音を立てて変貌していく。
人間らしい柔らかさや質感を保っていた肌も、生命神が操る樹木のように固く乾燥したものへ変質する。
「神域融合」
「また新しい技……」
「【生命の樹】」
ざあっ!と咲き誇るのは、新緑の若葉をつける真っ黒な大樹。
木の模様に赤や白、そして銀色を備えたその姿は、叛逆者と太陽神、そしてリナへの耐性を示すもの。
「……世界樹ですか。まずいですね」
「世界樹?何がまずいのよ」
「そりゃあ」
ルイナが答えるより先に、葉擦れの音を鳴らしながら生命神が行動を起こす。
『遍く命の統合者。我が名は命の神である。神の言に従い、あらゆる命はその力を差し出すが良い!』
「っ、話は後ですっ!」
三人の体が一瞬で森の外へ転移する。
一体何が、と森の方を眺めていれば、その中心から外へ向かって死の波が押し寄せる光景が広がっていた。
「ミアル!」
「その空間は壁である。その空間は城である。その名を刻め。代理執行者ミアルリアが命ず。フロムハートの言に従い、かの空間を断絶する!」
上空より舞い降りたクリスタルドラゴンが、生命神より少し長い詠唱の末に空間断絶の魔法を発動した。
結果、鬱蒼と木々が生い茂っていた森は一瞬で死の森へと変わり、放置すれば大陸全土を飲み込もうとしていた破滅の波は、森と平原を境に影響を断絶されていた。
「危なかったですねぇ。ミアル、ありがとうございました。状態固定だけしたら戻っていいですよ」
「はーい」
さらに死の森が光り輝くと、一見今までの森と同じような陰鬱さを取り戻したが、その先に待つ気配は明らかに異様で、死の気配に敏感な人間なら近づくだけで卒倒しそうな状態になっていた。
「さて、説明ですよねわかります。そんな顔してますもんねえ。まずは席を整えましょうか」
とりあえず、状況を知るために悠然と街へ帰るルイナについていく。
ルパシアを救助できたのはいいが、事態はむしろ悪化したのだから。
最初からずっとキャラ付けが上手く行ってない神様。なんとなく出てくるキャラでやろうとするとリナとかアプリムの方向に振れそうになるんですよね。




