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可能性の器、ありますか?

「ラン、私は武道において3つの無を大切にしている。それは外見にとらわれないこと、外界の刺激に惑わされないこと 、すべてに執着しないことだ。強そうだとか弱そうだとか、そういったことは考えずにどんな環境においても自分の持つ力を最大限に引き出すんだ。そうすれば勝負の引き際を見誤らずにすむ。勝つ、負けるという思いは執着となるからな。ただ、自分の持つ力を出すためには3つの無が必要なんだ。」


「なるほど・・・。そうすれば、私もフェールさんみたいに戦えるようになれますか?」


「ふっ。この世界にいる者はすべて道を極める可能性を持った器だ。器がないと思う人間には何も持つことはない。しかし、満たそうとすればどこまでも大きくすることができる器だ。無論、ランも器を持っている。可能性の器がどうなるかは自分の努力次第だ。」


可能性の器、か。

これまで自分がどうなりたいかとか考えたことってなかったように思う。

ただ、ディオさんとずっと一緒にいれればそれで十分だと思ってた。


「私もディオさんを守れるようになりたいです。フェールさん、よろしくお願いします!」


「ふっ、任せておけ。よし、では座禅をするぞ。身なりを整え、真っ直ぐ座り、息を整えるのだ。丹田を意識した腹式呼吸を忘れるなよ。ランはまず体作りが大切だからな。腹筋を中心に鍛えていく。」


「はい!」



短い時間での坐禅を繰り返す。気分転換がてら三呼一吸のリズムでロッドの素振りもする。

フェールさんに組んでもらった身体の鍛錬のメニューをこなす日々が続いた。


ディオさんも一緒にすることもある。

ディオさんがいるだけで私は嬉しくなって、気持ちを入れ替えて頑張れた。


日課のお散歩もフェールさんにかかれば鍛錬になった。フェールさんに教えてもらった三呼一吸のリズムにあわせて、ハッハッハッ、スゥーのリズムで歩くとじんわり汗をかいた。

この速度はイフーにはちょうどいいようで、ご機嫌でついて歩いてくるのが可愛い。

家の周りをイフと一緒にぐるぐる歩くだけだけどとっても楽しい。


一人で鍛錬をしているフェールさんが「丹田を意識した腹式呼吸だぞ!」なんてたまに声をかけてくれるのもなんだか嬉しい。

最初は怖かったけど、なんだかんだで気にかけてくれてるみたいだ。

フェールさんもディオさんのことが大好きみたいなので仲間ができてうれしい。



「ランラン、調子はどう?」


ディオさんがレモンバームティーを用意して私を迎えてくれた。


「イフーとの早歩き散歩も楽しいです!」


「・・・笑顔のランラン、とってもかわいい!」


そういってディオさんがぎゅっと抱きしめてくれる。


「ディオさんっ!私、汗かいたから・・・!」


そういって離れようとするけど、ますますぎゅっとされる。


「大丈夫!とってもいい匂いだよ!!」


「・・・ディオッサさま、ランが困ってますよ。」


そういってフェールさんが私のことを抱き上げる。


「あー!私のランランが~!」


フェールさんは私を下ろすとレモンバームティーがはいったマグカップを渡してくれた。


「水分補給も大切だからな。いつも良いタイミングでお茶を用意してくれるディオッサさまに感謝だな。」


「はい!ディオさん、いつも美味しいお茶をありがとうございます!」


「ランラン~!!」


「ディオッサさま、お茶をどうぞ。お気遣い、感謝します。」


また私を抱きしめようとしたディオさんの手にマグカップを渡すフェールさん。


三人で過ごすのも自然になってきて、二人だけの頃がなんだか懐かしい。


「ふへへっ」


「ランラン?どうしたの、嬉しそうに笑って。」


「あっ、すみません!えっと、なんだか楽しくて。3人とも全然違うのに、一緒にいることがとても自然な感じがするというか・・・」




「ふふっ!人それぞれ与えられた役割とそれに見合う美しさがあるの。それが出来ているときにキラキラと輝くんだよ~。この世に必要のない人なんて1人もいないけど、私たちはピッタリなのかもしれないねぇ~。」


ディオさんが手を伸ばして私の髪を撫でてくれる。


「そうだな。三人で過ごすこの世界は非常に穏やかでのんびりとした時間がいつまでも流れている。この時間はかけがえのないものになるだろう。ラン、この時間を忘れるなよ。」



そういってフェールさんが私に笑顔を向けてくれる。けど、その笑顔はなんだか胸がぎゅーっと苦しくなるような悲しげなものだ。


前の家で言われた言葉や叩かれたことを思い出してしまって気持ちが暗くなる。

そうだ、もしかしたらまたあんな風になっちゃうかもしれない・・・。


「もう、フェールったら。忘れたっていいのよ。だってこの時間はずーっと続くんだから。少なくとも私とランランはね!」


いつの間にか私の側にきていたディオさんが私のことをぎゅーっと抱きしめて、背中を撫でてくれる。


「本当にずっと続きますか?」


「うん、ランランが望む限りず~っと!」


私はそっとディオさんの背中に腕を回し、服をぎゅっと掴む。


「じゃぁ、ずっとですね。」


「うん。」


ディオさんがそう返事をしてくれる。

私はディオさんの胸に体をあずける。


ディオさんの心臓の音がとても心地よくて、不安な気持ちはどこかに消えてとてもほわっとした気持ちになる。


「ふふ、安心した?」


「あんしん?」

「うん。心が安らかに落ち着いてるかどうかな~って。」


安心・・・。このほわっとした温かい気持ちが安心っていうことなのかな。


「はい。私、安心してます。」


「ふふっ、よかった。」


背中を撫でる優しい手つき、耳から聞こえる規則的な心臓の音。私はなんだかとろんとした気持ちになる。


「あらあら。安心したら眠くなっちゃったかな~?寝てもいいよ、ランラン。おやすみ。」



私はとっても安心した気持ちで眠るのだった。


本日のテーマ

・無相・無念・無住

・人人悉道器

・非思量

・明明百草頭

・壷中日月長


・・・なんだか盛りだくさんですね\(^^)/

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