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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
六章 生命神編
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8話 久しぶりの時間

 さて。あのクソ害悪がどっかでちゃんと仕事している頃、リナとリベルはこの街の観光を楽しんでいた。


「見て見てっ、どうかな?」

「ああ、似合ってるんじゃないか?」

「ふふっ、リベルも似合ってるわよ♪」


 何やらこの街では、着物という民族衣装を着て、伝統的な建築物を見て回るのが定番らしい。

 ということで、二人も着てみたのだ。

 リナは淡いピンクの物を。リベルは紺よりも深い青色の物を。


「にしても動きづらいな」

「言っちゃダメよ。こういうのは雰囲気なんだから」


 歩幅は制限されるし、靴は草履というなんとも防御力の低い物になっているが、それが気にならないくらい、いつもと違う服装というのはなかなかにテンションが上がるものだ。


「ほらいこ?」

「ああ。どこに?」

「……観光名所!」


 さっと調べてすぐに道を組み立てる。

 この辺り、リナは機械の特徴を惜しみなく使う。

 それで楽になるのなら、それでもっと楽しめるなら、プライドなんて物は捨ててしまえる。


「きゃっ」


 ちょっと後ろのリベルを気にしながら小走りしていたら、慣れない服に靴ということもあって転んでしまった。いいや、転びそうになった。


「大丈夫か?」

「う、うん……大丈夫。ありがと」


 なんでこいつ普通に動けるんだろ。というのが率直な感想だった。

 リベルは少し離れていた気がするのに、気づけば手を掴まれて、倒れないように支えられていた。

 そして、もうちゃんと両足を地面につけていると言うのに、リベルは一向に手を離す素振りを見せない。


「……なんで?」

「また転ぶかもしれないから」

「……ちゃんと気をつけてたら平気よ」


 それでも、離したくはない。

 リナの方から握り直すと、リベルに胡乱げな目を向けられたので、誤魔化すようにさっさと歩き出す。


「ほらあそこ、有名なお寺だって」

「寺?」

「神様を象徴する霊場なんだって。今は、ほとんど紅葉の名所だけど」


 今でも信仰心はあるらしい。

 なんの神が祀られているかは気になるが、これは知らない方が楽しめるような気がするので、深くは調べない。

 そしてその紅葉も、この時期では写真で見るような美しさはないだろう。


「ま、そんなのどうだっていいでしょ?」

「うん?」

「だって、私と一緒にいるんだから」


 自意識過剰かな、相手がいればいいなんて思ってるの、私だけかな、なんて不安になっていたが、リベルは安心させるようにふっと微笑む。


「ま、そうだな」


 ドクンと大きく心臓が跳ねるのを自覚した。

 一気に心拍数が上がり、顔が熱くなるのがわかる。

 それでも抑えられないんだから、人の気持ちとは恐ろしい。


「どうした?」

「なっ、なんでもにゃいっ!」

「……?」

「〜〜〜〜っ!」


 とてつもなく、恥ずかしかった。



 ニュースや写真でよく見るのはここ!というところまで来てみると、もう完全な冬だと言うのに観光客や若いカップルなどがたくさんいた。

 その中に混ざってしまうと、二人もただの恋人同士にしか見えない。あくまで客観的事実であって、実際の関係が伴うとは限らないが。

 そしてここはかなり高く、街の景色が一望できた。

 そんなところで手を繋いで眺めていると、リナはなんだか心の中がとても温かくなるのを感じる。

 同時に、手を繋いで歩いたのはこれが初めてだった、と今更のように気づきもした。


(ど、どうしよ……気づいちゃったら意識しないなんて無理だし、なんか気にし出したら結構汗ばんでる気がするし……これって私の?それともリベルの?あとリベルは気にしてないの?これでも一応、女の子だと思うんだけど……?)


 まさか異性として意識されていないんじゃ、なんて思って、リベルがなんてことなさそうに言っていた好きだよ、という言葉が頭を過ぎる。

 自分でそれは何かが違うと否定しておきながら、こういうときだけは都合よく考えてしまう。


「……リベル、綺麗だね」

「ん?まあ、そうだな」

「そこはさ、その……」

「なんだ?」

「なんでもない!」


 リナの方が綺麗だよ、なんて言ってほしかったが、そんなことがリベルにできるわけもない。

 だが最近のリベルは理解力もあるんだから、とちょっと期待してしまう気持ちもあった。

 そんな風に、勝手に落ち込んでいたリナの横顔を見て何を察したのか、リベルはああ、と呟いてから。


「リナも可愛いよ」

「ひゃっ!?」


 不意打ちは、やめてほしかった。


「……それ、ちょっと違う。綺麗って言ったんだから、返しも、綺麗じゃないと……」

「綺麗、か。確かに今のリナは綺麗の方かもな」

「んぐっ、あ、ありがとねっ!」


 だから不意打ちはやめてほしい。

 このなんとも言い難い状況から逃げるべく、リナは周りに目を向けると、スマホを構えて自撮りをしている人たちが目に入った。ほとんどカップルであることには気づいていない。


「リベル!あれ、あれ!私たちも写真撮ろっ?」

「別にいいぞ」

「えっと、じゃあ、私のスマホで……」


 小物入れとして持っていたカバンからスマホを取り出し構えようとすれば、


「よければ、お写真お撮りしましょうか?」


 そう声をかけてきた人がいた。


「あ、ありがとうござっ!?……もう帰ってきたんだ」


 なんか見覚えのある顔だった。そしてその金色はものすっごいニヤニヤしていた。


「いやぁ、いいですねぇ。青春ってやつですか?ほら私がバッチリ撮ってあげるのでそこに並んでくださいな」

「……じゃあ任せるわよ」


 嫌な予感は拭えないが写真如きで変なことは起きないだろう、とリナはスマホを渡してみる。


「ほらもっと寄ってください。でないと入りませんよ」

「こ、こう?」

「もっとです。こう、ぎゅ〜って抱きしめる感じで!」

「そこまでする必要ないでしょ!?」

「その顔がいいんじゃないですかっ!どうせ残すなら最っ高に可愛い顔の方がよくないですか!?」

「そりゃそうだけどその顔は絶対に違う!」


 言い争うこと数分。周りからの視線も痛くなってきたので、リナはもう羞恥心を遮断してさっさと写真を撮ってしまう。


「はい、チーズ!」


 ルイナから渡された写真を確認してみれば、はにかむような笑みでリベルの肩に頭を寄せた、なんとも初々しい少女が写っていた。


「これが、私……」

「あの、初めて自分の顔を鏡で見たような反応はやめてくださいよ。後ほら、よく見てください?叛逆者さんだって、ちょっと笑ってるんですよ」

「あ、ほんと。って、よく見たらちょっと抱き寄せられてるし!?ナニコレ、いつの間にこんなポーズ取ってたの!?」

「いや、なんか、ルイナに言われたから」

「ッ!!」


 ルイナに殴りかかるも不発。あまりしつこくすると周りの視線が大変なことになりそうなので睨むだけに留める。

 だけどそこでそうやってニッコニコのニヤニヤ笑いしてるんだったら後で絶対ぶん殴るからな!


「まあ受けてあげてもいいですけどね。そしてリナ、もういい時間ですし、旅館の方に移動しませんか?」

「旅館?」

「ええ。こっちにはあなたの家もありませんし、滞在場所は必要でしょう?」

「……確かに。考えてなかった」


 割と抜け落ちがちである。

 そこは素直に感謝しておいて、旅館とは?


「ふっふっふ。まあついてのお楽しみですよ。この辺、自分も泊まるので最高クラスの場所にしてありますからね」

「お、おぉ、なんかそれだけは信じられる。うん。ありがと」

「……なんだか複雑ですがまあいいです。それより先に、二人はその着物を返却しないとですよね」

「あ、そうじゃん。ほら行こ行こリベル。こんなの置いといてさ」

「じゃー場所だけ送っておきますよー」


 地図と位置情報が送られてきたのを確認しつつ、リナはまたリベルの手を引っ張って歩き出す。


「わっ!?」

「だからまた転ぶって言ったのに」

「むぅ……ごめんって」


 少し落ち込んで歩く後ろ姿はあまりにも淑やかな女性のようだとは、今のリナは気づかなかった。

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