閑話:ディオッサとフェール
今回はディオッサさんとフェールさんの会話のみです。
ランちゃんがいない場面になるため、描写はあまりありません。
ランが去ったあと。
フェールがディオに話しかける。
「女神の大意について教えてください。」
「突然ね?」
「ディオッサさまにとってはそうかもしれませんが、私はずっとこの言葉の答えを求め続けていました。ようやく聞けたと思っています。」
「うーん、そうだなぁ・・・。悪いことはせず、善いことをすることかな?」
「・・・お戯れを。そのようなことは三歳の童子でも知っています。私が知りたいのはもっと高尚なことです。」
「たしかに言うだけなら三歳の子供でもできるわ。でも、行うのは八十の老人でも難しいことよ。あなたはどうかしら?」
にっこりと笑うディオ。
「・・・ディオッサ様は、あの子供はそれができていると?」
「あの子供とはランランのことかしら。少なくともいまのあなたよりは出来ていると思うけど?」
「ディオッサ様はあの子供に甘いのでは?もっと厳しくした方があの子供のためになると思います。」
「あの子供、じゃなくてランよ。相手を敬えば和になる。相手の個性もそのまま認めて一緒に過ごすことで居心地のよい清々しい関係が生まれるわ。これから一緒に過ごすのであれば、互いに敬いあう心を持ってちょうだい。」
「・・・。」
「たしかにランランはもうじき13歳だわ。フェールの言うとおり、年齢だけでみると甘いかも知れないわね」
「それならば・・・!」
「だけどね、卵の中で雛が育って殻から出る時に雛は中から殻をつつくの。親鳥はその時を待って殻の外から同じところをつついて、ついに雛は殻を破ることが出来るのよ。」
「どういうことですか?まだあの子・・・ランはその時期ではないということですか?しかし、二人は親子でも姉妹でもないでしょう?なぜそこまで・・・。」
「師弟の間も似たようなものよ。タイミングを合わせてこそ、育つのよ。その子の力量に合わせないと意味がないわ。周りがいくら躍起となっても通じないし、それではただ卵が割れるだけよ。」
「・・・今はつつくときではない、と?」
「そうよ。あの子は虐待をされて育ったのでしょうね。心身ともに幼すぎるわ。頭を撫でようとしたといに、ひどく怯えるの。いつも私や周囲からどう思われるかを考えてる。自分の気持ちなんて考える余裕がないように思うわ。そんなときに何かを教えたり、厳しくしたりしても何も育たないわ。いまはあの子自身が自分を満たす時期よ。殻を出るのに十分な時間と栄養がないと育たないでしょ?」
「いまは時間と栄養が必要、だと?栄養が甘さだというのですか?ランには甘くて私には厳しいのは私の力量に合わせてということでしょうか?」
「・・・まぁ、そうとも言える、かしら?」
「ありがたき幸せ!!これからも誠心誠意ディオッサ様にお仕えいたします!」
「いや、お仕えしなくてもいいけど・・・。急にテンションあげてくるわね、あなた。」
「ランにも少しなら優しくできそうです!」
「話きいてないわね?まぁ、悪いことはせず、良いことをするためにもそうした方がいいでしょうね。」
「・・・しかし、ランを甘やかすばかりで本当に良いのでしょうか?ランはディオッサ様の望む姿を目指しているように思えます。子供だと思って甘やかせばずっとその立場から抜け出すことはできないのでは?」
「・・・たしかにそういう考え方もあるかもしれないわね。」
「それにディオッサ様の役割を考えるとずっとこのままというのも難しいように思います。」
「そうね。そろそろ魔道士のこととかも教えた方がいいかなとも思ってるところではあったのよね。」
「ギルドの動きはご存知で?最近、魔物が増えているようで、魔物の討伐依頼が増えています。スタンビードの前触れではないかという話も上層部では出ているようですよ」
「・・・そうなの?」
「はい。ここ数百年魔物は増え続けています。女神への祈りの質が落ちているため、浄化が追いついていないのだと思われます。実際にスタンビードが起きたとしてもおかしくないでしょう。ギルドからも神殿に女神の浄化のためにも聖なる祈りを捧げるよう要請しています。しかし、あのように富と権力に溺れた腐敗した神殿に聖なる祈りを捧げることは不可能でしょう。」
「・・・そのために私を連れ戻しにきたの?」
「いいえ。私は剣のためにあの神殿に入っただけですから。神殿はディオッサ様さえ戻れば解決すると思っているようですが、無理でしょう。いずれにしろ、スタンビードを防ぐためにはギルドの魔物討伐依頼を処理することが必須です。そちらを優先された方が良いと思います。もちろん、ランも連れて。」
「・・・でも、あの子はまだ子供よ?」
「本当にそうなのでしょうか?もしよければ私がランに護身術を教えても良いでしょうか。そうすればディオッサさまも少しは安心では?」
「必要ないわ。私が守ればいいもの。」
「本当にそうでしょうか?ずっと一緒にいられるかもわからないのに?」
「・・・。」
「まぁ、護身術を覚えることで困ることがあるわけでもありません。昔の鍛錬相手もランくらいの体格の子でしたが、十分戦えてましたよ。私の鍛錬相手にもちょうどいいですし。ええ、ちょうど!」
「・・・鍛錬相手がほしいだけじゃないでしょうね?」
「そんな!まさか!」
「まぁ、いいわ。ランランが嫌がらない程度であればいいでしょう。私もランランの魔道士としてのスキルを教えることにするわ。」
「かしこまりました。」
「でも、私がランランを守るのは変わらないから。無理をさせる必要はないわ。」
「しかし、ランを守りながら戦うとなるとディオッサ様の負担が大きいのでは?」
「あら?私のことはあなたが守ってくれると言ってたのは気のせいだったかしら?」
「いいえ、そうですね。ディオッサ様のことは私がお守りします。ご安心ください。」
「ふふっ、よろしくね。」
二人の会話が一段落した頃。
ランが窓から二人をみて、声をかけていいものかどうか悩んでいる様子がみえた。
「ランラン!いまからもどるねー!」
ディオが明るく声をかけると、ランはホッとしたように笑みを浮かべ頷く。
「いま、ランランに必要なのは安心と安全よ。護身術を教えるのはいいけど、怪我はもちろんだけど大きな声や高圧的な態度もやめてちょうだいね。」
「・・・その条件で護身術を教えるのは大変そうですが、私に与えられた試練だと捉え善処します。」
そう会話を結ぶと二人はランが待つ家に向かって歩き出すのだった。
本日のテーマ
・諸悪莫作 衆善奉行
・和敬静寂
・卒啄同時
ようやくファンタジー感を醸し出せてきました・・・!
ファンタジーって難しいですね(´;ω;`)
でも、考えるのはたのしい!