一緒に住んでもいいですか?
「一人ならテントでいいけど、せっかく可愛い家族が出来たからね~」
そう言ってディオさんは家を借りた。
森の中にこじんまりとある可愛いおうちだ。
「わ、私なんかも一緒に住んでいいですか?」
驚いた私にディオさんは頬を膨らます。
「むしろランランがいないんだったら住まないから!」
私が慌てて謝るとおかしそうに笑い、優しく頭を撫でてくれた。
ディオさんは修行の旅をしている途中なのに、家なんて借りて大丈夫なのかなと思ったけど、なんの問題もなかった。
ディオさんは空間魔法の応用をして、いつでも家につながるような扉を作ったのだ。
その辺にあるどの扉を開けても「どこでも家のドア~」といつもより高い声で言いながら開けると家の中に入れるのだ。
すごい。
私は一人だとこの森の中に実際にある扉でしか出入りできないけど、ディオさんと一緒にいるか、家で留守番するかのどちらかなので特に困ったことはない。
ディオさんは小さなお家というけれど、私が住んでいた村のどの家よりも大きくて立派だと思う。
それにお庭もあるし、近くに小さな川もある。
ディオさんが魔力で井戸というものも作ってくれた。
洗濯以外で水が必要なときはこの井戸からとればいいのだ。
ディオさんがいなくても私が自由に水を使えるようにしてくれた。
でも、ディオさんがいても最近はこの井戸水を使って料理をすることがほとんどだ。
「魔力の水は美味しくない。やっぱり自然のものが一番だなって気づいたよ~」
そう言ってディオさんは笑っていた。
この家に住むようになってから、ディオさんは魔力で家事をすることがなくなった。
「私が魔力を使えないから、気を使ってくれてるんですよね。すみません。」
なんだか申し訳なくなって小さな声で謝る。
ディオさんはびっくりした表情をうかべる。
「あらあら。そんな風に思ってたの~?日常の動作の全てが修行のひとつってことをランランといることで思い出したんだよ。一緒にいてくれてありがとうね」
そういって私の頭を撫でながら微笑む。
たとえば掃除。
掃除は場所や物への感謝をしながら、あるべきものをあるべきところに戻すことが大切なんだそうだ。
掃除をするということは心を清めることであり、汚れを落とすことで心の穢れが落ち、窓や床を磨くと心が磨かれるそうだ。
魔力でさっと作業をするのではなく、自分の体を動かしてするからこそ意味があることを思い出したとディオさんは笑った。
それは料理も洗濯も同じなんだ、だから魔力じゃなくて自分の力でできるだけするように変えたのだと話してくれた。
私に気を使ったわけじゃなかったと知って、私はなんだかとても恥ずかしくなってしまった。
「心を曇らす塵やホコリは、毎日払ったり拭ったりすることが大切なの。塵もホコリも、毎日溜まるものは毎日払う。その積み重ねが人生なんだよ。」
そういって笑うディオさんと一緒に女神さまの修行ができることをとても誇らしく思った。
***
私は掃除をするときにいつも一緒に買いに行った日のことを思い出す。
二人で街に買い物に行って、棚やカーペット、食器を揃えたこと。
何をどこに置くかを二人で決めたこと。
ディオさんのお金でディオさんの家だから私はなんでもいいといったけど、ディオさんがむーっと頬を膨らませながらディオさんが「二人のおうちなんだから二人で決めるんだよ」と言ってくれた。
二人で家の準備をすることはとっても楽しかった。
私のためのものが用意されること。
それは初めてでとても嬉しかった。
ディオさんが「これ、どうかな?」と言って、「素敵だと思います」と返して決めるだけだった。
もっと意見を言った方がいいのかなと思ったけど、ディオさんが持つとなんでも素敵にみえるから何も言えなかった。
私は食器を片付けるためマグカップを手に持つ。
マグカップを買ったときのことを思い出す。
「マグカップは毎日使うものだから自分が使いやすいものを選んでね。」
ディオさんの言葉にたくさんのマグカップからどれにすればいいのかを考えた。
欲しいものを与えられることなんてディオさんと出会うまでなかった。
だから、どれが欲しいのかとか使いやすいのかとか何もわからない。
でも、ディオさんが自分が使いやすいものを選んでといったからには自分で選ばないといけない。
しばらくみていると太陽をイメージしたデザインのマグカップを見つけた。
おひさまみたいなディオさんみたいなマグカップで、このカップに入れたら、もっと美味しく飲めそうだなと思った。
そしたら、ディオさんは隣にあった夜の月をイメージしたマグカップを手にして「お揃いだね」といたずらっぽく笑った。
ペアマグカップといって恋人や夫婦でお揃いで持つのが街の流行りだと店主が笑った。
私の頬は赤くなって、胸がほわっとなった。
掃除は場所や物への感謝をするのが修行なのだとディオさんは言っていた。
「私のところにきてくれてありがとう。私のマグカップを守ってくれてありがとう。」
そう言って食器棚にマグカップを戻したあと手をあわせてお辞儀した。
いつもディオさんがしているポーズ。
手と手を合わせたら、敬意や感謝をあらわすことになるそうだ。
私はあまり話すのが得意じゃない。でも、ディオさんや私を受け止めてくれる場所があることにとても感謝している。
それがちょっとでも女神さまとディオさんに伝わったらいいなぁと思った。
今回は洗心、時時勤払拭をテーマに書いてみました。
この言葉を知ってから面倒なだけの掃除にちょっとだけ前向きに取り組めるようになりました。
そう、ちょっとだけ!