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二人の二人。  作者: 黒須
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2、二人のアイテム。

10月2日。



「ねー、入間くん」

 休み時間、スマホでゲームをやっていると後ろからクラスメートの井荻さんに声を掛けられた。


「なに?井荻さん?」

「そのアイテム持ってたの?」

 井荻さんは横から俺が手に持っていたスマホの中を指さす。彼女が身を乗り出すから俺達の体はくっ付きそうだ。


「ん?ああ、これ?」

「そうそう」

「実は月初めの無料チケットで一発で引いたんだよね」

「うそ!凄過ぎでしょ!」


 驚いた彼女を見て気分が良くなった。優越感で口元がニヤリと笑う。

 けれど次の瞬間。

「あたしに頂戴!」

 井荻さんは目を閉じて両手を合わせた。


「無理無理!」

「そ・こ・を・何とかっ!」

 くどい言い方。頭も下げてくる。

「いや、ちょ、頭上げてよ。無理だって」

 これは俗に言うkrkrだ。自分は持っていないから『貰えて当然』と考える病人。加えるなら『私は可愛いから』とでも思っていそうだな。こういうヤツは嫌いだ。


「はぁー、あたしも欲しいな」

 井荻さんは肩を落として溜め息をついた。


 ……井荻さんは俺が欲しいウルトラレアを持っているんだよな。……交換なら。今度交換できないか相談してみるか。


 彼女は明るい性格で顔もスタイルも良いから学年でも人気がある。けど俺は彼女一筋だ。愛莉がくれって言うなら余裕であげるけどな。


 俺はしょんぼりしながら立ち去る井荻亜希乃の後ろ姿を見つめた。





******





10月2日。



 教室は一階で校庭がよく見える。窓際の席の俺は授業中に校庭で体育をしている一年生を眺めていた。

 その中のある女の子に視線が行く。


 キスの時の表情がなんと言うか……、可愛かったんだよな……。

 ん?あれ?……今、目が合った?



「ねぇねぇ涼、昨日はなにしてたの?」

「……うん。……えっと」

 授業が終わると亜希乃が俺の席へ来た。けれどそれを気にも止めず先程目が合った校庭にいる一年生の女子に視線を向けていた。上の空な俺に亜希乃は疑問符を貼り付けた表情で首を横にコテっと倒す。


 体育が終わった一年生が校舎に戻っていってから俺は呟く。

「清瀬さんってペットが飼いたいのかな……」

「はぁ?清瀬さん?」

 そこでようやく亜希乃の顔を見た。彼女は訝しげに俺を睨んでいた。

「涼、なに言ってるの?」

「ああいや、……なんでもない」

「話し聞いてなかったでしょ?」

「あれ?なんだっけ。……すまん」


 拗ねた顔が、「はー」とため息を吐いた。

「昨日の野暮用ってなにっ!?教えてくれるって言ったでしょ?」

「ああ、えっと、病院に行ってきたんだ」

 病院のことは黙っておくつもりだったけど咄嗟の質問に正直に答えてしまった。

「どこか悪の?」

「いや、結局なんでもなかったんだ。亜希乃に変に心配かけたくなくて」

「ふーん。気を使わないでよ。病院ならあたしも一緒に行ったのに……」

「ありがと、今度からは亜希乃に相談するよ」

 少しいじけた表情を見せてくれた彼女が可愛いくて、それが嬉しくて俺は微笑んだ。 


「そう言えば」

 俺はスマホを取り出しゲームの画面を開く。

「亜希乃ってこのアイテム欲しかったんだろ?」

「え、持ってるの?てか、あたしがそれ狙ってたの、なんで知ってるのよ?言ってなかったと思うけど」


「あれ?……ああそうか」この世界では俺はまだ知らないのか……。


「なんでだろうな……。愛の力?」

「ぷっ、あははは」

 彼女は笑った。機嫌を直したようだ。

「あっ、やっぱりあたしに内緒でガチャ回してたんじゃない?」

「いや、違うよ。実は月初めの無料チケットで一発で引いたんだ」

「うそ!凄過ぎでしょ!……あたしに頂戴!」

 亜希乃は目を閉じて両手を合わせた。


 ……デジャブだ。亜希乃の言葉、仕草。あの時と全く同じ光景だ。また見ることになるなんてな。


「ああ、いいよ。亜希乃にあげようと思ってたし」

「えっ!ほんとにくれの!?……これも愛の力?」

 亜希乃は嬉しそうだ。だから俺も幸せな気分になった。krkr?そんなの関係ないっしょ!


「現金なやつだな」

「だってー、嬉しいんだもん。てかさ、そんなレアなアイテム本当にもらっちゃっていいの?」

 確かにこういうアイテムは交換するか、誕生日やクリスマスのプレゼントに使う。


「んー、やっぱダメ!」

「えー!嘘つき!卑怯者!」

「冗談だって。ちゃんとあげるよ」

 亜希乃の誕生日はまだまだ先だし、クリスマスだってあと3か月近くもある。そこまで待たせるのは可哀そうだ。

 俺はスマホを操作する。


「プレゼントで送っておいたぞ」

 そう言うと亜希乃は自分のスマホの画面に釘付けになった。

「あっ、来たー!ありがとー、涼!ずっと大切に使うね」

 亜希乃は嬉しそうに満面の笑顔を作った。俺は亜希乃のこういう顔が大好きだ。


「……そうそう昨日ね。涼がかまってくれないから、一回だけ6連ガチャ回しちゃって……」

 と恥ずかしそうにする亜希乃。

「えっ?先月たくさん回して、今月はもう無理って言ってたじゃん」

「そうなんだけど……。うー、反省してます。でもね、これ見て!」

 亜希乃がスマホの画面を見せてくる。


「すんげー!新ガチャのウルトラレアだ!」

 しかも俺が欲しかったやつ……。


「ふふん。凄いでしょ~。もーね、嬉しくて。あたしは使わないアイテムなんだけどね」

「良かったな。……やっぱり回そうかな」

「そうだよ!横で応援してるっ!」

「亜希乃様の応援があれば引けそうだな」

「絶対いけるって」

「ははは、考えとくよ」

 ガチャに絶対はない。まぁこのゲームは飽きてきたし、金が勿体無いからアイテムは交換サイトを駆使しして気長に集めるようかな。


「涼は今日バイトだっけ?」

「あ、そうだな。忘れた。俺より俺に詳しいな」

「当然です♪」


 笑いながら彼女はピースした。






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