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メルセデス I  作者: 白白
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プロローグ

AD2208年:プロト海近郊:ライリイカーター                     


この日、ライリイは朝起きた時から最悪の気分だった。

まず、起きた時の感覚が最悪だった。目覚めが悪いなんてものじゃない。

目が覚めたら全身砂まみれの状態砂だらけで地面の上に寝転がっていた。

服の中はもちろん手の爪や足の爪まで砂だらけ。口の中までもじゃりじゃりいっている。

ここは? 砂まみれの手で目をこする。頭上にはぼんやりと灰色の空が広がっている。 

外なのか?でも、どうして? 分からない。頭の中がひどくぼおっとしている。なら、何があった?

いつからここにいる?何か覚えていることは?

ライリイは首を振った。頭が考えることを拒絶している。

辺りにはほとんど草の生えていない茶色い粘土質の地面が広がっている。

所々に大きな石が散らばっていて、その周りに大きな水たまりが出来てい

る。こんなところに住んでいた覚えはない。それだけは確かだ。

落ち着け。ライリイはパニックになりそうな自分に言い聞かせた。

まずはどうしてこんな所に来たのか順番に思い出していこう。一度目を閉じ、大きく深呼吸をする。

最後に残っている記憶はいつだ?2日前?3日前?4日前?・・・

「あの人のこと?倒れていた見知らぬ人って」後ろの方から声が聞こえてきた。

横になったまま目を上げると、遠くに見える白いテントから二人組の女の子が何かを話しながらこちらの方に向かって歩いてくるのが見えた。

二人ともお揃いのピンク色のナースキャップにぱりっとした白衣——何か看護師みたいに見える。

ただ、左を歩いている人は金髪で長髪、帽子から飛び出した髪を後ろに流し

ている。すらっとした体形でもう一人の女の子よりも背がかなり高い。

もう一人の方は、黒髪でショートカット。こちらもすらっとした体形をしている。肩に大きなカバンのようなものを背負っていて、顔は・・・。

急に目の前の視界がぼやけはじめ、意識が遠のき始めた。

ぼやっとした視界の中で、得体のしれない黒いもやのようなものが渦巻いている。

「嘘・・」近づいてきた金髪の女の子がぎょっとした顔で立ち止まった。

「この人見たことない。——これって・・」まずいことになった、という表情で金髪の女の子は黒髪の女の子の方を振り返った。「どうするの?この人」

黒髪の女の子はその質問には答えなかった。代わりにさっとライリイの横にしゃがみ込んだ。

付けていた片方のゴム手袋を口で外し、そっとライリイの腕をとって、脈をはかる。

ざらざらした砂の上からすべすべして温かいぬくもりが肌の上に伝わってきた。

「大丈夫、まだ生きてる」黒髪の女の子はほっとしたように呟いた。

それから後ろで立ち尽くしている金髪の女の子の方に向き直った。

「とりあえず、テントまで連れて行きましょ」黒髪の女の子がいった。「大きな怪我をしている所は特になさそうだし・・・多分助かるわ」

「えっ?」噓、冗談でしょ。というように金髪の女の子は目を見開いた。

「だって、このまま放っておいてもかわいそうだし・・」一度、後ろのテントの方を振り返る。「シーツ、まだ倉庫の中に何枚か残ってたでしょ」

「でも、もしこの人が紛れ込んだスパイだったらどうするの?あなたまで殺されるかもしれないのよ」

そこで言い過ぎた、というように金髪の女の子は一度言葉をきった。「だいたいコナーやぺピンがこのことを聞きつけたら、何を言い出すか・・特に昨日襲撃にあって、ただでさえ、みんな気が立ってるんだから」今度はかなり抑えた声だ。「少なくとも、この人の正体がはっきりするまでは、このままにしていた方がいいでしょ。多分ぺピンやコナーじゃなくても同じことを言うと思うわ」

「あら、待って・・大丈夫、それなら分かるわ」横できょろきょろ辺りを見回していた黒髪の女の子が嬉しそうに遮った。手には大きな袋が握られている。「この中見てみて、中にアベニヤ産の銀の食器がたくさん入っている。多分この人、アベニヤ国から来た行商人よ。他にこの荷物の持ち主らしき人はどこにもいないし、私たちがここに置くわけないでしょ」

アベニヤ国から来た商人?  

必死に二人の話を追いかけながら、ライリイはうっすらと持ち上げられた袋の方に目を移動させた。

本当にそうなのか? 自分はスプーンとかフォークとかを売ったりしている商人なのか?

もちろんそんなことは覚えてない。ぼおっとした頭の中で、ライリイは商人になった自分の姿を思い浮かべてみた。

ぎらぎらした太陽の下、スプーンやフォークが一杯に入った袋を背負って、

買ってくれそうな家を探しながら一軒一軒家を回っている。

こんな所に倒れていたのは、食器を売りに来たせいだったのか?

いや、違う。そうじゃない。

心の中でライリイは首をふった。どうしてかは分からないけど、それだけははっきりと確信が持てる。

そんなんじゃなかった。本当は、そんな商人なんかよりもはるかに危険で嫌な仕事で、確かもっとこう・・

突然、プチンという何かが切れる音がした。何か金属が切れたようなそんな音だ。

きゅうにライリイは現実の世界に引き戻された。頭の中で危険信号が鳴り響いている。

頭の中がぼおっとしてきた。だんだん目の前の視界が暗くなっていく。

「それに、スパイなら、普通、一番警戒が強まっている襲撃の次の日に現れたりしないでしょ」真っ暗になった世界の中で、黒髪の女の子の声が和音のようにこだましている。「なんなら私がこの人の保証人になってもいいわ。それなら・・・」

 その続きは、ライリイには聞き取れなかった。次の瞬間、一気に気が遠くなって・・ライリイは気を失った。






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