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日緋色の叛逆者  作者: 高藤湯谷
一章 魔導国編
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4話 本質にあるもの

 三人は、昼食を摂るために街へ繰り出していた。

 リベルの目には全くわからないのだが、どうやら二人とも本人だとは思われないように工夫をしているらしい。何がどうなっているかは不明。


「な〜んか嫌なのよねぇ」

「な、なぜですの」


 なんでも魔導神おすすめの店があるらしく、今はそこに向かっているのだが、リナは特に理由もなく怪しんでいる。強いて言えば、魔導神が勧めているから。


「それはもう神に対する冒涜では?」

「神を冒涜して何が悪いのよ。この世界碌ろくな神いないじゃない」

「……わたくしはマシですの」


 事実として碌な神はいないらしい。



「つか、なんで転移とか使わないわけ?あんたにとっちゃ魔法なんて呼吸より簡単でしょうに」

「それはそうですが、全て魔法に頼り切っていては、まるで別のものを極めた人間のようになってしまいますの。ですか」

「ニート」

「言っちゃいけないことを言いましたわね!?これでもきちんと仕事していますのよ!?」

「じゃあ何やってんのよ」


 うぐ、となぜか返答に詰まる魔導神。まさか本当にニート?とリナが胡乱な目を、というか新しいおもちゃを見つけた目をしている。


「わ、わたくしは、この国の管理をしていますの」

「でも基本人任せでしょ。あんたらみたいなのが、まともに良い世界を作ろうとしてるとは思えないし」

「……た、たまに、書類が回ってきますわ」

「内容は?」

「……こんなお祭りがあります、とか、今の流行はこんなものです、とか」

「それはもうチラシよ」

「うぐぅ……」


 魔導神とリナのパワーバランスが逆転した瞬間だった。


「つ、着きましたの……」


 なんだかやつれた魔導神が見上げるのは、富豪たちが好んで使いそうなホテルだった。

 昼食だけでホテル?と思ったが、ここのレストランは日中一般開放されるらしい。


「まあ?わたくしは一般ではないので、いつ来ても使えますけども?」


 ドヤ顔と共に胸を張れば、リナがやっぱり嫌そうな目をしている。


「なんなの?当てつけなの?自分のを見せびらかすことで私に屈辱を与えようって魂胆なの?」

「な、なぜあなたがそこまで気にするのかがわたくしにはいまいち理解できませんの……。というよりこっちですの!?こんな立派なホテルをいつでも好きなだけ使える方を妬んでくださいまし!」


 魔導神が自分の胸に手を当てて騒いでいる。

 本人的に大きさはどうでも良いらしい。

 だがそういう態度が、リナにとっては気に食わない。


「そんなの知らないわよ!私だって無駄に貯まった金が有り余ってんだから、高級ホテルの一つや二つ数年くらい住んでたって全く響かないのよ!そんなのよりねえ、絶対成長しないことが確定してるこっちの方が重要に決まってんでしょ!?」


 リナが薄い胸を叩いて叫ぶ。

 あまり具体的なことを言うと怒られそうなので言葉を濁すが、リナの体格はほぼリベルと変わらない。

 そしてリナは自分がサイボーグだから成長しないと主張するが、魔導神はそこに疑問を抱く。


「あなた、体の構造自由なんですから、胸のサイズくらい変えればよろしいのでは?」

「……っ!?」


 雷が落ちるエフェクトでもかかりそうな驚き方をする。

 その手があったか!という顔をしているが、むしろなぜ今まで気づかなかったのか。


「えーっと、形状変更から……あれ?んん?……マジでさぁ」


 嬉々としてどこか虚空へ目をやっていたリナが急に落ち込むものだから、思わずリベルと魔導神は顔を見合わせていた。


「どうしましたの?」

「……なんかね、人間としての体は変えられないみたい。この体になったのが十四歳の時だから……ああもうっ!なんであと数年待ってくんなかったのかしら!?そしたら絶対もっと成長してたのに‼︎」


 リナが誰かに文句を言っているが、多分あんまり変わらなかったんじゃないかな、なんて直感で二人は思った。


「なあ、それより早く入らないか?なんかガラス越しにめっちゃ嫌そうな目で見られてるんだ」

「「……すみませんでした」」


 多分ホテルのスタッフだろう。入り口で言い争いをしていたせいで迷惑そうな顔でずっとこっちを見ている。

 全員で謝り倒して、なんとか事なきを得た。



「……あんたの権限でどうにかなったんじゃないの?」

「……それで納得できるほど人間の感情は簡単ではないですわ。だったら最初から謝った方がまだ許されますの……」



 三人が案内されたのは一般開放されているレストラン、の奥の個室だった。

 高貴なるお客様をもてなすための場所らしい。


「高貴、ねぇ……」

「な、なんですの。これでも神ですわよ。敬われて何がいけませんの」

「……いや、碌に仕事もしない神様でいいんだって」


 ガッ、と二人の少女が掴み合う。

 なんだかんだリナも楽しそうだから放置でもいいのだが、流石にスタッフの視線が痛い。


「早く食べようぜ。お腹空いたよ」


 リナの頭に手を置いてそう言えば、二人ともピタリと硬直する。


「う、ごめんなさい。大人しくします」

「ぷふっ、あなたが手懐けられてるじゃないですの」

「な〜んでここで煽るかなぁあんたは」


 リナはもう取っ組み合いする気がないのか、平然と受け流して席に座る。

 リナがそんな調子だと魔導神もつまらないのか、魔導神もその対面に座った。

 そして、二人してリベルの方を見る。


「……?」


 何か威圧とも違う圧力を感じた気がするが、リベルは気にせずリナの隣へ。


「……♪」

「……」


 無言のやり取りがあった気がするが、声がなければ何もわからない。


「これって何を頼めばいいんだ?」

「なんでもいいですわよ。ここはわたくしが持ちますの」

「お、じゃあ高いのから攻めて行きましょ。まずはこれとこれと……」

「あなたはとことん嫌がらせが好きですわよね……」


 それでも払うと言ったことを撤回するつもりはないらしい。

 メニューにはあまり写真が載っていなかったので、リナが言った通りとりあえず高いものから頼んでみて、運ばれてくるのを待つ。


「なあリナ、喉乾いてないか?」

「ん?んーまあさっき騒いでたし、ちょっとは」

「水いるか?」


 ん?とリナは首を傾げているが、魔導神は本当に微笑ましそうに、それでいて寂しそうな表情をしていた。


「リベルさん、それだとグラスがありませんわよ」

「あ」

「グラス?……え、魔法で出そうって話?」


 リベルが気まずそうに頷く。

 そう。せっかく魔法を使えるようになったのだから、何か一つくらいリナに見せたかったのだ。

 音でしかないため息を吐いたリナは、仕方なさそうに口元を緩める。


「じゃあ、ここに私が持ってるコップがあるから。ここにくれる?」

「ん」


 コップがどこから出てきたのかは気にしない。

 リベルは指先を向けると、ゆっくりとコップの中に水を注いだ。


「……まあ水よね」

「?」

「んーん。いただきます」


 リナが飲み始めると、二人からの視線が突き刺さる。

 ただ水を飲んでいるだけなのにこの注目度はなんなのか。

 リナは気恥ずかしさから一息で飲み干してしまうと、さっさとこの時間を終わらせるために感想を述べる。


「……美味しい天然水って感じ?」


 水の味の違いなんてわからないしリベルだってわからないだろうに、美味しいという言葉だけで表情をパッと輝かせる。


「なら、良かった」


 言葉は硬いし甘えてくるわけでもないが、全身から嬉しいオーラみたいなのが漂っていて、思わずリナも笑ってしまう。

 そんな和やかな空気を、ただ一人魔導神だけが無表情で眺めていた。




 昼食は、なんと言うかまあ豪勢なものだった。

 高い物から順に頼んだのもあるのだろう。見た目でも楽しめて、味ももちろん美味しいという、まさしくプロの品々である。

 それでもリナは何かが気に食わないのか、一口食べてはリベルの方を見るということを繰り返していた。


「(……恋でもしていますの?)」

「んなっ!?」


 急に大声を出すものだから、リベルも思わずリナの方を見る。


「どうした?」

「い、いや、なんでもないわ」


 リベルが食事に戻るのを見届けてから、リナは対面の魔導神を睨む。


「(恋ってあれでしょ?永遠を誓い合って一生涯かけてお互いを幸せにするって言う、あのなんであるかわからない自分の首を絞めるだけの感情)」

「(それは結婚ですしそんなに重く考えている人は今時いませんの……)」


 リナに一般的な恋なんてものはわからない。

 だがリベルが『友達』の枠にいることは認めている。

 リナにとっては、『友達』が最上位で何よりも大切な存在なのだ。


「リベルさん、あなた恋とはわかりますの?」

「っ」

「恋?」


 リベルは薄味のスープを頑張ってスプーンで掬いながら首を傾げる。


「そうですの。誰かを好きだと感じて、ただその人の近くにいたい、その人と笑っていたいと感じる、わたくしにはわからない人間らしさの塊ですわ」

「んー、好きだなんだってのは前にもリナに聞かれたが、恋ってのはわからないな」


 ここに、正しい意味で恋を理解できる者はいない。

 そのままの流れで恋愛感情について語っていたが、どれも的外れで怒られそうな意見しかなかった。



「なんか、あんまり味を覚えてないわ」

「あなたねぇ……それでも機械ですの?」

「気分的な問題よ。それより、これからどうする?」


 もうこれ以上迷惑をかけるのは申し訳ないというか出禁にされそうなので、ホテルからは離れたところで三人は話し合う。

 元々が魔導神にとりあえず会ってみるという目的しかなかったのだから、それが達成された今、次の目的が曖昧になってしまった。


「そうですわね……また特訓に戻ってもいいですが、リベルさんは一応満足しているのでしょう?」

「ああ。リナが美味しいって言ってたからもういい」

「「……」」


 絶対に基準が間違っているが、本人が良いと言うなら良いのだろう。


「で、では、そうですわね……どこか、遊びに行ってみたいのですが……」


 魔導神がほんの少し目を輝かせて辺りを見回していると、不意に強めの風が吹く。

 それくらいなら誰も気に留めなかっただろうが、風を受ける面積が広く、そしてただ乗っているだけのものをつけていた人は違う。

 つまり、魔導神のとんがり帽子が飛ばされて、離れた位置に落ちた。


「あっ、帽子、帽子……あぁっ、また風が!?」


 わたわたと慌てふためいて必死に帽子を追いかける姿は、魔導神らしくもない、臆病な少女のようだった。


「ふぅ、危なかったですわ」


 帽子を拾って落ち着いた様子の魔導神だが、真に恐れるべきは帽子が飛んだことではない。

 その背後から忍び寄る、人の弱い部分をつつくことが大好きな少女の方にある。


「な〜にが危なかったのかな〜?」

「ひっ!?わ、か、返してくれっ、それがないと……!」

「ないと、どうなっちゃうのかな〜ん?」


 ニヤニヤと、ナンパしてきた男よりも嫌な笑みを浮かべて、リナはとんがり帽子を両手に行ったり来たり、時には体の後ろを通すことで魔導神(?)を翻弄していた。


「う、うぅ……なんでお前はこんな人を呼んだのだ……」


 途中、リナに言っているのかとも思ったが、違う。

 その言葉は、自分の内側に向けられていた。

 つまるところ、魔導神である自分。


「あんた、二重人格?」

「っ」


 長生きをしているリナの理解力は半端ではない。

 一瞬で本質を見抜かれた魔導神改めか弱い金髪少女は、びくりと体を震わせた後、観念したように両手を挙げた。


「ああ、その通りだ。そして、こっちの私は魔導神などと呼べるような存在ではない……」


 案外早かった降参に、リナはむしろ熱が冷めたような呆然とした目を向けていた。


「そう、なんだ……あの魔導神が、二重人格……へぇ……そっか……」


 なぜかこちらも自分の世界に入ってしまったリナに代わって、リベルが質問を引き継ぐ。


「それなら、お前は一体なんなんだ?」

「私か……?そうだな……少し臆病で、魔法に長けているだけの、ただの人間の娘だよ」

「いや、それはただのではないでしょ」

「あ、リナ」


 リナが復活したのでリベルはまた口を閉ざす。あくまで主軸はリナである。


「今のあんたがどれだけの魔法を使えるか知らないけど、転移魔法が使えるなら人の範囲には収まらないわよ」

「残念だが使えない。使えていたら、今こうする前に逃げている」

「……」


 とても、説得力の強い言葉だ。


「それと、今の私は魔導神でもあんたでもない。アプリム・ハーフェリオン。それが私の本当の名だ」


 名乗りをあげた金髪少女は、今この瞬間だけ、神にも負けぬ誇りと矜持を秘めていた。

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