13.おっさんは神さまの仲間に認められる。
スーパーガイガー1号の主武装はハイパーレッドロケットパンチである。とどめに使うべきものなので、すぐには使えない。代わりにスーパーガイガー1号は走り出し、スーパーガイガー2号に駆け寄ると滑らかな動きで2号を覆い尽くす触手を引きはがし始めた。
さすがに圧倒的なパワーだった。
触手はスーパーガイガー1号に対しても攻撃を仕掛けたがスーパーガイガー1号は気にした様子もなく作業を続けた。触手の固まりの中から、2号の傷だらけの装甲ーー一部は削り取られて内部構造が露出していたーーが現れ、スーパーガイガー1号の触手を引きはがす動きが早まる。一方、触手の反撃も始まった。
取り除かれた触手がスーパーガイガー1号に巻き付き、ギリギリと締め上げ始めた。
触手が排除されるビチビチという音に、みしみしという軋み音が混ざった。
「が、がんばれスーパーガイガー1号……!」
「スーパーガイガー!!!!!」
箸口の応援に応え、スーパーガイガー1号はさらに力強く動き続けた。
やがて2号の周囲から触手はほぼ取り除かれ、むしろ残った触手は1号の身体の周りに群がり、今や1号は球形の着ぐるみを上半身だけに来ているような姿だった。着ぐるみは今も蠢き続け、中からガリガリと音を立て続けていた。
1号は最後の一匹を2号から剥がし取った。
箸口と式霊たちから思わず歓声が上がった。
1号は触手を腕いっぱいに抱えたまま、足の下からジェットを噴き出し始めた。そしてそのままゆっくりと宙に浮かんだ。
「どこへ行く1号!!!!!????」
「ど、どこへ……?」
ポニーテールの式霊もスーパーガイガー1号を見上げながら呟いた。
だが、箸口にはわかっていた。
これは小学生の頃考えていたスーパーガイガーの最期だったからだ。
当時放送していたスーパーロボットアニメのラストとそっくりで、そのスーパーロボットは最後に敵を抱えたまま地球を出て、敵ごと自爆するのだ。
そして目の前に現れたスーパーガイガー1号は、小学生の箸口が思い描いていたシーンをそのまま再現した。
1号は無数の触手を抱えたまま百メートルほどの高さまで飛んで、そしてそこで自爆した。凄まじい音と熱が放たれた。
「ス、スーパーガイガーああああああ!!!!!!!!!」
触手の破片が降りしきる中、箸口は叫んだ。
叫びながら思わず涙が出た。
だが、哀しみに浸ってはいられなかった。亀裂を何とかしなければ、触手はそこを通って再びやってくる。箸口は涙を振り払い、2号は動けるのか、と2号の方を向いた。既に両脚は削り取られ、右腕も半ばまで存在していなかった。戦える状態とはとても見えなかった。それでも自分の武器は今は2号しかなかった。その箸口の覚悟に呼応するように2号の目が光った。やってくれるのだ、と箸口の目が潤んだ。
だが、
「安心してくれ。断裂は自動的に閉じる。世界は侵略霊にちゃんと対応する。僕達の役割は世界が侵略霊に気づくまでの時間稼ぎだよ」
現れたセンシルがそう説明してくれた。センシルは近寄ってくるとそのまま箸口の手を取った。
深々と頭を下げた。
「助かった……僕達だけでは対応出来なかったかも知れなかったからね。ソーフィア様のお手を煩わせるところだったよ」
センシルの目には感謝が満ちていた。同時に並んで共通の敵と戦った相手にだけ向ける親しさもあった。そして同じ親しさを箸口も式霊たちに感じていた。
だから、手を握り返して笑顔を浮かべた。
「いえ。よかったです。役に立てて」
「見てくれ。断裂が閉じるよ」
箸口がセンシルの見ている方を向くと、まさしく断裂が消えていく瞬間だった。断裂は世界の裏側に崩れていくように小さくなり、そしてそのまま何事もなかったように消えた。
「……うん。今日もちゃんと動いている」
なんだか自分の手柄のような顔で、センシルが満足げに頷いた。
「……よかったです」
箸口もホッとしていた。
「ああ。それにしても、今回の侵略霊はやけに強力だったなぁ……邪神の動きと何か関連があるのかな……」
「……いつもは弱いんですか?」
箸口は驚いた。確かに先ほどまで戦っていた触手は強かった。化け物だった。スーパーガイガー1号も相打ちでしか倒せなかったのだ。だから非常に不安になっていたのだが、先ほどのが特別で普段はもっと弱いのであれば、そこまで心配しなくて良いと言うことなのだろうか。
「そうだね。いつもはまず数が少ない。たいていは二、三体だよ。今回はぱっと見だけで十体以上、しかも今までにないくらい大型であげくにはじめて組織として動いているように見えた……うん。異常事態と言っていいだろうね」
「……それにしてはあんまり危機感がないですね」
箸口の言葉にセンシルは少し目を見張り、それから首をかしげた。
「……言われてみればそうだね。しょせん僕らは前座だって気持ちがあるんだろうなぁ。いざとなったらどれほどの侵略霊が来ようとも、新たな巨人が現れようとも、そのすべてをアイゴスたるソーフィア様が一蹴される、そのはずだって思っているから危機感がないんだね。この第四のエーテルシェルを管理されているお方だからね。でも、考えてみればあまりいいことではないね」
ソーフィアの名前をいう時はちゃんと独特の仕草をした。
それにしてもソーフィアというのは改めてすごい存在らしい。どういう理屈か、アイゴスという言葉の意味が理解できた。アイゴスというのは「最大最高の権威にして偉大なる創造神の後継者」という意味を持っていた。言葉通り、まさしく神の力を持ち、神として君臨しているようだった。
「あれは……」
ソーフィアについて聞こうとして、途中でその言い方はマズいな、と、
「あのお方はーー」
と改めて言いかけたところで、思い出した。
脳裏にこの世界に転移する前の場所で見たビックリするくらいの美少女の必死な顔が浮かんでいた。思い出しただけでなんだか鼓動が早まった気がした。もしかしたらいるかもと思って追ってきたが、姿は見えなかった。そう思ったら、気がつくと口に出して聞いていた。
「あ、そういえば、俺はあるところからここに来たんですけど、同じように誰か来ていませんか? あるいはあとから来るとしたらどこか決まっていたりするんでしょうか?」
箸口の焦った口調に、センシルはふむ、と頷き、それから笑顔で、
「君が言っているのは世界のことだね? 君はここに霊魂だけで来たんだよ。つまり身体は世界のほうに残っている。だけどここから世界のことはわからないんだ。わかるのはソーフィア様だけだね」
霊魂? 世界?
「……気になるのかい?」
「は、はい。俺、のことも気にかかりますけど、それよりあの子がどうなってしまったのか……」
「わかった。ソーフィア様にお尋ねしてみよう。着いてくるといい」
「あ、ありがとうございます!」
「その前に、君の特別な霊兵装を戻したらどうだい?」
「ごーすとうぇぽん……?」
「それだよ。霊兵装は出していると魔力を消費し続けるからね。君のは強力な割にずいぶんと効率的なようだけど、戻した方がいい」
センシルが指さした先にあったのは、スーパーガイガー2号だった。2号は解放されたままの姿で地面に転がっておりすでに動きを停めていた。そして2号の前にポニーテールの式霊が立って、悼むような表情でぼんやり2号を見ていた。
「霊兵装は、霊図を抜き取ればもとのエーテル構成体に戻る」
「? と、とにかくや、やってみます」
「それからキホゥ、君はその魂体を直してもらいたまえ」
「あ、ああ……」
「ノロイン、キホゥの魂体の修復をお願いしていいかい?」
「わかりましたわ。キホゥ、こちらに来てくださいな」
キホゥと呼ばれたポニーテールの式霊は、ノロインに対して「頼む」と言ったあと、箸口の方を向いた。それから両腕がないままの姿で言った。
「……認めよう。貴様に助けられた」
「あ、いやーー」
「行け。この恩はいつか返す」
「硬いなぁ。キホゥは。ま、それがいいところでもあるとは思うのだけど。とにかく先に霊図を抜き取り、それからソーフィア様の元へ行こう」
「はい」
次回更新は今日か来週明け月曜日の予定です。




