恋と言うには穏やかで 愛と呼ぶには儚くて
『久方ぶりなのだ。』
「やぁ、本当に。いつぶりだろう。」
『お主が来なくなってからだ。ざっと...二年か?』
「そんなにか、とても長かったろう。」
『そうでも無いとも。儂の歳月、甘く見積もるなよ?』
「ふふ、そうだったね。でも、そんなに会っていなかったのは、なんだか残念だなぁ。」
『そういうものか?』
「そういうものさ。」
『ところでな?これは何をしているのだ?』
「これかい?人の弔いだよ。」
『弔い...聞かぬなぁ。』
「いなくなってしまった人に、ありがとうとさようならを伝える儀式さ。」
『いなくなった後にか?なんの意味があるのだ。』
「無いよ。でも、少しだけ整理出来れば、その人の事を思い出す時、少しでも長く笑顔でいられるだろう?人に思い出して貰うなら、笑顔で語られたいものだよ。」
『そういうものか?』
「そういうものさ。」
『そうだ、先日はお主以外の者が来たぞ!三年前にお主が連れてきた、何といったか...そう、ジュケンセイちゃんなのだ。』
「それは名前では無いよ。妹ちゃんと呼ぶようなものだ。」
『むぅ...笑わずとも良かろうに。』
「でも、そうか...なんだか、その繋がりの中で僕が生きている様で嬉しいな。葬式に人が集まるのは、そういった意味もあるのかな。」
『嬉しいのか?』
「もちろん。何も無くなる様に消えていくのは寂しいものだからね。」
『そういうものか?』
「そういうものさ。」
『確か、お主が初めて来たのも、人に連れられてだったな。』
「そうだね、隣の家のおじさんに、近所を教えて貰っていた時だ。」
『あやつな?儂の所なぞ、年に一度と顔を出さんのにしたり顔で語るだろう?おかしかったぞ。』
「だから笑ってたんだね。とても素敵だったよ。」
『今日は口が軽いのぅ。しかし、儂はいつも素敵だろうて。』
「違いない。」
『笑うところでは無いぞ。』
「ごめんね。」
『しかし、長いなぁ。人は不可思議な事に労力を使うのだな。』
「そうかもね。大きすぎて、複雑すぎる感情って宝を、持て余してるんだよ。でも、それが良さなんだろうね、きっと。」
『そういうものか?』
「そういうものさ。」
「ごめんね。そろそろ、行かないとかな。ありがとう。」
『のぅ、主。次はいつ来る?』
「...ごめんね、約束は出来ないかも。でも、覚えていたら。きっと真っ先に行くだろうさ。」
『そういう...ものなのだな?』
「そういうものにするさ。」
『儂はな、お主を忘れんよ。来るのを楽しみに待つとも。それは、嬉しいものか?』
「そうだね、とても。でも、それが苦しみになるなら、捨てて...と言いきれない弱い男だけどね、僕は。それでも待つかい?」
『無論だとも。早く来いよ、若いの。』
「そうするよ。」
「おねえさん、そこでなにしてるの?」
『うん?そうだな、人を待っておる。坊はどうしてここへ?』
「ここね、おばあちゃんの、思い出のばしょなの。初恋の人と、おねがいしに来たんだって。ぼく、こっちにこしてきたの。」
『そうか。』
「おじいちゃんには、しー、だよ〜って言われたの。そういうものなのかなぁ?」
『そういうものなのだろうな。』
「ここ、どんな所なの?」
『妾の家なのだよ、ここは。おばあちゃんも少しばかし知っておるぞ。』
「そうなの!?おねえさん、すごいんだねぇ。」
『覚えていてくれる人がおるからな。』
「わすれられないと、すごいの?んー?...そういうものなの?」
『そういうものだとも。』
「おねえさん、どんな人を待ってるの?」
『いつも、「また来たよ」と餡団子を三人前持ってきて、二人前食べるような奴だ。』
「ぼくも好きだよ、あんだんご〜。」
『そして、従兄妹を魅了しても、気づかんような罪深い鈍い男だ。』
「みりょ...つみ?」
『バカな者、という事だ。』
「そういうものなの?」
『そういうものなのだ。』
『ほれ、童は帰る時間ぞ。』
「あ、ホントだ!ごめんね、おねえさん。」
『...あぁ。』
「あ、そうだ!」
『前を向け!転ぶぞ!』
「明日もね!ぼく来るね!また来たよ、ってあんだんご、あげるね!」
『お主に言われれば、満足だろうな...』
「おねえさん、またね!」
『あぁ、またな!』