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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
六章 生命神編
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10話 心配事

 料理を楽しんでいるのは何もリナたちだけではない。

 大衆居酒屋、ではあるものの個室まで付いているという店で、パーズたちは鍋料理に舌鼓を打っていた。


「いやー、鍋はこっちの発祥だって聞いてたけど、本場はやっぱちげえなあ」

「そうねぇ。特にこのつみれって言うの?これがとっても美味しいわぁ」


 ペルドとアリートはちゃんと楽しんでいるのだが、やはりパーズだけは浮かない顔をしている。

 それでもしっかり食べているのは、ハンターとして休めるうちに休むが身についているからか。


「そう暗い顔すんなって。確かにルパシアちゃんは今も危険な状態だろうけど、それで俺たちがずっと沈んでるのは違う。だろ?」

「そうよぉ、安い居酒屋にしたのも、知らない料理を頼んでみたのも、全部後でルパシアちゃんと楽しむためなんだからぁ」

「……わかってる。わかってる、けど……!」


 やはり不安で仕方ない。

 この辺りは、リナの姿が見えない時のリベルにも通じる部分なのかもしれない。

 かちゃん、と少し強めに箸を置いたパーズは、外の空気を吸ってくると言って出て行ってしまった。


「……あいつも正義感が強いよなぁ」

「ねぇ、ハンターなんて、いつ死ぬともわからないのにぃ」


 ハンターの掟、ではないが、暗黙のルール的なところで、死んだ奴は笑って見送ってやれ、というのがある。

 自ら死地に飛び込んでいったやつを、しんみりした空気で送ってしまってはただの犬死にだからと。

 せめてその最後くらい、明るく弔ってやった方が笑って逝けるだろうと。

 まあもちろん葬式はちゃんとしてほしいと事前に言う人もいれば、笑った奴はぶっ飛ばす!なんて自分が笑いながら言っている人もいるが、要するにこの伝統は生きている人たちの心を守るためでもあるのだ。

 今となっては装備も充実し、魔法も大きく発展したために死亡率は下がっている。

 だが銃なんて存在せず、重い鎧と剣で魔物と戦っていた時代なんてのは、毎日のように誰かが死ぬ職業だった。

 そんな仕事に就いている人を、毎日毎日涙を流して送っていたら、残された人たちの心が疲弊してしまう。

 だから、笑って送り出すことで、悲しみや憎しみを覆い隠してしまっていたのだ。

 パーズは、一度も親しい人の死に直面したことがないからこそ、仲間(想い人)が危険に晒されただけで、心を痛めてしまう。

 ペルドやアリートも別に仲間が死んだ経験なんてものはないが、それでも、パーズは少し、覚悟が足りていないように思えていた。


「ま、あいつの分も俺たちが食えば問題ねえか」

「そうねぇっ♪こんな美味しい料理、冷めちゃったら勿体無いものぉ!」


 そう言っていると、個室のドアが開かれて、まだマシになった顔でパーズが入ってきた。


「誰の分を食うって?」

「あ、いや、ルパシアちゃんだよ。今日のとこは俺たちが食って、無事助けられたら、またいい店探してぱーっと食べりゃいいだろ?ってこった!」

「……ふん、ま、そういうことにしておくか」


 座り直したパーズは、鍋からちょっと多めに自分の分を取ってそれを少しずつ食べていく。

 いつもより少し勢いはないものの、しっかり食べていることで二人も表情を緩める。

 覚悟が足りていない、なんて非難するようなことを思っていても、大切な友人であり仲間なのだ。

 もちろんルパシアも心配だが、それでパーズが気を病んでしまっても駄目だと、ハンターらしく考えていた。


「こんな時に訊くのは悪いんだがよ」

「ん、なんだ?」

「ぶっちゃけ、ルパシアちゃんとどこまで進んだわけ?」

「ぶっ!?」


 先に説明しておこう。彼ら三人は幼馴染であり、小学校からの友人である。

 そして、ペルドとアリートは既に結婚している。

 パーズがアリートに好意を寄せず、ペルドとの関係が順調に進んだ理由は、彼らの性格を考えてもらえればわかりやすい。

 パーズはどこか堅物なのに対して、二人は少しおちゃらけたところがある。どっちが気が合うか、なんて現状を見ればすぐにわかるだろう。

 そして、いきなり踏み込んだ質問をされたパーズは、危うく吹き出しかけたものを慌てて飲み込んだせいでむせつつ、どうにか答える。


「べ、別にまだ何もしちゃいない。そもそも、付き合ってすらないんだぞ」

「えぇー?あんたそれでも男なのぉ?何度もそういう雰囲気にはしてあげたじゃないのぉ」

「……やっぱあれはお前らの仕業か」

「そう睨むなって。俺たちもお前らの幸せを願ってんだよ。だから、な?無事戻ってきた暁にはよお」

「……告白しろ、と?」


 うんうん、と二人してルイナみたいな笑顔で頷く。

 人の恋路に茶々入れている人は皆同じような顔をしているのかもしれない。

 はぁーっと大きくため息を吐いたパーズは、この堅物が惚気るところを見たがっているだけの奴らに喝を入れる。


「そもそもだ。助けたのが俺だったとしたら、確かにそれは格好良く映るかもしれない」

「ああそうだ」

「だが今俺たちは、S級ハンター二人に何もするなと言われているんだぞ。そんな状況で、どうやって俺がヒーローになるって言うんだよ」

「そこはほらぁ、少し口裏合わせてもらっていい感じによぉ」

「何も考えてないじゃないかッ!」


 パーズだって、そりゃあもちろん格好良い姿を見せたい気持ちはある。

 むしろルパシアが入ってからはより前線に出るようにして多くの魔物を討伐してきた。

 そのせいで二人に白い目で見られたことが一体何回あったか、もう数えることさえできない。

 けれど。


「こんな場面に、俺たちが横槍を入れるのは無理だ。そもそも木の根の魔物を一体倒すのさえ苦労していた俺たちが、何かをできるわけがないだろう!」

「「……」」


 気持ちを切り替えたからと言って、それで状況が良くなるわけではない。

 勇姿を見せたいだけで命を懸けるのは勝手だが、それで死んだら本物の笑い者だ。

 そんな危険を冒してまで、自分の手柄にする必要はない。


「……そうだな。俺たちが悪かった。今はルパシアの無事を祈って、万が一に備えよう」

「そうねぇ。もしかしたら、私たちでもできることがあるかもしれないしぃ」

「……お前ら」

「だが、無事帰ってきた時、抱き止めてやるのはお前の役目だぞ」

「は」

「一人だけ攫われて、あんな危険な魔物に囚われたルパシアちゃんが怖くないわけないでしょぉ?だから、その恐怖を拭ってあげるのはパーズの役目」

「……」


 助けられなくても、ヒーローになれなくても。

 そのあとでできることは、たくさんある。

 ニヤニヤ笑っているのは物凄く腹が立つのだが、実際現実的なことを言っているので怒るに怒れない。

 パーズはルパシアが囚われているのとはまた違う理由で頭を抱え、そのままテーブルに突っ伏すのだった。

ハンターは結構古い慣習とか残ってる職業ではあります。とはいえいざその場面に遭遇すると動けなくなる人は多そうですが。

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