好きな食べ物はなんですか?
「今日のごはんは何しようかな~。ランランは何の料理が好き?」
「えっと・・・温かいものが好きです」
初めて来た日にスープを温めてだしてくれたことを思い出しながら答える。
「温かいもの?たとえば?」
「スープが美味しかったです。」
「そっか。好きな具材は?」
「・・・ごめんなさい。あの、野菜の名前知らないのでわかりません。」
「前の家でのごはんはいつも残りもののくず野菜とかしかなくて。だから何が好きか分からないです。食べられたら十分なので。」
正直に答える。
ディオさんが悲しそうな顔をしている気がする。
せっかく好きな食べ物を聞いてくれたのに、ちゃんと答えられなかったからがっかりさせてしまったかもしれない。
「えっと、あの冷めたスープしか食べたことがなかったので、ディオさんが温かいスープを出してくれたときに初めて美味しいものを食べました。なので、ディオさんが出してくれるごはんはなんでも好きです!」
急いで付け足す。
ディオさんは優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「謝らなくていいんだよ。知らないことは悪いことじゃないから。今度一緒に市場に行こう。料理するときに野菜の名前も教えてあげる。ランランの好きなものを一緒に見つけていこうね。」
「・・・はい。」
そしたらランランが好きなものをいっぱいリクエストできるもんね~と楽しそうに笑ってくれる。
その日からディオさんが料理をするときに具材の話をたくさんしてくれるようになった。
赤くて丸いのがトマト。小さいのは美味しいけど、大きいのは食べにくい。切るのを失敗するとぐしゃってなる。ディオさんが切るときはいつも綺麗なのに。
人参はオレンジ色の細長い三角の野菜。ディオさんはお花みたいに可愛く切っていた。
皮が何枚もある茶色くて丸い三角のが玉ねぎ。包丁で切るときに涙が出るけど、食べるときは平気。
私は不器用でうまく切れないけど、ディオさんが途中までやって見本をみせてくれるのでなんとかできた。ディオさんと私、どちらが切ったかすぐわかるくらい下手だけど二人でする料理は楽しかった。
「この食材はね、大地の命なんだよ。その気持ちを忘れずに丁寧に扱うことが大事なんだよ~」
「あとね、包丁も定期的に研ぐと綺麗に切れるの。具材だけじゃなくて、料理をする道具も大切にするんだよ~。衛生面も大事だから、しっかり洗って清潔にしないとお腹壊しちゃうから気を付けようね~」
「そしてなにより、食べる人の立場で作るのも大事。たとえばランランが苦手な野菜は食べやすいように小さく切る、とかね!」
いたずらっぽく笑うディオさん。食べられるものならいいと思ってるから、苦手だと思うような食べ物はないけれど。もし苦手なものができて、食べることがあればワガママは言わず、大地の命に感謝して食べようと心に誓う。
「料理をするときはね、喜んでくれるかな~とか大好きな人のために料理を作れるって嬉しいな~って優しい気持ちで作るのが大事なんだよ。相手を想って丁寧に作るの。それでね、とらわれやかたよりを捨てて、深くて広い海のような心で作るの。」
海ってなんだろう、と思いながらたぶんそれはあんまり関係ないなと思って聞くのをやめて答える。
「料理って生きるために食べられるものを作ることだと思ってたけど、違うんですね。」
ディオさんは優しく頷きながら教えてくれる。
「その通りだよ。ただお腹をいっぱいにするんじゃなくて、心身を養う薬としていただけるかが大事。料理も修行なの。調えられた修行から作られた食事によって、食べる人も調えることができるんだよ。」
料理ってそんなにすごい修行だったんだ・・・。
女神の修行をしてるディオさんが作るから、なんでもおいしいのかもしれない。
驚く私にディオさんは続ける。
「食事ができるまでに携わった人たちの苦労や食材の尊さに感謝して頂くんだよ。それでね、自分がこの食事を食べるにふさわしい行いをしたかどうかって考えるの。この素晴らしい食事に相応しい自分でいられているかどうか、女神さまの教えを成し遂げるためにこの食事をいただくんだ~ってことをね、たまに考えるといいよ。」
毎食考えてたらお腹の前に頭がいっぱいになっちゃうからね~と明るく笑うディオさん。
こういうことを頭にいれながらいつもしている『いただきます』の合掌をするらしい。
「ちなみに今日はね、雨が降っててちょっと寒いから生姜たっぷりのスープだよ~。ランランの手先まで温かくなりますようにって心を込めて作りました!」
そういって作りたてのスープをお皿にいれてくれた。
私のことを考えながら作ってくれた料理。
受け取ったお皿から感じる熱さが手先から伝わる。
食べる前から私の心はなんだかほわっとして、温かい気持ちになる。
心を込めた料理ってすごいんだなぁと思った。
典座教訓をテーマに書きました。
料理回はこれからもちょこちょこ書きたい題材です。
市場や海のデート回もいつか書けたらいいな~と思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!