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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
六章 生命神編
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13話 まともになれない金色

 リベルは、まだ日も昇らないような時間にふと目を覚ました。

 それが原因かは知らないが、自分の上で穏やかに眠るリナを見て、少し頭を撫でてから、姿勢を変えて横向きにする。

 起こさないようにゆっくりと抜け出せば、何かに引き寄せられるように窓から屋上へ。


「おや、叛逆者ではないですか」


 日の出前の冷たい風に髪を靡かせたルイナが、本来立ち入りを禁止されているはずの屋上に立っていた。


「……お前か。変な気配があると思ったら」

「私は神に見えますか?」

「……いいや。けど人でもないだろ」


 ルイナは、リナともまた違う異様なものを纏っている。

 リナもリナで人らしくはないが、あれがリナだと思えばリナなので、人である(?)。


「あなたらしい解答ですね。ですが一番近い種族は人なので、私は人ですよ」

「……表す言葉がないってやつか」

「ええ。そうです」


 ならばその本質はなんだ?

 人の形においてこれほどまでの力を内包する存在は、リベルは神以外に知らないのだが。


「まあ殺したければご自由にどうぞ。お互い死なない不毛な戦いにはなりますけどね」

「……お前だけじゃなくて、俺も死なないのか?」

「何回か言ってるはずなんですけどね。ですがまあ危機感があるのはいいことだと思いますよ。殺されることに慣れてしまうと、生への執着も薄れていきますから」

「……おかしいよ。お前は」


 どこか遠くの方を見ていたルイナは、ふとリベルに目を向けるとふっと微笑む。


「ええ。わかります。自分の異常性は、自分が一番理解していますよ。同時に、もう戻れないことも」

「……それでいいのかよ」

「いいわけはないですね。辛いですし。でも仕方のないことなので、この範囲内で私は私の楽しみを見つけますよ」

「リナか?」

「ええそうです」


 だからと言って嫌がらせをしていい理由にはならないが、何も聞かずに反射的に悪者扱いするのも悪いかと、少し思い直した。


「なんで思い直すんですか。弾けばいいんですよ。異物は異物だからと」

「……わかんねえよ。お前の思考が」

「でしょうね。理解されても困りますし」


 何もかも手遅れで、力だけが残っていたとして、人は何を選ぶのだろうか。

 ルイナは、一つの終着点のようなものなのかもしれない。


「そういえば、こんな時間に何してるんだよ」

「ん?ラジオ体操……いえ、嘘はやめましょうか。あなたもたまに、窓の外を眺めていることがあるでしょう?あれと似たようなものですよ」

「……お前も何か、感じ取るものがあるのか?」

「リナの嫌悪……ではなくてですね、まあ一言で言ってしまえば、世界の監視です」

「世界?」

「はい。どこで何が起きている、何がどれだけ死んだ、封印の状況は?神の動きは?世界は本当に正常か?ということを、毎日毎日確認しているわけです」


 それは、ただ神を殺すために生まれたようなリベルよりも、よっぽど重い使命だろう。

 何せ見なければいけないのは世界全土。

 その一つでも見落とせば、どこかで誰かが不利益を被る。まともな精神でできるものではない。


「まあ私は人々にあまり興味がないので、絶賛囚われ中の女性がいても無視したわけですが」

「……」

「そう睨まないでくださいよ。本当に危険なら、私も有無を言わさずあなたをぶつけています」

「俺かよ。ってか生命神の話かよ」

「ええ。今日のお昼前には突撃できると思いますよ。あなたの血も、正常に機能しているようですし」


 ルイナが森の方へ目を向けるから、リベルもつられて二つの反応がある方を見る。

 生命神と思しき反応は安定しているが、何かもう一つ、空間神らしき塊は憎悪でも示すように不安定に揺らいでいた。

 そしてその周りには、何か異質な赤と黒。


「あなたの目はやはり特別なようですねぇ。それが見えるなら黒い粒子ではなく自分の血を使えばいいんじゃないですか?」

「……血なんてどうやって扱うんだよ」

「ええ?自分の一部ですよ?魔力を通せば指先のように思い通りに動きます。……確か私の時代ですら禁忌に指定された魔法だった気がしますが」

「……」


 そりゃあまあ、扱いを間違えれば即死するような魔法など、存在自体秘匿されていた方がいい。

 それでもルイナは発見して、当たり前のように扱っているんだから化け物だ。


「たとえばですね、こんな風に腕を千切るでしょう?」

「いやグロいグロい。何してんの?」

「あとは中の血を操作すると、ほら」


 それは血の剣とでも呼ぶべき物。

 ただし柄の部分はルイナの腕だし、自分の手と握手しているのはあまりにもおぞましいし、その断面で血が固まっているのも異常である。

 リベルが思わず目を逸らせば、ルイナはつまらなさそうに腕を適当に放り捨てる。

 それが何も残さず消えていくと、引き千切られた腕は元通りに再生された。


「あなたは真似しないほうがいいですよ。リナが怖がりますからね」

「できねえよそもそも。治るって言っても痛いんだから」

「そうですか。まあいずれあなたが赤と黒の二刀流になっても驚きませんけどね」

「……」


 来るのか?そんな日が。いやいやまさか、あんな不気味な剣は使いたくない。


「ふふ、今はそれくらいがちょうどいいですね。そろそろ戻ってください。リナが起きそうです」

「そんなこともわかるのか?」

「ええ。化け物ですので」


 人間でも最強でもなく、化け物。

 それは少し、ルイナの本音のように思えた。


「さ、行ってください。隣で寝たはずの人が起きた時いなかったら、不安に思うでしょう?」

「……そうだな」


 作為は感じるが、自分は不安に思うから仕方ない。

 外へ出た時と同じく窓から戻ると、リベルはリナの隣に体を滑り込ませる。


『あ、言い忘れてましたけどその人恥ずかしがり屋なので、目は閉じておいてください』

「……」


 恥ずかしがり屋なのは、知ってる。だが必要だろうか?

 それでもリベルは従っておいた。

 そして、数分。

 リナはうっすらと目を開けると、真横にいるリベルにビクッ、と体を震わせて、昨晩のことを思い出したようだった。


『そっか……私、リベルと……』


 そこで止まると少しまずい勘違いをされそうなものだが、寝惚けたリナと無知なリベルではその間違いに気づかない。そしてリベルを意識しているせいで、考えが筒抜けになっていることにも気づかない。

 それからリナは、少しふわふわした頭でリベルの寝顔(起きてる)を眺めて。


「リベル……大好きだよ……」


 腕の中へ頭を落とす。

 ぎゅっと体を抱きしめて頬擦りする姿は、普段のリナなら絶対に見せてくれないものだろう。


『いやー、あなたもいいご身分ですよねえ。いえ相思相愛なら普通でしょうか?まあ、その幸せを手放さないでくださいね』

『……言われなくても』


 リベルからリナを抱きしめると、リナは「へっ?えっ!?」とか焦っていたが、寝返りを打っただけだと判断したらしく、すぐに大人しくなった。


『びっくりした……聞かれてたらどうしようかと……』

「……」


 聞こえてます。それはもうはっきりと。

 だが言うとまた思いっきり叩かれそうだし、リナの心もぐっちゃぐちゃになるのはなんとなくわかる。

 リベルは、寝たふりを続けた。

 そして、リナは朝ごはんを作りに起きようとして、ここでは朝食さえもサービスでついていることを思い出し、もうちょっとだけ、とリベルに甘えるせいで、ルイナが起こしにくるまでリベルは目を開けることができなかったのだった。

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