6話 仕事をした金色はそれでも害悪
ギルドから出て適当に歩いていた二人は、小洒落た喫茶店のテラス席に座っている人に呼び止められた。
「お話は終わりましたかー?」
「ええ。で、あんたは何やってんの?」
「休憩です。一緒にどうです?」
店員に一言断ってルイナと相席。
ミアルはここにはいないようだった。
「一応、空間神と生命神について調べてきましたよ」
「ああちゃんと仕事してんだ。それでどうだったの?」
「ダメですね。私一人がこっそり通り抜けるくらいなら問題ないですが、叛逆者なんて神からしたらよく目立つものを連れて行くとなると、そもそも本体に目をつけられる可能性が高いです」
そうなると、一気に生命神と空間神を相手取ることになる。
光と闇の神は一気に殺したが、それでさえ連戦であって同時ではない。
しかも今回はどちらも上級神となると、その危険度は今までで最高となるだろう。
「じゃあ……無理やり正面突破するしかないってこと?」
「手段がないこともないですけどね」
思わせぶりなことを言って、ルイナは優雅にティーカップを口に当てる。
しかしその中身があまりにも真っ黒いので、飲んでいるのは紅茶ではなくコーヒーのようだ。
「一つ。叛逆者の全力を解放する」
「そんなことできんの?」
「方法はわかってます。ねえ、叛逆者さん?」
「……なんとなくな」
知っていることには驚きだが、本人であるのだしそろそろ把握していてもおかしくない。
ただ確信は持ててなさそうなので、リナから深く訊くことはない。
「二つ目は、私が地道に空間神の影響を取り除くことです。二、三日かかりますが、確実に生命神だけと戦うことができます」
「うん。それにしよ。それが良いと思うわ」
「……理由をお尋ねしても?」
「あんたが二、三日拘束されるのがいい」
きゅっ、ぷるぷる……がくっ。
ルイナがティーカップを投げかけて、店の物だったと急制動。からの力尽きて机に突っ伏した音である。
「ちなみに裏技がありましてね」
「は?何よ」
「叛逆者の血を使えば一日に短縮できます」
スパァン!と小気味の良い音が響いたのは、リナが高速でワイヤーを振り抜いたから。
リベルは何事?と少し驚いた顔をしていたが、誰にも見えないように本気で叩いたんだから見られても困る。
「いったいですねぇ。これはもう叛逆者さんに償ってもらうしかないですねぇ」
「……リベル、逃げて」
「え?」
「私が本気になれば物理的な距離なんて関係ないんですけどね」
ゾグン、と赤い血飛沫が飛び散ったように、リナは見えた。
しかしリベルには何事もなく、ルイナの手の上には、大量の赤い液体が浮かんでいた。
「さ、て。ざっと人間の半分程度ですかね。これだけあればまあ、神も嫌がるでしょう」
「……本当にやりやがった。リベル、なんともない?」
「ん?ああ。一瞬全身をズッタズタに引き裂かれたような気がしないでもないけど、大丈夫だ」
「それって大丈夫じゃなくない?」
それで平然としているんだから、きっとリベルも人間ではない。
そしてリベルの血をふよふよ漂わせて、その形を適当に変えて遊んでいたルイナは、飽きたように全てを吸収して立ち上がる。
「そろそろ行きますかね」
「あ、ちょい待ち。あのハンターたちがあっちの大陸からこっちの大陸までワープしたらしいんだけど、理由ってわかる?」
「……ふむ?そういうことでしたか。わかりました。対応しておきましょう」
「いや、ちょ、え?理由は?」
答えも告げずに自分の中で納得したルイナは、そのまま一人で喫茶店を出て行ってしまった。
くっそ逃げられた、なんて思えば、なぜかそのルイナが目の前にいる。
いや、どちらかと言えば、リナがルイナの前に転移していた。
「……え?」
「おや」
これはルイナでも予想していなかったのか、久しぶりに純粋に驚いた顔をしていた。
「そんなに聞きたいです?空間神も暴走状態だというのは、ちょっと考えればわかりそうなものですが」
「え、そうなの?やばいじゃんってかそっちじゃなくて今説明してほしいのはこの状況なんだけど?」
「あれ?あなたが自分でやったのではなくて?」
生命変換を使えば、座標移動だけならできる。
ただ転移魔法ではないので見える位置くらいが限度だし、何より一気に体力を消費する。
いくら無限とはいえ疲れるものは疲れるのだ。
そんなことはどうでもよくて。
「そんなことしないわよ。するまでもないし。だから、どういうことよ?」
「ふーむ……呪い、の一種ですかねえ。空間神に目をつけられているようです」
「え」
どっからか見てんのかあの覗きの神、とか思ったが、そういうわけではないらしい。
「あなた、一度ねじれた空間に入りましたよね」
「まあ、知らなくてね」
「その時にマークされたみたいです。叛逆者の方は、そこまでの物をつけられるほど弱くはなかったということでしょうか。とにかく、あなたは今ランダムなタイミングでランダムな場所へ飛ぶような呪いがかかっているようです」
最初から曲がっている道はどうにもならないが、新たに空間神から影響を及ぼされることは、叛逆者はなかったのだろう。
それはいいが、いざ自分が被害者になると不安になる。
「……どうにかなんないの?」
「なりますよ」
「まああんたそういうの直すの得意だもんね。じゃあお願い」
「え?」
「え?」
「私がはいどーぞで素直に従うと思ってます?」
「……あんた、ほんといい性格してるわよね」
「ありがとうございます♪」
褒めてはいないのだがどうせまともに伝わらないのだからどうでもいい。
今はこの害悪女からどうやって利益をむしり取るかだ。
「考え方がすごいですよね。一応、私に頼らずとも影響を打ち消す方法はありますよ」
「何よ。言ってみなさいな」
「叛逆者の血を頭から被れば、一発です」
ドゴン!と本気でルイナの頬骨を殴りつけておいた。
だがこの程度で沈む女ではない。
「痛いですぅ、まあどうにでもなりますよ。ランダムテレポートなんてこっちで座標いじれますし、毎回ランダムな数値が入力されるだけの時限式であればタイミングも測れますしね」
「……そこまでわかるなら直してって」
「嫌ですって。こんな楽しいもの利用しないでどうするんです。とりあえず当面は叛逆者のところに飛ぶようしてあるので、安心してくださいね」
「ねえそれ嫌な予感するだけど?」
「あ、あと二秒です。一、じゃあまた後で」
風景が一変して、リナはリベルの目の前に立っていた。
「あれ、どこ行ってたんだ?」
「……えーっと、なんでもないわ」
説明が面倒だった。
まださっきの喫茶店にいたリベルは、いつ頼んだのか紅茶を飲んでいる。
それだけで、戻ってきたんだという安心感を得られるんだから、随分とリベルに執着しているんだろう。
「一応説明しておくとね、なんか空間神にマークされたみたいで、不意にどっかに飛ばされるらしいわ」
「え、それってまずくないか?」
「うん……ルイナに直してって頼んだのに、あいつ言い訳とかなしに嫌って言いやがったのよね」
「……らしいと言えばらしいか」
「そう。でさ、嫌がらせなのかなんなのか、とりあえず今はリベルの前に飛ぶようになってる、みたいなの」
「……まあなら、まだしも危険は少ないか」
「ね、そう思えるよね」
だが何か嫌な予感がする。
これが良い人で、直す手段がないけど、座標をある程度決めるくらいならできる、みたいな説明をされていたのなら、リベルと一緒にいることの方が多いんだから、遠距離に飛ばされる危険を防ぐ意味合いとして理解できる。
ただあのルイナがやったとなると、それ以上の思惑が何かしらあるように思ってしまう。いや、ない方がおかしい。
「とりあえず、様子を見るしかないんじゃないか?」
「そう、ね。て言っても、空間神はあいつがどうにかするみたいだし、あんまりやることもないんだけど」
ふと思う。これはむしろ、リベルと一緒にいる口実になるのでは?
いや元から隣にいるのが当たり前なのだから、今更言い訳なんて必要ないはずなのだが、それでもやっぱり理由があるともっと一緒にいられる、と思ってしまうのは、純粋な乙女の考えだろうか。
「まあ、もうちょっと休んでいきましょうか」
「そうだな」
飲み物のおかわりを頼んで、二人はもうしばらく喫茶店で時間を潰してみることにした。
記念すべき100話目がこんな話でした。まあ、いいでしょう。裏話とか聞きたいです?要望あれば、活動報告とかに書いてみます。




