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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
一章 魔導国編
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5話 楽しげな空気に垣間見る心に抱えた譲れぬ物

「ハーフェリオン……あぁこれか。今はもう存在さえ忘れられた世界最大の国家、の公爵家。知力、財力、軍事力、全てにおいて最大派閥で、ハーフェリオンがある限り滅亡はあり得ないとまで言われた最強の一族」

「ああ、その通りだ」


 だが現実は滅んでしまっている。

 何があったのかは千年を生きるリナでさえ生まれる前のことのためわからないが、それでも滅んでしまうような何かがあったのだろう。


「ふふ……あの当時は大変だったな。私も……魔導神も生まれたてで、力の制御など思うようにできないし、親しい人どころか国がないし……ああだが今生きているんだ。これ以上のことはないさ」


 疲れたような笑みを零すアプリムからは、波乱の時代を生き抜いた苦労が滲み出ていた。


「こんな湿った話はやめよう。それよりも……そろそろ返してくれないか?」

「嫌」

「な、なぜだ。リナにとってそれはなんの意味もないだろう……?」


 魔導神がこんなか弱い女の子になっているという、重要すぎる意味がある。

 リナはとんがり帽子をどうしようかともてあそんでいたが、やがて自分の頭に乗せた。


「ん、どうよリベル。似合う?」

「良いと思う」


 ちょっと調子に乗ってポーズなんて決めたりしているリナに、アプリムはうぅ……と悔しそうな呻き声を漏らしていた。完全にいじめの構図である。


「てか別に良いじゃない。今の方が可愛いわよ?」

「そういう問題ではないのだ……この国から神がいなくなったらどうなると思う」

「え……?みんな幸せ?」

「リナは本当に凝り固まった考えを持っているな……」


 アプリムが本当に疲れたように目頭の辺りを揉みほぐしている。


「魔導神がいなければ、この国の秩序は破壊される。神域の特性を活かして悪意というものを検知しているのに、それがなくなれば犯罪は一気に増えるぞ」

「え……ニートじゃなかったんだ……」

「だから働いていると言っただろう!?」


 ではなぜあの時言わなかったのか。魔導神にとっては些細なことだったからか。


「わかったら返してくれ。少し確認したらまた外してやるから」

「えーわかったわよ」


 素直なことにリナがちゃんととんがり帽子を返した。

 そして、アプリムが帽子を被ると、


「ふっ、戻ってしまえばこっちの…………、なあ、いくらなんでもそれは信用がなさすぎじゃないか?」


 何かを言いかけた魔導神は、一ミリも信用していなかったリナの拳に吹き飛ばされた。


「いやわかりきってたし。顔に書いてあったし」

「……だから仮面を被っていたというのにぃぃぃぃぃ……!」


 もうどうしようもなくなったアプリムは顔を覆って蹲ってしまった。

 流石にこれ以上は可哀想なので、リベルは飛んで行った帽子を拾ってくると、アプリムの頭に乗せてやる。


「……!」

「神が感極まってる……神って手懐けられるんだ……」


 本物の神様が、神か天使にでも出会ったような表情をしていた。


「リベルさん。いえリベル様。わたくしのファーストキスを捧げさせてくださいまし……!」

「オメエもブレねえなあオイ!」


 時々口が悪くなるのはリナの悪癖だろう。

 そして魔導神、今の今まで恋人の一人もいなかったらしい。


 リベルが被せた帽子には手を出さないらしく、帽子の争奪戦は一旦幕を閉じた。


「そ、それで、これからどうするか、という話でしたわね」

「あぁなんか言ってたわね。で、どうするの?」

「少しは考えてほしいですわ……」


 苦労性の魔導神は、自らの意思でとんがり帽子を外す。

 もう悪意の検知とやらを終えたのだろうか。

 そしてそれを胸に抱き抱えるのは、取られたくないからか不安故か。


「そ、その、私はずっと一人だったんだ」

「「?」」

「だ、だから、その……友達とやるようなことを、やってみたいんだ!」


 一世一代の告白みたいな雰囲気が漂っているが、要するにみんなで遊びたいということだろう。


「まあ、良いわよ?私も友達なんていなかったから何やるか知らないけど」

「そ、そうなのか……?お前は誰にでもグイグイ行くのかと思っていたんだが……」

「そんなわけないでしょうが。自分で言うのもなんだけど、リベルが来るまでの私って仕事人間だったからね?それ以外することのない悲しい人間だったのよ」


 仲間との連絡も通信だけ、仕事の場所も人の生活範囲外。

 ずっとそんな生活だったから、『友達』なんてものはなく、その枠組みに特別を見出していたのだ。


「まあでも、あんた……って呼び方は嫌なんだっけ。プリムなら、色々行けるところもあると思うわ」

「……」

「な、何?その顔」

「いや、リナが相手のことを考えるなんて、と」


 パンっ、と割と良い音がした。


「あうぅぅぅ……だ、だが、そう思われても仕方がないことをしてきたことは自覚してくれよ?」

「……」


 物理的な痛みで頭を押さえるアプリムと、精神的な痛みで頭を押さえるリナ。

 リベルは思った。この二人って案外仲良いよな、と。


 そんな二人の少女が並んで歩く後ろを、リベルは静かについていく。

 リナの近くがリベルの居場所なのだから、やることがなくてもついていくのが普通なのだ。

 だけど、今回ばかりは逃げ出しそうになった。


「さあ!観光中に見つけたオシャレなアパレルショップよ!ここでプリムを可愛くコーディネートしてあげるわ!」

「お、おお!よくわからないが、オシャレな人間は人気なんだろう!?オシャレになれば私も、友達を作れるだろうか……!」


 二人の少女がすごく盛り上がっている。

 アプリムはお洒落をしてみたいらしいが、リベルは知っている。この場所の恐怖を。

 じり、と思わず後退りしたリベルを、リナが見逃すわけがない。


「どしたの、リベル?男の目線も必要なんだから、一緒に来てよ」

「う、あ……でも、また、前みたいに」

「前?ああ、あんたの服選んだ時?大丈夫よ。今回はプリムのなんだから」

「……また、あんなに何着も着ろって言わない?」

「言わない言わない。今回は見る方だから、楽しいわよ」


 その言葉でリベルは揺らいでしまった。

 元々リナに主導権を預けているのも悪かっただろう。

 リベルは知らなかったのだ。一般的に、女性の買い物に付き合わされる男は、疲れることを覚悟しなければならないことを。



「こ、これで合っているか?こんなに派手な服が私に似合うだろうか……」

「だ〜いじょうぶよ。ちゃんと似合ってるわ。あ、でもこっちはもっといいかも」

「そ、そうか。なら試してみよう」


 現在、試着十二着目。

 リベルは試着室の椅子に座って、ぼーっと虚空を眺めていた。

 もちろん、最初のうちはよかった。

 アプリムは誰の目に見ても可愛らしいし、リナが選んでくる服のセンスもよかった。

 よく知らないとはいえ、ファッションショーのようなことをしているのを眺めるだけなのだから、待ち時間が苦痛でなければ疲労は少ない。

 だがそれが何十分も何時間も続けばどうか。

 少ない疲労も蓄積し、動かないことで精神的にもやられてくる。


「なあまだ続けるのか?」

「え、うん。だってまだまだ可愛い服いっぱいあるわよ?」


 リナの手にはそれぞれ違う色の服が三着くらいある。そして足元のカゴには、もう数えたくもない量の服が丁寧に詰められている。


「……リナって、あまり人の生活圏には入ってないんじゃないのか?」

「ん?それがどうかしたの?」

「ファッションはすごい詳しいよな」

「あぁ、そりゃまあ私、頭がまんまコンピュータだから。最新の情報がいつでも入ってくるって言うか、半分ネットの海に浸かってる状態なのよ」


 頭が、コンピュータ?なんだそれは。そんなことができるのか?

 リベルの思考は完全に固まっていた。

 一方でリナの方は「あれ?言ってなかったっけ?」などと呑気に首を傾げている。


「ん〜、ログ見る感じ言ってないか……ごめんね、びっくりした?」

「びっくり……はしたし……そもそもそれって大丈夫なのか?」

「何が?」


 どこまでもリナは平常運転だ。

 むしろ一周回って無理をしているんじゃないかなんて勘繰りたくなる、そんな予想を肯定してしまいたくなるほどに。


「その……頭まで機械でさ。大変じゃないのか?」

「大変……どうなんだろね。私ってどこまでも特殊でさ。機械でしかないのに、その本質を語ろうとしたら人間以外にはなり得ない、みたいな。感情があって思考があって赤い血が流れて脈があって骨と肉と皮でできてる生命体を、誰が機械って言えるんだろうね」


 それはリナ自身が一番疑問に思っていることだ。

 性能を語ればまるで殺戮兵器というかその通りでしかないのに、肉体の構造を語ってしまえば人間であることを否定できない。そんな自分は、一体何に分類されるのか。


「リナは、どっちが良いんだ?」

「そりゃ人間でしょ。力のために、生き残るために、──のために、仕方なくこの体を受け入れたけどさ。本当は人らしく生きて、人らしく朽ちていければ良かったのよ」


 理由の一つが、無意識なのか意図してなのか、聞き取れない声量になってしまっていたが、それを抜きにしても、何か譲れないものがあったことはわかる。

 リベルはまたリナの頭を撫でようとして、しかしアプリムに呼ばれたリナはするりと逃げ出してしまう。

 しばしの放心状態に陥り、しばらく空中で手が固定されて……、


「んっ、……その、なんでさ、時々撫でてくんのよ」


 戻ってきたリナを捕まえた。


「日課になっているというか、こうすると俺も落ち着くというか」

「それじゃあ私が最初に落ち着いてたみたいじゃない」


 え、違うの?という目を向ければ、リナは頬を赤く染めてそっぽを向く。

 そんなリナの頭を撫でて横顔を眺めても、やっぱりその全てが機械だなんて信じられない。

 確かに腕が砲塔に変化したり、なんの機器もなしに誰かと連絡したりと、人間ではあり得ないことはやっていた。

 しかしそれでも、そういう能力があるんだ、魔法があるんだと言われれば、きっと納得できる範囲だった。

 だけど、本人の口から頭がコンピュータだなんて言われると、リベルは信じるしかなくなってしまう。

 それがどれほど疑わしくても。リナの言葉であるからには。


「リナはちゃんとした人間だよ。機械なんかじゃない」


 まるで子供をあやすように言えば、リナはまだ少し頬に熱が残っているものの、ゆっくりと顔の向きを戻す。


「……そう、ありがと。だけどね、こっちの私も、否定できないんだ。だってそうじゃなきゃ、私はどこにもいられないから」


 苦痛を押し殺してはにかむ少女は、とても痛々しかった。

 もしも今抱き締めていたら、リナは泣き出してしまったのかもしれない。それでも吐き出せるということは、それだけ心を楽にしてあげられたはずだ。

 けれど、リベルにその選択肢はなかった。

 頭を撫でるという行為自体、無意識にリナに手を伸ばしてしまったことから始まっている。

 ならその先……より詳しく言うなら恋人のような行動には、心当たりが全くなかった。

 だから、ひたすら優しく頭を撫でていた。

 大丈夫だと、ここに居場所はあるんだと、言い聞かせるように。


「……リア充ってやつがいる……!」


 そしてここにも知識不足な少女が一人。

 物の見事にしんみりした空気をぶっ壊しにかかる。


「あ、あんたさぁ……まぁ、いいけど」


 頭を撫でられ続けたリナは、一時的に仏のような寛容さを身につけていた。

 ほんの少し名残惜しそうにリベルの方を見たリナは、自分でも何着目かわからない服をチェックする。


「ん、ここにきて一番が塗り替えられた感じかしら」

「そ、そうだろう。私も自分で見ていいと思ったんだ」

「じゃあこれ買ってみる?これからの季節でも、まあ着れるでしょうし」


 アプリムの服装は、白のニットの上から亜麻色のコートを羽織り、黒のロングスカートとダークブラウンのブーツと言うコーデだった。

 どちらかと言えば冬寄りのコーディネートだが、長く着ていたいならバッチリだろう。


「まあ何着かあった方が気分によって変えられるし、もうちょっ」

「今日はこれだけでもいいんじゃないか!?冬でも着られるならまた別の機会にしたっていいんだし!」


 食い気味に被せたリベルに、二人の少女の視線が突き刺さる。

 冷たく感じる視線に耐えられず、やっぱり撤回しようとしたところで、リナが仕方なさそうにふっと息を吐く。


「まあそうね。ここにあるの全部買えば今シーズンは好きなの着れるだろうし、次は春くらいでもいいのかもね」

「そ、そうなのか?私としては、上下をきっちり決めてもらわないと、何を合わせたらいいのかわからないのだが……」

「んー?最先端とか気にしないならなんだって平気よ。全身真っ黒とかしない限りあんたなら勝手に可愛く見えるわ」

「……」

「あれ?」


 思いっきり褒めたつもりだったのに、アプリムはなんだか暗い陰を落としている。


「いや、いいんだ。私たちのセンスは絶望的だったと言うだけだから……」

「私たち……?あっ」


 魔導神はどんな服を着ていたか。

 そして何色で統一されていたか。


「いやでも、あれはまだフリルとかあったし、リボンもつけてたじゃない。私は、可愛いと思ったわよ?(……神のファッションなんて気にしてなかったけど)」

「そ、そうか?……いや、ドレスなんて時代遅れだろう。魔導神の象徴としては帽子さえあればいいんだし、これからは気をつけてみるよ」


 あの目立ちすぎる帽子に魔導神がお洒落をしているところを想像してみる。

 ……何を着ても目線は上に固定されるような気がしてならない。


「ま、まあ、そうね。じゃあ、とりあえずこれだけ買って行きましょうか」


 本人が良いなら口出しはしない。

 そう思って、リナはもう何も言わないことにした。


 そして、話は長引いていたものの、帰れる流れになってホッとしている少年が一人。


「私もなんか可愛い服欲しいなー。今度また来よっかなー」

「!?」


 リナの何気ない呟きに、過剰な反応をするリベルだった。

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