1、二人の彼女。
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俺の名前は入間涼。
俺には付き合っている女の子がいる。
名前は井荻亜希乃。
彼女はふわふわした柔らかい栗色の髪を背中まで伸ばしていて、目尻と眉が少し下がった優しい顔をしている。口元にはいつも小さな笑みを浮かべていた。
身長は160センチ程で胸はそこそこ大きいのに痩せているからスタイル抜群だと言える。同学年の中でもかなり可愛い方だ。
同じ学年、同じクラス、一学期に同じスマホゲームをやっていたことをきっかけに仲良くなった。
そして、いつの日からか意識するようになっていった。
学年でも人気が高かった彼女に一学期の終わり頃、勇気を出して告白した。
人生初の告白だった。
その時、俺は声が途切れ途切れで上手く話せていなかった。彼女を直視できなくて挙動不審になった。鼓動が早過ぎて胸が苦しくなった。……足が震えていた。
そんな不様でかっこ悪くて情けない告白だった。あの時の俺は正直キモかったと思う。
けれど「別にいいよ」と拍子抜けするほど短い言葉で簡単な返事をもらって俺達はあっさり付き合うことになった。
夏休みは何度か一緒に遊びに行き、夏休みの終わりに俺達は初めてキスをした。
10月1日。
休み時間、亜希乃が俺の席に来る。
「涼、昨日の新ガチャあたしに内緒で回したでしょ?」
こちらをジト目で睨んだ後の第一声がこれだ。彼女はスマホゲームにご執心だった。
「いや、回してないって。欲しいアイテムはあったけど、ウルトラレアだし」
俺達がやっているゲームはウルトラレアを本気で出そうと思ったら、最低でも2、3万円は課金しないといけない。それでも出せないこともある。
ただ、逆に千円くらいで引けることもある。ごく稀にだけど奇跡のような確率で。だから少額でチャレンジして出なければ諦める。というのが俺達学生のセオリーだ。
亜希乃は口を尖らせる。
「えー、頑張って回せばいいのに」
「金がないから今月はやらない」
昔はある程度課金したが最近はこのゲームに飽きてきて俺の物欲センサーは衰退している、というのが本当の理由だった。
それよりも今は亜希乃との時間を大切にしたい。
「ふーん……、ガチャって高いよねー。はぁー、新ガチャ可愛いから欲しいのに。一回10円だったらいいのになー」
「それな」
亜希乃は落胆した表情を作った後、俺の瞳の中を覗くように見詰めいつもの小さな笑みを口元に浮かべる。それから……。
「今日の帰りはどこかで遊んでいく?」
そう言って可愛く首を傾げた。
彼女のこういう積極的なところが好きだった。だから誘いを無下に出来ず少し沈黙してから焦って話し始める。
「えっと、す、すまん。今日はその……用事があって、早く帰らないといけないんだ」
「用事って、なぁーに?」
優しい笑みを浮かべた亜希乃は上半身をグイっと前に出だし顔と顔を近付ける。近距離で目が合う。
俺は目を逸らした。
「んー、野暮用?」
「何それ!気になるっ!ふんっ!ふんっ!」
「鼻息荒いって。まぁまぁ、いつか話すから」
「涼のことは全部知りたいんだもん」
彼女は頬を膨らませたてから、からかう様に微笑んだ。
亜希乃は俺を溺愛している。それが心地良かった。
用事か……、言える訳がない。頭のおかしなヤツだと思われる。
☆☆☆☆☆☆
俺の名前は入間涼。
俺には付き合っている女の子がいる。
名前は清瀬愛莉。
整った目鼻立ちにさらさらの黒髪ロング。ただ髪は伸ばしっぱなしで目が隠れているから少し暗い印象を受ける。身長は154センチで小さな顔に華奢な体。胸は全然ないけどそこが可愛いと思ってしまう女の子。
彼女は一個下の後輩だ。今年の入学式で見かけて何故か一目惚れしてしまった。
家の方向が同じだとわかり朝や帰りの時間をなるべく合わせ、見かけたら勇気を出して挨拶をした。
最初は何故話し掛けてくるのか?と不思議そうな顔をしていた彼女だったが、いつの日からか登下校の時に自然に話せるようなっていった。
そして一学期の最後の日。俺は彼女に告白した。
その時の俺は自然体で緊張はしなかった。
彼女は地味で大人しい。見下してる訳ではなく、むしろそういうところ好きだった。接し易くて親しめた。気兼ねなく一緒にいることができた。
「好きだから付き合いたい」と気持ちを伝えると、驚いた顔を見せた彼女だったが、「私でよいのなら」と言ってくれた。
俺達は付き合うことになった。
夏休みは思い出をたくさん作った。
彼女は母子家庭で夜、親が家にいないことが多い。家が近所だったから毎晩のように近くの公園で会ってたくさん話をした。
そして俺達はあの日、夜中の公園で初めてキスをした。
10月1日。
今日は学校近くのコンビニで待ち合わせをして一緒に帰る。
「待ったか?」
「少しだけですが」
愛莉はチラリとこちらを見るとすぐに目を逸らす。
「まじで?ごめん」
「平気ですよ」
彼女は俯き微笑むと立ち読みを止めて雑誌を棚に戻した。ペットの雑誌を見ていたようだ。
「それじゃ行こうか」
「はい」
俺は愛莉の手を取る。
こうして手を繋いで歩くだけでも楽しい。幸せな気分になれる。自分の口元が緩んでいることを自覚する。
今日はいつもとは違う方向に歩く。寄り道をするからだ。
「病院に寄ってから帰るのですよね?」
「うん、付き合ってもらって悪いな」
「いえ、私も気になりますから。……あの夢、まだ見るんですか?」
「ああ、毎日じゃないんだけどな」
いつもこうして一緒に帰る。一年生の頃はチャリで通っていたが、彼女が徒歩で通学していたから俺も徒歩通学に変えた。
「そうだ。今週の土日もどこか行く?」
「行きたいです……」
愛莉は呟くように返事をする。
彼女は大人しい。基本的にデートプランは俺が立てる。それに文句を言うことはなく黙って付いてきてくれる。ただ、我が儘を言うならたまには愛莉の方から誘って欲しい。
読んでくださり、ありがとうございます。
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