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踵で息をするってどういうことですか?

「ラン、護身術というのは武道の一種だ。武道を極めることは女神さまの教えを極めることが必要なのだ。なぜかわかるか?」


考えてみる。

武道って戦うってことだよね・・・?

ディオさんがいつも私に教えてくれるのは女神さまの教えだっていっていた。

でも戦いのことを聞いたことなんて一度もない。


「・・・うむ。知ったふりをしないというところはランの美点だな。戦いの中で生きるということは常に死と隣り合わせだ。その恐怖に囚われることなく、落ち着いた心で実力をだしてこそ勝利を得られるのだ。落ち着いた心をどう得るか、という部分が女神さまの教えに大きく関係する。」


「そうなんですね。」


たしかにディオさんがこれまで教えてくれたことは心を落ち着かせるものが多いように思う。

全部覚えられたわけではないけれど、ディオさんの言葉に私はなんども励まされた。


「まず、心を落ち着かせるためには大きく深い呼吸が必要だ。」


「大きく深い呼吸?」


呼吸に大きいとか深いとかあるんだ・・・。


「ああ、そうだ。ランが思うとおりの大きく深い呼吸をしてみろ。」


私はできるだけたくさんの空気を吸うため口を大きくあける。

これ以上は胸が大きく膨らまないというところで息を吐いた。


「ど、どうでしょうか?」


フェールさんの表情は無表情でよみとれない。

だめだったかな?怒られたらどうしよう・・・。



「ふむ。呼吸というのは吸って吐くものではない。まずは吐ききるのだ。吐ききることで自然に吸った息が腹に入ってくる。理想的なイメージは踵で息をすることだ。いまの言葉を踏まえてもう一度大きく深い呼吸をしてみろ。」


「え・・・?」


か、かかとって足の裏のことだよね?

こんなところから息を吸えるの・・・?

で、でもフェールさんがそういうなら・・・。



・・・。



・・・・・・。



す、吸えない!

どうしよう、く・・・苦しい!!!


でも、でも・・・!!!


「ラン、とりあえずいつも通り息をしてみろ。」


い、いつもどうやって息を吸ってたっけ?

か、かかとから吸わなくていいの?!


「ラン、落ち着け。まずは息を吐けるところまで吐いてみろ。」


い、息を吐く・・・!


「吐ききったら空気が自然に入ってくるから、それに任せろ。」


そういってフェールさんが私の手をとり、お腹に当てる。


息を吐ききって、入ってくる空気に身を任せる。


不思議なことに、息が入ってきてたきに膨らんだのは胸じゃなくてお腹だった。


「ラン、いいぞ。これが大きく深く呼吸をするということだ。」


「空気を食べるってことですか?」


空気ってお腹が膨れるんだ!

前の家にいたときみたいにお腹が減って死にそうになったときは空気を食べればいいかもしれない。


「空気は食べるものではない。吸うものだ。凡人がする浅い呼吸は喉を通り、胸に入る。だが、深い呼吸は腹に入るのだ。達人の域になれば踵で息をすることができる。腹で呼吸をすれば、腹筋を鍛えることもできる。今後は腹を意識した深い呼吸をしろ。腹に空気を入れるように息をすれば心も落ち着くのだ。」


「お、お腹と踵で息をするんですね・・・?」


で、できるかな?


「そうだ。まぁ、先ほどの様子を見る限りランが踵で息をする前に酸欠で倒れてしまいそうだがな。」


そういってにやりと笑うフェールさん。

いつもと違ってなんだか優しい笑顔のように感じる。


「ふむ。まずは声をだして息を吐く練習からするか。ラン、ロッドを出してみろ。」


私はディオさんからもらったまま一度も使っていないロッドを取り出す。


「ロッドで素振りをしながら三呼一吸から始める。両手でロットを持って、頭の上に掲げろ。そのあと3回声を出しながら腕をふり下ろせ。素振りにあわせて息を吐くんだ。三回目に残った息を全て吐ききれ。」


そういってフェールさんが自分の刀を頭上から3回振り下ろす仕草をみせてくれた。


「えいっ、えいっ、えーーーーーいっ!」


ロッドを頭の上から三回振り下ろす。三回目で息を吐ききったあと、お腹に入るように息をする。


「うむ。良いぞ。息を吸うときはへその下三寸の場所にある丹田を意識しろ。深い呼吸が日常的にできるようになれば、丹田がみえるようになる。」


そういってフェールさんが服をめくってチラりとお腹をみせてくれる。

おへその少し下が凹んでいる。フェールさんは呼吸を極めた人なんだ。


「今日は初日だから汗ばむ程度まですればいい。3回で息を吐ききって、へその下を意識して腹に空気を入れるイメージでやれ。私も隣で素振りをするが、ランはランのペースでやれ。」


「わかりました。」


フェールさんの素振り息遣いが聞こえる。

でも、私はできるだけ大きく声をだして、素振りを繰り返した。

なんとなく、大きな声の方がしっかり息を吐いて吸えるような気がするからだ。


じんわりと汗ばんできたので、フェールさんをちらりと見る。

フェールさんはいつのまにか素振りを終えて、私を見ていたようだ。

なにか失敗してたのかな。怒られたらどうしよう。



「ラン、なかなか集中していたな。感心したぞ。これからは時間があるときは三呼一吸と素振りをしておけ。丹田を意識した深い呼吸だ。これは坐禅のときにもいえることだ。」


「坐禅ってただ座ってじっとしてるだけじゃないんですか?」


「ただひたすらに坐るという意味ではそうともいえるな。坐禅は奥が深い。坐ることに集中するといえば簡単だが、坐って息をするだけという行為をするだけでいいのに、いろいろなことが頭に浮かぶ。悲しいことや怒りを覚えた出来事、楽しかったことを浮かぶ場合もある。その浮かんできた考えを追いかけずに流すことを繰り返すんだ。」


「・・・フェールさんもそうなんですか?」


「あぁ。いろいろな考えが浮かんでくる。私もまだまだ未熟ということだな。だが、背筋を伸ばし体が真っ直ぐになれば、心が真っ直ぐになるのだと師匠に教わった。心が真っ直ぐになれば、思うことが真っ直ぐになるといわれた。私もいまだに見よう見まねでしているのかもしれないな。ランも最初はディオッサさまを真似ていればいい。呼吸だけは丹田を意識して腹筋を使うのを忘れるな。」


「わかりました。三呼一吸と同じですね。」


「そうだ。基本的にランは戦闘要員ではないからな。危険な目にあったときに、落ち着いて逃げることができればそれでいい。三呼一吸も坐禅も緊急時に平常心でいられるようにするための訓練だと思えばいい。混乱して自滅するだけならいいが、ディオッサさまに迷惑をかけないレベルを目指して精進するようにしろ。」


こ、これは褒められた・・・のかな?


「ありがとうございます・・・?」


「疑問形なのが些か気になるがまぁいい。少し休憩したら、気功術を教えてやろう。我が一族に伝わる龍の気功だ。」


「龍の気功、ですか?それは攻撃なんですか?」


「いや、攻撃ではない。腹筋呼吸をして体を緩やかに動かすことで気を巡らせるものだ。普通は何も持たないが、ランはロッドを持ちながらやれ。ロッドを日々握っていればいざというときに物理攻撃を防ぐことはできる程度の動きはできるだろうからな。」


「物理攻撃を防ぐ・・・。」


ロッドってそのためのものだったんだ。

そういえば使い方知らないまま、ローブのポケットにいれてたな。

これからはロッドを持って生活しなくちゃ!


「そのうち、攻撃を防ぐ訓練も始めるつもりだ。ロッドを握ることに慣れておくように。ランのロッドはディオッサさまのメイスと同等の強靭さらしいからな。私の刀にも耐えられるだろう。ランの腕が折れるだろうが・・・」



「フェール?それは手合わせではなく、一方的な暴力じゃない?約束を忘れたのかしら?」


「ディオッサさま!」

「ディオさん!」


ディオさんがトレーに湯気がでているマグカップを3つ持ってきてくれた。

疲労回復に効くというルイボスティーをいれてくれたみたいだ。

ディオさんをみるとなんだか心がほわっとする。


「二人が素振りをやめたから休憩だろうと思ってお茶を持ってきたらとんでもない会話をしてるんだもの。フェールったら油断も隙もないんだから!」


「ディオッサさま!違いますよ?!ランの腕が折れそうだから、残念ながら手合わせはまだ先になると伝えるつもりだったんです!」


「本当かなぁ~?まぁ、とにかく修行はいいけど、庭とか私の目が届く範囲でするようにね。ついでに私もメイスで物理攻撃ができるように練習するつもりだし。それに、私も魔道士の先輩として、ランランにそろそろ教えていこうかなと思って。まずはフェールの基礎的な体術を習うことが優先だけどね。」


そういってにっこりとディオさんは微笑む。


「さ、温かいうちに飲みましょう!」


そういってディオさんがお茶に口をつける。

私もマグカップを手にとる。

とても温かい。

ディオさんの優しさに温度があるとすればこんな感じかなぁと私は思うのだった。


本日のテーマ

只管打坐(しかんたざ)

・真人の息はきびすを以てし、衆人の息は喉を以てす

・腹式呼吸


です!

禅ファンタジーをはじめてから、坐禅とか自分でもしてみたんですけど話のネタを思いついたりして、全然集中できません・・・笑

幸せホルモンのセロトニンが出るそうなので、ランちゃんと一緒に私も坐禅を続けたいと思いますヽ(*´∀`)ノ


ランちゃんのロッドが丈夫な棒扱いになってますが、近いうちにちゃんと活躍してくれるはず・・・です!

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