第一章:交差する日常 4
君が嫌いなものは全部、僕が壊してあげるから
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バルカンは目の前のオリエに恐怖を抱いていたが、何故か同時にワクワクもしていた。
オリエ・キャロル。キリエの双子の兄にして、「作られた能力者」。それ以上はどんな能力かも機密事項なので知らないが、キリエよりも強かった、という事は聞いていた。
(・・・・オリエはともかくキリエが限界だな)
バルカンはオリエを見てそう思った。
キリエの『霊体操作』はその名の通り、「霊体」つまりは「魂」を自身の身体に繋ぎとめる能力で、この世にその魂の身体を具現化できる。だが、その反動は大きく、能力者を蝕む。キリエにも当然負担はかかっている訳で、具現化をしないのはキリエが限界だからとバルカンは考えた。また、その身体に繋ぎとめた「魂」が鴉の魂なら、その能力を使うこともできるが、能力を使うためにはその魂を絶対服従させなければならない。でなければ身体を乗っ取られてしまう。
オリエはその点心配は全く無いと言える。なぜなら・・・・
「あ〜相変わらず綺麗な肌・・・!!やっぱりキリエがこの世で一番可愛い!美しい!!キリエの兄の僕ってなんて幸せ者なんだろう!!!」
重度のブラコンだからだ。
「・・・・・」
「・・・・・」
バルカンだけでなく、攻撃を受けて荒い息をしている翼さえも呆れたような視線をオリエに注いでいる。
「・・・・こんな・・ヤツに斬られた・・・のは物凄く屈辱、です・・」
翼が呻く。
「同感だァ」
バルカンも同意する。
「あれ、何で?」
オリエだけがきょとんと、何故そんな事を言われるのかわからないと言った顔をした。バルカンは若干引きながら思う。
(ふざけた野郎だ。だが・・・・)
強いなら問題は無い。自分の力がどの程度通用するのか、試すのにはちょうどいい。任務は「キリエを生かしてつれて帰る」だが、今なら「翼がやられてたから」で言い訳は通りそうだ。
(翼に攻撃できたのを見ると、キリエと同じ『発火能力』ではねェな。かと言って周りの温度も下がってる感じもねェから・・・『氷結能力』でもねェし)
状況からオリエの能力を分析する。
(つー事は、残りは希少価値の高けェ『打消能力』位か・・・)
と、思うが早いかオリエに向かって弾丸を発射した。
「弾丸を『加速』」
(『打消能力』だと防御の手立てはねェ訳だ。能力分の速度は落ちても、元々の速度はどォにもできねェだろ!!)
そうバルカンは考えていたのだが、弾丸が発射されても笑っているオリエを見て背筋に寒いものが走り、
弾丸がオリエの前でピタリと止まった。
「・・・・・ぁ」
バルカンの口から間の抜けた声が出た。
「せっかちだなぁ。君もキリエも、もうちょっとゆとりを持った方がいいと思うんだけど。キリエにも言ったけどさ、カリカリしても得は無いと思うんだ けど」
オリエが言いながら左手を目の高さまであげる。
(・・・・・攻撃か!?)
バルカンが身を硬くして身構える。その様子を見てオリエが楽しげに笑う。
「ふふ、別に何もしないよ?」
オリエが人差し指を突き出して、渦を巻くようにクルクル回した。それに合わせて、止まっていた弾丸がクルクルと回り始めた。
「『物体操作』か・・・?」
「さぁ?なんだと思う?」
ニコニコとした表情を崩さないオリエに歯噛みするバルカン。
と、目の前にいたオリエがいなくなっていた。
「!!」
「僕はさ、別に怒りっぽい人間じゃあないんだ」
反応する間もなく、首筋に刀が添えられた。
「むしろ、沸点が高くて平和ボケしてるって言われててさ。誰に対しても優しく接してきたつもりだ」
「・・・・」
首を動かしたいが、動けば刀が首に食い込むことが必至なので動けない。冷や汗が頬を伝う。
「だけどさ、僕だって人間な訳だし・・・あぁ、間違えた、人間だった訳だし、赦せないことの一つや二つや三つや四つはある訳。君はその内全て に当てはまっちゃててさ、僕は物凄く怒ってる」
ここで一旦オリエの言葉が途切れて、オリエが溜め息をついた。そして、バルカンにとって絶望的な言葉を一言。
「だから・・・・まぁ、死んでくれる?」
刀に力がこもるのを感じた。
「・・・・センパイ!!」
翼が叫んでいる。
(あぁヤベェ、オレ死ぬのか?それは困る、アイツ《・・・》の敵をとるまでは死ねねェんだよ・・!)
祈りが通じたのか、不意にピタッと刀が動きを止めた。
「・・・・・?」
少しだけ首に食い込んだ刀は退くこともなければ、進むこともない。状況を把握できずにバルカンが戸惑っていると、オリエが喋り始めた。
「折角、良い所なのに邪魔するなんてどういうつもりだい?」
「・・・キリエ様に、『オリエが暴走したら止めろ』ときつく言われてますので」
澄んだ少女の声が聞こえた。聞き覚えがある。この声は・・・
「ラルファス、そろそろ武器を引っ込めてくれてもいいんじゃない?」
キリエと一緒に逃げた一人である、ラルファス・シアグリウス。
「オリエ様が武器を下ろす約束をしてくれるなら、引っ込めますよ」
会話を聞いていてようやく気づいたが、辺りにはラルファスの武器である極細のピアノ線が張り巡らされている。少しでも触れれば肉塊と化してしまうだろう。
オリエがまた溜め息をついた。
「・・・・しょうがないね、この状況じゃ」
「ありがとうございます」
シュルシュルという音がして、ピアノ線が緩み、後ろに流れていく。
首から刀が離れる。
いつの間にか、また、目の前にキリエの姿をしたオリエとラルファスが現れた。
オリエが翼を跨いで亜澄華が中に入った炎に手を翳す。炎は一瞬で消え去り、亜澄華が現れる。
「あ・・・え・うぇ!?」
呆けている亜澄華を、同じ体格位であろうオリエは軽々と肩に担ぎあげて、
「じゃ、逃げるから。バルカン、あのクソ院長によろしく言っといて」
バルカンと翼に背を向けた。
「は・・・・?」
余りに唐突に逃亡宣言をしたオリエに呆気にとられたが、すぐに止めに入ることに思い至った。
「ま、待て!」
「・・・・ナイト!!」
オリエがそう叫んだかと思うと、オリエの前にブラックホールのような穴が開いた。ラルファスが先に穴に入り、スタスタと歩を進めていく。続いて、オリエが穴に入り、後ろを振り向いた。
「Io non metto sul kyrie.Ciao!!(キリエはあげない。じゃあね)」
ニッコリとしてイタリア語でそういうと同時に、穴が閉じた。
キリエもオリエも、ラルファスも逃したバルカンは、その場に倒れこむと、
「Shit!!(くそ)」
同じくイタリア語で、悪態をついた。




